インタビュー
コーセーが目指す未来 TNFDの取り組みと地球に寄り添う事業運営
多くの企業が持続可能な未来に向けた戦略の策定・実行を急ぐ中、先進的な取り組みを進めている企業の一つが株式会社コーセーです。同社は、自社のサステナビリティ戦略を見直す中で、TNFDに取り組み、環境への配慮を経営の中核に据えた事業運営を行っています。本記事では、同社がどのような価値観のもとにTNFDに取り組まれたのか、そして今後の展望についてお聞きしました。
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コーセーのサステナビリティ戦略
中村(アミタ)
本日はお時間を頂き、ありがとうございます。2024年、貴社では新中長期ビジョン、サステナビリティ戦略を出されました。サステナビリティ戦略の刷新前と後で1番変わったことは何でしょうか。
株式会社コーセーHP:https://corp.kose.co.jp/ja/
河野氏
基本路線は変わっていません。当社は創業以来、化粧品分野において「美を通じて人々に夢と希望を与え続ける」という創業者の言葉を、社員全員が心に留めて活動しています。
当社では、1991年のコーポレートアイデンティティ導入を機に
「美しい知恵 人へ、地球へ。」という企業メッセージを発信しました。
2020年にはコーセーグループのサステナビリティ戦略と目標をまとめた
「コーセー サステナビリティ プラン」を策定するとともに、企業メッセージをサステナビリティ指針としても掲げました。
今回、新しいサステナビリティ戦略として、内容をアップデートしましたが、掲げてきた指針は変わっていません。企業メッセージのとおり、人だけでなく地球にも寄り添うことを掲げて日々活動しています。
中村
コーセー様のこれまでのサステナビリティへの取り組みの中核には、今回のこの「美しい知恵 人へ、地球へ。」という企業メッセージがあったのですね。
河野氏
はい、サステナビリティという言葉が広く使われる以前の1991年から「化粧品を通して人を美しくしたい」というメッセージだけではなく「地球のことも美しくする」という考えが今日まで脈々と受け継がれています。さらに今回、中長期ビジョンでのありたい姿「Your Lifelong Beauty Partner」を実現するために、サステナビリティ戦略では「人に寄り添う」「地球に寄り添う」ことを軸にコミットメントや目標を作成しました。
▼株式会社コーセー サステナビリティ戦略全体図
中村
「寄り添う」という表現は何か一方的に「与える」という表現と異なり、対象との距離感が近い印象を与えますね。
村松氏
そうですね。並走するようなイメージですね。「寄り添う」というのは新中長期ビジョンのテーマでもあります。これまでの化粧品は、大人の女性向けのものであるという考え方が一般的でした。しかし我々は、性別やジェンダーに関係なく、幅広い世代の、そして世界中の人たちに使っていただきたいと考えています。その気持ちを表す言葉として寄り添うという言葉を使っています。
お客様だけではなく、地球もステークホルダーとして捉え、全てのステークホルダーに寄り添っていこう、という考えが根底にあります。
TNFDの開示とアミタの支援について
中村
TNFDに取り組まれたきっかけや、貴社として期待されていたことを教えていただけますでしょうか。
田口氏
当社は昔から、自然の恩恵を受けて事業を継続してきました。化粧品の原材料である水や植物由来成分の使用やエネルギー調達など、自然資本の存在が欠かせません。TNFDの設立前から、企業メッセージや環境保全活動を通じて生物多様性を重視していました。自然資本を活用してきた当社だからこそ、世の中の動きに合わせて、生物多様性への想いや活動をしっかり開示していこう、と考えたことがきっかけでした。
河野氏
TNFDの開示の取り組みに、期待していたことの一つに"社内でのサステナビリティに対する理解を深める"という点もありました。対社外へ向けた発信として重要であることは言うまでもありませんが、それ以上に社員一人ひとりが自社と自然の関係性について改めて理解し、何が大切であるかを認識することに重きを置いていました。
中村
ただ世間からの要求によって取り組むのではなく、取り組みを通じて内発的に問題意識を持つことが大切ですよね。実際の開示のプロセスはどのようなものでしたでしょうか。
田口氏
アミタさんに主導していただき、LEAPアプローチで取り組んでいきました。最初は優先的に取り組む事業セクターと地域の選定を行い、当社の事業がどれほど自然資本に依存しているのか、またそのビジネスが自然にどのような影響を与えているのかということから考えていきました。その後、当社のミッションやビジョンを踏まえて未来において自然とどのような関係で在りたいかを決め、それに基づき目標設定と実行計画を策定しました。
▼実際に完成したTNFDレポートの抜粋
中村
