インタビュー
電力高騰はなぜ起きた?再エネ調達を推進する企業が取るべき選択とは Vol.1
2020年末からの、日本卸電力取引所※(以下、JEPX)市場の大幅な電力高騰は、一時は通常価格の数十倍(252円/kwh)もの高値となる異常事態となりました。この結果、JEPXを主な電力供給源としていた一部の新電力会社やその需要家である企業にも影響や混乱が生じ、新電力を通じた再生可能エネルギー(以下、再エネ)調達のあり方についても見直しが求められています。そこで今回は、企業の効率的なエネルギー調達を支援する事業を展開してきたENECHANGE株式会社の千島氏、田中氏、熊谷氏に今回の高騰の背景と今後の電力業界の動向、そして企業がとるべき方針についてお話を伺いました。
Vol.1 JEPXの市場価格の高騰。発生理由と背景とは?(本記事)
Vol.2 電力卸市場の制度見直しと新電力側が取るべき対策について
Vol.3 企業は今後どのように再エネ調達を進めるべきか
※日本卸電力取引所(JEPX)...電力自由化により設立された国内唯一の卸電力取引所。2005年から取引を開始。翌日に受け渡しする電気の取り引きを行う市場(スポット市場)では、一日を30分単位に区切った48コマで取り引きを行い、1コマ単位から購入が可能。発電所を持たない小売電力事業者の多くがこの市場を利用している。
図:JEPXについて
JEPXの市場価格が高騰。発生理由と背景とは?
アミタ:2020年末から年明けの1月にかけてのJEPX市場の高騰の主な理由として、新型コロナウイルスの影響による世界各地の液化天然ガス(以下、LNG)生産プラントの稼働低迷や、LNG運搬船が通過するパナマ運河の運用トラブル、厳冬による電力需要の上昇などが挙げられています。一方で、通常価格の数十倍にも高騰する電力卸市場における制度面での課題を問う声も聞かれます。今回の高騰の背景については、どのようにお考えでしょうか。
ENECHANGE:まず、今回の高騰は極めて深刻な電力の逼迫状況の中で、必然的に発生したものであるということを理解する必要があると思います。下記の図は2021年1月の電力需給の状況を示すものです。
図:電力需給の状況
出典:資源エネルギー庁「電力需給及び市場価格の動向について」
特に西日本では電力予備率(想定される需要に対する供給予備力の比率)が総量のわずか1%というような状況が何度も発生していました。これがもし、0以下になったら全国的な大停電という事態にも陥っていたわけです。たとえ停電にならなくても供給電力の周波数が低下すれば医療現場や製造現場の精密機械が利用できなくなるという可能性もあります。
これらを防ぐために、一般的に大手電力会社と呼ばれる各電力会社は、お互いに調整を行っていたと聞いております。特に西日本で危機的状況だったA電力を助けるために周辺のB電力やC電力が自社の待機施設だった石炭や重油の火力発電所を立ち上げて発電し、A電力に送電したり、東日本でも時間帯で逼迫する時間差を利用して他の電力会社へ送電したり、反対側に送電し返したりという綱渡りの状況が発生していたようです。
【写真】ENECHANGE(株) 千島氏
アミタ:それはやはり、燃料のLNGが不足したことから生まれたのでしょうか。原子力発電所の多くが稼働していない今、電力エネルギーの約8割を火力発電所が賄っていますが、地球温暖化対策で石炭や石油よりCO2の排出係数が低いLNGが火力発電所の燃料の約7割を占めていると聞きます。それほど重要なエネルギー源のLNGが供給不足になる事態は避けられなかったのでしょうか。
ENECHANGE:まず、2020年春にコロナ禍で国内の産業施設の稼働が減退した結果、LNGが供給過剰になってしまったという背景があります。国内のLNG需要が減ったとしても、過剰分を保管できればよかったのですが、常温で気化するLNGを保管するためには、-160℃に保てるような超低温貯蔵のための特殊な設備が必要です。実は国内のLNG貯蔵のための容量はとても少ないんですね。例えば、火力発電所がフル稼働すれば、1週間もたたずに日本国内すべてのLNG貯蔵量を使い果たしてしまうほどしか貯蔵できない特性があるため、LNGの需給運用は非常に難しいものです。そのような中、コロナの影響により予期しないLNG需要の低下が起こり、過剰分を貯蔵する余力が無くなったため、調達予定分を他国へ転売せざるを得ない状況だったと捉えています。元の購入予定価格よりも安く転売することになり、赤字を被るLNG事業者がいたと推察します。
