インタビュー
ソーラーフロンティアに聞く 今こそ考え直す、太陽光発電システムを導入するメリットとは
2010年代から注目され、いまや企業の脱炭素対策の主要な手段となっている太陽光発電システム。契機となったFIT制度での電力の固定買取期間は順次終了していきますが、これから太陽光発電システムはどうなるのでしょう。
今回は太陽光パネルのメーカーから、エネルギーに関するライフサイクル全体のアプローチへと事業範囲を広げているソーラーフロンティア株式会社の前谷氏に、社会情勢が大きく変化する今、太陽光発電システムを導入するメリットや、今後の可能性についてお話しを伺いました。
再エネ導入の急速な増加
武津:初めに、貴社の事業内容や太陽光発電の導入実績について教えていただけますでしょうか。
前谷氏:弊社の主な事業は、太陽光発電システムの販売です。それに加えて、太陽光発電所のEPC(設計・調達・施工)を含めた開発とアフターサービス、パネルのリサイクル技術開発を行っています。また「太陽による快適でクリーンな暮らしをすべての人に」という理念の元、ただ太陽光発電システムをお届けするのではなく、クリーンなエネルギーを作り出し提供したいという想いで、太陽光発電に関わる包括的なエネルギーソリューションを提供しています。実績としてはこれまでに6GWが発電できるパネル量を出荷してきました。ちなみに原子力発電所1基の発電能力は1GWです。出光グループでは、国内外で2.1GWの電源開発を実現しており、そのうち約830MW分の太陽光発電所を運営しています。
▼ソーラーフロンティアの沿革
出典:ソーラーフロンティア株式会社
武津:2010年代からFIT制度の利用を見据えた上で急速に太陽光発電システムの設置が増えていったと思いますが、当時の社会背景について詳しく教えていただけますか。
前谷氏:当時はFIT制度の売電価格が高かったため、一部の層が投機目的で、まだ高価だった太陽光発電システムの購入を始めました。しかし次第に売電価格が落ちると、企業は実際に自分たちが使うエネルギーを作る目的として購入するようになりました。特に熊本や千葉での地震を契機に、非常用電源としての側面も見直され、改めてその有用性が広まっていったという背景があります。広まると同時に発電システムの価格も下がり、より一層導入がしやすくなりました。
武津:用途としての価値も認識され、広まっていったのですね。
太陽光発電の定着から現在
前谷氏:こうした流れもあり、最近は太陽光発電システムを導入しやすくなっています。
武津:詳しく教えていただけますか。
前谷氏:まず、太陽光発電システムの価格が大幅に低下したことに比例し、設置費用が安くなったことが大きな要因です。ちなみに発電システムの価格は、現在の円安という状況を踏まえても安いといえる状況です。
武津:なるほど。導入コストの低下以外の要因もあるのでしょうか。
前谷氏:発電した電気を自社で利用することを目的に導入する企業も増えています。今は買電価格のほうが売電価格よりも高くなっています。詳しく説明しますと、FIT制度を利用したときの売電の単価は大幅に低下しており、2012年から2022年の間でなんと約76%も下がりました。つまり今、売電目的での太陽光発電システム導入のメリットは弱くなっています。一方で、体感されている方も多いかと思いますが、燃料調整費や再エネ賦課金の上昇も重なり買電価格の平均単価が2021年から2022年の1年間で約34%と急激に上昇しました。高い電気を買うより、自分で作った電気を使う方が経済的にメリットがあるのが現状です。
▼FIT制度・売電単価の推移 ▼電気料金別平均単価の推移(日本)
武津:原料高騰のニュースは最近よく目にしますが、電気料金はダイレクトに反応がありますね。
前谷氏:そうした結果、太陽光発電システムの投資回収年数が大幅に短くなりました。2020年では約10年と言われていた回収年数も、2023年では5年弱へと縮小しています。
▼投資回収年数試算の比較
出典:ソーラーフロンティア株式会社
武津:回収期間が3年で半分になっているとは驚きました。これまで投資回収を理由にためらっていたお客様も検討の余地がでてきそうですね。
経済的メリットを超えて、太陽光発電システムを導入する価値
前谷氏:ここまでお話ししてきたように、近年は太陽光発電システム導入のコストやリスクが下がり、経済的なメリットも得られるようになってきています。しかしそれ以外にも太陽光発電システム導入のメリットはあります。それは遮熱効果です。太陽光パネルを設置すると屋根部からの熱の侵入を防げ、建物内の温度上昇を抑えることができます。遮熱塗料では経年劣化があり、定期的な塗り替えが必要になりますが、太陽光パネルは物理的に置いている期間は効果が持続します。近年の猛暑対策として、この遮熱効果を見込み太陽光発電システムの導入を決めた企業様もいらっしゃいます。
▼太陽光パネルによる遮熱効果
出典:ソーラーフロンティア株式会社
武津:電気の使用量を軽減でき、CO2排出量の少ない電気が作れる、まさに一石三鳥ですね。太陽光発電には様々な恩恵があるかと思いますが、今の世界的な脱炭素の潮流の観点からみると、再エネの導入は注目すべきポイントだかと思います。日本でも政府によって2050年カーボンニュートラル実現という目標が発表されてから、企業による再エネ導入の拡大はさらに顕著になってきています。
前谷氏:そうですね。私たちも肌で感じています。
武津:企業が事業を通じて排出するCO2量の算定においても、Scope3(サプライチェーン上のGHG削減)はどうしても取り組まないといけない領域になっています。弊社も多くの企業様から脱炭素に関してのご相談をいただきますが、お客様が取引先からCO2排出削減の取り組みを要請されているという声はよくお聞きします。
前谷氏:たしかに、自社のお客様から要請を受けて、太陽光発電システムの設置を検討する企業様からのお問い合わせは増えています。太陽光発電システム導入も「やったほうがいい選択肢」から「やらなくてはいけない対策」へと変化しています。
