インタビュー
株式会社環境資源開発コンサルタント脱炭素に向けて注目される再エネ調達手段!ため池ソーラーとは?
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを実現することを宣言しました。企業活動においても、再生可能エネルギー(以下、再エネ)への移行をはじめとする積極的な取り組みが求められています。そこで今回は、カーボンニュートラルへの貢献と同時に、生態系や地域経済に好影響をもたらす"ため池ソーラー"について、施工・運営のプロフェッショナルである株式会社環境資源開発コンサルタントの代表取締役 金城義栄氏と、技術開発部長 北川喜督氏にお伺いしました。
ため池ソーラーとは、農業用水を確保するために築造されたため池(貯水池)の水面に、ソーラーパネルを設置した再エネ発電施設のことです。 NEDO再生可能エネルギー白書(第2版)によると、ため池を含めた「水上空間(湖沼・ダム水面)」の太陽光発電の導入可能ポテンシャルは38,797MW(38.8GW)と推計され、これは「耕作地・耕作放棄地」に次ぐ2番目の規模と発表されています(屋根・屋上等の建物の導入ポテンシャルを除く)。地上設置型太陽光発電の施設稼働容量の鈍化が進む中、ため池ソーラーは、環境のみならず社会にも好影響をもたらす再エネ発電施設として注目されているのです。 |
ため池の有効活用が、環境・社会に好影響を生む
アミタ:太陽光発電システム市場では、まだまだ地上設置型の太陽光発電施設が主流であるという印象です。現状のため池ソーラーの普及率はどれくらいなのでしょうか。
金城氏:2020年12月に兵庫県、神戸大学と共同実施した調査では、ため池ソーラーは全国に約200か所あることが判明しました。2021年7月時点で、全国には約3,300か所の太陽光発電施設が存在しているので、市場占有率は6%程度とまだわずかです。しかしながら、国内のため池の数は約20万か所に上ることから、普及拡大の可能性は大いにあると推測しています。
アミタ:水上で発電することによる強みやメリット、地上設置型太陽光発電との違いにはどのようなものがあるのでしょうか。
金城氏:はい、主な強みは以下の3点だと考えています。
1. 自然環境に大きな影響を与えず、既存形状のままでソーラーパネルの設置が可能
地上設置型太陽光発電は安い土地を求めて山を開拓する傾向にあり、CO2を吸収する役割を担う森林を伐採することが近年問題視されています。一方の水上設置型は、既にあるため池の水上にソーラーパネルを設置するため、環境負荷を低く抑えることができます。
2. 日射条件が良く安定的な発電が可能
地上設置型の太陽光発電施設は、時間帯や立地によって、周りの建物に日光を遮られやすいですが、ため池周辺には日光を遮るものが少ないため安定的に発電できます。
3. 発電効率が良い
太陽光発電はソーラーパネルの温度が低いほど発電効率が高まります。地上設置型太陽光は熱を蓄えやすく効率が低下しやすいですが、ため池ソーラーの場合は水上にソーラーパネルが設置されるので、周囲の水面や風によって平均して低い温度を維持できます。これにより、高効率な発電が可能です。
上記の強みに加えて、ため池ソーラーは地域社会や環境・生態系に多くのメリットをもたらすんです。
1. 農業支援につながる
ため池は農業に欠かせないものですが、近年、維持・管理にかかる資金の不足が深刻化しています。ため池ソーラーを設置することで、1.ため池の所有者自らが発電事業者となり売電収入を得られる2.発電事業者に水面を貸し出すことで貸借収入を得られる、などのメリットがあり、結果としてため池の管理資金の調達に寄与します。
2. 水質改善につながる
水上に設置したソーラーパネルが日光を遮断し、水中での光合成が制限されます。それによって、アオコ※の異常発生が抑えられ、水質の改善を実現します。
※アオコ...水中の植物プランクトンが大量に増殖し池や湖沼の水面が緑色の粉をまいたようになる現象のこと。悪臭や水質汚染の原因となる場合がある。
3. 水鳥をはじめとする野鳥の生息環境にとってプラスに働く
ソーラーパネルが野鳥の住処や、外敵リスクを回避した休憩場所になることが確認されています。