アミタ:「ちょうどLNGの調達量を縮小させたところへ異例の厳冬が襲来し、今度は調達量を拡大したくてもコロナ禍で生産地のプラントやパナマ運河が満足に稼働できず、電力需要のピーク期に燃料調達が間に合わなかった。」ということなのですね。欧米などではLNGはパイプラインで常時国際輸送されていますが、海に囲まれた日本では海上輸送が唯一の輸送手段になりますし、船が止まってしまうというリスクはこれからも心配ですね。
ENECHANGE:それに加えて、世界情勢の影響もありました。中国や韓国でも寒波によるLNG需要が跳ね上がり、争奪戦のような状況だったと伺っています。日本国内では発電をしたくても燃料がないという状況となり、当然、大手電力会社はJEPXに卸す電力量を絞らざるを得ませんし、電力が不足するピークの時間帯では大手電力会社ですら、自ら市場で買付けなければ必要な電力を確保できないという異常な逼迫状況だったと思われます。この結果、市場は高騰したということです。一部では「大手電力会社が意図的に高値の買い札を入れて高騰させるマッチポンプ的なマネーゲームがあったのではないか」という声もありますが、少なくとも今回の高騰ではそのようなことはなかったと捉えています。どこの電力会社も全く余裕がない状況でしたから。
アミタ:今後もこのような高騰は発生するのでしょうか。
ENECHANGE:2021年3月現在は、価格も落ち着いていますが、電力需要が増す夏の季節は、また高騰する可能性は十分にあると思います。まだ、新型コロナウイルスはおさまりを見せておらず、LNGの供給に関する問題が簡単には解消できないと考えられるからです。
アミタ:ユーザー企業も調達の戦略を見直す必要がありますね。続いて、電力卸市場の今後についてお尋ねします。(Vol.2へ続く。)
話し手プロフィール(執筆時点)
千島 亨太(ちしま こうた)氏
ENECHANGE株式会社
執行役員 法人ビジネス事業部 事業部長
大手都市銀行にて主に法人向け取引に従事。その後電力自由化に伴う市場の変動に魅力を感じ、縁もあって新電力会社に転職。新電力会社では小売、電源調達、卸電力売買等の業務に従事。2019年9月より現職。
田中 文崇(たなか ふみたか)氏
ENECHANGE株式会社
法人ビジネス事業部
実需同時同量の時代から新電力の需給管理担当として5年半従事。小売、調達など新電力運用の難しさ、情報の少なさと収集の難しさを痛感。ENECHANGEが持つシステム開発能力に引かれ入社。システムサービスを介しプラットフォーマーとして新電力に対し幅広い形での情報流通、電気現物の流通など普及促進を目指す。
熊谷 太介(くまがい たいすけ)氏
ENECHANGE株式会社
法人ビジネス事業部
エネルギーや環境とは関係のない大手IT企業で事務機器のグローバル展開などに10年間従事。環境問題の根本解決にはエネルギー産業の変革が必要と思い立ち、2019年より中立的なスタンスを取れるENECHANGEに入社。企業の再エネ導入支援サービスを立ち上げ、日本の再エネ普及促進を目指す。
書き手プロフィール(執筆時点)
本多 清(ほんだ きよし)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 社会デザイン群青チーム
環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)、『魔法じゃないよ、アサザだよ』(合同出版)、『四万十川・歩いて下る』(築地書館)など。
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