インタビュー
P&Gに聞くサステナビリティ 後編|K-CEP参加企業インタビュー
地球環境を持続可能にし、限られた資源を未来に還すためには、より高度な資源循環の技術と仕組みを構築することが必要です。
本インタビューでは、九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(K-CEP)へ参画している企業にお話しを伺い、サーキュラーエコノミーの構築をはじめとするこれまでのサステナビリティの取り組みや、K-CEP参加への意気込みなどを語っていただきます。
第7回は、P&Gジャパン合同会社 ガバメントリレーションズの塩出佐知子氏(写真)にお話しを伺いました。
前編はこちら
九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップとは? ※現在は、2021年10月20日に旗揚げしたジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(通称:J-CEP)のプロジェクトとして取り組んでおります。 |
資源循環への多様な挑戦
木下:2040年に向けて温室効果ガス排出量のネットゼロ宣言やAmbitions2030の目標を掲げる中で、サーキュラーエコノミーや資源循環というテーマについてもグローバルに活動されていると思うのですが、どのような取り組みをされているのでしょうか?その進捗などもお伺いできればと思います。
塩出氏:そうですね、2030年までに製品パッケージを100%リサイクル或いは再生可能なものにする、また、バージンプラスチックの使用量を50%削減するといった目標を掲げおりますので、それに向けてプロジェクトを少しずつ増やしているというのが現状です。小売店様と協働でプロジェクトを行い、それを通して消費者の皆様に環境への意識を高めてもらう啓発活動を増やしていっています。
例えば、2017年には、車の通気口専用の使用済ファブリーズをオートバックス様の店舗にて回収し、キーホルダー型の反射板にリサイクルした後に、小学校で行われる交通安全教室にて配布する取り組みを行いました。
2019年には、海洋プラスチックの問題が非常に深刻であったことから、食器用洗剤ジョイのパッケージを九州の海で回収された海洋プラスチックを原料として生産をする取り組みも行いました。また、今年2021年においては、P&G製品の空容器を全国2,900店舗にて回収し、その空容器からフェイスシールド等をつくることも行っています。これは販売店様や消費者の方々を巻き込んで行った取り組みでは、大規模なものだったのではないかと思います。こういった取り組みを通して、プラスチックの再利用の重要性を消費者の方々にお伝えしていくことが循環型社会の形成につながると考えています。
木下:海洋プラスチックを原料にされるなども非常に先進的な取り組みですし、製品を通じたサステナビリティ活動について、非常に熱心に様々なプロジェクトを展開されているなとお話を聞いて感じました。
塩出氏:ありがとうございます。こういった形で次々に消費者の皆様に分かりやすい形で、プロジェクトを展開していくことも弊社が大事にしている点ですし、私たちの独自性と言いますか、強みとしては海外の知見をいち早く日本の市場に取り込んでいくことができる点が挙げられます。食器用洗剤ジョイを通じての海洋プラスチックへの取り組みもそうですし、最近ですと、ヘアケアブランド「パンテーン」から、モノマテリアルのパウチとアルミボトルでのシャンプー・トリートメント販売を開始しました。これも実は海外ではすでに販売実績がありまして、こういったグローバルの先進的な取り組みをできるだけ早く日本で実装していければと思います。
▼アルミボトルのヘアケア製品の誕生
木下:プラスチックではなく、アルミを利用したボトルを展開されているのですね。国内ではあまりアルミボトルのヘアケア製品はないですよね。今回"アルミ"に着目されたきっかけは何かあるのでしょうか?
塩出氏:そうですね。一つはお風呂に置くものですので耐久性という面を意識していますね。これまでプラスチックは錆びない、ある程度強度がある、また中に入っているシャンプーの品質を落とさずに安定性を保つことができるという点で使用されてきましたが、プラスチックに替わる素材は何かと検討したときに、アルミボトルが候補としてあがりました。アルミは非常に軽いですし、錆びにくくなおかつ廃棄について考えたときに、リサイクルも比較的行いやすい素材です。循環型に非常に近い素材ということで選んでいます。
木下:確かに、アルミであればおっしゃる通りリサイクルのスキームもかなり構築されていますので、循環型に近づきやすい一つの選択肢として可能性がありますね。プラスチックボトルが使用されているケースが多い中、アルミという選択肢があるなと改めておもしろい発見をさせていただきました。
企業目的と"Consumer is boss"の視点から取り組む
木下:御社のWebサイトを拝見しますと、消費者視点を大切にされつつ、新しい価値を提供するという点を重要視にされていますね。改めて製品を通じて社会を変えていくということに対してのこだわりをお聞きしてもよいでしょうか。
塩出氏:こだわりはまさに、企業目的にある「現在、そして次世代の世界の消費者の生活を向上させる」ということかなと思います。こうした企業目的をどのように実現するのか、よく考慮して製品設計に落とし込んでいます。例えば、循環型経済への貢献という視点から考えると「消費者にとっても捨てやすい製品、リサイクラーさまにとってもリサイクルしやすい製品、さらにはリサイクル後も価値ある製品づくり」につながっていくと思います。
木下:御社では企業目的と結びついているということですね。温室効果ガスへの取り組みにはある程度社内理解を得られやすくなった一方、サーキュラーエコノミーについては社内理解を含めなかなか進まない企業様も多いですが、何か意識されているポイントはありますでしょうか。
