インタビュー
ENECHANGE株式会社 執行役員 法人ビジネス事業部 事業部長千島 亨太 氏 企業の電力調達の最新動向とは?脱炭素とBCPに注目!
パリ協定締結後、CO2排出量ゼロを目指す企業によるイニシアティブ「RE100」が生まれるなど、事業におけるCO2排出量の削減が課題となっています。そこで注目されているのが、「企業の電力調達」です。しかし、「CO2排出係数に配慮するだけでなく、コストも心配」「ブラックアウト・長期停電などのリスクもBCP(事業継続計画※注)の観点から考えたい」という企業の経営層や環境担当者からの声も聞かれるようになりました。
そこで今回は、新電力を含め、様々な電力会社の中から顧客のライフスタイルや事業形態に合わせてベストマッチの電力を紹介するサイト「エネチェンジ」(法人向けサイト「エネチェンジBiz」)の運営をはじめ、エネルギー産業における需給バランスのマネジメント事業を展開するENECHANGE株式会社の執行役員・法人ビジネス事業部長の千島亨太氏を訪ね、脱炭素化に向けた企業の電力調達の方向性についてお話を伺いました。
※BCP(事業継続計画)...企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合を想定し、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画を指す。
事業用電力も「選ぶ時代」のポイントは?
アミタ:御社では、多くの企業に電力選択に関するアドバイスを実践される一方、電力会社様とのネットワークも幅広くお持ちですね。「電力を選ぶ」という時代において、今、どのような変化が起こっているのでしょうか。また、各企業は選択にあたってどのような点に気を付けるべきなのでしょうか。
千島:電力の選択基準において、昨今の状況には「潮目が変わった」という印象があります。従前のような単純な安売り合戦の時代は、もう終わったと言えるでしょうね。
今、電力業界で注目されているのは、どちらかというと事業形態に応じた時間帯別のエネルギー消費量のロードカーブに合わせたマッチングです。例えばパン屋さんは朝早くにパンを焼く時間帯のヘビーユーザーですが、他の時間は微々たるものです。ここで、電力会社が、需要の多い時間帯(早朝)での価格が安くなるサービスなどを提供すれば、どうなるでしょうか。このように事業業態に応じたサービス提供のあり方が、電力やガス会社のサービス開発と黒字化達成のポイントになっています。調達側の企業にとっても嬉しい話だと思います。
アミタ:なるほど。現状では、企業の関心としては、やはり価格がメインになっているのでしょうか。
千島:いえ、価格だけではなく、「脱炭素」も非常に重要なポイントです。電力の調達側では低炭素化をはじめとする環境への配慮が、まさに「生き残り」をかけた課題となりつつあります。例えば、先進性で世界をリードするOA機器メーカーのA社は、下請や孫請けの企業にも環境に配慮した調達を求めています。それは依頼や指示というよりも取引継続の「条件」に近いものとなっていますね。今後は、環境に配慮したエネルギー調達が企業の死活問題にもなってくるわけです。
また、「安心」や「安定性」も関心の高いテーマになっています。現在は、北海道での広域ブラックアウトや台風19号災害による千葉県での長期停電のような、物理的に電力供給が途絶えるリスクへの対応が重視されています。ちなみに、電力調達のリスクにおいては、契約先の電力会社の倒産で電力が途絶えるということもありません。何故なら、供給される電力の質自体は、どの電力会社と契約しても変わることはないからです。仮に契約先の電力会社が突然倒産するなどしても、一般電気事業者(旧来の大手電力10社)に電力を供給する義務がありますから、突然電気の供給がストップするようなことにはなりません。(ただし、契約先としての与信は重視される傾向がありますね。そうでないと稟議が通らないということもあるようです。)
BCPの観点から、電力の「安定性」に向けて何ができるか?
