サーキュラーエコノミーを加速させるスタートアップ ~CIRCULAR STARTUP TOKYOレポート~ | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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インタビュー

サーキュラーエコノミーを加速させるスタートアップ ~CIRCULAR STARTUP TOKYOレポート~

サーキュラーエコノミーを目指す企業が増える中、東京都が運営している、多様な主体によるスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」における協定事業として、ハーチ株式会社が運営するスタートアップ支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」が開催されました。

CST第2期が開催決定!ご興味がある方は説明会アーカイブ動画募集詳細ご覧ください。

目次

東京から世界を変える~CIRCULAR STARTUP TOKYO最終Demo Dayに訪問!~

2024年7月、循環経済先進国を目指した国家戦略として「第五次循環型社会形成推進基本計画」が閣議決定されました。本計画では2030年までに循環経済関連ビジネスの市場規模を80兆円以上を目標にし、事業者間連携の促進やGX投資活用等などサーキュラーエコノミーを推進する方向性を明示しています。また、最近では、様々な自治体や企業による資源循環プロジェクトの他、業界に新たな技術・アイデアをもたらすスタートアップ企業や、スタートアップ企業との連携プロジェクトが注目されています。

これらの動きをさらに加速させるプロジェクトとして、2024年4月、ウェブメディア運営を手がけるハーチ株式会社により、東京都のスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」の協定事業として、サーキュラ―エコノミーに特化したスタートアップ企業の創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO(以下、CST)」が始動しました。

参加チームは、日本のサーキュラーエコノミーを牽引するメンター・アドバイザーのもと、サーキュラーデザインに関するインプットや事業開発支援、ネットワーキング、資金調達支援等、創業に必要な支援を受けられます。プログラムを通じて磨かれた事業プランやその進捗について、2024年8月3日(土)に参加チームによる最終発表が行われ、メンター・アドバイザー・プログラムパートナーだけでなく金融機関や事業会社、メディア等が参加しました。今回、おしえて!アミタさん編集部も最終発表に参加し、会場の熱気を肌で感じてきました(アミタはCSTのプログラムパートナーとして登録しています)。

CIRCULAR STARTUP TOKYO本番の様子

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提供:ハーチ株式会社

最終Demo Day発表企業

最終Demo Dayでは参加15チームがピッチを行いました。サーキュラーエコノミー分野に特化、といっても、各チームが扱うテーマは実にさまざま。
サステナブルなアパレルブランドやコーヒーかすから作るきのこ栽培キット、また新しい浄化槽や小型資源装置を用いたビジネスプラン、サーキュラー×デジタルによる新規市場創造など、一般消費者だけでなく企業や自治体にも向けた多様な視点からのアプローチが印象的でした。

Demo Day ピッチ登壇チーム ※順不同、敬称略

氏名/所属 事業内容
難波亮太 / 株式会社EcoLooopers 植物性廃棄物を活用したセルロースナノファイバーの研究開発・販売事業
小柳裕太郎 / 株式会社JOYCLE 廃棄物を輸送・焼却せずに資源化する小型資源化装置およびデータ可視化システム
阿部直樹 / Fan Circle株式会社 スポーツ産業における製品製造を環境配慮型へシフトするOEM
宮垣真由子・ Benoit Mantel/ ヘルシンキノコ コーヒーかすを用いた家庭用キノコ栽培キットの提供
髙橋慶成 / 合同会社 YTRO DESIGN INSTITUTENULL 廃材や天然素材の塗料化をきっかけに、ものづくりのエコシステムをつくる
岩澤宏樹 / 株式会社水と古民家 汚泥と合成洗剤の分解能力を高める浄化槽の開発/既存浄化槽の機能改善
山岡未佳・山梨小百合 / Beautiful timeS トランジションデザインで、人を持続可能な食に対する意思決定と行動選択に導く仕組み作り
藤代圭一・寺田雅美 / 隠岐サーキュラーデザインラボ 旅を通じて資源循環を学びあうフィールドワークアカデミー
繁田知延 / PHI(ファイ)株式会社 「環境教育」×「地域資源循環」による、持続可能な社会の創り手の育成
久保順也・手嶋翔 / ヘリテッジ株式会社 環境配慮型素材とジェンダーレスをテーマとするアパレルブランド「CRAFSTO
本田宗洋・木村雄太 / エコファニ(三菱地所株式会社) オフィスビルのテナントに向けたリユース家具の販売・引き取り事業
高橋浩人・宇多峻佑 / Team FarmBot Cafe(鹿島建設株式会社) 建設業を自然循環の一部に戻す「生態系ビルディング」の推進
福留聖樹・上野立樹 / LiNk合同会社 デジタルデータシェアリングによるサーキュラーエコシステム構築
岸悟志・林勇士 / 株式会社ナオセル 壊れたスマホを買い手の需要でプライシングするデバイス回収プラットフォーム
小野綾香 / RIPPNIS株式会社 心地よい住環境への補助線を引く家具空間サービス
大河淳司・小島剛 / リベロント株式会社 全く新しい購買体験を演出するサーキュラープラットフォーム

