インタビュー
インターフェイス ジャパン カントリーマネージー 福元 美和氏インターフェイス社|世界トップクラスのサステナブル企業から、日本企業が学べる"社内浸透の手法"とは?
今、多くの企業で事業による新たな価値の創出が求められる中、一つのキーワードになるのが「サステナビリティ経営」です。SDGsやESG投資に代表されるように、企業が「社会の持続可能性」に配慮した事業活動を行うことは、既に世界的なトレンドとなっており共通の目標になりつつあります。しかし、それを社内に浸透させ、実行に移すのは容易ではありません。
そのような中、世界に先駆けてサステナビリティ経営を開始、実践し続けているのが、タイルカーペットの製造・販売を行うインターフェイス社です。同社は、1994年より、事業活動を通じた環境負荷ゼロに取り組む"ミッション・ゼロ※1"を掲げ、2017年には"※世界で最もサステナブルな企業" の3位にランクインしています。
(※GlobeScan 「サステナビリティ調査2017」)
今回、インターフェイス ジャパン カントリーマネージャーの福元氏に、同社の取り組みを伺いました(写真右:インターフェイジャパン福元氏 左:アミタ中村)
※インターフェイス社
1973年創業。アメリカを拠点に、タイルカーペットの製造・販売を行う。オーストラリア、中国、ニュージーランド、タイと世界各国に工場を展開。2020年までに事業活動を通じた環境負荷ゼロに取り組む"ミッション・ゼロ"を1994年より提唱。さらに2017年には"ミッション・ゼロ"を超えて、地球の生態系や自然環境の回復のために影響力を発揮していく新たなビジョン"Climate Take Back※2(地球温暖化を食い止めるための事業)"を掲げる。
環境負荷への取り組みが支持を集め、タイルカーペットにおける世界トップシェアブランドとして認知されている。
自然から学び開発された、サステナブルな商品
中村:インターフェイス社のカーペットには、面白い特徴があるとお聞きしました。
福元氏:そうですね。タイルカーペットの色合いは、同じ色を目指しても製造ロットごとに少しずつ異なります。そのため一般的なカーペットのデザインでは、色合いの違いが目立ってしまい、製造ロットが異なるタイルカーペットを貼り合わせることができません。そうなると、製造の際に発生するオーバーレンジや異なるロットの在庫などを、利用できなくなることがあります。そのため、インターフェイス社では、「自然から学んだ」デザインを採用しています。バイオミミクリー(生物模倣)の考えに倣い、自然界にあるようなランダムで有機的なデザインにすることで、複数の製造ロットのタイルカーペットでも、混ぜて貼り合わせることができるようにしています。そうすることで、製造の現場でも端数(無駄)が出ませんし、お客様が使用される上で、もし一部が汚れるなどして取り替えたい場合でも、その部分だけを交換対応する事が可能です。結果として、お客様にとっても経済的に嬉しい商品になっています。
中村:まさに発想の転換ですね。
福元氏:まだ商品化できていないためお伝えできませんが、ほかにも試行錯誤している事例はたくさんあります。自然に学びながら「まずはやってみよう!」の精神で、環境に対して出来ることを日々考えています。
時代に先駆けたサステナブル経営。社内にどう浸透させたのか?
中村:そのような商品を生み出す理念や、風土はどのように生まれたのでしょうか。
福元氏:創業者のレイ・アンダーソンが、1994年に一冊の本を読み、環境問題に危機意識を持ったことからスタートしました。
その後、社内変革のために社長直轄のチームを作り、サステナビリティ経営へのシフトを試みました。そのチームが、今のサステナビリティの部署に繋がっています。今では、インターフェイスの経営層は、サステナビリティ経営の必要性を揺るぎなく信じています。
中村:1994年から"ミッション・ゼロ"を掲げていたことはとても先進的ですね。
近年になって、日本でもサステナビリティ経営の必要性が謳われるようになりましたが、まだまだ社内で浸透させることは難しい、という課題を持つ企業も多いのが現状です。
インターフェイス社では、社内でのサステナビリティ経営の浸透にあたって、どのような取り組みをされているのでしょうか。
福元氏:社内への浸透は、担当部署が突然こういった大きなコンセプトを打ち出すのではなく、少しずつ情報を提供していき、社員の耳になじませていったという印象です。
例えば、2017年に公表したビジョン"Climate Take Back"が、はじめて社員に伝えられた時は「どのような内容なのか?」という戸惑いもありましたし、「何をお客様に話せばいいのか?」「お客様にこのことを伝えて、どうなるのか?」 という社員同士の会話もありました。しかし、繰り返しの説明で徐々に浸透していきました。ビジョン公表時はアメリカの本社から担当者が各エリアの中心となる拠点を巡って、直接対面の説明会が実施されましたし、またサステナビリティの専門家や経営者から、サステナビリティに関するレクチャーを受ける機会が設けられました。年に一度の全社員でのミーティングでも関連テーマが取り上げられています。
私自身も、そうした機会を通じて、気候変動問題についての背景をしっかり学ぶことができましたし、経営層からの「自社事業を通して、ネガティブインパクトをゼロにし、ポジティブインパクトを与えていく」という話に感銘を受けたのを覚えています。
創業者の強烈なリーダーシップも大事ですが、やはりその想いと意図を社員に説明する機会を繰り返しつくるということが重要です。そういう機会があるからこそ、各部門も自分たちの専門性から"Climate Take Back"のような大きなコンセプトに対して、どのようにアプローチできるかを考える事ができるのだと思います。
ビジョンは、達成すべきものなのか?