北川氏:実のところ事業開始当初は、ため池に人工物のソーラーパネルを設置することで、辺りに生息していた野鳥が寄り付かなくなってしまうのではないかと懸念していました。しかし、実際に設置してみると様々な野鳥や水鳥がパネル上で縄張りを作るようになり「あ!あいつまた来てるな!」と、よく鳥たちの暮らしを観察していました(笑)
写真:実際のため池ソーラー
写真提供:株式会社環境資源開発コンサルタント
アミタ:それはおもしろいですね!ため池ソーラーの強みやメリットについてとてもよく分かりました。ため池ソーラーを設置する際の条件や、生態系の維持のために取り組まれていることはあるのでしょうか。
金城氏:設置の条件には、日射環境や施工環境、資材の運搬やメンテナンスが容易な立地かどうかといった項目を設けていますよ。設置したため池ソーラーを稼働させた場合に、現状の環境へ弊害が生じるリスクがないかといった事前調査も行っています。
我々は特に生態系の維持を最重要事項に据えているので、その分野の専門家の方を招き、周辺の動植物への影響について調査・分析して頂く場合もあります。例えば、設置後も継続して野鳥や水鳥が住み着いているか、動物たちに荒らされていないか、弊害は発生していないかといった項目ですね。
その他にも、兵庫県では水面面積の使用割合は50%までと定められていますが、弊社では独自に40%以下と設定しています。事業性よりもまずは、地域性や既存の生態系を維持することに重きを置いているためです。事業を開始してから10年近くは30%以下と定めていました。実際に設置してみないとわからない部分に関しては極めて慎重に、そして謙虚に検証を重ねた結果、今は40%以下までとしています。
住民待望の絶滅危惧種「オニバス」が開花
アミタ:ため池ソーラーの設置によってもたらされた影響や効果がわかる事例があればご紹介いただけますでしょうか。
北川氏:絶滅危惧種に指定されている「オニバス」の生存回復に、ため池ソーラーが貢献した事例は今も大変心に残っています。兵庫県加古郡稲美町に位置する六軒屋池は、オニバスの生息地として知られていました。しかし、2012年頃から開花しない年が続いていたんです。ため池自体も農業の衰退を背景に次第にその機能は低下し、町内では埋め立てて住宅地化する案が検討されるようになりました。
しかし「地域の誇りでもあるオニバスの生息地を何とか守りたい」という住民の想いは強く、埋め立ての案もなかなか前進しなかったようです。ため池の管理者の方々が今後の維持・管理や使い道に頭を悩ませていた時、我々にご相談を頂いたんです。当初はソーラーパネルの設置がオニバスの生息状況をさらに悪化させる可能性があったため、住民の方からは「ソーラーパネルを設置するなんてとんでもない!」との反対の声が多く上がりました。
そこでオニバスの生態に詳しい専門家に依頼し、調査を行うことにしたのです。すると、オニバスは非常に生命力が強い種であるため、泥の中でも仮死状態で生き続け、むしろ外部から刺激を与えることで生存状況が改善するのではないかという驚きのご指導を受けました。専門家の指示通り、一度ため池の水を抜いて底の泥をかき混ぜる作業を行ってからソーラーパネルを施工したら、なんとその年、オニバスが再び開花したのです。
写真:実際に開花したオニバス
写真提供:株式会社環境資源開発コンサルタント
金城氏:この事例は新聞記事にも取り上げていただき、ため池の有効活用に課題意識を持っていた地域行政からもより多くの信頼を得られるようになりました。最近では、役所だけでなく大学と連携して地域のため池を活用していこうとする動きも盛んになっています。
普及の鍵は「定性的な価値の見える化」
アミタ:ため池ソーラーの普及率を向上させるうえで、何が障壁になるとお考えでしょうか。また、それらは今後取り払われると思いますか。
金城氏:ため池ソーラーの普及率が低い要因のひとつは「ため池の水面で発電した電気」であることの価値の見える化が出来ていないことだと思います。既にお話したような、設置前後のトータル的なメリットを正しく評価する仕組みが整っていない点が大きな課題なのです。今後、ため池ソーラーに限らず再エネ領域全般において、定性的な効果を定量的に数字で評価していく必要性があると考えています。
