インタビュー
ライオンに聞くサステナビリティ 前編|K-CEP参加企業インタビュー
地球環境を持続可能にし、限られた資源を未来に還すためには、より高度な資源循環の技術と仕組みを構築することが必要です。
本インタビューでは、九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(K-CEP)へ参画している企業にお話しを伺い、サーキュラーエコノミーの構築をはじめとするこれまでのサステナビリティの取り組みや、K-CEP参画への意気込みなどを語っていただきます。第6回はライオン株式会社 サステナビリティ推進部の中川敦仁氏(写真)にお話を伺いました。
九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップとは? ※現在は、2021年10月20日に旗揚げしたジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(通称:J-CEP)のプロジェクトとして取り組んでおります。 |
ライオンのこれまでの取り組みに学ぶ
森田:本日はよろしくお願いいたします。中川様は現在サステナビリティ推進部におられますが、経歴としては容器開発の部署に25年の長きに渡って所属されていたということで、本日は容器開発の技術者ならではの貴重なご見解も伺えるかと思いますので、とても楽しみにしております。
御社のこれまでの沿革を拝見しますと、2013年には「Eco Vision2020」を発表されていますし、2015年には歯ブラシのリサイクルをテラサイクル様との協働で進められていて、消費材業界の中でもかなり早い段階での取り組みかと思います。2019年には現在の長期環境目標、本年2021年に新しいビジョンの「Vision2030」を発表されたということで、こういったサステナビリティに関する動きの経緯を教えていただけますでしょうか。
中川氏:弊社は 1891年(明治24年)の創業ですが、1900年には社会貢献活動のために「慈善券付ライオン歯磨」を発売するなど、事業を通じての社会課題の解決を社是としていました。衛生面での生活習慣も乏しい中で公衆衛生を社会課題として捉え、とくにむし歯の予防のために歯みがき習慣の定着を目的とした企業活動を展開してきました。1919年(大正8年)に石鹸事業を分社化して、1980年に再び統合して現在のライオン株式会社となりましたが、創業以来の社是として「愛の精神の実践」というものがあります。その根本は「事業とは顧客も含めた社会の皆様の幸福に貢献するものである」ということで、社員が共有する基本的な考え方です。
また、弊社の製品はお客様の生活の中で使われるものなので、製品を通じてお客様の生活習慣を変えることができると考えています。つまりお客様の数だけ社会にポジティブなインパクトを与えられるということですね。弊社には「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」というパーパスがあり、このような考えのもと「次世代のヘルスケアのリーディングカンパニーへ」という経営ビジョンの実現に向けて取り組んでいます。
図:Vision2030
中川氏:昨今を振り返ると、やはり消費財市場におけるサステナビリティに向けた大きな変革の動きがありますね。弊社のような日用品メーカーは、こうした世情や時流から外れてしまうと経営としても危うくなりかねませんので、お客様の動向や市場の流れをキャッチアップすることは当然ですし「それを後追いするのではなく、先回りして積極的に提案したい」というのが、弊社の取り組みのベースにあるのかなと思います。
田部井:御社には創業以来の事業を通じた社会貢献という価値観が受け継がれ、習慣化しているところがあるわけですね。そうした歴史的な背景を踏まえた上で、現在のサステナビリティに向けたビジョンの推進体制はどのようなものになるでしょうか。
中川氏:サステナビリティマネジメント(推進体制)としましては、従来は社長を含む業務執行取締役全員と関連部門を構成メンバーとした「サステナビリティ推進会議」を開催していましたが、2021年から推進体制を見直し「サステナビリティ推進協議会」を新たに設置しました。役割責任を明確化しておりまして、協議会の傘下に執行役員を責任者とするE(地球環境)とS(社会環境)、そしてG(アクション統括)の3つの分科会を設けることで、従来に増して経営陣が先頭に立ち、それぞれのサステナビリティ重要課題の推進に取り組む体制としています。「サステナビリティ推進協議会」で決定した内容は経営会議に報告し、必要に応じて執行役員会・取締役会に付議・上程し、各業務執行部門の事業活動に反映されます。
図:サステナビリティ推進体制
