エプソンに聞く サステナビリティと企業の価値提供 | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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インタビュー

エプソンに聞く サステナビリティと企業の価値提供

2050年には「カーボンマイナス」「地下資源※1消費ゼロ」を目指すなど、サステナビリティに関して常に高い目標を掲げて、継続的に環境活動を進めるエプソン。
最近では、オフィスのレーザープリンターを全面的に環境負荷の低いインクジェットに切り替えることで「環境配慮型オフィス」を推進、また使用済みの紙からほとんど水を使わずに新たな紙を生み出す「PaperLab(ペーパーラボ)」のリリースなど、時代の変容に合わせた価値を提供しています。
※1 原油や、金属などの枯渇性資源

今回は、エプソン販売株式会社DX推進部 子田 吉之氏に、エプソンのサステナビリティに対する考え方と企業の価値提供についてお伺いしました。

目次
サステナビリティに挑む理由

田部井:最初に、貴社のサステナビリティに関する取り組みや考え方、企業理念などについてお伺いできますか。

子田氏:エプソンでは2022年に『「省・小・精」から生み出す価値で人と地球を豊かに彩る』というパーパスを策定しました。「省・小・精」とは、より効率的に、より小さく、より精緻にするというこだわりであり、エプソンの価値観の根幹となります。近年の社会情勢の変化の中で長期的な視点をもった、グループ全体の軸となる存在意義を発表しました。また2021年には『環境ビジョン2050』を改定しています。これは将来に渡ってありたい姿として"2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」を達成し、持続可能でこころ豊かな社会を実現する"ことを明文化し、脱炭素と資源循環という大きな社会課題に対するエプソンの強い意志を示す具体的な達成目標を設定しています。

▼エプソングループの環境ビジョン2050

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エプソン販売株式会社提供

田部井:近年のSDGsや脱炭素の流れを受けてパーパスや環境ビジョンを策定する企業もいる中で、貴社では2008年にこの環境ビジョン2050を策定し、さらに2021年にはより野心的な内容に改定されています。

子田氏:実は環境ビジョン2050の改定は2回実施しています。1度目の改定は2018年、そして2021年が2度目の改定です。環境への取り組みは環境ビジョン策定以前から行っており、1988年には世界に先駆けてフロンレスの宣言をしています。その4年後、1992年には日本国内、そして翌年1993年には全世界でフロンレスを達成しました。その後も環境への取り組みは続け、2021年には国内の自社拠点で使用する電力を、100%再生可能エネルギーに転換しました。

田部井:なぜ貴社では環境への取り組みがそこまで進んでいるのでしょうか。

▼無地の着物にプロジェクターで様々な柄を投影した展示

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(ファッション業界の試着サンプルや売れ残った商品
が多く廃棄される課題をデジタル技術で解決)

子田氏:それは弊社の創業の地が関係しています。エプソンの発祥は、長野県の諏訪湖のほとりの時計工場として有限会社大和工業が創立したことが始まりです。自然豊かな諏訪湖がすぐそばにあったため、この恵まれた土地を守っていかなないといけない、諏訪湖を汚してはいけないという創業者の信念がありました。そして、大きいこと、量が多いといったいわゆる「拡大」が豊かだという時代もありましたが、エプソンでは「省・小・精」を突き詰めていくことが豊かさにつながることだと考えています。創業者の想いは脈々と受け継がれています。フロン全廃は当時では達成が相当困難な目標のため、社内では実現できるのか戸惑いの声がありました。しかし、トップの確固たる想いと「フロン全廃」という明確なゴールの設定が目標の達成、イノベーションの原動力となりました。

田部井:創業の想いを今でも大事にし、実現されているのは素晴らしいですね。社内で進めていく上での秘訣はありますか?

子田氏:エプソンの経営理念の中に「地球を友に」という言葉があります。社員全体にこの言葉が自然と浸透しており、経営理念とサービスを結び付けて考えやすい土壌があったことが、推進の原動力のひとつだと思います。私は前職からエプソンに入りましたが、社員の経営理念の浸透具合には驚きました。キックオフなどの際にも経営理念を全員で唱和するので、原点に立ち返えることができるようになっています。

kodaxamita.png田部井:弊社でも毎朝、行動規範の唱和をしています(笑)。具体的なお取り組みで実践されていることなどはありますか。

子田氏:エプソンでは目標に対し、きちんと組織立てて動いています。2050年のカーボンマイナスの目標達成に向けては各事業部に任せきりにするのではなく、様々な部署を横断した推進体制があり、それに役員が責任をもって取り組む体制を作りました。また各部署がそれぞれの役割の中で「自分達がどうしてこの目標に取り組まなければならないのか」「達成した後で得られるメリットは何か」を、メンバー全員が腹落ちするまで話し合いをしています。環境ビジョン2050の達成に向けて、経営として積極的に投資をしていくことを宣言していることも大きいです。

