インタビュー
荏原製作所に学ぶ サーキュラー・エコノミーを見据えた廃棄物管理の仕組みづくり
これまでの企業の廃棄物管理は生産拠点を中心に行われ、業務で最も重視されるのはコンプライアンス順守でした。サーキュラー・エコノミーやプラスチック資源循環という言葉がキーワードになった今、これからの廃棄物管理をどのように考え、備えていくべきなのでしょうか。
今回は株式会社荏原製作所の大羽氏に、サーキュラー・エコノミーの実現を目的とした、モノづくりの考え方や全社型の廃棄物管理についてお聞きしました。
※こちらのインタビューは2023年5月25日開催のセミナー後に行われました。
荏原製作所の長期ビジョン・中期経営計画について
猪又:先ほどはセミナーでのご講演、ありがとうございました。改めて荏原製作所の長期ビジョン「E-Vision2030」についてお聞かせください。2020年に策定され、2023年には中期経営計画「E-Plan2025」を発表されていますよね。
大羽氏:長期ビジョン「E-Vision2030」は気候変動や食糧・水資源枯渇など予想される未来の社会課題を背景に、5つのマテリアリティを設定し、そのうえで荏原グループとして2030年にありたい姿を、社会・環境価値と経済価値で示したものです。5つのマテリアリティの内のひとつ「環境マネジメントの徹底」に関しては「環境目標2030」という定量目標を設けており、廃棄物について国内での再資源化率95%以上維持と定めています。
「E-Plan2025」では、5つの事業セグメントのもと、5つの重点領域を定め「E-Vision2030」からバックキャストした2025年までの定量目標を設定しました。
▼中期経営計画「E-Vision2025」 基本方針
サーキュラー・エコノミーを見据えた廃棄物管理とモノづくりの考え方の転換期
猪又:大羽様は2009年から事業所での環境管理を担当され、現在は全社の環境管理を統括されているということですが、以前と比べ社内での「環境」の位置づけは変化していますか?
大羽氏:はい。2020年頃まではコンプライアンスが重要だと考えられていましたが、コンプライアンス順守は当たり前になっており、現在は事業による環境インパクトの開示が重要視されています。
猪又:今回のご講演では環境分野の中で廃棄物の管理をテーマに掲げさせていただきました。先ほど、事業による環境インパクト、というお言葉がありましたが、サーキュラー・エコノミーの潮流もある中で、貴社の今後の廃棄物管理について、どのようにお考えですか?
大羽氏:現時点では廃棄物の適切な処理として再資源化を選択し、詳細な情報の把握を進めるというところが実態です。その結果として、今まで適正管理と資源循環に注力してきた生産拠点から発生する廃棄物だけではなく、非生産拠点の仕入や納品時に発生する使用済みの副資材も一定量あることが分かっています。それらの排出をどのように抑制し、循環させるかという課題が浮かび上がっています。
事業に関するところでは、荏原の製品は短期で使い捨てるものではなく、何十年も利用されるものです。使用期間が長いが故に、現在の規格に適合せずに処分困難なものが出てくることが考えられます。そのため、先を見据えた製品の設計、調達を考えなければ循環型のサプライチェーンの実現は困難です。
また、近年のサーキュラー・エコノミーの社会動向から、当社の事業にも転換期が来ていると思います。たとえば、ポンプを売り、壊れたら廃棄するという「モノ売り」の考え方から「A地点からB地点へ水を送る機能」を提供するという「サービス売り」の考え方の転換が、リニア型からサーキュラー・エコノミー型ビジネスへの移行を実現する手段として不可欠だと感じています。とは言っても、現在廃棄物と呼ばれているものを今後どうするかということを考えていかなければなりません。
廃棄物を減らし、モノとしての循環を測る指標づくり
猪又:ご講演では廃棄物管理指標についても詳しくお話いただきました。ここまで詳細に指標化されている会社は少なく、ある意味先駆者であると思います。指標づくりのきっかけは何だったのでしょうか?
大羽氏:プラスチック資源循環促進法(以下、プラ新法)施行が大きなきっかけでした。法律を読むと、廃棄物処理法に適応させるこれまでの指標だけでは不十分だと気付きました。プラ新法では、まずモノとして循環させることを目標にして、どうしようもなくなったら次に熱として有効利用する、というフローを把握する必要があると考えています。また、先ほどお伝えしたように、非生産拠点から排出する廃棄物も多く、それを自社の生産工程で直接再利用することが今はまだ難しいということもあり、モノとしての循環をどこまで追うかを考えて新たな指標を作りました。
▼荏原製作所の廃棄物フローと管理指標
株式会社 荏原製作所提供
全社単位で廃棄物管理を推進しようと考えたきっかけ
猪又:貴社ではアミタの「Smartマネジメント」をプラットフォームとして、廃棄物管理業務のアウトソーシングを展開する動きをしていただいていますが、事業所ごとではなく、本社の主導で進めた方が効率的だと考えられたのでしょうか?
