インタビュー
富士通株式会社 環境・CSR本部長 金光 英之 氏 / 環境・CSR本部 環境企画統括部 統括部長 前沢 夕夏 氏富士通株式会社|パリ協定から脱炭素社会の推進を決意!社内を動かした中長期環境ビジョン策定のプロセスに迫る!
革新的な技術開発によって、様々な環境・社会課題の解決に取り組んでいる富士通株式会社(以下、富士通)。グローバルICT(情報通信技術 以下、ICT)企業として幅広いプロダクツ・サービス・ソリューションを提供する同社では、2017年5月に2050年に向けた中長期環境ビジョン:FUJITSU Climate and Energy Visionを策定。「デジタル革新を支えるテクノロジーやサービスによって脱炭素社会の実現と気候変動への適応に貢献するとともに、2050年の自らのCO2排出のゼロエミッションを実現する」というチャレンジングな目標を掲げています。
中長期環境ビジョンの策定において、その描き方や社内調整といったプロセスで壁に突き当たる企業が多い中、特徴的なビジョンを打ち出すことに成功した同社環境・CSR本部長の金光様、環境企画統括部統括部長の前沢様に、その経緯やポイントをお聞きしました。
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アミタ:中長期環境ビジョンを策定しようと思った理由をまずお聞かせください。
前沢氏:従来から、事業活動を通じた温室効果ガスの削減に取り組んでいます。しかし改めて世界的なトレンドに目を向けた時、パリ協定は大きなターニングポイントであると感じました。
そこで謳われていることは、低炭素ではなくいわば脱炭素です。社会システムそのものを変えなければならない大転換であり、今まで通りの取り組みとは違うレベルでの対応が必要だと認識しました。この事実をきちんと認識した上で富士通が中長期のビジョンを公表することは、社外のステークホルダーに対しても当然必要ですし、ビジョン策定を通して当社としてのアプローチを考えることは、社員にとっても重要であると感じました。
アミタ:策定されたビジョンの特徴として、扱うテーマをCO2排出量削減に絞っていることと、CO2のゼロエミッションを目標にしていることが挙げられます。
金光氏:ICTは社会全体の効率化・最適化に貢献できるポテンシャルが非常に高く、ICTを活用し自らの「脱炭素化」にいち早く取り組むことは、自社にとってもステークホルダーにとっても最重要であると位置付けています。環境ビジョンが社内外に対するメッセージであるとすれば、あえて内容をCO2に絞ることで、メッセージをより明確にするという狙いがあります。
アミタ:ビジョンを描くことも大変ですが、その前に「環境ビジョンの策定」そのものの必要性を社内に理解してもらうことが不可欠です。この段階で多くの担当者が苦労されていると思いますが、富士通ではどのように推進されましたか。
前沢氏:例えば「CO2排出量をゼロにするんだ」という説明を実施した際は、社内から「当社はデータセンターでお客様の資産を預かっているのだから、エネルギーは必要。どうしてもCO2排出量は増えるだろう」という声が挙がりました。
しかし、私たちはCO2排出量をゼロにするにあたって、省エネルギーの取り組みと同時に再生可能エネルギーの活用も選択肢の一つとして考えていましたので、エネルギーを使わないのではなく、使うのだけれども、よりクリーンで効率の良いエネルギーを使うということを丁寧に説明し、誤解を解いていきました。
アミタ:社員であっても、普段から環境・CSRの業務に携わっていない方には、伝えたいことが思うように伝わらないことも多いと思います。個別具体的な話ではなく環境ビジョンといった、経営自体に深く関わる話であればなおさらではないでしょうか。
金光氏:経営の目標設定において、グローバルスタンダードと、日本式の考え方は少し異なっているような気がします。日本ではコミットメントを積み上げた先に目標を設定することが多いですが、欧米では初めにあるべき姿をコンセプチュアルに描き、その後どうやってそこへ向かっていくのかを定める、という考え方なんですよね。「今回つくろうとしているビジョンは後者の考えに基づくものです。」という説明も重要でした。
また、企業全体の姿勢に関わるものですから、トップにも積極的に動いてもらう必要があります。そのためには、世界的なトレンドや他社の対応状況、自社のビジョンの内容についてよく理解してもらうことが重要です。今このタイミングで、こういうメッセージを発信することが必要だということをどのように納得してもらい、社内に浸透させていくか、2014年から3年がかりで戦略的に進めていきました。
アミタ:具体的には、どのように行動されましたか。
前沢氏:パリ協定に注目をしていましたので、環境・CSR本部で「パリ協定に関する世の中の関心が高まったタイミングに合わせて動く」ということを基本方針として定めました。そこから、そのタイミングに向けて、CO2排出量削減に関する中長期環境ビジョンを打ち出す必要があることを、社内のキーマン一人一人に対して、地道に説明をしていきました。国際的なトレンドや他社の対応状況はもちろん、ビジョン設定によるメリットを具体的に説明するよう心掛けました。
