インタビュー
シャボン玉石けんに聞くサステナビリティ|K-CEP参加企業インタビュー
地球環境を持続可能にし、限られた資源を未来に還すためには、より高度な資源循環の技術と仕組みを構築することが必要です。
本インタビューでは、九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(K-CEP)へ参画している企業にお話しを伺い、サーキュラーエコノミーの構築をはじめとするこれまでのサステナビリティの取り組みや、K-CEP参画への意気込みなどを語っていただきます。第4回は、シャボン玉石けん株式会社の代表取締役社長の森田氏(写真)にお話を伺いました。
九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップとは? ※現在は、2021年10月20日に旗揚げしたジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(通称:J-CEP)のプロジェクトとして取り組んでおります。 |
シャボン玉石けんのこれまでの取り組みに学ぶ
末次:本日はよろしくお願いします。御社は、環境モデル都市に選定された福岡県北九州市に本社を置き、長年、化学物質や合成添加物を一切含まない無添加石けんの製造・販売を行っておられますね。御社のこれまでのサステナビリティに関する取り組みや考え方、企業理念などについてお聞かせいただけますでしょうか。
シャボン玉石けんWebサイトより
森田氏:弊社は「人にやさしいものは自然にやさしい」という考えのもと、無添加にこだわった商品づくりを行っています。「健康な体ときれいな水を守る」という企業理念のもと、人と自然にやさしい商品づくりを通して、次の世代に住み良い地球と社会を残すことに努めています。また、サステナビリティの活動にも力を入れていまして、石けん業界で初めてのISO14001取得や、行政や教育機関とも連携した実証実験や出前授業など様々な取り組みを行っています。
末次:御社の沿革を拝見していると、1974年に好調な主力製品であった合成洗剤の販売を停止し、無添加石けんの製造販売に切り替えられていますね。
森田氏:はい。無添加石けん販売のはじまりは、1971年に国鉄(現JR)からの依頼で試作品をつくったことです。先代社長の森田光德が自宅でこの無添加石けんを試したところ、長年悩まされてきた湿疹が改善し「体に悪いとわかった合成洗剤を売るわけにはいかない」と一大決心し、無添加石けんの製造・発売に切り替えました。ただ、当時は環境問題への関心は低く、17年間も赤字期間が続き、売上はそれまでの約1%に激減、100名近くいた従業員も一時は5名になりました。しかし、90年代に入って時代が変わりましたね。湾岸戦争の石油流出などの影響で環境問題が意識され始めるようになり、2000年代頃から消費者の方が本質的な安心安全を求めるようになって、業績も改善しました。
インタビューの様子
島まるごと無添加せっけんへ。地域全体での実証実験
末次:御社のSDGsの取り組みは多岐に渡りますが、直近は、島全体での石けん利用の実証実験を行われているのですね。
森田氏:はい。福岡県宗像市をはじめ、山口大学大学院創成科学研究科、九州環境管理協会との4者連携の取り組みです。宗像市沖の「地島(じのしま)」にて2021年9月から11月までの3か月間、全世帯が合成洗剤の使用をやめ、洗浄剤に無添加石けんを使って生活するという実験を行っています。
地島
地島は漁業が盛んな島であり、地域全体で無添加石けんを利用いただき生活排水の環境への影響を調査しています。
末次:島民の皆様から合意形成が取れたのが素晴らしいですね。どのように住民の方に参画していただいたのでしょうか。
森田氏:島内での説明会開催など、何より宗像市の職員の方々がしっかりと取り組んでくださり、実施することができました。私たちのような民間企業だけだと実現が難しかったと思います。宗像市が主催している宗像国際環境会議というものがきっかけでして、そこでつながりができ、今回の取り組みに至りました。
島内での説明会の様子
末次:本社のある北九州市とも連携されているのですね。
森田氏:はい。そうですね。2001年には北九州市の消防局から依頼を受けて、環境への負荷が非常に少ない「石けん系泡消火剤」の開発に着手しました。産学官が連携したプロジェクトで、世界でも通用する北九州発のこれまでにない取り組みを発信できました。この消火剤の開発は、2007年に第5回産学官連携功労者表彰で総務大臣賞を受賞しています。現在、北九州市などの自治体で採用されています。また、これらは環境負荷が少ないことから林野火災へ応用も期待されており、大学や市と協力しながら研究を続けています。
末次:技術をいかされていますね。日頃から地域の取り組みにアンテナをはり、関係性を育むのは大切ですね。地域や暮らしの中にある課題に果敢に取り組んでいくことがこれからの企業においてとても重要なことだと思います。
2030年に向けた新たなSDGs目標
末次:これからの中長期的な目標を教えていただけますか。
森田氏:ちょうど、サステナビリティについて2030年までの中期計画を策定しています。以前から「SDGs宣言」を発表しておりましたが、さらに具体的な内容を中期計画として発表します。
末次:特に野心的だと思う目標はありますか。
森田氏:再生可能エネルギー100%ですかね。現在、一部では太陽光発電をしていますが、外部からの再エネ調達も利用しながら達成を目指します。すでに、重油や灯油など電化できないボイラーは、現在、天然ガスを使用しておりまして、コージェネレーションシステムなど環境に配慮した仕組みは導入しています。
資源循環の課題とK-CEPに期待すること
末次:サーキュラーエコノミーの実践にあたって、何か課題はありますか?
