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欧州電池規則(欧州バッテリー規則)とは?概要と要求事項を解説
欧州電池規則とはEU内で流通する電池のライフサイクル全体を管理し環境負荷を低減することを目的とした規則です。規則の概要と主要な要求事項を解説します。
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欧州電池規則とは
欧州電池規則(欧州バッテリー規則)とは、環境負荷を最小限に抑えることを目的とし、EU市場内で使用されるほぼすべての電池製品の原材料調達から設計・生産プロセス、再利用、リサイクルに関して義務的な要件を定めたものです。ライフサイクル全体を規定することで、資源の効率的な利用やカーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products、CFP)の削減を促進することが期待されています。
EUでは2023年8月17日に施行され、2024年から順次、規定された開始時期に沿って各義務が適用されています。スケジュールについては詳しく後述します。
欧州電池規則の目的・背景
欧州電池規則の目的は、材料の調達から回収、リサイクル、再利用まで、バッテリーのライフサイクル全体を持続可能なものにすることです。欧州電池規則の前身となる指令が、2006年9月に発効された電池指令(バッテリー指令)です。この指令は特定の水準を上回る水銀やカドミウムを含む電池及び蓄電池の販売を禁止し、使用済み電池と蓄電池の回収及びリサイクル率の向上とライフサイクル全体における環境パフォーマンスの改善を目指したものでした。
電池指令は、2020年12月、循環型経済行動計画(第1弾)の取り組みの一環として、改正に向けた審議が進められ、欧州電池規則が施行されました。そしてこの規則はEUで発表された環境配慮と経済成長の両立を目指した政策である「欧州グリーン・ディール(2019年)」とも関連づいています。欧州グリーン・ディールの主要施策の1つである「循環型経済行動計画」にて、持続可能な循環型経済を実現するための具体的な行動として示された内容や考え方が、欧州電池規則にも盛り込まれています。上記の計画を進めていく上で、欧州電池規則の取り組みを先行事例とし他の製品や部品についても規則を設け、効率的な資源活用を目指していくことが予想されています。
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〇欧州電池規則が注目されている理由
それではなぜ、欧州電池規則が注目されているのでしょうか。日本でもサステナビリティや資源循環に関する関心は高まっていますが、電池に限定した規則が注目される理由について疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
欧州電池規則が注目されている理由は、循環型経済の実現に向けて積極的な取り組みを進めているEUで新しく適用された規則であり、現代社会において電池が必要不可欠な役割を担っているためです。電子機器の普及により、電池は現代社会の生活や産業から切り離すことはできないものであり、また気候変動の対応策として電動化を推進する上で、今後より需要が高まると予想されています。
車載用・定置用蓄電池の需要推移
出典:経済産業省
さらに、今後EU域内に流通する広範な製品に適用される「エコデザイン規則(Ecodesign for Sustainable Products Regulation 、ESPR)」の"走り"と見なし得ること、また本規則が製品のカーボンニュートラル化とサーキュラーエコノミー化を明確に要求したものであることも挙げられます。
エコデザイン規則は2024年7月、前身となるエコデザイン指令を改正する形で施行されました。この新規則では、今後EU市場に投入されるほぼ全製品を対象として、製品分野ごとのエコデザイン要求の順守を求め、その中では、デジタル製品パスポート(Digital Product Passport 、以下DPP)や、リサイクル素材使用率の基準化、売れ残り廃棄の禁止などが議論されています。バッテリー規則は、エコデザイン規則に先行して発出されましたが、その内容にはエコデザイン規則のドラフト段階の意向が色濃く反映されており、一つの試金石と見なすことができるのです。
エコデザイン規則は「製品のカーボンフットプリントと環境フットプリントを削減する」ことを目指しており、バッテリー規則の要求事項を見ると、その意向が反映されていることがよく分かります。
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欧州電池規則の適用範囲・対象
本規則は成分や形状に関わらず、すべての種類の電池に適用されます。原則すべての電池が対象となっていますが、一部対象外のものもあります。
欧州電池規則にて対象となる電池の種類
・携帯用電池 ・始動・照明・点火(SLI)用電池 ・軽輸送手段用(LMT)電池 ・電気自動車(EV)用電池 ・産業用電池 ・製品に組み込まれるか、または製品に組み込まれるように設計された電池など |
欧州電池規則対象外の電池の種類
・加盟国における重要な安全保障上の利益、武器、弾薬、戦争物資の保護に関連する機器 ・宇宙に送られるように設計された機器 |