森田:中川様がおられるサステナビリティ推進部は前身がCSR推進部で、他部門だった環境担当部と統合して現在の部門になられたわけですが、推進部とは別に、役員が責任者となる協議会や各分科会を設置され、より強固な推進体制となったわけですね。こうした推進体制の中でサステナビリティに取り組むにあたって、各部門の社員の方々の捉え方や反応はどういったものになるでしょうか。
中川氏:私自身はサステナビリティ推進部におりますので変化を大きく感じておりますし、会社の中心課題であるようにも受け止めていますが、他の部門の社員全てが同じ感覚だとは思いません。ただ、社会的な捉え方としてテレビや新聞などで頻繁に取り上げられるようになっていますし、関連する社内的な問い合わせも多いので、関心をもつ社員は当然増えていると思います。また、昨年から推進部が主幹となってサステナビリティ浸透活動というのを実施しておりまして、各部署の月度朝礼などの場でサステナビリティに関するワークショップを開催しています。他にもオンライン教育を充実させていて、そこにサステナビリティに関する教材として、各自がオンデマンドで見られる動画がいくつか用意されていますので、これらを見て問い合わせてくる社員というのもいますね。
森田:毎月のワークショップなど、充実した社内教育体制を築かれているのですね。
サーキュラーエコノミーを進める上での課題とは
森田:ここからは、サーキュラーエコノミーの推進について伺っていければと思います。中川様はこれまでも容器開発にも携わってこられたということですが、今、何が資源循環の壁となっていると感じられていますか。
中川氏:そうですね。まず技術的な壁があります。さらに言えば「既にかなり取り組んできた」というところは、主張したいです。例えば、弊社ですと洗剤なら洗濯用の「スーパーNANOX(ナノックス)」や食器用の「Magica(マジカ)」に代表されるような製品の濃縮化によるコンパクト化や、容器の軽量化、パウチの開発など各種の技術開発をして参りましたが、これらを全くやらなかった場合に比べるとプラスチック使用量が1/6ぐらいに減ってきているわけです。ここからさらに絞るというのは従来の延長線では、かなり厳しいと思います。また、これまでの取り組みについては業界全体での実績を主張したいです。もうすでに大分乾いた雑巾の状態まで来ているという認識が、弊社に限らず日用品メーカーの業界全体にあるのではないかと思っています。
田部井:確かに、すでに各社様数グラムでも、数ミリでもという努力を積み重ねられてきて、技術的な限界に近づいてきているのかもしれませんね。大きなイノベーションが必要になってきますね。
中川氏:おっしゃる通りですね。もう1つの壁は「私たちの製品の特性」ですね。洗剤等は3年保証というのが品質保証としては一般的なんですね。性能もそうですが、容器や内容物を変質させないという前提があります。私たちの製品は様々な液性がありますので、容器に求められている機能もそれに応じて多様なものになります。
森田:なるほど、確かに例えば飲料容器などに比べると、洗剤をはじめとする日用品の容器は耐食性などの要求レベルも全然違うものになりますね。
森田:続いて、御社内の取り組みについてもう少し伺いたいと思います。現在、御社の脱プラスチック取り組みで注力されているのは「LION Eco Challenge 2050」に書かれている再生プラスチック・バイオマスプラスチックの使用量倍増というところになるのでしょうか。(後編につづく)
話し手プロフィール(執筆時点)
中川 敦仁(なかがわ のぶひと)氏
ライオン株式会社
サステナビリティ推進部 副主席部員
1987年、ライオン株式会社入社。家庭科学研究部門において人の感性の定量化研究に従事。1995年、包装開発部門においてCAD/CAE/3Dプリンタなどデジタルエンジニアリング技術を活用しプラスチックボトルの軽量化設計・機能設計などを担当。2020年よりサステナビリティ推進部門においてプラスチック資源循環を担当。
聞き手プロフィール(執筆時点)
アミタグループへ合流後、主に企業の環境部・サステナビリティ部門を対象に、環境ビジョンの策定や市場調査など、多くの支援実績を持つ。2020年より取締役として、アミタ(株)における営業および市場開拓を担当。アミタグループの事業の柱となる「社会デザイン事業」の確立に向けて、新規サービスの創出・新規市場開拓を進める。
森田 惇生(もりた じゅんき)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 社会デザイン群青チーム
大学休学中、北中米を1年間放浪。その時カナダで出会った小規模な有機農家の自給的な生活に感銘を受け、帰国後文学部から農学部へ編入。卒業後、アロマを用いた空間デザインの企業に勤めるも、循環型の生活があったあの時の気持ちを忘れられず、アミタ入社に至る。神戸大農学部卒。
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