インタビュー
北九州市 企画調整局 SDGs推進室 次長 上田 ゆかり氏 / アミタホールディングス株式会社 専務取締役 佐藤 博之北九州市対談インタビュー|産学官民連携でSDGsを推進!先進モデル都市の取り組み 前編
2018年、アジアで初めてOECD(経済協力開発機構)の「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選定された福岡県北九州市。国際会議でも同市のSDGsの取り組みが取り上げられるなど、国内外で高い評価を受けています。今回は、SDGs推進室次長の上田ゆかり氏へインタビュー。アミタホールディングス専務の佐藤との対談形式で、「未来の街づくり」について考えます。前編では、先進モデル都市の背景や、「街づくりのKPI」について実例を伺いました。
【写真】左からアミタ佐藤、北九州市上田氏
人口94万人。世帯数43万世帯。1963年に5市対等合併により誕生した全国6番目の政令指定都市。九州最北端、本州と九州の結節点に位置し、「九州の玄関口」として栄える。四大工業地帯の一つ、北九州工業地帯を有するものづくりの街でもある。 |
産学官民連携で取り組む北九州市の街づくり
アミタ佐藤:まずはじめに、北九州市の街づくりの「特徴」を一つ挙げるとしたら何でしょうか?
上田氏:そうですね。「産学官民連携」は大きな特徴だと思います。北九州市には、1960年代に発生した大気汚染や水質汚濁を克服してきたという経験がありますが、克服に向けては婦人会の方が、大学の先生方と大気汚染や水質汚濁の研究を重ねて、その結果をもとに企業に働きかけたという経緯があります。北九州市の公害については、大きな訴訟などはありませんでした。市民は、企業に対して「ものづくりの技術を活かして、環境を改善してほしい」と呼びかけていき、大学や行政も共に尽力してきました。この産学官民連携で課題に取り組む姿勢は、今も重視しています。また、北九州市は、市が培ってきた環境技術や経験を、世界で同じように公害で苦しむ地域の解決に役立てようと国際協力にも積極的に取り組んできました。1992年にはこうした点が評価され、国連自治体憲章を日本ではじめて受賞しています。
アミタ佐藤:素晴らしいお取り組みですね。街づくりにおいて、「世界への貢献」を掲げていらっしゃる街は、なかなか無いと思います。私たちアミタも、響灘の「エコタウン」内に、廃棄物リサイクルの工場を持っていますが、2017年に、マレーシアで新たなリサイクル拠点を立ち上げた際は、貴市に共同で環境省の調査事業を受託いただくなど、大変お世話になりました。国際協力に関する企業へのサポートも非常に手厚いと実感しています。
上田氏:ありがとうございます。現在も、カンボジアでの水道技術支援や、フィリピンでの廃棄物発電の導入支援など、様々な企業の方と協力しながら取り組みを続けています。こうした背景もあって、2017年には、北九州市の水分野の国際協力が、国連のハイレベル政治フォーラムで日本政府のSDGs優良事例として紹介され、以降、「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」への選定など、SDGsの分野で高く評価いただけるようになりました。振り返ると、2015年からSDGsの取り組みを開始したわけではなく、早くからSDGsの概念を先取りしてきたと思います。現在は、SDGsの取り組みについて、「環境・社会・経済」の3つを起点とした戦略を設定しています。
図:北九州市のSDGs戦略 (図はクリックで拡大) |
図:北九州市のSDGsに関する国内外の評価 (図はクリックで拡大) |
上田氏:私たちはこれまでは「環境の街づくり」をブランドとして、重視してきました。しかし、これからは、「SDGsの街づくり」をブランドにしたいんです。SDGsは、環境だけでなく、社会、経済といった生活に関わるあらゆる目標を内在しています。SDGsの目標達成が進むということは、つまり、「都市のステータス」を向上させることであり、「市民の生活の質」の向上にもつながります。どこの自治体でもお悩みだと思うのですが、北九州市も、高齢化や人口減少などの課題を抱えています。「SDGsの街づくり」を通じて、「北九州市に住みたい」「北九州市で働きたい」「北九州市で学びたい」という方を増やしていければと考えています。そして、その取り組みは世界に向けて発信できる強力な強みになると思います。
本質的なKPIを目指して
