インタビュー
イオンモール株式会社 代表取締役社長 岩村 康次氏/アミタホールディングス代表取締役社長兼 COO佐藤博之真のサーキュラーエコノミーは"地域経済"と共にある
国内外に約180(イオンモール単体)店舗を構えるイオンモール株式会社では、「地域・社会に寄り添い、暮らしの未来をつくるライフデザインディベロッパー」を目指し、サステナビリティに関する取り組みが多数行われています。アミタ株式会社は2021年春からイオンモールの脱プラスチックの取り組みについて実行支援をしています。今回は、イオンモールの代表取締役社長の岩村氏とアミタホールディングス代表取締役社長兼 COOの佐藤が、持続可能な社会の実現に向けて対談を行いました。対談の中で見出したテーマは、「地域経済に根差した循環の在り方」でした。
(写真左:岩村氏、写真右:アミタ佐藤)
資源の問題を経営として取り組む理由とは
アミタ佐藤:資源が枯渇していく中で、これからの世の中は「循環」が鍵になると思い、アミタでは各社とサーキュラーエコノミーや企業の環境ビジョン策定に取り組んでいます。脱プラスチックについてご支援のご相談をいただきましたが、なぜ、御社として脱プラスチックに関心を持ち、取り組もうと思われたのでしょうか。
岩村氏:脱プラスチックをはじめとした資源問題に経営として取り組もうと思った理由は、個人としての危機感と経営者としての危機感の2つがあります。
まず個人としては、昔から海や山などで自然体験をしている中で、海に潜ると魚が少なくなっていたり、ごみが多くなっていたりと目に見えて自然環境が変わっていっていることに気づき、問題意識と危機感を抱いています。
経営者としては、海外拠点でのごみ拾い活動が印象的ですね。イオンモールは周辺の清掃や植栽帯の草取りを行う「クリーン&グリーン活動」を実施しているのですが、ベトナムにおいてもモール外周のごみ拾いをすると自社グループや専門店企業様のロゴマークがついたごみが多くみられ、いかに私たちが事業活動においてごみをだしているのかを目の当たりにしました。これらのごみは、雨が降れば川から海に流れていき、環境に直接的に悪影響を及ぼします。こういった改善活動等の経験を経て、企業として環境の取り組みを行うことは綺麗ごとではなく、真剣に取り組まないと企業が成り立たないという問題であり、経営者として行動しなければいけないと思っています。
写真:インタビューの様子
サーキュラーエコノミーに関するこれまでの取り組み
岩村氏:サーキュラーエコノミーに関するイオンモールのこれまでの取り組みは、20年以上前から廃棄物を17種類(現在は18種類)に分類して、リサイクルを推進してきたことです。2005年頃には100%リサイクル(サーマルリサイクルを含む)を達成したモールも出てきました。リサイクルされているということは、資源を有効活用しているということであり、資源循環を進めてきました。
その中で一番の問題となっているのは、一般廃棄物である雑芥の中に混ざって排出される弁当ガラや飲料容器等のプラスチックです。これらのごみは付着している汚れが原因でリサイクルが困難です。これらをリサイクルに回せる仕組みを構築できれば、サーマルリサイクルを除いてリサイクル率100%を達成するモールも出はじめ、イオンモールがサーキュラーエコノミーに取り組む効果が一番明確になるのではないかと考えたので、今回アミタさんに支援いただいている領域でもある、プラスチックにターゲットをおいています。
今後イオンモールとして行っていきたいこと
岩村氏:こういった課題を解決するために「見える化」ということを一つのキーワードとして考えています。
自社からの廃棄物が回収された後、どうリサイクルされ、どんな商品に生まれ変わっているのか、その過程でどれくらいの雇用が生まれているのか、そしてモノによってはどのようにしてイオンモールに戻ってきているのか「見える化」して発信していくべきだと感じています。最近ではお客様の意識も変わってきていて、数十円高くとも環境に配慮した商品を選ぶ方が増えてきています。イオンモールがサステナビリティに関する取り組みを発信すると、その想いに共感していただき、来店されるお客様が増えます。さらに、お客様が増えると新たに出店したいと思ってくださる専門店企業様も増えていきます。このように想いを共有できるパートナーが増えるのと同時にサステナビリティの取り組みも拡大していき、対価をシェアしながら効果が増大するという自社だけでは成しえない仕組みができれば面白いのではないかと思います。
そして、もう一つ重要なキーワードは、「域内循環」です。現在、循環の輪というのは大きなサークルで回っており、日常生活の中で気が付きにくいという課題があります。見える化するという意味では地域内で循環させたいと思っています。私たちが域内での循環を促進させることによってお金、雇用、経済、新しい価値が地域内で生み出される。そして生み出されたお金や商品、またはお客様自身がイオンモールに戻ってくることによって循環ができる。そんなことができたらおもしろいと思いますし、"エコノミー"を考えた場合、資源だけを回すだけではなく、雇用を生み出して経済効果を出していく、これが地域循環経済であり、本当のサーキュラーエコノミーなのではないかと思います。