塩出氏:そうですね。一つは、地球環境のために絶対しなくてはいけないことだと認識して、意識するということが必要だと思います。それは引いては、私たちが生きていくために、生活を保っていくために必要なことではないかと思います。有限な資源を枯渇させてしまったならば、気候変動への影響だけでなくて、どうしても消費者に対して価格の上昇という形でも影響が出てしまうことにも意識を向けるべきなのかなと思います。利益を出していくために、消費者に選んでいただける製品をつくっていくことが必要だと思うのですが、価格が手ごろで手を伸ばしやすいというのも一つの要素ですよね。それが今後石油やプラスチックがあまりに希少なものになり、日用品にも関わらず、数万円も出さないと容器が買えないような世界が来てしまっては消費者のためになりません。消費者のために何をするべきかという視点に立つことが循環型社会に向けた一つのエンジンになるのではないかと思います。P&Gには、"Consumer is boss"という言葉があるのですが、言葉の通り私たちのボスは消費者であって、その消費者の皆様の声にしっかりと応えていくとしたときに、自ずとサステナブルな領域に対してアクションを起こしていくということが必要になってきていると感じています。また、コロナ以降の消費者の製品に対する選び方も「サステナブルに貢献しているブランドか」という基準が重視されていると、対外的なアンケートや実際お客様とコミュニケーションを取っていく中でもはっきりと実感しています。
K-CEPに期待すること
木下:御社は様々な企業とも連携されながらプロジェクトを進められているものも多いかと思います。いわゆる競合他社との連携についてどのようにお考えでしょうか。
塩出氏:これまでも例えば化粧品や洗剤の工業会と連携して、製品基準をつくるなどの動きはありましたが、実は今回のK-CEP参画がP&Gとしては企業間の垣根を越えて他社と連携するプロジェクト(小売店や販売店は除く)の一つとなります。今後、環境サステナビリティや循環型社会の形成にあたって、1社だけでなく、業界の協働によって規模の拡大や目標達成のスピード感につながると思いますし、P&Gがどういった貢献ができるのかという学びの機会になると思い参画させていただきました。すでに回収にあたっての課題がいくつかあると思うんですね。一つは回収量、もう一つは回収後のリサイクル技術、そして最後に再生品の使用用途の拡大だと思うのですが、これらに個社で取り組んでは、費用対効果や投資に踏み切れないなどの問題も出てくるかと思います。そのような課題が出てきたときに、やはり自治体や他社様との協働が必要になってくるだろうという意識を持ち始めています。今回はその解決の1歩として参画させていただきました。
木下:ありがとうございます。私たちも同じ課題感を持っていますし、各社様同じ悩みをお持ちであると思います。何かK-CEPへ期待することはありますか?
塩出氏:そうですね、やはり個社だけでは得られない課題抽出というのがあると思います。他社が入ることで見えなかった問題も見えてくると思うんですね。それから、販売店様に回収ボックスを置かせていただいていますが、参画している10社ごとに違ったボックスを置くというのは将来的に見ても現実的ではないと思います。K-CEPのように、自社製品だけでなく他社製品と混ぜて回収した際にどのような知見が得られるのかというのは非常に期待をしています。その先には、他社と連携することの課題も出てくると思いますので、そのあたりを学ぶ機会にもしたいですね。
写真:実証実験中の回収ボックス(福岡県北九州市)
木下:他社様も同じように期待されていると思いますので、今回の使用済みプラスチックボトル等の回収実証実験(MEGURU BOX プロジェクト)を通じて、皆様と知見を深めていけること楽しみにしております。
P&Gの根幹 "Do the right thing"
木下: 最後に、P&Gで働かれている皆様に根差している意識や誇りのようなものがあるのかなと思うのですが、そのあたりのご認識はいかがでしょうか?
塩出氏:そうですね。やはり「消費者のために何がより良いことなのか」ということです。それに付随して社内ではよく"Do the right thing"という言葉を使います。「これって本当に正しいことなの?」という問いかけですね。それは最終的に消費者のためになるのか、消費者の社会のためになるのか、そして消費者の未来のためになるのかという意味合いが込められていると思うんです。これは全世界どのP&Gにいっても同じように理念に基づいた答えというのが返ってきます。弊社の独自性でもあるのかなと思います。
木下:素晴らしいですね。弊社にも「What is Value?(価値とは何か)」という企業メッセージがありまして「事業やサービスを通じてどのような価値を創出し、提供すべきか?」を意識しています。御社の"Do the right thing"は、企業の根底に通ずる言葉だなと思います。今後の展望についてメッセージをいただけますでしょうか。
塩出氏:本当にシンプルではあるのですが、やはりP&Gとしての強みというのはグローバルな知見に尽きると思います。海外の知見を活かしながら、日本社会における環境サステナビリティやネットゼロの実現に向けて貢献していきたいと考えています。「どうしたらそれが実現できるのか」ということにもこれからも挑戦していきたいと思っています。
木下:本日は貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。これからも、K-CEPの活動を通じて、循環の仕組みを提案していければと思います。引き続き、よろしくお願いします。
話し手プロフィール
塩出 佐知子(しおで さちこ)氏
P&Gジャパン合同会社
ガバメントリレーションズ
2006年P&Gに入社。研究開発本部法規・安全性部にてベビー・フェミニンケア・ファブリック&ホームケアなどのP&G製品の安全性・環境安全性を担当。2019年より現職。また、P&Gジャパン及びアジア太平洋や中東・アフリカ地域の環境サステナビリティ・ボードメンバーの一員として、社内の環境サステナビリティのプロジェクトや活動に携わる。
聞き手プロフィール(執筆時点)
木下 郁夫(きのした いくお)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 緋チーム
企業向けのソリューション営業の経験をベースに、廃棄物管理に係わるシステムの設計・開発、業務フローの構築などに従事。現在はサステナビリティ経営に向けた新規事業の提案など、更なる顧客満足度の向上を目指し、提案・サービス活動を行っている。
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