インタビュー
株式会社渡會 取締役 食品加工本部長 遠藤 彰氏創業91年。今、水産業界で直面するCSRの苦悩とは -「収益性」と「資源確保」両立へのチャレンジ
水産物の漁労・加工・販売を手がける株式会社渡會(わたらい)は日本を代表する漁業の町宮城県塩釜市に拠点を構えている。創業は、大正10年。当時、三陸に定置網の漁法を広げるために渡会宇平氏と杉浦太平氏の二人が三重県から移住して会社を起した。その後、会社は20隻を超える船を持ち、世界を股にかけて漁業を行うことで大きく成長した。そして、現在は漁労だけでなく、水産物の加工・販売と広く手がけている。
しかし、その成功の歴史は「水産資源の確保」という世界的なテーマの中で、絶えず変化する制度・法律・環境との戦いの歴史でもあった。
今回は、現在も独自のフロンティア精神で「収益性の確保」と「持続的な水産資源の確保」の両立のため、先進的なチャレンジをつづける株式会社渡會の遠藤氏に話を伺った。
-渡會さんが今まで歩んできた歴史を伺わせてください-
先々代が三重県の渡會郡から塩釜に移住して漁労会社を立ち上げました。200海里漁業水域の話が出るまでは約20隻の船を持って世界中で漁をしていました。また、1976年にマグナソン・スティーブンス漁業保存管理法※1ができるまではアメリカでも漁獲枠をもって漁業をしていまして、最近までは獲った魚を国内に販売することが売上の中心でした。その後、今から約6年前に、加工をした製品の売上を増やしていく必要があると考え、現在では売上の半分近くは加工製品の販売によるものになっています。
※1:マグナソン・スティーブンス漁業保存管理法...日本貿易振興機構 農林水産部 http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000298/us_mizu.pdf 2010年3月
-加工のシェアを広げた経緯は?-
我々の強みは創業から培ってきた原料調達力です。基本的には、獲った魚を老舗の加工会社に販売してきましたが、バブルがはじけた後、三陸でも競争が激しくなり、やめられる方が出てきました。加工をしてくれる方も少なくなっていく状況の中では、自分で獲った魚を自分で加工してどんどん売っていくことが一番良いと考えるようになり、加工を始めました。販路としては、地元での販売だけでなく、工場で簡単に加工したものをどんどん輸出していました。そのため、輸出先のアメリカやヨーロッパの基準に合わせて、当時宮城県内では取得している企業も少なかったHACCP認定※2も取得しました。
※2:HACCP認定...農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/haccp/ 2012年5月31日
-その中、渡會さんがMSCをとろうと思ったきっかけは?-
大手量販店さんからの提案です。どこもやっていないから先駆けてやろうという話でした。まずは冷凍売り場にMSC※3ラベルを並べるぞと。日本でMSCが始まる前だから6年ぐらい前になります。
※3:MSC...MSC(Marine Stewardship Council: 海洋管理協議会)認証には、適切に管理された漁業を認証する「MSC漁業認証」と、認証水産物の加工・流通全ての過程におけるトレーサビリティに対して認証する「MSC COC認証」があります。認証された漁業から得られた水産物には、MSCラベルがつけることができます。 http://www.aiec-net.co.jp/msc/about.html
-MSCの意義や必要性は感じますか?-
うちは元々漁労会社なので、どんどん魚を獲ってくれば、水産資源が枯渇するということは身をもって理解しています。ですから国内でも漁獲制限の中で漁をしています。産卵の時期は禁漁などの条件もあります。それでも去年獲れたものが獲れなくなったり、水産資源の魚体が小型化しているということは現実として起こっています。
その状況を見ると、アメリカみたいに管理を厳しくしないと魚はいなくなるということが理解できますし、MSCのような認証制度があれば、「持続可能な水産資源の確保」という方向に進むだろうと以前から感じていました。
-企業がMSCを取得するメリットは?-
MSCの意義は安定的な水産資源を消費者に供給できる点です。資源がないと全国に安定供給できませんが、MSCの商品を扱うことで、持続的に水産物・水産加工品を供給できるようになります。実際に、水産物について「今はこうなっている。3年先、5年先は獲れなくなっちゃうのかな。」ということを考えて積極的にMSCを取り入れている企業もあります。
しかし、消費者の認知度の低さから量販店さんが取扱いにくいということもあり、国内のMSC製品は流通している水産製品全体の中ではごく少数です。そのため、正直、量販店さんに卸している水産加工の企業がMSCのメリットを認識してくるのは、10年先になるとも思っています。まずはもっと大手の量販店さんや消費者にMSCを理解してもらう必要があると思います。
-MSCの課題はありますか?-
消費者の認知度の低さにつきるのではないでしょうか。認知度が低い状況では、パッケージにラベルが付いているだけでは十分ではないと思います。MSCマークが入った商品を売っていくことが消費者の認知度の向上にもつながると理解して、積極的にMSC商品を取り扱っている量販店さんもいます。ただ、それでも一部の企業努力だけでは限界がありますから、もっともっと広げていく必要がありますよね。
-今後、期待することは?-
一般の消費者にMSCのことを広く知ってもらい「限りある資源をみんなで上手に使おうよ。計画的に資源管理をやっていこうよ」という意識が当たり前になることを期待します。時間はかかると思いますが、そのためにはやはり量販店さんに積極的にMSC製品の取り扱いを増やしてもらい、どこのスーパーに行ってもMSCマークのついた水産物が当たり前のように並んでいるようになって欲しいと思います。
プロフィール
遠藤 彰 氏
株式会社渡會
取締役 食品加工本部長
2006年に入社。当時主要事業ではなかった水産加工・販売分野の推進に尽力。商品の加工・販売に必要な仕組みを柔軟に取り入れ、売上の半分を占める事業にまで成長させる。
株式会社アミタ環境認証研究所ではセミナーを開催しています
水産資源の枯渇のグローバルな動向と、その解決策の1つであるMSC認証の仕組みやメリットについて、初めての方にも分かりやすくご説明する無料セミナーを開催しています。水産物を取り扱う企業のご担当者様はぜひ、一度ご参加ください。
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