中村:"ミッション・ゼロ"を日本のお客様に伝えていく中で、どのような反応がありましたか?
福元氏:ビジョンに共感して、購入を決めてくださる企業様もいらっしゃいますので、その辺りは私たち社員も大変嬉しく思います。ただ、日本においての難しさと言いますか、「本当に環境に与える負荷をゼロにできるのか?」「ビジョンは達成しなくてはならないのでは?」というご質問はよくいただきます。
まだ、2020年は訪れていないので先の話はわかりませんが、実際には達成が難しい項目があると感じています。しかし、ここは、西洋と日本の考え方の違いもあると思うのですが、インターフェイスの社員は、達成できないことを恥と思っていない様子です。どちらかというと「野心的な目標」を立てたことに誇りを持っています。「すぐに達成できるような目標ではインパクトが小さい、もっと大きな目標をたてよう」、「達成できるかはわからないけれど、取り組み続けよう」という姿勢があります。
日本は真面目な国民性なので、せっかく良いことをやろうとしているのに、義務感やプレッシャーに意識が向いてしまいがちなのかもしれません。「確実に達成できるかどうか」という視点で目標を堅実な数字にしてしまうと、どうしてもインパクトは小さくなります。
達成が難しい高いビジョンを掲げると、「ほぼ達成している項目」「今後の取り組みで達成可能な項目」「改善が必要な項目」というものがはっきりしますので、自社の状況を理解した上で、さらなる取り組みにつなげることができると考えています。
中村:なるほど、そうした姿勢も、他社に先駆けた取組みなのかもしれませんね。
福元氏:経営層の理解(意識の高さ)も必要ですが、サステナビリティの部署の人たちが、自分たちで「やる(達成する)」と言い切ってしまうことも一つの手だと思います。
中村:とすると、御社では、サステナビリティを推進する部署が強いリーダーシップを持っているのでしょうか。
福元氏:そうでもありません。削減目標の達成や原料調達の工夫など、現場での取り組みは各部門が責任をもって牽引しています。サステナビリティの部署が大きなイメージを作りますが、そのメンバーの中に技術担当者がおり、技術に転換する方法を考えます。それを社員全員に伝えることで、よりリアルに伝わっていると思います。
中村:なるほど。ある程度具体的な方策がなければ、説得力に欠けてしまい、なかなか伝わりにくいですよね。日本ではサステナブル経営について、具体的な手法や事例が広く共有されていない現状もあるので「そもそも自社でどのような取り組みをすればいいのか?」という疑問や悩みをお持ちの担当者も多いのではないでしょうか。
中村:インターフェイス社の取り組みについて、エコプロ2018でより詳しくお伺いできればと思います。本日はありがとうございました。
※1 ミッション・ゼロ
2020年までに、環境に悪影響を与える可能性があるものを排除するという、インターフェイスが掲げたミッション。
具体的には、①廃棄物の削減、②有害な排出をゼロにする、③再生可能エネルギーに切り替える、④再デザイン・再利用で物質のループを閉じる、⑤資源を効率的に利用した輸送、⑥ステークホルダーへ伝え、巻き込む、⑦ビジネスを再設計するという7つの目標を掲げる。
※2 Climate Take Back
ミッション・ゼロに続く新たなミッション。
「自分たちは気候変動を解決できると信じること」というマインド変革をし、「生きるために適した気候をつくる」という野望を掲げ、産業再革命をリードするという目標を掲げる。
話し手プロフィール
インターフェイス ジャパン
カントリーマネージー
福元 美和(ふくもと みわ)氏
2010年 インターフェイス ジャパン入社。デザイナー、マーケティング・マネージャーを経て、2012年から日本における代表として現職。営業戦略、マーケティング戦略などをはじめ、日本におけるすべての活動を管理。
聞き手プロフィール(執筆時点)
アミタ株式会社
環境戦略デザイングループ 東日本チーム
中村 こずえ(なかむら こずえ)
高知県出身。鳥取大学大学院終了後、環境問題に関心があり、アミタの「無駄なものなどこの世にない」という理念に共感して入社。現在は環境戦略デザイングループ東日本チームを担当。
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アミタの支援サービス「The Sustainable Stage」では、廃棄物管理を始め、脱炭素にかかる施策(CDP質問書への回答、SBT、RE100への取組み・実践体制の構築、支援など)、SDGs、生物多様性、バイオマス発電など企業の持続可能性を環境面から支えるための支援を行っています。
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