出典:CIRCULAR STARTUP TOKYO

いずれもワクワクするような事業プランばかりでしたが、今回はサステナブルなモノづくり・まちづくりに従事されているおしアミ読者向けに、2チームをピックアップして詳しくご紹介します。

ピックアップ:地域の素材(廃材等)を色として顕在化させるプロジェクト「NULL」

地域や事業活動によって排出された廃棄物や天然素材を塗料化し、土着由来(固有)の色を地域内に循環させ、モノづくりの在り方を変えることを目指すデザイン/アートプロジェクトNULL(ナル)。クリエイティブディレクターを務める髙橋氏にプロジェクトの概要や進行中のプロジェクト、今後の展開ついて伺いました。

▼NULLプロジェクトの概要

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提供:NULL

mrtakahashi.pngYTRO DESIGN INSTITUTEの代表を務め、長年ブランディングや空間デザインに携わった髙橋氏が特殊塗装職人の中村氏と実験を繰り返してきた中で、塗料化を通じてモノづくりの在り方を変えたいという想いのもと、2021年にNULLが始動しました。

これまで塗料化の実験を行った廃棄物や天然素材の数は約50~100種にものぼり、有機物・無機物問わず、粉砕ができるものであればほとんど塗料化できるとのこと。


「(天然の)素材をどのように組み合わせるか、2-3年ほど実験を行い、ノウハウを蓄積しました。気温や湿度にも影響を受けたり、絵の具づくりの世界にも近いかもしれません。」

プロジェクトによって廃材やプロダクト、事業者も様々であり、地域の田んぼから採取した土や廃棄される瓦を粉砕して塗料した廃校の机や、(植栽事業者が排出する)地域の土や植物残渣を原料として塗装した廃プラポット等、様々な地域の資源が色をきっかけに再度活用されます。塗った製品に個体差がでることも、画一的なデザインとは対照的に人によって手を加えられた温かみを感じます。

▼(左)竹炭を塗装した学校机 (右)廃土を塗装したポット

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出典:いすみ古材研究所

  • NULL:塗料化ワークショップによる物語の共有

    NULLの特徴は、素材提供事業者やプロダクトの生産者、販売者、地域住民等々、様々なステークホルダーが一緒になって塗料をつくり、塗装まで行うワークショップ。その地域や事業に関係する廃材や天然素材など、クライアントに身近で想い入れのあるものを塗料の素材に選び、バリューチェーンに関わる様々な人々が、ワークショップの中で素材に触れて色や感触を確かめ、その来歴に思いを馳せます。

    「塗るという作業は、誰にでもでき、大人でも童心にかえり楽しく塗ることができます。そのなかで地域の話をしたり、企業の方だと自分たちが出した廃棄物が生まれ変わる様子を実感されたりしています。」

    また、使用する塗料は塗り直し・部分補修が出来、オイルを塗ることで強度が増すため、メンテナンス・再生作業を施すことでモノへの愛着も自然と強くなります。参加者は、ワークショップを通じて、モノと自身とのつながりを見つめ直すことができるのです。

    ▼ワークショップの様子

    null_3.png

    提供:NULL

  • NULL:進行中のプロジェクト、今後の展望

    現在様々なプロジェクトを進行しているNULL。サブスクリプション型のセカンドホームサービスを展開する株式会社SANUとのコラボレーションでは、SANUや建築設計者等と事業や地域に関係する素材を決め、サブスクリプション会員も巻き込みながら、ワークショップを行いました。

    その他、商業施設やホテル・集合住宅の新築やリノベーション等、建物の開発を通じた土地や地域との関係性をデザインするプロジェクトや、企業の廃材を活用したブランドづくり、地域ブランディングなど、「色」をきっかけとしたモノづくり、仕組みづくりに取り組んでいます。