森田氏:課題は、包装資材やフィルムの使用についてですね。プラスチックの利用をゼロにするのはなかなか難しいことですし、環境に配慮した包装に切り替えていかなくてはならない反面、コスト増とのせめぎあいがあります。当社で現在最も売れている固形石けんについては、リサイクル原料を利用したフィルムに切り替えていますが、全ての商品の包装材を切り替えるのには至っていません。うまくリサイクルさせ循環する仕組みにも注力したいと思っています。
環境にやさしい包装材の使用
末次:確かにコストの課題をいかにクリアしていくかは、どの企業でも課題として感じられている点ですね。
森田氏:はい。ただし、徐々に環境に配慮した包装材の需要が増え、価格も数年前と比べ下がってきていることもあり、今後は、段階的に切り替えられると考えています。また、こうした課題を解決したいという想いもあり、今回のK-CEPにも参画しました。ボトルやパウチを廃棄してしまうのではなく、しっかりとリサイクルして循環できる仕組みが理想的です。
末次:私たちも水平リサイクルを目指していきたいと思います。今、どういったことが循環させる仕組みを妨げる壁となっていると思われますか。
森田氏:私は生活者の方にうまく伝えられるかが重要だと思います。牛乳パックやトレーはリサイクルできるという認識が広がっていて、取り組みも進んでいます。石けんや洗剤の包装材も素材が様々でもリサイクルが可能だと伝われば、参画してくれる方も増えると思います。
末次:どこまで身近なものになれるかがポイントですね。私たちも経済動機性だけでは人々を巻き込むことは難しいと思っていまして、暮らしや家族、地域のためなど社会的な動機性が働かないと行動は生まれにくいと考えています。
森田氏:その通りですね。牛乳パックやトレーを洗うことは面倒ですが「環境によいことをしている」という自己肯定感も生まれると思います。包装材についても同じような想いを持てればと思います。
末次:K-CEPの取り組みがどのように発展してほしいなど期待されることはありますか。
森田氏:期待することとしては、もう何か所か、都市部でも展開されると嬉しいです。消費者の方も普段行くスーパーやお店、施設等で回収できるのであれば認知が進み活動が広がっていくと思います。たとえ一か所でもより長く続けることで、皆様に知ってもらえると思います。
末次:社会の暮らしを変える、消費者の行動を変えることは御社の事業で重要な点だと思うのですが、消費者の認知を高めるために意識的に取り組まれてきたことはありますか。
森田氏:一つは、繰り返し繰り返し同じことを発信することです。私たちは石けんの良さや合成洗剤との違いを繰り返し発信するようにしています。もう一つは、教育的要素を持たせつつ、子ども達に向けてうまく伝えていくことを意識しています。例えば、弊社では工場見学を以前から行っており、様々な世代の方々に来ていただいています。特にお子さんは、学んだことをご家族に話して、環境に良いものに変えようと取り組んでくれます。「お母さん、もっと分別しなきゃダメだよ!」と言ってくれます。また、大人になってもその行動が継続することも考えられるので、地道ながらもそうした取り組みをやっていかなければならないと思っています。
小学校などでの出前授業もその理由で行っています。石けんがなぜ人と環境にやさしいのか、そしてシャボン玉石けんがなぜ「無添加」にこだわり続けるのか、社員の言葉を通して知っていただければと思います。
オンライン工場見学の様子
理念を貫くシャボン玉石けんの経営哲学とは
末次:教育面にも取り組まれていて素晴らしいです。特に石けんは直接的に影響がわかるので良いですね。K-CEPでは、同業他社や異業種との連携を一つのテーマにしています。通常、コストの面からなかなかお互いに合意点が見つけられずに先送りになるケースが多いですが、サプライヤーとの新しい組み方や、社会変化を考えるともっと抜本的に変革していかなければならないと思っています。このあたりに関してはどう感じていらっしゃいますか?