アミタ:確かに、停電のリスクが事業に大きな影響を与えることが改めて認識されましたね。BCP(事業継続計画)の対策でも非常に重要です。企業はどのような対策を行えるのでしょうか。これらを、電力会社の選択で補うことは可能なのでしょうか。
千島:今回の千葉の長期停電の背景には、送電ネットワークによるリスクがあります。首都圏などに比べると送電ネットワークがあまり緻密でないエリアでメインの送電線が破損したため、発電所からの電力が途絶えてしまうエリアが大きくなってしまったわけです。では、電力の選択で上記のリスクに回避できるかと言いますと、電力の小売事業社を変更した場合でも、電気を送る会社、つまり送電網はすべての会社で共通していますので、残念ながら、このようなリスクに対応するのは難しいということになります。
現状では、調達側の企業による拠点の分散化が有効だと思いますね。主要の生産拠点が同じ送電網に立地している場合、軒並み停電になる可能性もあります。オフィスや生産拠点など、新しい拠点を構える際は、ハザードマップだけでなく、送電網ネットワークについても確認する必要があります。その他の取り組みとしては、太陽光発電パネルや自家発電機能の整備を進める企業が、非常に増えてきています。
アミタ:BCPについては、拠点の分散化や自家発電など、企業自らによる安全対策が重要なのですね。
これからも、様々な特徴を持つ電力会社が増えていき、比較する企業も悩ましい場面が増えていくと思いますが、御社では、複数の評価軸から電力会社を紹介されるサービスを実践されていますね。
千島:はい。弊社では、「エネチェンジBiz」などの電力比較サイトを運営していますが、おかげさまで掲載している電力会社の数も年々増えています。選択肢が3~4社からなのと、10数社、20数社から選べるのでは、得られるベネフィットや自由さ、市場の流動性が全く違ってくると思います。また、企業への個別提案も行っていまして、例えば「経済性と環境配慮契約のスコアを両立させた電力会社」との契約を希望される企業顧客に対しては、下記のようなご提案を行っています。
アミタ:複数社のデータについて、スコアを付与していただける点は心強いですね。自身で、各電力会社のサイトを一つ一つ確認するという手間も省けます(笑)
図:ENECHANGE株式会社による電力紹介の一例。複数の評価軸から最適な提案を受けることができる。
写真:法人向けサイト「エネチェンジBiz」の見積フォーム。簡単な情報入力を行うだけで、多様な電力会社のプランから、自社のニーズに沿ったプランを探し出すことができる。
卒フィットの時代を迎えての対応は?
アミタ:太陽光発電といえば、今年から卒FITの時代を迎え、これまで企業や自治体が所有・稼働させてきた太陽光パネルの運用方法を変えざるを得なくなります。これに関してはいかがでしょうか。
千島:いま、弊社で「卒FIT買取事業者連絡会」の運営事務局を担わせて頂いています。卒FITでどのような影響が起こるかについてですが、これまで、大手電力会社と電力の売り買いをしてきた企業にとって悩ましいのは、単に買取り価格が大幅に下がるだけではなく、売り買いした電力量の測定をはじめ、電力取引に関する施設の運用方法などのノウハウがないことですね。一方で、卒FIT後には新電力会社も買い取り側に加わって、各社で買取りメニューも変わることになります。つまり、再生可能電力の発電施設を保有する企業が「売電先を選ぶ」という、電力の自由化における新しいトレンドが生まれるわけです。
アミタ:なるほど、売電先の比較も必要となりますが、御社は、現在の事業に加えて、そういった観点からの比較サービスや電力売買のアウトソーシングを引き受けられるわけですね。一方で、卒FIT後の発電施設の運用が課題となる自治体も増えてくると思いますが、いかがでしょうか。
千島:維持コストとの兼ね合いで、せっかくの発電施設の廃棄もしくは放置という可能性もあり、ドイツのシュタットベルケ(公社)方式のような地産地消の運用ができないかなどの相談も受けることがあります。しかし、今後は、パリ協定によって排出係数の低い再生可能電力の需要が企業間で拡大するのは間違いありません。一方で、パリ協定におけるターゲット設定にも課題があると思います。今は2030年の目標だけがある状態なので、火力などのベースロード電源の市場や再生可能エネルギーの現状単価が適正なのかも分かりにくい状況です。そのため、2030年に至るまでの経過ラップを単年度ごとに刻んで設定していくことが望ましいと思いますね。現状のままでは、2030年の直前になってから慌てた企業が再生可能電力を買い競い、今は卒FITで安くなっている価格が爆騰する可能性もあると思います。