    地域や企業・商品が持つストーリーや価値を可視化して消費者に届けること、またそのストーリーに共感しファンになってもらうことは簡単ではありません。未利用の素材からストーリーや価値を固有の「色」として再現し、原始的なモノづくりを介して、人とモノ、人と企業、人と地域の関係性を塗り直すNULLのプロジェクトが、少しずつ広がり始めています。

  • 髙橋氏コメント CSTでの経験について
    「サーキュラーエコノミーの実現に向けてトライする方々と出会えたこと。メンターの方々も各分野の第一線で活動されている方々ですし、参加者も志の高い方々ばかりで、そういう方々とのネットワークが出来たことが何よりでした。その上で、自分のプロジェクトの良い面足りていない点が明確になったことは、今後の活動に向けてとても参考になっています。」

    ご興味のある方は、ぜひ「NULL」ホームページをご覧ください。
ピックアップ:分散型資源化インフラサービス「JOYCLE」

「ごみを運ばず、燃やさず、資源化する」分散型インフラサービスを提供する株式会社JOYCLE(以下、JOYCLE)。2023年に設立後、商品開発や実証実験を展開する代表小柳氏に創業の背景やサービスについて伺いました。

mrkoyanagi.png商社時代にパプアニューギニアに駐在しインフラ事業の開発に携わったことをきっかけに、将来インフラを整えることで人々の豊かさに貢献したいと思いを抱いた小柳氏。その後、エネルギー業界に従事するなかで、持続困難な処理業界の課題をビジネスで解決できないか、と創業されました。

JOYCLEが事業化を目指すのは、廃棄物を運ばず資源化する小型資源化装置「JOYCLE BOX」。廃棄物を運ぶのでなく、資源化のインフラが届けられるという新しい発想のサービスです。また、資源化に係わるデータ可視化システム「JOYCLE BOARD」や、小型資源化装置をシェアリングするサービス「JOYCLE SHARE」を開発しています。

JOYCLEのサービス概要

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出典:株式会社JOYCLE

  • 小型アップサイクルプラントJOYCLEBOXとは?

    現在開発に注力しているJOYCLE BOXは、データの可視化・発電・AI炭化機能がついた小型アップサイクルプラントです。JOYCLE BOXは、廃棄物を熱分解により炭化または灰化し、バイオ石炭(バイオ炭)やセラミック灰を生成します。AIによる高度な温度管理機能を搭載することで、灰化と炭化のどちらも対応可能。熱分解時の熱を使って発電と給湯ができる機能も搭載予定です。

    対応できる廃棄物はポリ塩化ビニル・液体・金属以外のもので、現在の試作品は40Lほどの大きさの装置で1日約100kgの燃えるごみ全般を資源化できます。


    ▼JOYCLE BOX
    joycle_box.png出典:株式会社JOYCLE

    「今、国全体の方針として大きな焼却炉を更新しみんなでシェアして使おうとしていますが、将来人手不足により廃棄物を運ぶ人が減ることは見えています。JOYCLE BOXで近場の事業所から廃棄物を運び、メンテナンスをすれば新しい稼げるビジネスにもなるし、廃棄物処理会社も人手不足のリスクヘッジになると思うんです。」

    人口減少に伴う全国的な焼却施設の減少と広域化・集約化は、廃棄物の運搬距離と関連GHG排出の増加が懸念されており、JOYCLE BOXはその解決策となる可能性があります。また特に、産業廃棄物処理費用が高く人手が少ない病院や、離島など近くに焼却施設がない地域にとっては、廃棄物の輸送コスト削減につながります。

    また、JOYCLE BOXの導入効果を可視化するため、廃棄物を運んで焼却し灰を埋め立てる場合とJOYCLE BOX導入した場合を比較し、費用対効果・環境負荷削減効果を見える化するJOYCLE BOARDも大学と連携して開発を進めている他、今後離島や地方、またグローバルに展開していくことを視野に、可動式の分散型プラントをシェアするサービスJOYCLE SHAREを併せて構想しています。


    ▼JOYCLE BOARDのイメージ図
    joycle _board.png提供:株式会社JOYCLE

  • JOYCLE:効果実証、今後の展望

    2024年7月には沖縄地域の実証結果を発表し、従来の処理方法と比べて、地域内で船舶・車両を運搬せずに小型資源化装置で処理することで、ESG貢献効果が高まることが証明されました。

    中長期的な視点では「町を駆け巡るJOYCLE SHAREの装置にアートを描き、装置が増えれば増えるほど街の景観が豊かになるようなブランディングをしていきたい」と素敵な構想を語ってくれた小柳氏。JOYCLEが届けようとしているのは、自律分散型の豊かな未来です。

