コラム
第4回「CSR部の役割は?」足立直樹のサステナブル経営の勧め
パリ協定、RE100、TCFD、SDGs、ESG、海洋プラスチック...海外発のトピックスや課題が次々に登場していく中、環境部やCSR部をはじめとしたサステナビリティ推進担当はどのように取り組みを考えていくべきか。本コラムでは、数多くの先進企業へコンサルティングを提供されている株式会社レスポンスアビリティ代表取締役の足立直樹氏に「サステナブル経営」実現に向けたポイントを解説いただきます。第4回の今回は「CSR部の役割」について、お届けします。
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CSR部の本当の役割
こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。今回は、CSR部の役割について考えてみたいと思います。単刀直入に言えば、私はよく、CSR部は第二経営企画部だと申し上げています。経営企画部が中長期、実際には数年先の計画を練るのが仕事だとすれば、CSR部は10年先、場合によっては20年、30年先を考える部署でなくてはいけないのです。決して社会貢献部やCSRレポート編集部で終わってしまってはいけないのです。
▼目の前の業務に追われてしまうCSR部の例
- CSR報告書の編集部になってしまっている
- 報告書に載せるための活動を行って一年が終わってしまっている
- 自社の環境管理のみを行っている
- 社会貢献活動やイベントの実施に関する業務に振り回されている
- 外から難題(実は大切な社会課題)を持ってくる「意識高い系」部署と煙たがられている
▼あるべきCSR部の姿
- 環境や社会の課題、それに対する世界の動きを正確に把握するアンテナとなっている
- 自社が10年後、20年後に持続可能であるために何をすべきかを考え、経営に提案する頭脳になっている。
- 行政やNGOなどの外部ステークホルダーと対話や情報交換をする窓口になっている
- 自社のあるべき姿を第三者の視点から考え、社内に提言している
- 自社をサステナブルにするために、どの部署がどう動けばいいかを考えている、あるいは各部署が自主的に動くような機会や仕組みを作っている
いかがでしょうか。CSR部やサステナビリティ部がやるべき本来業務は、常に世界を見渡して、高くアンテナを立て、今何が問題になっているのか、議論になっているのか、それが今後どうなりそうなのかを探ること、また同時に、その流れの中で自社を外の視点から見ることです。そして、それを経営層に伝えるのが、果たすべき役割なのです。
最近ではCSR部をサステナビリティ部に名称変更し、さらに社長(室)直轄などにする会社も増えて来ました。おそらく、こうした意識を持ち始めたということではないでしょうか。
あなたがすべきことは?
では、あなたの会社の経営者を巻き込んで、CSR部の役割を果たすためには、どのような行動が必要でしょうか?
▼CSR部が、取り組むべき4つのステップ
ステップ1 | 世界が何を問題にしているか、それをどう解決しようとしているのかを常にしっかり把握すること |
ステップ2 | 自社がサステナブルにどうなるべきか(ビジョン)を考える(なるべく客観的に考え、様々な社内事情はあえて横に置くのがポイント) |
ステップ3 | 自社がサステナブルになるための、現実的なプロセスや中間目標を考え、経営に伝える |
ステップ4 | 経営のオーソライズを得た上で、社内を動かしていく (※各部署からのオーソライズも、事前に都度都度に得ておくことをおすすめします。) |
実はやるべきことは、本質的にはこの4ステップしかないのです。そう考えると案外シンプルではないでしょうか?もちろん、4ステップをすぐに実行するとなると大変に思えるかもしれませんので、まずは最初の2ステップに取り組むことから始めてみてください。いずれも部署の中だけで完結しますので、これだったら今すぐにでも始められるはずです。
CSR部に必要な視点
さて、どの企業にも効く魔法の取り組みがあるわけではなく、それぞれの企業に個々の事情があり、この場で具体事例を示すことは難しいのですが、いくつか心にとめておいた方がいいポイントがありますので、紹介します。
■日本企業の事例だけを確認しないこと
まず必要なことは、世界が何を問題にしているか、それをどう解決しようとしているのかを常にしっかり把握することです。間違えても、日本や日本企業の動向だけで満足してはいけません。
■既にあるトレンドではなく"兆候"を探すこと