私たちが連携しているみんな電力(株式会社UPDATER運営)は、電力の生産者の顔が見えることに価値を置かれていますね。生産者や生産地を指定できる電力供給と需要の関係性は非常におもしろいです。今後、再エネ調達を検討する企業にはぜひ「どこでどのように発電されたエネルギーなのか」「その再エネ電力を調達することによって、どのような価値が生まれるのか」といった視点でも、調達先を見極めて頂きたいです。
アミタ:御社とみんな電力が取り組まれている、環境負荷が少ない電力供給の仕組みづくりは、持続可能な社会の実現に必要不可欠なものだと深く共感しています。弊社は、自社の脱炭素経営を推進する一環として、みんな電力が提供する「コーポレートPPA※」の仕組みを2022年2月から利用させて頂くことになりました。兵庫県稲美町に設置されるため池ソーラーで発電した電力を、自社製造所4拠点に供給いただく予定です。本取り組みでは御社がため池ソーラーの施工・設置を担当されていますね。現場も見学させていただきましたが、ため池の自然環境や周辺住民の方のお気持ちをいかに大切にされているか、とてもよく理解できました。
※コーポレートPPA(Power Purchase Agreement、電力購入契約)...企業(需要家)と発電事業者の間で5年〜20年間といった長期間の電力買取契約を結ぶことで新規の再生可能エネルギー発電所の開発を進めるスキーム。RE100企業など再エネ電力の導入を進める企業において、「追加性」のある評価の高い再エネ調達手段として注目されている。
「石橋を叩いて渡る」謙虚な姿勢で再エネ電力の地産地消を促進
アミタ:御社は「再エネの普及によって地球温暖化の抑制、地球の未来に貢献する」というビジョンを掲げていらっしゃいますね。最後に今後の展望についてぜひお聞かせください。
金城氏:まずは、石橋をたたいて渡るような生態系への配慮の価値観を引き続き大切にすることが大前提です。そしてみんな電力といった電力サービスと連携し、再エネ電力の地産地消を社会全体で促進していきたいと考えています。遠く離れた原発からの電力供給や一部の地域にリスクや負担が偏る仕組みではなく、それぞれの地域の身近なところで必要な電力を発電する仕組みや機会を増やしていきたいのです。
2008年の創業当時は、水上にソーラーパネルを浮かべて発電するという発想自体が一般的ではなく、極めて先駆的な取り組みでした。しかし今後、ため池の有効利用や水上ソーラーに対する関心は高まると予想しています。将来的には当たり前のように水上に太陽光パネルが浮いている状態を実現できるのではないでしょうか。
アミタ:ため池ソーラーが今後どのように社会に浸透していくのか、とても楽しみですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
話し手プロフィール
金城 義栄(きんじょう ぎえい)氏
株式会社環境資源開発コンサルタント
代表取締役
2008年、エネルギー関連、特に上流側のプロジェクトに携わるべく環境資源開発コンサルタントを設立。2010年水上ソーラーの要となる「フロート架台の開発」を進め特許取得。2013年浄谷新池太陽光発電所建設(兵庫県チャレンジ事業予算)に当社製フロート架台採用に伴い事業に従事。2014年安政池(ダム)における水上ソーラー実証実験(農水省近畿農政局発注)に従事。2015年からプロジェクト組成から施設建設・維持管理の実績を積み、水上ソーラーに関する啓発・技術開発を先頭に立って進める。
北川 喜督(きたがわ きよし)氏
株式会社環境資源開発コンサルタント
技術開発部長
2014年に入社し、水上メガソーラー建設現場作業を通して水上太陽光発電所の設計・施工に従事。2016年からフロート架台の標準化・合理化および水上ソーラー発電所建設適正評価に従事。2018年海外展開を推進。プロジェクトリーダーとして台湾における発電所建設の実績を積み、2020年より現職。
聞き手プロフィール
隅田 雪乃(すみだ ゆきの)
アミタホールディングス株式会社
未来デザイングループ 共感クリエーションチーム
駒井 映里(こまい えり)
アミタホールディングス株式会社
未来デザイングループ 共感クリエーションチーム
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