森田氏:トップダウンが一番有効だなと感じています。購買担当者だとコスト増加があると採用の決断できないと思うので、会社のトップや権限のある方々にどれくらい意識を高めてもらえるかがポイントだと思います。弊社の場合ですと、他と比べ値段が高くなっており、一般的なスーパーのバイヤー様からは受け入れられにくい部分がありました。そこで、元々は一般市民向けだった工場見学を、企業の商品部長や経営層の方々も対象に参加していただいています。現場を見てもらったうえで弊社の考え方などを説明させていただくと「一緒に取り組もう」と言ってくださることが多いです。来ていただくまでのハードルが高いのですが(笑)。
末次: 想いを伝えるということですね。御社は収益が重視される時代の中で、業績の悪化がありながらも環境負荷低減に取り組まれており、経営哲学や理念はかなり骨太であると感じています。環境と経済の両立が多くの企業の課題となっている今、これからの経営の在り方についてどう感じられていますか?
森田氏:一般の方や取引先から支持してもらうためにはやはり、環境や持続可能な社会のための活動がより大切になってくると思っています。今後も理念や方向性は、もちろんブレずにやっていきます。ただ、先ほど資源循環の点についてお話したように、弊社でもコスト増で難しいことももちろんあります。その点はやれることから取り組むべきことだと意識しておくことが重要だと考えています。
インタビューの様子
末次:経営が苦しくなっても軌道に乗っても、御社が経営哲学や理念を曲げることなく、しっかりと保っていけるのは何故でしょうか。
森田氏:先代の実経験から無添加石けんを作り始め、使命感を持ってやっていたことが染みついています。また、お客様から熱い感謝のお手紙をいただいたりするうちに、あきらめずにやろうという思いを強く持てるようになりましたね。こうした使命感といいますか、諦めないDNAというものが社風につながっているので、これまでやってこれたと思います。
末次:今、日用品業界では商品やサービスがコモディティ化していて、他社との差別化がかなり難しいと思います。例えば、パッケージがおしゃれだとか、すごくニッチに細分化された競争に陥っていく気もしていまして、商品の入れ替わりもとても激しいと思います。そういった中で企業の競争力をどうやって担保していくのか。どのようにお考えですか。
森田氏:脈々と継承されてきた企業文化性やパーパスが大切になってくると思います。弊社は歴史を非常に大事にしていますし、これまで歩んできた歴史は他社がすぐには真似できないことです。これらのシャボン玉石けんの物語、ストーリーが伝われば、ステークホルダーの皆様から応援していただけると思っています。
これからのメッセージ
末次:最後に今回の北九州実証参画企業の皆様、あるいはこれからK-CEPへの参画を検討しているメーカー各社にメッセージをいただけますでしょうか。
森田氏:環境問題は自分ごと化しづらく、すぐに購買行動や生活習慣を変えることは難しいと思います。しかし、地道に取り組みを進めていく中で変えることができればと思います。
末次:ありがとうございます。本インタビューを通じて、今、当たり前ではないことをいかに当たり前にし、日常の行動を変えるかが大切だと感じました。今回のK-CEPもそうですが、そのような仕組みを日常に溶け込む形でつくることで、環境意識も広がっていき暮らしが変わるきっかけになると思います。K-CEPでの取り組みをこれからご一緒できることを大変楽しみにしています。本日は、大変貴重なお話の機会をいただきありがとうございました。
話し手プロフィール
森田 隼人(もりた はやと)氏
シャボン玉石けん株式会社
代表取締役社長
シャボン玉石けんに入社後、関東エリアの卸店・百貨店・スーパー・ドラッグストアチェーンなどへの営業を担当。2007年代表取締役社長に就任。無添加石けんを通じた現在の環境問題を広く社会に伝えるため、社長業のかたわら、講演活動を積極的に実施している。
聞き手プロフィール
末次 貴英(すえつぐ たかひで)
アミタ株式会社
代表取締役
アミタグループ合流後、再資源化拠点の立ち上げや運営管理、地域資源循環モデルの構築、廃棄物リサイクルを始めとした総合的なソリューション提供に従事。2019年より取締役執行役員として、企業の環境戦略支援事業を牽引。2020年より、現職。
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