また、説得力を高めるためには、社内に「今、自社は環境の取り組みにおいてこれくらいのレベルにいるんだ」という実感を持ってもらうことが有効だと思います。この点については、ビジョンを発表する5月までの間に次々と環境関連の賞を受賞したことが、社内理解の促進に大きく貢献しました。具体的には、日経の「第20回環境経営度調査(2017)」では前年の28位から7位と、大きく順位を上げていましたし、3月には「第26回地球環境大賞」(主催:フジサンケイグループ)を受賞しました。
例えば、「第26回地球環境大賞」の受賞は、グループ会社による世界最小・最高効率のACアダプターの開発が評価されたものでした。社内に、エネルギー効率の高い製品開発に取り組んだ現場の努力が国内外で評価されている事例を知ってもらうことで、温室効果ガス削減に貢献することの重要性や、社会全体からの自社への期待値を実感してもらえたと思います。
アミタ:お話をうかがっていると、環境ビジョン策定というのは環境部の個別の動きではなくて、社内の全体の動きの中で策定までたどり着いたという印象があります。他部署との連携にてついては理解が得られず難しいという声をよく耳にするのですが、先ほどうかがった点以外にも工夫はございますか?
金光氏:さまざまな立場の社員の意見を取り入れていくというのも一つの方法ですが、今回はどちらかというと、担当(部署)としてイニシアチブをとって進めることを重視しました。
例えば、削減施策や導入技術の効果予測などは担当部門にヒアリングを行いました。しかし、ビジョンに取り上げる課題(気候変動)、ゼロエミッションへのシナリオなど重要な部分は本部中心に検討を進めていきました。
色々な意見を集めていくと、時に収拾がつかなくなることがありますし、成果物に特徴(際立つ部分)がなくなります。担当者が、自社の環境のことを一番よく考え、よく知っているのは自分たちなんだという自信を持つことがポイントだと思います。自分たちで責任をもち、一度決めた方針はぶらさない、という心掛けが「CO2ゼロエミッション」を前面に打ち出した特徴的なビジョン策定につながったと感じています。
アミタ:なるほど。環境CSRに対する知識や想いだけでなく、社内でのコミュニケーションや広報戦略がうまく機能したということですね。多くの企業で、環境部が「守り」から「攻め」にシフトできない解決策のヒントが、大いにあるように思います。
策定後のビジョンの社内浸透、そのためのコミュニケーションについてはどのように取り組まれていますか。
金光氏:トップからのメッセージとして、ビジョンを説明する映像を作成し、YouTubeで広く公開しています。社外だけではなく、社内に対してもこういったものは効果的だと感じています。ビジョンには、社内に対してチャレンジを促すという役割もあります。
低いハードルでは社内のモチベーションが上がらず「できない」という結論しか出ないことがありますが、高いハードルだと逆にイノベーションにつながることもあります。
ビジョン策定後は、「富士通は環境に力を入れている」という認識が社内に浸透した実感があり、環境のリーディングカンパニーであることを意識させるという狙いを達成できたと感じます。
今後は、ビジョンに込めたメッセージを引き続き発信していくとともに、達成のために行っていることを社内外に開示する必要性があると思っています。
8月には、本ビジョンのCO2排出削減シナリオが、科学的根拠のある水準として、国際的なイニシアチブ「Science Based Target(SBT)」に承認されていますし、再生可能エネルギーの利用拡大という目標に対しては、「再生可能エネルギーの利用割合を2018年度までに6%以上に拡大する」という定量目標設定しています。
これらの進捗を開示しながら、目標達成に向けて取り組んでいきたいと思います。
アミタ:更なるビジョン実現がますます楽しみですね!本日は貴重なお話をありがとうございました。
話し手プロフィール
金光 英之 氏
富士通株式会社
環境・CSR本部長
1987年 富士通株式会社入社。半導体開発部門のエンジニアとして、ウェハプロセス用の技術開発に15年間従事。環境本部異動後、グループ全社の工場、データセンターを含む省エネ施策、EUの環境政策の調査及びロビー活動(ブリュッセル駐在)に従事し、2017年より現職。
前沢 夕夏 氏
富士通株式会社
環境・CSR本部 環境企画統括部 統括部長
1989年富士通株式会社入社、半導体事業本部にて製造プロセスシステム開発に従事し、2002年より環境本部に在籍、環境経営情報システムの構築、グループガバナンス、コミュニケーション等に従事、2016年より現職
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