世界の情勢については、できれば、既に大きな流れとして確定したものではなく、前触れのような兆候を探すことがポイントです。そうすれば、海外発のトレンドに突如として驚かされることはなく、備えができます。また、様々な動きの背景にどのような流れが潜んでいるのか、いろいろ想像してみることも大切です。もちろんすぐにその想像にしたがって行動する必要はありません。しかし、今後の見通しについて、自分なりの仮説を持ち、それが正しいかどうかを現実の出来事で検証してみてください。海外発のトレンドが生まれていく過程を理解しようとすることは、自社が一歩進んだ取り組みを実施できるチャンスにもつながります。(第3回も参考にしてください。)
■そのまま真似しないこと
世界的な先進事例を単にそれを後追いするのでは意味がありません。自社のサステナビリティのためには何をどうすることが必要なのかについては「世界の流れと自社の立ち位置はどうなっているのか」「自社の課題は何か」という視点を持ち、きちんと考えてみることが重要です。
そこまで整理できたら、後はそれを経営に示せばいいのです。たとえ所属部署の役割がまだ十分に社内的には認められていなかったとしても、世界的な大きな流れと、それを前提に自社がサステナブルになるためにどうするべきか、あるいはどういうオプションがあるのかを示すことができれば、まっとうな経営であればそれを無視することはしないでしょう。
幸いなことに、こうした一連の調査や行動も、ほとんどの場合はゼロから自分でする必要はありません。ほとんどすべての場合には世界には先行企業がありますし、また問題を指摘したり、解決に向けた協働を提案する専門家や専門的なNGOがいます。なので、そうした組織や専門家のアドバイスを聞いたり、一緒に活動することができます。最近は同じ問題意識を持つ企業が集まってイニシアティブを立ち上げることも多くなって来ました。
ちょっと宣伝になってしまって恐縮ですが、私が創立から関わっている企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)という団体もおすすめです。
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正解が分かってから追いかけた方が簡単?
さて、最後に一つだけ留意すべきことを申し上げます。『今回紹介したようなことは大変なので、かなり流れが明確になり、本当にやらなくてはいけなくなったことだけ対応しておけばいいや』と考えるとどうなってしまうか、についてです。
もちろんそれが一番簡単で、そして一見とても安全なように見えますが...この連載の最初に述べたように、それでは結局今の「モグラ叩き」状態からは脱出することができませんし、また、サステナビリティに関しての動きがこれだけ早く、しかも経営に直結する時代においては、手痛い、場合によっては致命的な「遅れ」になりかねません。
実際、サステナビリティに関して日本企業は世界的な先進企業とは周回遅れ、場合によってはもっと大きな差を付けられてしまっています。「そんなものいつでも挽回できる」のなら話は別ですが、実際にはそう簡単ではないでしょう。先行グループは、初動のプロセスで得た知見をもとに、さらに速度を上げて進んでいくからです。つまり、どんどん差は開いてしまうのです。
それでは、あなたのお仕事が社内でより重要な役割を担い、力を発揮し、その結果、あなたの会社がサステナブルになることを願っています。
※サステナブル経営を進めるため、今知っておくべき世界の動向や考え方は?
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関連情報
「サステナビリティ経営の基礎知識や必要性、企業にとってのESGについて解説!」
執筆者プロフィール(執筆時点)
足立 直樹 (あだち なおき)氏
株式会社レスポンスアビリティ代表取締役
サステナブル・ビジネス・プロデューサー
博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所を経て、現職。一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長等を兼務。
社会を持続可能にすることに資する事業を通じたブランディング構築、企業による生物多様性の保全、自然資本を活用した地方創生等を専門とする。著作に『生物多様性経営 持続可能な資源戦略』(日本経済新聞出版社)他多数。
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