インタビュー
花王に聞くサステナビリティ 前編|K-CEP参加企業インタビュー
地球環境を持続可能にし、限られた資源を未来に還すためには、より高度な資源循環の技術と仕組みを構築することが必要です。
本インタビューでは、九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(K-CEP)へ参画している企業にお話しを伺い、サーキュラーエコノミーの構築をはじめとするこれまでのサステナビリティの取り組みや、K-CEP参加への意気込みなどを語っていただきます。第2回は、花王株式会社のリサイクル科学研究センター長の南部博美氏(写真)とESG活動推進部 ESG広報担当部長の大谷純子氏にお話を伺いました。
九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップとは? ※現在は、2021年10月20日に旗揚げしたジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(通称:J-CEP)のプロジェクトとして取り組んでおります。 |
花王のこれまでの取り組みに学ぶ
田部井:本日はよろしくお願いします。最初に、御社のこれまでのサステナビリティに関する取り組みや考え方、企業理念などについて伺えますでしょうか。
大谷氏:企業理念につきましては、130年前の創業(1887年創業(明治時代)、1890年から花王石鹸発売)から、「人々の衛生・清潔・きれいをサポートすることで人々のこころが豊かになり、社会全体が豊かになって、国の繁栄につながる」という思想がありました。130年に渡り人々の暮らしを変える画期的な製品を次々に生み出し、暮らしを豊かにしてきたという自負はあります。そのスピリットは今に受け継がれていて、「花王ウェイ」という企業理念の形に改定して進化させています。
画像:花王ウェイ
ここでは、「使命」として「豊かな共生世界の実現」を掲げており、一人一人の暮らしの豊かさと同時に地球環境とも共生していこうという思いを明記しています。環境という点については、いち早く取り組んでいまして、規制が始まる前から洗剤については微生物に分解されやすい界面活性剤の使用や無リン化を推進し、2009年には「花王環境宣言」を公開しています。2年前の2019年4月に実行体制(ガバナンス)の大きな改革がありました。弊社社長(当時・現会長の澤田道隆氏)が「企業が変わらなければ時代に取り残される」と訴え、ESGを経営の根幹に据える方針を打ち出し「生活者が主役のESG」に舵を切りました。その中で、ESG戦略として「Kirei Lifestyle Plan」を発表しています。
図:Kirei Lifestyle Plan
大谷氏:ESG推進体制としては、取締役会の直下にESGコミッティ(前「ESG委員会」)を設置したのが特徴だと思います。取締役会直下のコミッティが検討を進め、各部門の担当役員クラスも入るESG推進会議との並走でアクションに落とし込めるようにしました。また、第三者の目線から取り組みを評価するため、アドバイザリーボードには海外の専門家の方をお呼びしています。
図:ESG推進体制
田部井:取締役会の直下にESGのコミッティや推進会議があるというのは、意思決定のスピードを高めるなどの狙いがあったのでしょうか?
大谷氏:その通りですね。ESGということについて「どこかの部署や工場がやるもの」という具合に、なかなか現場の意識が自分ごとになりにくかったことがありまして、それを「全員で取り組むものだ」という観点から、取締役会の直下にESGを検討するコミッティと、それに並走して実行・推進するための推進会議を設けました。まだまだ課題はあるのですが、試行錯誤しながらそのような仕組みづくりをしてきたことがガバナンスの特徴かと思います。
田部井:ESG戦略をしっかりと示されているのは、素晴らしいと思います。
資源循環に関する戦略
大谷氏:資源循環については、「Kirei Lifestyle Plan」のアクションの「ごみゼロ」で進めています。ここでは、ライフサイクル全体を意識することを大切にしていまして、できるところからではなく、やるべきことをやる」というスタンスをとるようにしています。
図:資源循環社会に向けて
大谷氏:ただ、メーカーが直接コントロールできるのは「原材料を選ぶ」と「製品をつくる」の一部分となってしまいます。ですから「いっしょにeco」というスローガンで、ステークホルダーや外部パートナーと一緒に取り組むことが、資源循環に向けての大きな柱になると思っています。大きな軸としては、"たくさん使ってたくさん循環させる"のではなく、ミニマムに作ることで原料を減らす「リデュースイノベーション」と、使わなければならない資源はリサイクルする「リサイクルイノベーション」の2つの軸になります。これは弊社としましても新しい領域なので、多くのステークホルダーと組んでトライアルをしたいと思っています。
サーキュラーエコノミーの今後は?