武津:再エネ導入は、もはや事業の持続性にも関わるという話で、今後ますます注目度が上がっていくのではないでしょうか。
今後の挑戦~社会課題解決に取り組む次世代型システムインテグレーターへ~
武津:太陽光発電システムの販売を行う企業はたくさんありますが、そのなかでもソーラーフロンティアならではの提供価値はありますか。
前谷様:太陽光発電システムの販売だけにとどまらないところです。40年以上にわたって太陽光発電の普及に取り組んできた知見・技術力を組み合わせ「包括的なエネルギーソリューション」が提供できます。具体的に言いますと、住宅・産業向けの太陽光発電システムの設計とご提案から始まり、納入後のメンテナンスや最適運転のサポート、さらには廃棄後のパネルのリサイクルスキーム構築などと、太陽光発電に関わるすべての領域を提供できます。また、出光興産の電力部門と連携し、再エネ電源の追加購入のご提案もしております。太陽電池メーカーとしての枠組みを超え、太陽光発電システム全ての領域のソリューションを提供できる、「次世代型システムインテグレーター」へと業態転換を進めています。お客様のクリーンなエネルギーの実装に向け、多様なソリューションを提供できるところが私たちの強みです。
▼ソーラーフロンティアの挑戦
出典:ソーラーフロンティア株式会社
武津:出光グループの強みを活かして総合的に脱炭素ソリューションを提案されているのですね。そんな貴社が今取り組んでいる、新しい挑戦はありますか。
前谷氏:まずは屋根や積雪エリアへの太陽光パネルの設置といった、設置エリアの拡大に取り組んでいます。日本は山が多く平地が少ないため太陽光パネルの設置には限界があります。一方でまだパネルが設置されていない屋根はたくさん残っています。駐車場スペースを発電所に変えるカーポートの展開や、これまで導入されていなかった陸屋根にも設置を進めていきます。山を切り崩してメガソーラーを設置するのではなく、地域と共生する太陽光発電システムを展開していこうと考えています。
武津:壁や曲面に設置できるフイルムのような次世代型のパネルもでてきましたし、これまで未利用だった場所の活用は今後広がると思います。
前谷氏:また、設置場所の拡大だけではなく、太陽光発電システムに関わる企業としての責任を果たしたいと考えています。具体的には2024年度に太陽光パネルのリサイクルを事業化することを目指しています。もちろんパネルの廃棄量自体を削減していくのが最重要ではありますが、借地の契約などからどうしても廃棄せざるを得ない太陽光パネルが今後出てきます。そのような廃棄パネルの受け皿として、自社製品だけでなく他社の製品も合わせて一緒にリサイクルを行っていきます。そして、パネルのマテリアルリサイクル率90%の達成と、より低コストかつ環境負荷の低いリサイクル技術の開発に注力していきます。クリーンなエネルギーを作ることができる主力電源としての太陽光発電の普及で持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。
▼ソーラーフロンティアの太陽光パネルリサイクル技術の開発
出典:ソーラーフロンティア株式会社
武津:自社だけでなく、他社製品も一緒にリサイクルされる予定なのですね。貴社の目標の達成には、「他社との共創」がキーワードになってくるかと思いますがいかがでしょうか。
前谷氏:色々な技術を持っている他社様と協力しながら進めていくことが理想だと考えています。直近では、住べシート防水株式会社と共同開発で、材料費・工事費の削減と設置容量の向上を実現する新工法を開発しました。この工法では、従来のコンクリート基礎の架台のように、屋根に太陽光パネルを固定する支柱を立てないため、システムの重量を約1/3に軽量化できました。また、屋根にパネルを水平で設置するため、同じ面積当たりの設置容量が従来工法との比較で最大約30%増加します。更に、屋根へのシート防水と一体の工法のため、10年間の防水保証が付保され、安心して利用できます。
▼住べシート防水株式会社との共同開発
出典:ソーラーフロンティア株式会社
武津:今の時代に合わせて業態を変化させ、周りの関係者を巻き込みながら、「太陽による快適でクリーンな暮らしをすべての人に」という企業理念の実現を目指すのがソーラーフロンティアの特徴だということが分かりました。同じ方向性を向いたパートナー企業や自治体、そして顧客と共創しながら、事業価値を高めていく考え方は弊社も同じです。アミタも「Cyano Project(シアノプロジェクト)」という事業創出プログラムで、お客様の持続可能な循環型ビジネスの創出を支援させていただいておりますが、目標達成に向けた手段の一つとしても、自家消費型の太陽光発電の導入というのは大変有効ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
ソーラーフロンティア株式会社 |
話し手プロフィール
前谷 忠仁氏
ソーラーフロンティア株式会社
営業本部 東日本支店長
再エネ業界歴14年。FIT黎明期は九州において太陽光発電の提案に携わり、福岡、大阪、東京で営業責任者を経験し、現在は自家消費型太陽光発電の提案・導入支援を中心に企業・自治体の脱炭素化をサポート。2023年4月より現職。営業だけでなく、社内の交流促進・組織活性化施策などにも携わっている。
聞き手プロフィール
武津 雄太
アミタ株式会社
社会デザイングループ グループマネージャー
製造業を中心とした資源循環スキーム構築の支援、環境管理ICT導入及びBPO活用支援、
脱炭素に向けた目標設定の支援など、サステナビリティに関するコンサルティングを実施。
2023年1月より現職。エコシステム事業創出プログラムCyano Projctの提供を行っている。
お役立ち資料・セミナーアーカイブ一覧
- なぜESG経営への移行が求められているの?
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