パーパスを体現する製品、サービス

田部井:貴社は2022年、レーザープリンターから2026年を目標に撤退し、新規に販売するオフィスプリンター本体をインクジェットプリンターに全面的に切り替えることを宣言されました。オフィスではレーザープリンターが主流な中、インクジェットプリンターへの全面切り替えは、大きな決断だったのではないでしょうか。

子田氏:はい。その説明をする前段の話としてプリンターはかつて、ドットインパクトプリンター※2 が主流だった時期があります。
ありがたいことにエプソンのドットインパクトプリンターは、世界的にデファクトスタンダードになるほどのシェアをいただきました。しかしそれが、インクジェットプリンターやレーザープリンターへの参入では他社に遅れを取る一因にもなったと思います。他社に追いつくためにインクジェットプリンターの研究・開発を究めていったということがあります。

※2:機器に搭載されたピンを押し付けて印刷するタイプのプリンター。請求書や産業廃棄物のマニフェスト等、書式が決まっている紙への印刷に使用される。

田部井:先行企業だったことが、次の市場で遅れを取ることになるという、まさにイノベーションのジレンマですね。

子田氏:おっしゃるとおりです。エプソンではドットインパクトプリンターの市場自体が狭まっていく中で新しい市場に挑戦しました。当時は相当苦しかったと聞いています。しかし、一般の家庭にもパソコンの普及が進むと印刷のニーズが高まり、インクジェットプリンターの導入が増えました。インクジェットプリンターで高画質の写真を印刷できるようになったことが転換点となり、エプソンのプリンターは家庭用プリンターのシェアを大きく伸ばすことができました。

田部井:その技術をもって、いま新たにオフィスプリンターの市場をインクジェット方式に置き変えるというイノベーションを起こそうとされていますよね。インクジェットプリンターの優位な点はどんなところでしょうか。

子田氏:インクジェットプリンターは一般的なレーザープリンターに比べ、現在お使いの機種によっては消費電力を約80%削減できるとのシミュレーション結果も出ています。複合機やプリンターは一般的なオフィス全体の消費電力の約10%を占めているとのデータもあり、電気料金が高騰している現在、切り換えるだけで省エネ効果が高く電気料金を削減できます。また、シンプルな構造のため廃棄物が少ないことからも、CO2排出量の削減に繋がります。エプソンでは着実な実績と環境貢献への技術力が確立する中で、インクジェットプリンターへの全面切り替えを宣言し、お客様のもとでの環境負荷低減を実現してまいります。

▼レーザープリンターから置き換えた場合の削減事例

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▼レーザープリンターに比べ圧倒的に熱放出が少ないインクジェットプリンター

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(左:インクジェットプリンター 右:レーザープリンター)

▼消費電力と削減できたCO2をディスプレイで即時に確認できる

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田部井:置き換えるだけでプリンターの消費電力を80%も削減できるのは助かりますね。貴社の製品ではPaperLabも衝撃的でした。実際に私も見学させていただきましたが、オフィスからでる使用済用紙から新しい紙を作ることができることに、とても驚きました。

▼オフィス内で紙のリサイクルができるPaperLab

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▼破砕された繊維状の紙

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▼繊維状の紙に結合剤を添加することでリサイクル紙を作ることが可能(着色も可能)

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子田氏:ありがとうございます。最近では社会課題を起点にしたモノづくりをしています。PaperLabはその代表的な商品です。「プリンターメーカーとして紙に印刷して終わりではなく、印刷した後の紙まで責任をもつべき」という考えのもと開発を始めました。水を大量に使用し再生する技術は昔からありますが、根本的にサステナブルな方法で紙を作り直すことはできないか?という観点から考え直しました。
紙を繊維にまで戻し、場合によっては色を変えた新たな紙を生み出すという「紙の循環」が可能なPaperLabは、エプソンのパーパス「省・小・精」が存分に発揮された製品となりました。