  • 小柳氏コメント CSTでの経験について

    「今回サーキュラースタートアップを通じ、メンターの斉藤麻子さんからのエンジェル投資も決定し、同じくメンターを務められたカヤックの森住理海さんと鎌倉市内での事業案を揉ませて頂き、更にはその案が鎌倉サーキュラーアワードで金賞を受賞しました。しかも鎌倉サーキュラーアワードの事務局はメンターの善積 真吾さん。こんなに貴重なご縁を頂き、本当に感謝しかありません。JOYCLEをグローバルで成功させ、絶対に恩返ししたいです。誠にありがとうございました。」

    今後の事業展開にあたり、炭化・灰化以外の資源化技術開発に協力いただける処理会社や、地域に根差した資源・エネルギー循環に興味のある電力・エネルギー会社や投資家・金融機関等、連携パートナーを募集中とのこと。ご興味のある方は「株式会社JOYCLEホームページ」をご覧ください。

メンターフィードバック

参加チームのピッチを受けて、アドバイザー・メンターからフィードバックが行われました。

▼メンターからのフィードバックの様子

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提供:ハーチ株式会社

北原 宏和氏(Archetype Ventures株式会社)からは「今後のためには、なぜ自分たちが選ばれるべきかを明確にする必要がある。リスクを取って先行し取り組むことでアセットを積み上げ、強みに変えていくことができる」と、自社の独自性を打ち出すこととリスクをチャンスに変える姿勢を求める意見がありました。

中台 澄之氏(株式会社ナカダイホールディングス 代表取締役)は「大企業・中小企業・スタートアップが連携することで改革が加速する。プログラム内での多様な参加者とのマッチングが今後のビジネスチャンスを広げる」と連携の大切さを強調しました。

また、安居 昭博氏(Circular Initiatives &Partners 代表)、木見田 康治氏(東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任銃教授)、中村 聡志(Archetype Ventures株式会社)からは、資源循環を通じた経済成長の重要性を踏まえて、今後CSTを通じて、サーキュラーという枠組みを使って社会構造自体を変革するよりインパクトの大きな取り組みが輩出され、国内だけでなく海外からも注目されるイベントになっていくことへの期待が、それぞれの言葉で熱く語られました。

CIRCULAR STARTUP主催者ハーチよりコメント

最後に、本プログラムの主催者であるハーチ株式会社より本プログラムの狙いや開催を通じて感じたことについてコメントをいただきました。

「これまでのメディア運営や企業・自治体・大学連携などを通じて培ったネットワークを活用し、東京から日本および世界の循環経済への移行に向けた循環エコシステムの構築、スタートアップ企業の創出に貢献したいと考え、本プロジェクトを企画いたしました。

日本でサーキュラーエコノミーを牽引する多くの専門家の方々にご協力いただき、参加者のサーキュラービジネスの創業支援・スケールアップ支援はもちろん、専門家同士の横のつながりやサーキュラービジネスを目指す企業との協働など、様々な可能性が広がるプロジェクトとなりました。

2期では、第1期での経験を活かしながら更なる発展と深化を目指します。具体的にはグローバルな視点でサーキュラーエコノミーを推進するため海外のスタートアップとの連携や、大企業とスタートアップの協業機会をさらに増やすことでより大きなインパクトを生み出すことなどを通じて、日本発のサーキュラービジネスの更なる成長と、循環型社会の実現に向けた貢献を目指してまいります。」

CST2期の参加者・パートナーの募集が2024912日より開始しました。詳細は「こちら」からご覧ください。

イノベーションを加速させるためには

昨今、自社の新しい価値創出のためにイノベーションを起こそうとする企業が増えています。イノベーションに成功する企業もある一方で「イノベーションのジレンマ」と言われるように、既存事業の成功体験からなかなか思考を切り替えられず、新しい市場開拓や技術開発に消極的になってしまったり、思い切った舵取りに社内反発を受けたりする企業も多いと思います。

こういった課題に対して、最近では自社だけで開発を行うのでなく、他社との共同開発や知見共有などオープンな環境でイノベーションを進める風潮が強まっており、例えば「アクセラレータープログラム」のように、スタートアップとの連携を強化し、新しいアイデアや技術を取り入れる方法が広まっています。すでに市場で一定の成功を収めている大企業にとっても、また社会インフラを支える自治体にとっても、スタートアップとうまく連携していくことは、イノベーションへの有効なアプローチの一つです。

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執筆者(執筆時点)

田中 千智(たなか ちさと)

アミタ株式会社

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