インタビュー
ARUN 功能 聡子 氏ARUN|社会を変える"投資"のしくみ "経済的リターン""社会的リターン"両方を追及する
"社会的投資"という言葉を聞いたことがありますか?
貧困問題や環境問題等、現代社会が直面している問題に対しアクションを起こす人々に投資をすることを社会的投資と言います。経済力がなければ続かない"寄付"でもなく、利益一辺倒に偏りがちな"投資"でもない、持続的な支援の形として注目されています。欧米では浸透している概念ですが、日本ではまだまだ周知されているとは言いがたい状況。そんな中、3年前に社会的投資会社を立ち上げ、支援している女性が日本にもいました。ARUN,LLCの功能聡子氏です。
画像:ARUN代表功能氏(中央)。ARUNが入居するオフィスにてスタッフの方と
新興国から、"自分たちが社会を変えていく自覚"を教わった
――まず、ARUNさんの事業概要を教えてください。
功能氏:ARUNは途上国の社会起業家を支援するしくみづくりを行う会社です。
会社としてはLLC(合同会社)の形態をとっていて、82名の方(個人、法人)に出資者として参画していただいています。一口50万、法人の場合は500万を出資していただき、会社として事業に投資をします。出資を通して、社会的投資のしくみを作るムーブメントに参加していただいているという形ですね。
現在は、カンボジアの社会的企業4社に対して投資をしています。
――功能さんは学生時代から海外で活動をされていたんですか?
功能氏:そうですね。学生のとき、『アジア学院』主催のツアーに参加しました。ここは、アジアの農村で活動する"農村指導者"を育てる研修を行っている組織です。私はフィリピンに行ったのですが、当時はちょうど社会が大きく変わる時代の転換点で、学生も政治に目覚め、「社会を変える」という意識が非常に盛り上がっていました。だから、日本で暮らしていた私のほうが刺激を受けて。「私ももっと日本を知らなくては」と思いましたし、"自分たちが社会を変えていくという自覚"をフィリピンの人たちから教わったという意識があります。
――卒業後はカンボジアで働かれていますね。
功能氏:農村の地域保健医療を推進する団体の駐在員として1995年に派遣され、地域の病院や診療所で働く看護師さんと協力しながら、村のお母さんや子どもたちの健康づくりを応援するという新規事業の立ち上げに携わりました。最初は2年間の予定だったんですが、深く関わるうちにだんだん伸びて、最終的には10年カンボジアにいましたね。
――当時のカンボジアはどういう状況だったんでしょうか。
功能氏:カンボジアは1970年代から内戦が続き、91年に和平協定、93年に選挙があって、ようやく今の民主的な体制になった国です。90年代は戦争の傷跡を残していて、戦後復興・平和構築のために様々な支援が入っていました。2000年以降は、「自分たちが新しい時代を担う」という意識を持った若者が増えてきて、そういう新興国の若いエネルギーを強く感じるようになりましたね。
カンボジア全体で言うと年間6~7%の経済成長率で、どんどん変化しています。ただ、もちろん都市と農村の間では格差があって、経済成長の恩恵を受けるところとそうでないところの明暗ははっきり分かれています。それを埋めていく一つの解が社会的企業にあるんじゃないか、と考えています。
起業家との出会いが、投資家の力にもなる
――それでARUNを立ち上げることになったんですか。
功能氏:ええ。10年間カンボジアに住んで変化を見ていく中で、カンボジア人自身が開発の担い手になっていく、あるいはもっと持続可能な開発を進めていくには、ビジネスの力が必要だと思ったんです。そういった社会起業家を支援するための社会的投資のしくみを作ろうと、2009年にARUNを始めました。
私自身、カンボジアに「助けに行く」という感覚はなくて、アジアでイキイキと生きている人たちに触れることが、非常に大きな喜びとなっているんですね。なので、投資家さんにとっても、新興国で頑張っている起業家さんと出会うことが気づきや発見になったり、生きる喜びのようなものの再発見につながるのではと思っているんです。
"起業家と出会い、一緒に事業を作っていく"ことを大事にしています。
――具体的には、どんな会社に投資をされているんですか?