アミタ佐藤:まさにおっしゃる通りで、サーキュラーエコノミーは地域経済とシナジーが高く、ヨーロッパでは既に環境政策ではなく産業政策、雇用政策、あるいは社会の一体感を取り戻すための社会文化的な政策の面が強いと思います。
日本の3Rで考えると環境施策のイメージがまだ強いですが、今後は新しい技術開発を含めてどのように経済をつくるのか、循環すればするほど利益が生まれる仕組みをどうつくるのかが大事だと思います。例えば資源の面からも地域内で資源のリサイクルループができると、お金、雇用、経済効果が生み出され、地域にとってメリットのある仕組みが域内でできるのではないかと思っています。
その中で地域の住民の方をいかに巻き込んでいくかということを考えると、やはり循環が見えないと個人の行動変容にはつながらないと思っております。例えば、私たちは日常のごみ出しを起点とした未利用資源の利活用とコミュニティ基盤の形成を目的とした「MEGURU STATION」という取り組みを進めておりまして、実証実験を宮城県の南三陸町と奈良県の生駒市で行いました。住民の方に家庭から出る生ごみを持ってきてもらい、設置された小型バイオガス装置に投入してもらいます。そして、できたガスと液肥を地域の皆様に還元しているのですが、農家の方であれば液肥を使って育てた南三陸米(めぐりん米)を販売されたりしています。循環型経済を考えたとき、やはり循環が見えるローカルな規模であればあるほど、住民の方に当事者意識が生まれ、いきいきとした地域になっていくと実感しています。このように人といのちがめぐる域内循環ループから、付加価値の高いビジネスが生まれています。また、「MEGURU STATION」の仕組みは、資源を通じて共助の仕組みを再構築しているものと言えます。
持続可能な社会を実現するには
岩村氏:おもしろいですね。私は取り組みを行う上で意識しなければならないことは、まず「本質を考える」ということだと思います。
避けるべきは本質的な行為ではなく、打算的な目立つ行為になってしまうこと。周りがやっているから、流行り言葉だからサーキュラーエコノミーに取り組むのではなく、なぜやるのか、価値とは何か再定義し、仕組みから見直すことが重要であると思います。
イオンモールでは3RにRethink(考え直す)、Repair(修理する)、Returnable(回収可能な)を追加した6Rsを掲げていきたいと考えていますその中でもまずはRethink、なぜやるのか、仕組みから考え直そうとお客様、専門店企業様と一緒になり本質を考えるということを忘れないでいきたいと思います。
SDGsは国際的に2030年までに世界が目指すべき方向性を示しているものだと思いますので、その目指すべき世界で私たちはどのような価値を社会に提供しているのか、世の中から何を求められていて、事業の中でどれくらいの環境負荷を出しているのか、世の中の背景を理解し、あるべき姿を追求し続けていきたいと思っています。
サーキュラーエコノミーは物事を考える上での軸であり目的ではないと思っています。私は各地域のモールで働いている社員たちが主体的になって地域の課題、人、能力、技術に目を向け、地域の可能性に対してイオンモールは何ができるのかを考えてほしいですし、それに対して本社は最大限のバックアップをしていきたいと思っています。今後の方向性として、特に食品残渣のリサイクルループの構築、プラスチックの完全循環、アパレル業界の資源問題に取り組みを広げていきたいと思っています。
アミタ佐藤:そうですね。何かを取り組むとき、SDGsやESGといった世界の声は必ず経営の土台となってきますね。
そしてこれらを一企業でやろうとすると必ず経済的な問題にぶつかります。これからはエコシステム(生態系)に倣い複数企業が手を取り合い、社会関係資本を増やしていくこと、企業の枠を超えて繋がりを持つことが、社会の仕組みを変える上で必要不可欠になってきます。それを作りやすいのがサーキュラーという考え方であり軸になってくる部分だと思います。新たな価値、社会づくりという点でぜひ一緒に取り組んでいければと思います。
岩村氏、アミタ佐藤:本日はありがとうございました。
写真:インタビューの様子
話し手プロフィール(執筆時点)
岩村 康次(いわむら やすつぐ)氏
イオンモール株式会社
代表取締役社長
イオンモール株式会社入社以来、一貫してショッピングモールの開発業務に従事。2016年にイオンモールベトナム社長就任。2020年3月よりイオンモール代表取締役社長。現在に至る。
佐藤 博之(さとう ひろゆき)
アミタホールディングス株式会社
代表取締役社長兼 COO
グリーン購入ネットワーク専務理事、世界エコラベリングネットワーク総務事務局長などを経て、現職。国内外の地域循環システム構築や企業のサステナビリティ戦略の支援に取り組む。
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