エプソンが目指すもの、未来のものづくりの在り方

田部井:子田様はDX推進部ですが、今後のエプソンの展開についてはどのようにお考えでしょうか。

子田氏:モノを買ってもらい、使ってもらうところまでが、これまでのビジネスの在り方でしたが、今後はエプソンとして、お客様のお困り事、さらには環境問題や社会課題に取り組む人を支援したいと考えています。最近では「学校現場を笑顔に」というコンセプトのもと、学校教員の働き方改革を支援するため、弊社のインクジェットプリンターを導入いただいています。と言いますのは、教育現場の長時間労働は以前から問題視されていました。その原因のひとつが「印刷作業に膨大な時間がかかっている」ということでした。多くの学校では現在でも職員室とは離れた場所に印刷室があり、また、印刷する時間が集中し、印刷渋滞を起こす、カラー印刷は高すぎてあきらめているなど、様々な課題を抱えていました。そこで、従来よりも印刷のスピードが速いインクジェットプリンターを職員室へ導入し業務の効率化を図りました。また規定枚数まではカラー印刷もモノクロ印刷も同じ価格で印刷ができるサービス体系を設計し、カラー化による生徒の学習効果の向上にも繋がっているとの声もいただいています。このように、今後はお客様の課題に対してフォーカスし、さらに踏み込んだ困り事を解決し、人々の暮らしを豊かにしていきたいです。

田部井:貴社のサービスが導入されればされるほど、先生が働きやすくなるということですね。

子田氏:そうであれば本当にありがたいことです。また、プリンターでの印刷の話だけではなく、実は紙の使用量を減らす取り組みにも着手しています。

田部井:え!?紙の使用量を減らすということは貴社の事業機会を狭めることになりませんか?

子田氏:昨今の働き方改革とデジタル化によるペーパーレスの潮流もあり、2021年よりエプソングループ全体で、紙の使用量を半減する取り組みをスタートしました。プリンターメーカーなので社内では反対意見もありました。しかし、PaparLabの開発にも通じますが、プリンターメーカーとして印刷への責任があります。エプソンとして働き方改革や環境課題解決のために何ができるかを突き詰めた結果、ペーパーレスを進めることになりました。

田部井:印刷してもらうことで事業を行うビジネスモデルにも関わらず、紙の使用を半減とは、フロンレス宣言やカーボンマイナスのように、根本から価値を見直すことを徹底されていますね。効果はいかほどでしたか。

ペーパーレスサクセスプラン

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エプソン販売株式会社提供

子田氏:私が所属するエプソン販売では、すべての印刷物を可視化し、印刷必要性の判断、不要印刷の廃止、社内決済・FAXの電子化や郵送物の電子回覧など電子ワークフローへの移行、RPAの活用など徹底的に進めた結果、2年間で約695万枚の紙を削減できました。この紙の削減によって、紙の購入コスト削減はもとより、新品の紙と比較して約36tのCO2削減にも繋がりました。
現在、DX推進部ではこの過程で培ったノウハウを「環境・DXに関するアセスメントサービス」として提供しており、企業のサステナブルな経営を支援しています。このサービスの提供によって、環境やDXの取り組みに関して、何から始めればよいかお困りの企業の皆様へ、設問を通じて、現状把握、優先課題の特定、課題解決に向けた具体的なアクションのまずやるべき第一歩を報告しています。エプソンではサステナブル経営や企業価値の向上に寄与できればと考えておりますが一社では達成が困難なため、自社のサービスを起点に他の企業のみなさまとも共創しながら進めていきたいと考えています。

田部井:まさにこれからの時代のキーワードは「共創」ですね。手前みそではありますが、弊社ではCyano Project(シアノプロジェクト)という循環型のビジネスモデルの構想・構築を支援する事業創出プログラムを提供していますが、こちらも社内外のステークホルダーと連携することで循環型ビジネスを実現させようとしております。

epson x amita.jpg子田氏:パーパスが共感しあっていれば目指す未来は同じだと思います。

田部井:企業のサステナビリティや社会課題の解決は、想いだけでも、また技術だけでも解決はできないと思います。働き方や働く人に寄り添い、環境問題にも寄り添って必要のないものを徹底的に省く。
まさに貴社がやってこられた「省・小・精」から生み出す価値で、人と地球を豊かにしていこうという、貴社の考え方とこれから目指す未来を聞かせていただくことができました。本日はどうもありがとうございました。

話し手プロフィール

epson_koda3.png子田 吉之(こだ よしゆき)氏
エプソン販売株式会社
DX推進部(グリーンモデル推進)部長

1999年入社、法人営業に従事し、2019年 販売推進本部にてビジネスプリンター、PaperLabのマーケティングを担当。
2022年より現職、企業の脱炭素化への取り組み、働き方改革を支援し、環境貢献活動を推進。

聞き手プロフィール

amita_tabei.png田部井 進一(たべい しんいち)
アミタ株式会社 
代表取締役

アミタグループへ合流後、主に企業の環境部・サステナビリティ部門を対象に、環境ビジョンの策定や市場調査など、多くの支援実績を持つ。2020年より取締役として、アミタグループの事業の柱となる「社会デザイン事業」の確立に向け、新規サービスの創出・新規市場開拓を牽引。2023年より、現職。

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