インタビュー
P&Gに聞くサステナビリティ 前編|K-CEP参加企業インタビュー
地球環境を持続可能にし、限られた資源を未来に還すためには、より高度な資源循環の技術と仕組みを構築することが必要です。
本インタビューでは、九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(K-CEP)へ参画している企業にお話しを伺い、サーキュラーエコノミーの構築をはじめとするこれまでのサステナビリティの取り組みや、K-CEP参加への意気込みなどを語っていただきます。
第7回は、P&Gジャパン合同会社 ガバメントリレーションズの塩出佐知子氏(写真)にお話しを伺いました。
九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップとは? ※現在は、2021年10月20日に旗揚げしたジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(通称:J-CEP)のプロジェクトとして取り組んでおります。 |
P&Gのこれまでの取り組みに学ぶ
木下:本日はよろしくお願いします。最初に、御社のこれまでのサステナビリティに関する取り組みや考え方、企業理念などについて伺えますでしょうか。
塩出氏:P&Gジャパンは「A Force For Good, Force For Growth(世界を変える力、未来を育てる力)」をスローガンに掲げ、環境サステナビリティに対して粛々と取り組んでいます。2018年には私たちがグローバル企業として取り組むべき「Ambition 2030」という環境サステナビリティの目標を設定し、大きく分けて4つの分野に注力して取り組んでいます。
▼P&G 環境サステナビリティ目標 「Ambition 2030」
1つ目は持続可能なライフスタイルとプラスの変化を促すイノベーション、またそれらを達成するための製品ブランドの提供です。ここでいう「責任ある消費」というのは、私たちの企業目的や行動原則に立ち返って読み解いていくことができます。P&Gの企業目的は「優れた品質と価値を備えた製品とサービスを提供することによって、現在、そして次世代の世界の消費者の生活を向上させること」です。次の世代に受け継いでいくことができる地球をつくる、それに繋がる製品づくりや行動が必要と考えています。
2つ目のサプライチェーンにおいては、環境負荷の低減と循環型社会を形成するための手法を実現するための努力を怠ることなく継続していくということです。まずは、工場へ再生可能エネルギー100%の導入、こちらはほとんどそれに近い数字を達成していますが、2030年までに完全に100%にする予定です。
3つ目の社会の部分に関しては、サプライチェーン上だけではなくもっと広い視野で捉えた目標となっています。例えば海洋へのP&G製品のパッケージ流出を防ぐ、除去することが大きな目標です。また、水の主要流域における水質保護や生態系の改善・回復のための気候変動対策への投資も行っていきます。
最後に4つ目の柱として「社員」を掲げています。上記の3点を実現するためには、社員が環境サステナビリティを経営戦略の中に組み込んでいくこと、またそれを推進していく上では社員の理解を深めることが非常に重要であると考えています。推進に向けては、研修等の社内教育の充実を図る他、個人評価への反映も進めています。
木下:ありがとうございます。御社は9月には2040年に向けたネットゼロ宣言を発表されていますよね。どのようなきっかけがあったのでしょうか?
2040年に向けた温室効果ガス排出量のネットゼロ宣言
塩出氏:はい、これまで2030年に向けての目標を掲げていたのですが、今年9月には2040年にむけて温室効果ガス排出量のScope1~3すべてにわたってのネットゼロ宣言を発表しました。グローバル全体で、原料調達から製造・流通に至るまでサプライチェーン全体において温室効果ガスの排出をネットゼロにしていこうという目標です。この宣言の背景には、気候変動への危機感が大きくかかわっています。今年8月に発表された気候変動に関する国際パネル(IPCC)の第6次報告書では「気候変動の影響を回避するためには緊急かつ断固とした行動」をとらなければならないと報告されていますが、こうした内容も今回の宣言の後押しになっています。これに併せて、そのための具体的な「気候変動対策行動計画」を策定しました。また、科学的根拠にもとづいて新たな暫定目標を設定し、進捗をはかることも重要だと考えています。まずは、2040年までに事業活動全体における温室効果ガス排出量を50%削減、サプライチェーン全体での優先カテゴリーの排出量を40%削減することを目標にしています。また、これらの目標を1社では達成できるとは思っていませんので、Business Ambition for 1.5※1、Race to Zero※2、The Climate Pledge※3といったアライアンスへの参画も積極的に行い、業界の垣根を越えて、課題に取り組んでいくことを目標にしています。弊社は、世界最大の消費財メーカーとして、毎日約50億人の人々にP&G製品をご使用いただいております。一つ一つの製品が与える影響は小さいかもしれませんが、世界規模で見るとやはり我々の会社が社会に与える影響は大きい、小さなアクションだとしても消費者の方々とともに行動していくことで、地球環境への貢献度は高まるのかなと思っています。そういった意味も含めると今回の2040年に向けたネットゼロ宣言も大きなムーブメントとして行動していきたいです。
木下:ありがとうございます。ネットゼロ宣言もそうですが、発表される内容がやはりグローバルで視座の高いものであると感じております。Alliance To End Plastic Waste※4(廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス 以下、AEPW)の取り組みも御社が主導で進められていると思います。こちらはいかがでしょうか?