田部井:今後、サーキュラーエコノミーを具体的に推進していくに際の課題として、サプライチェーンでの連携についてはどのようにお考えですか?
南部氏:まさに動脈/静脈サプライチェーンでの連携が非常に重要だと思います。現状ではリニア・エコノミーとして各社が異なるシステムで動かしているのが現状です。これをサーキュラーエコノミーに適した動脈/静脈が一体化したサプライチェーンに進化させる必要がありますね。そのためには、企業間連携はもちろんのこと、新しい循環型社会システムの制度設計を担うような省庁/自治体との連携も、もっともっと重要となると考えています。例えば、この設計を担うのがCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)のようなプラットフォームであり、具体的なアクションプランとして進めるためのハブとして動くのが今回、アミタさんが推進されているK-CEPだと思います。その活動が進んでいくことを非常に期待しています。
田部井:ありがとうございます。次にコストについて、他社ではコストの問題で経営者が意思決定できないという実情が多いようにも思うのですが、花王様の場合はそこをむしろアクセルに使っているようにも感じています。こうした課題を乗り越えていくために、社内で工夫されている点などはありますでしょうか。
大谷氏:その点では弊社としましても「素敵な回答」はない、と言うのが正直なところですが(笑)。未来のために何をやるべきか、という議論ができていることは後押しになっているとは思いますね。「活動の投資に対してコストをどう吸収していくのかとか、既存の投資の判断軸だと到底投資できないよね」という課題は本当に普段から議論しているところです。その中で、「脱炭素」と「ごみゼロ」というKirei Lifestyle Planで掲げた19個の重点取り組みテーマの内の2つが、全ての土台になるぐらい重要なことと思います。この点に対しては「本質的にやるべきことは何か」を追究し「事業のために、社会のために」という視点から大きなシナリオを描いて、「そのために必要な投資は順次やっていきましょう」というコンセンサスは得られていると思います。
図:Kirei Lifestyle Plan 19の重点取り組みテーマ
大谷氏:これからは従来の投資とは違う、あるいは従来の投資に加味できる判断軸や、決断軸を入れていく必要があると思います。例えば脱炭素だったらICP(インターナルカーボンプライシング※)とか、プラスチックでも同様の取り組みを加味したときの判断軸をどういう風に社内で作っていくかも、これからの大きな課題だと思っています。(後編へ続く)
※インターナルカーボンプライシング...組織が独自に自社の炭素排出量に価格を付け、何らかの金銭価値を付与することで、企業活動を意図的に低炭素に変化させることを狙いとした取り組み。
話し手プロフィール(執筆時点)
南部 博美(なんぶ ひろみ)氏
花王株式会社
リサイクル科学研究センター センター長
兼 研究開発部門 研究戦略企画部 リサイクル科学担当部長
1988年花王に入社。入社後は、素材開発研究所にてポリマー材料(プラスチック)の開発に従事。2014年にマテリアルサイエンス研究所室長、2019年に同研究所副所長、2020年5月に新設されたリサイクル科学研究センター長に就任。プラスチックを始めとする材料開発とプラスチック資源循環を目指したリサイクル技術開発を担当。2021年より現職。
大谷 純子(おおたに じゅんこ)氏
花王株式会社
ESG部門 ESG活動推進部 ESG広報担当部長
2006年花王に入社。企業理念「花王ウェイ」の花王グループ啓発活動、社内広報を経て、2013年グローバルコーポレートコミュニケーション推進を担当し、中期経営戦略に基づくプロジェクトを推進。2017年より経営サポート部門を兼務し、トップコミュニケーションのサポートも担当。2018年より現職。
聞き手プロフィール(執筆時点)
アミタグループへ合流後、主に企業の環境部・サステナビリティ部門を対象に、環境ビジョンの策定や市場調査など、多くの支援実績を持つ。2020年より取締役として、アミタ(株)における営業および市場開拓を担当。アミタグループの事業の柱となる「社会デザイン事業」の確立に向けて、新規サービスの創出・新規市場開拓を進める。
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