功能氏:たとえば、カンボジアの家族経営の農家さんが作った農産物を市場に流通していく、マーケティング流通販売の会社に投資しています。
この会社を"社会的企業"と考える理由の背景には、カンボジアの農業や流通の問題がありまして。いま、カンボジアの7割が農民と言われていながらも、首都で売られている農産物のほとんどがタイやベトナム産なんですね。品質や時期を揃えた形で出荷する体制や流通する体制がなかったり、買取や流通業者の力がなかったりすることが原因です。逆に良い農産物は-特に米なんですが、資金力のあるベトナム人のバイヤーにすぐ買われてしまいます。売れないか、言い値で買われるか。これがカンボジアの農家さんが直面している問題なんです。
だから、小さな農家さんが作った有機農産物を、フェアな価格で市場に届けて、きちんと農家さんに対価を払う、という会社に投資をすることで、この問題を改善したいと考えています。貧困にある農家さんの事業を助けることにもなりますし、カンボジアの農業振興にもつながるのではないかと思います。
経済的リターンと社会的リターン、両方を追及する
――失礼な質問かもしれませんが、単純に"投資"として捉えた時に、費用対効果を考えると少し弱い面もあるのでしょうか。
功能氏:私たちがこれを"社会的投資"と呼んでいるのは、今までの商業的な投資でもなく寄付でもない、新しい第三の道と考えているからです。投資のリターンとして、経済的なリターンと社会的なリターン、両方を追及するという新しいスキームを広めていきたいと思っているんですね。
投資を決める時も、事業性のような通常の投資で見るところももちろん見るんですが、同時に社会性の基準というものも設けて見ています。
ただ、ファイナンシャルなリターンはお金が返ってくるので成果がすぐにわかる一方、ソーシャルリターンのほうは、見えづらいんです。社会的なリターンを評価して投資家の皆様と共有するしくみをどう作っていくか、どうご提示すればより喜んでいただけるか。それが今は課題ですね。
――企業はARUNさんの活動にどう関わっていけるでしょうか。
功能氏:企業の方には、新しいCSRの方法をご提案できるのではと思っています。と言うのは、カンボジアでよく「なんで日本人は学校ばかり建てるの?」と聞かれたんです。CSRと言えば学校を建てることで、建てて終わりではもったいないですよね。「貢献したい」という気持ちは皆さん持っていらっしゃるので、その実践方法としてもう少しいろいろな形があってもいいんじゃないかと。"社会的投資で起業家を応援する、それを通してよりサステナブルで社会的インパクトの大きなことを成し遂げていく"というのは、1つの大きなCSRの形に成りうると思っています。
――そうですね。企業の方が現地に入って活動するのも立派なことですが、自分たちの事業分野とは関係ない部分を0から始めるよりも、現地のプロを応援するほうが、より効果的だと思います。
功能氏:企業の方に、途上国の起業家の魅力というものを、もっともっと知っていただきたいなと思います。現地のネットワークが構築できるのはもちろんですが、一緒にビジネスモデルを作っていくことで学びや感動があり、日本に対する波及効果も出てくるのではと思っています。ぜひ、協業していきたいですね。
――ARUNさんでは学生さんとも関わっていらっしゃるそうですが、最近の学生は、功能さんから見てどうですか?
功能氏:今年8月に、日本人・カンボジア人・ミャンマー人の学生がビジネスプランを競い合うコンペを行いました。これに参加した日本人の学生さんが、「カンボジアの学生、すごい!びっくりした」「自分の将来を考えました」と。新興国の人たちとの出会いって、刺激になるんですよね。
学生さんには、今までやったことがないこと、難しいことに、どんどんチャレンジしてほしいですね。そういう人がもっともっと増えればいいなと思います。
――社会貢献の想いだけが先行してビジネスマインドが抜けている若者も多いと思うのですが、それではサステナブルではないですよね。両立が必要だと思うのですが、いかがでしょうか。
功能氏:どうやって両立するのかという決まった解って、いまはないんですよね。だから日本が進んでいるとかカンボジアが進んでいるとかではなくて、みんな新しいフロンティアで解を探しているところじゃないでしょうか。実践を通して見つけていきたいですね。
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