上田氏:そのためにも、ここから先の取り組みが重要であると思うのです。改めて考えてみても、SDGsの17の目標というものは、どれもSDGsが採択される前から、自治体はどこも取り組んでいるのではないでしょうか。どの課の仕事も17の目標のいずれかに関わっています。そのため、いかに新しい取り組みを生み出せるかが非常に重要だと思っています。
アミタ佐藤:企業の取り組みでも同様のことが言えます。既存の事業がSDGsのどの取り組みにあたるのか、「マッピング」に留まるという声も多く挙がっています。SDGsは方向性を示していますが、2030年の社会の在り方を明確に示しているわけではありません。その点が知恵の使いどころです。各国の状況によって異なるでしょうし、それこそ日本国内でも状況は様々です。本当にその地域に必要なものは何か、ステークホルダーにとっての「幸せ」や「豊かさ」とはどのようなものか。考えていくことが重要だと思います。
上田氏:おっしゃる通りですね。市でもできる限り、本質的なKPIを立てたいという思いで取り組んでいます。例えば、国内外から評価が高いのが、目標5「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」に関する取り組みです。女性活躍と言えば、女性管理職の割合を指標に持つこともできますが、北九州市では、「女性が働きたいと思ったときにスムーズに様々な相談に応じられる環境づくり」を目標にして取り組んでいます。例を挙げると、「ウーマンワークカフェ北九州」という施設を中心とした取り組みがあります。女性の就業支援・子育てとの両立支援・創業等のサポートについて、国・県・市が一体となり、一つの施設を拠点に総合的に支援するという点で、全国で唯一の取り組みです。国と県と市が同じ場所に集うことで、就業希望者のサポートがスムーズにできます。この点が高く評価されています。(写真:ウーマンワークカフェ北九州)
アミタ佐藤:利用者にとっても、一つの窓口に集約されるというのは、利点ですね。あちこちの行政窓口を利用者が回るというのは、大変なことですし。
上田氏:はい、ワンストップという点を意識しています。その他、子育てについては、「放課後児童クラブ」といういわゆる学童の仕組みを、親の就業状況に関わらず、全児童が利用できるようにしています。市内の7つの区に保育コンシェルジュを設置して相談しやすい環境をつくったり、「赤ちゃんの駅」というおむつ交換ができるようなスペースを市内492か所に設置したりしています(2020年10月現在)。内閣府の「SDGs未来都市」にも選定されていますので、各目標に対して、こうしたKPIをもって取り組んでいます。(参考:「SDGs未来都市計画」)
(後編に続く)
話し手プロフィール(インタビュー時点)
上田 ゆかり(うえだ ゆかり)氏
北九州市
企画調整局 SDGs推進室 次長
1995年北九州市に入職。到津の森公園の再整備、北九州学術研究都市の管理運営などに携わった後、2008年北九州市観光協会へ出向。環境の街という強みを活かしながら、観光振興に努める。2011年、産業経済局観光コンペティション課環境ものづくり観光担当課長に就任。2019年4月、同市のSDGs推進室立ち上げと共に次長に着任。
佐藤 博之(さとう ひろゆき)
アミタホールディングス株式会社 専務取締役 兼
アミタ持続可能経済研究所 代表取締役
グリーン購入ネットワーク専務理事、世界エコラベリングネットワーク総務事務局長などを経て、現職。持続可能な循環型社会の実現に向けて、宮城県南三陸町をはじめとする国内外の地域循環システム構築や企業のサステナビリティ戦略の支援に取り組む。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン理事。著書:『SDGsビジネス戦略』[共著](日刊工業新聞社)
執筆者プロフィール(執筆時点)
石田 みずき(いしだ みずき)
アミタ株式会社
サステナビリティ・デザイングループ マーケティングチーム
滋賀県立大学環境科学部を卒業後、アミタに入社。メールマガジンの発信、ウェブサイトの運営など、お役立ち情報の発信を担当。おしえて!アミタさんへの情熱は人一倍熱い。
おすすめ情報
お役立ち資料・セミナーアーカイブ一覧
- なぜESG経営への移行が求められているの?
- サーキュラーエコノミーの成功事例が知りたい
- 脱炭素移行における戦略策定時のポイントは?
- アミタのサービスを詳しく知りたい
アミタでは、上記のようなお悩みを解決するダウンロード
資料やセミナー動画をご用意しております。
是非、ご覧ください。