大羽氏:効率化よりも、拠点ごとの悩みを解決することが目的でした。拠点の廃棄物管理担当者は多様な悩みを抱えていますが、拠点には廃棄物管理を専門にする担当者がおらず、身近な相談先を見つけられない場合がありました。しかしながら、本社の我々は各拠点の担当者から相談されても、それぞれの地域や現場の事情を考慮し適切な答えをすぐに出すことは難しく、自社だけで対応することに限界を感じていました。
また、今まで非生産拠点を含め拠点ごとにデータ管理をしていましたが、思うように成果が得られず情報の管理にも難しさを感じていました。
そのような状況の中、生産拠点では既にアミタさんのアウトソーシングサービス「サステナブルBPO」と「Smartマネジメント」を導入していました。今うまくいっている仕組みを非生産拠点向けに展開することで、各拠点の悩みに対応しやすく、データもSmartマネジメントに一元管理されるので合理的だと考えました。
猪又:従来、廃棄物管理は良くも悪くも事業所の担当者が知識をつけ、それぞれに良いと考える方法で実施されていましたが、最近はそういった人員を維持することが難しくなりましたよね。それは社内の事情や法律などのルールの変化だけが要因ではなく、カーボンニュートラルやサーキュラー・エコノミーも含め時代と社会の変化に伴い、事業も変わってきていることが背景にあると思います。
大羽氏:仰るとおりですね。当社は今まで排出現場ごとに廃棄物管理をしていましたが、事業内容が変わり、出てくる廃棄物が変わり、人員確保も簡単ではない今、従来のやり方では十分に対応できなくなってきました。
全社型廃棄物管理を目指す体制構築
猪又:今、貴社の約70の営業拠点にアミタのアウトソーシングの導入を進めているところですが、大羽様がお考えの今後の展開についてお聞かせいただけますか?
大羽氏:まず、先ほどお話した各拠点が廃棄物管理に困らない状態と、非生産拠点を含む全拠点が1つのシステムを使える状態を実現したいと考えています。
将来的な理想の姿として描いているのは「廃棄物ではなく、循環のループの中にあるモノだから不要なモノはない」という状態です。現場では廃棄物処理会社との契約を終えた後はどうしてもその契約書やマニフェストなど書類の管理に意識がいき、肝心のモノ(廃棄物)は他人にお願いするものだと思ってしまっていると感じることがあります。しかし、本来やるべきことはモノを循環させることであり、理想の姿に近づくために、どのような仕組みが欲しいか、必要か、ということから考えていきたいと思っています。
猪又:ありがとうございます。最後に、今後アミタへ期待することは何でしょうか。
大羽氏:幅広い製品を扱っているため拠点ごとに発生状況が異なるというのが私たちの課題なので、全国を範囲に事業を展開されているアミタさんの知見を活かしてもらいたいです。また、プラ新法然り、法令の変化による要求事項の変化への対応についても一緒に考えながら対応してもらいたいと思っています。
猪又:ありがとうございます。今後も並走してご支援を進めさせていただければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
関連情報
話し手プロフィール
大羽 宏氏
株式会社 荏原製作所
法務・総務・内部統制・リスク管理統括部 リスク管理部 環境推進課 課長
入社以来26年にわたり、環境分析から事業所の環境管理といった環境に関わる業務を担当。ダイオキシン類、PCB等の極微量の有害化学物質の測定技術開発および排水処理施設、焼却炉等の環境設備の性能評価に従事した。現在は環境推進課にて全社の環境管理全般を統括。
聞き手プロフィール
猪又 陽一
アミタ株式会社
スマートエコグループ グループマネージャー
早稲田大学理工学部卒業。東京商工会議所「eco検定アワード」審査委員。環境・CSR分野における戦略立案、実行支援、コミュニケーション、教育など幅広く従事。優良産廃処理業者ナビゲーションサイト「優良さんぱいナビ」、企業ウェブ・グランプリ受賞サイト「おしえて!アミタさん」、「CSR JAPAN」をプロデュース。企業や大学、NPOなどで廃棄物管理を含む環境・CSRの講演、研修、コンサルティングなどを行う。昨年の廃棄物研修は、オンライン研修を中心に年間約20回以上実施。
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