そうでしたね。表面的な内容ではなく、根幹から考えていくことを大切にしていました。貴社内で議論をしていくにあたり、ワークショップも実施しましたね。
田口氏
はい、グループ会社・部署横断型のワークショップを実施しました。ワークショップを行った背景としては、単純な情報開示だけでなく、当社には自然関連のリスクとしてどのようなものがあり、それをどのように事業を通じてプラスの効果を生み出していくかという、ネイチャーポジティブの議論にしたいという思いからでした。
中村
取り組みを通じて何か社内から意見や反応はあったでしょうか。
田口氏
参加した社員からは、コーセーグループの一員としてサステナビリティについて考える良いきっかけになったという意見がありました。また、アミタさんにTNFDの解説動画をご用意いただいたことで、社員が事前に学習したうえでワークショップに臨み、有意義な時間にできたと思います。
潮田氏
ワークショップに参加してみることで、生物多様性というものが意外と身近なことであると知り、自分の部署で何かできることがありそうだという気づきが得られました。また、ワークショップを通して自分ゴト化する体験を得られたこともとても良かったと思います。今後もワークショップなどの取り組みを続けていきたいですね。
中村
ありがとうございます。開示のプロセスで特に困難だったことや悩んだことはありましたか。また、アミタのサポートはいかがでしたでしょうか。
田口氏
TNFDに求められることをイチから丁寧に教えていただき、そのうえで当社の取り組みにおいては具体的にどのような部分が該当するか、といったアドバイスもいただきました。TNFDで求められる内容をフレームに従って進めていくことで、必要な情報を網羅的にまとめられたと思います。
河野氏
アミタさんのご支援を得ず、自分たちだけで取り組んでいたとしたら、TNFDの開示で本当に求められる要素がよく分からなかったのではと思います。仮に全体像が理解できたとしても、一般要件など何について、どれぐらいのレベルで記載するべきかといったことが、我々には理解が難しかったと感じます。
そういった意味で、アミタさんが我々の想いを汲んで並走し導いてくれたことで、しっかりとしたTNFDレポート開示に繋がったと、ありがたく思っています。
潮田氏
そうですね、社内の状況を把握するうえで必要となる各種データを集める必要がありましたが、これも想像以上に難しいと感じました。このことについても、アミタさんから考えるべき内容の整理や必要な情報のご用意など、様々な点でサポートしていただき助かりました。
▼完成したTNFDレポート
TNFDの感想と今後の展望について
中村
TNFDに取り組んでみて、いかがでしたか?
河野氏
同業他社の方とお話しする機会が個人的にあったのですが、見ましたよと言ってくださったり、内容を褒めてもらったりしたことが嬉しかったですね。
潮田氏
今回、広報専門紙のサステナビリティ情報特集で、当社のTNFDレポートの開示事例が取り上げられたのですが、理解しやすい説明がされているというご評価をいただき、とても嬉しかったです。これも今回、アミタさんにTNFDの開示サポートをいただいたお陰です。
中村
最後に、今後の取り組みついてご教示いただけますでしょうか。
河野氏
当社では2024年4月にサステナビリティ中長期目標を追加策定し、9月にはTNFDレポートの開示と生物多様性方針の発表を行いました。これらのサステナビリティに関する戦略の策定と、ネイチャーポジティブ実現に向けた取り組みを通じ、さらにいつまでも健やかな地球と生きる未来の実現に向けて継続的に活動に取り組み、情報発信を続けて参ります。2026年には、環境に配慮された南アルプス工場も竣工予定です。
▼南アルプス工場 2026年完成イメージ
「美しい知恵 人へ、地球へ。」という当社の企業メッセージに基づき、人に寄り添いつつ、自然環境に配慮するといったサステナブルな要素を取り入れた工場となる予定です。今回のTNFDの取り組みを通じて社内でのサステナビリティに関する知見が深まったと思いますので、この経験をもとに今後も新工場をはじめとしたさまざまな取り組みに活かしていきたいと思います。
中村
新工場楽しみですね。竣工されたらぜひ一度訪問させてください!
本日はありがとうございました。
話し手プロフィール
河野 斉治氏
株式会社コーセー
経営企画部 サステナビリティ戦略室 室長
潮田 繭子氏
株式会社コーセー
経営企画部 サステナビリティ戦略室 課長
村松 慎介氏
株式会社コーセー
経営企画部 サステナビリティ戦略室
田口 陽子氏
株式会社コーセー
経営企画部 サステナビリティ戦略室
聞き手プロフィール
中村 こずえ
アミタ株式会社 サーキュラーデザイングループ
環境問題に関心があり、アミタの「無駄なものなどこの世にない」という理念に共感して合流。現在は企業向けのサステナビリティコンサルティングを担当。
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