今後は「分散化」、「脱炭素化」のチャレンジへ
アミタ:御社は基本戦略として「エネルギーの4D」〔※Deregulation(規制緩和による小売り自由化)、Digitalisation(エネルギーデータのデジタル化)、Decentralisation(発電拠点の分散化)、Decarbonisation(発電エネルギーの脱炭素化)を社会に促進していくことを掲げていますが、今後、新たに力を入れていこうとされている事業の展望にはどのようなものがありますでしょうか。
千島:そうですね、これまでに「自由化」と「デジタル化」はかなり進められていますが、今後は「分散化」と「脱炭素化」に注力していきたいと思っています。送配電網のシステムや、蓄電器の充放電の新技術は今、ヨーロッパが非常に進んでいます。そこで、「ジャパン・エナジー・チャレンジ」といって、電力自由化の先進国である欧州を中心とした海外のエネルギー関係のベンチャー企業がもつ優れた技術やサービスへのアクセスを、日本の企業に提供するイノベーションプログラムを運営しています。例えば、今後は電気自動車の時代になりますが、そのバッテリーを通常の家庭用電源や法人の持つ電源に活用することで電力拠点の分散化が促進されます。
また、我々自身が国内で手掛けていきたい新たな事業としては、例えば様々な事業用消費電力の多様なロードカーブを相互に調整することで発電量と使用量を最適化するといったエネルギーマネジメントですね。これができると、現在は予想に基づいた予備的な電力を作っている発電所が、余計な燃料を焚いて予備電力を作る必要がなくなります。つまり「脱炭素化」が促進されるというわけです。
アミタ:「4つのD」を実現していくための戦略を着実に進められているのですね。弊社でも、社員とその家族の自宅を対象として、環境に配慮した電力会社に切り替えた際に月額補助を出す「あみ電手当」を設立するなど、微力ながら電力の環境化に参画しています。今後はグリーンな電力を調達している企業への認証制度なども求められる時代になると思いますので、将来的には御社との協業の構想もできたらいいな、と思います。本日はありがとうございました。
話し手プロフィール(執筆時点)
千島 亨太(ちしま こうた)氏
ENECHANGE株式会社
執行役員 法人ビジネス事業部 事業部長
大手都市銀行にて主に法人向け取引に従事。その後電力自由化に伴う市場の変動に魅力を感じ、縁もあって新電力会社に転職。新電力会社では小売、電源調達、卸電力売買等の業務に従事。2019年9月より現職。
ENECHANGE グループ
創業者が2013年にケンブリッジ大学で設立した産学連携の研究機関「Cambridge Energy Data Lab(ケンブリッジ・エナジーデータ・ラボ社)」によるエネルギーのデータ解析の研究成果をもとに、2015年に電力会社の料金プランを比較するサイトを運営会社として「ENECHANGE株式会社」を日本で創業。同社では新電力会社等の事業立ち上げから顧客管理までを支援するマーケティングプラットフォーム事業「EMAP」も提供している。一方、ロンドンに本社を置くデジタル化を促進するための子会社SMAP ENERGY社ではスマートメーター(*ユーザー各戸にある電子式の電力量計。検針機が電子化されてネットワーク化が可能となったもの)データのビッグデータ解析により、各電力会社に対して火力や再生可能エネルギーなど電源別のエネルギーの収支システムを効率化するサービスなどを提供している。両社は「ENECHANGEグループ」として統合した事業活動を展開している。
書き手プロフィール(執筆時点)
本多 清(ほんだ きよし)
アミタ株式会社
環境戦略デザイングループ 環境戦略デザインチーム
環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)、『魔法じゃないよ、アサザだよ』(合同出版)、『四万十川・歩いて下る』(築地書館)など。
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