塩出氏:そうですね、AEPWは2019年にプラスチック廃棄物にアプローチするために設立され、この団体の初代会長をP&GのCEOデビッド・テイラーが勤めました。具体的な目標としては「プラスチック廃棄物の流出リスクがある100以上の都市で数百万トンのプラスチック廃棄物の削減と数百万人の生活改善を図り、循環型経済に貢献すること」を掲げています。弊社は世界最大の日用品メーカーという肩書を背負っている中で、社会に対して発信すべき分野だと認識しており、そういった自覚の中で、主体的に係わっています。現在は、80社を超える企業や政府、市民社会、開発機関などで構成されています。環境サステナビリティの実現は、こうした大きな連携の中で取り組んでいく必要があると考えています。
木下:やはり社会に与えるインパクトというのを意識して様々なことに取り組まれているのですね。
※1Business Ambition for 1.5...企業がScience Based Targets initiative(SBTi)を通じて野心的なGHG削減目標に取り組むことを宣言すること。
※2Race to Zero...国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が、2020年6月5日の「世界環境デー」に開始した国際キャンペーン。
※3The Climate Pledge...2019年、AmazonとGlobal Optimismが2040年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロ化を達成することを約束する「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」に共同調印し、それ以来参加企業が加盟。
※4Alliance To End Plastic Waste...2019年にP&Gによって設立された、廃棄プラスチック問題の解決に取り組むためのグローバル企業、政府機関、非政府組織などが参加する非営利団体。
P&G独自の経営戦略としてのサステナビリティ推進
木下:少し、組織のお話をお伺いできればと思うのですが、こういったサステナビリティ推進は組織の中でどのように進められているのでしょうか?
塩出氏:P&Gジャパンには、サステナビリティやESGを推進する特定の部署は存在しないんです。冒頭でも少し触れましたが、P&Gでは一人ひとりの社員がサステナビリティやESGの観点を経営戦略として日々の製品開発や販売戦略の中に取り入れていくことを常としています。例えば、私は普段はガバメントリレーションズ(政府渉外)として、多岐にわたる分野での政府渉外や法の規制緩和に向けての話し合いをメインに仕事をしています。その中で、循環型社会の形成に向けて、どのような法規制があると企業側が取り組みやすい環境になるか、ということを考えていまして、自然と環境やサステナビリティといった領域に関わりを持つようになりました。
木下:お一人お一人が事業戦略の中に落とし込んでいくということを普段から意識されているのですね。今回のK-CEPは企業間の連携ですが、政府渉外を担当されている塩出様が携わられているのには何か理由があるのでしょうか?
塩出氏:実は私自身、研究開発をしていたというバックグラウンドがありまして、その際に薬事安全性や環境に関わる分野を担当しておりました。そのため政府渉外に転籍してからも環境やサステナビリティに引き続き携わっています。また、今回のK-CEPへの参画というのは、将来を見据えたときに、国全体の循環型社会の形成においてどのような仕組みが必要かということに関わってくると思っていますので、私が会社の窓口という形で動いているというところです。
木下:ありがとうございます。やはり組織や担当の割り振りなどがグローバルな視点をもつ御社ならではだなと感じます。
(後編へ続く)
話し手プロフィール
塩出 佐知子(しおで さちこ)氏
P&Gジャパン合同会社
ガバメントリレーションズ
2006年P&Gに入社。研究開発本部法規・安全性部にてベビー・フェミニンケア・ファブリック&ホームケアなどのP&G製品の安全性・環境安全性を担当。2019年より現職。また、P&Gジャパン及びアジア太平洋や中東・アフリカ地域の環境サステナビリティ・ボードメンバーの一員として、社内の環境サステナビリティのプロジェクトや活動に携わる。
聞き手プロフィール(執筆時点)
木下 郁夫(きのした いくお)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 緋チーム
企業向けのソリューション営業の経験をベースに、廃棄物管理に係わるシステムの設計・開発、業務フローの構築などに従事。現在はサステナビリティ経営に向けた新規事業の提案など、更なる顧客満足度の向上を目指し、提案・サービス活動を行っている。
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