欧州電池規則の具体的な内容と要求事項
欧州電池規則で定められているのはどのような内容なのでしょうか。ここからは主要な規則内容について紹介していきます。
欧州電池規則の主要な規則内容
1.カーボンフットプリントの申告義務 2.リサイクル原材料の使用情報申告義務と使用割合の最低値導入 3.廃棄された携帯型バッテリーの回収率 4.責任ある原材料調達・デューデリジェンス 5.デジタル電池パスポート |
1.カーボンフットプリントの申告義務
欧州電池規則の7条では電気自動車用電池および産業用充電池、輸送手段用(LMT)電池のCFPに関する要求事項が規定されています。CFPとは、商品が生産され廃棄やリサイクルに至るまでのライフサイクルで排出されるGHG排出量を計算し、その商品やサービスに表示する仕組みです。欧州電池規則では、CFPの申告書の作成が義務付けられています。CFPの申告開始時期は電池ごとに定められており、例えばEV用電池の場合は2025年2月18日(または該当する法の発効後12か月のいずれか遅い方)から適用されています。
カーボンフットプリントの申告義務適用時期
電気自動車用(EV)電池: 2025年2月18日または該当する法の発効後12か月のいずれか遅い方 産業用電池: 2026年2月18日または発効後18か月のいずれか遅い方 軽輸送手段用(LMT)電池: 2028年8月18日または発効後18か月のいずれか遅い方 外部ストレージを持つ充電式産業用電池: 2030年8月18日または発効後18か月のいずれか遅い方 |
申告したCFPを表示するラベルの規則についても電池の種類ごとに検討が進んでいます。また、今後CFPの上限値も導入され、設定された上限値を下回っていることの証明が求められるため、基準値を上回る電池の取り扱いは難しくなる予定です。
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2.リサイクル原材料の使用情報申告義務と使用割合の最低値導入
また、欧州電池規則では原材料のうちリサイクルされた原材料の使用量を開示する義務が発生します。さらに、リサイクル原材料の使用割合の最低値が設定される予定です。特に、電池材料として現在多く採用されているコバルト、リチウム、ニッケルは、EUにおける重要な原材料であるCritical raw materialと位置づけられており、これらの資源を筆頭に、リサイクル原材料の使用を推進することで、バージン原料の使用を抑制していくことが目的だと考えられます。
リサイクル原材料の使用情報申告義務適用時期
電気自動車用(EV)電池: |
リサイクル原材料の最低含有率の導入予定
対象:2kWh以上の産業用電池 ・2031年8月18日から ・2036年8月18日から |
3.廃棄された電池の目標回収率設定
欧州電池規則では電池の生産者が廃棄された電池の分別・回収をする必要についても指摘した上で、メーカーによる使用済みバッテリーの回収率の達成目標が定められています。目標が設定されている電池は携帯用電池と軽輸送手段用(LMT)電池の2種類です。
使用済み電池の回収義務内容
・携帯用電池の回収率達成目標 ・軽輸送手段用(LMT)電池の回収率達成義務 |
4.責任ある原材料調達・デューデリジェンス
さらに、本規則では電池のサプライチェーンにおける人権侵害、環境破壊などのリスクを特定し、防止または軽減するためにデューデリジェンスの義務も定められています。
義務の内容としては2025年8月18日から事業者は、電池のサプライチェーン上で起こり得るリスクについて、対応方針を策定し運用する義務が適用される予定です。
5.バッテリーパスポートの導入
製品のライフサイクル全体でトレーサビリティを確保するために情報を記録する電池のデジタル製品パスポートとしてバッテリーパスポートも導入される予定です。
バッテリーパスポートの導入予定と対象とする電池の種類
2027 年 2 月 18 日から |
欧州電池規則の適用スケジュール
これまで、欧州電池規則の主要な内容について解説をしました。回収義務目標やCFPの申告義務など既に適用時期が開始しているものもあるので、対応時期を把握した上で計画的に取り組みを進めていく必要があるでしょう。
電池の種類ごとの規則適用時期
出典:欧州連合(EU)Battery Regulationを参考にアミタ作成
※1 CFP:Carbon Footprint of Products(カーボンフットプリント)
※2 DD:Due Diligence(デューデリジェンス)
※3 バッテリーパスポート
※4 2kWh以上の産業用電池に限る
まとめ
本記事では、欧州電池規則の目的と内容について解説しました。本規則はEU市場を対象としていますが、EU市場での販売活動を行う企業や、進出を計画している企業にとって、大きな影響を及ぼすことが予想されます。
具体的には、CFPの算定には継続的なデータ収集と評価が必要であり、再生材含有率の達成には製品の再設計が求められます。電池の種類によって適用時期は異なりますが、対応には十分な時間と計画的な準備が必要となるため、早急な対応が望まれます。
本規則はEUを対象としていますが、日本でも経済産業省の「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」を中心に施策や取り組みの検討が進められています。 他の製品や業界への類似規則の導入や、日本市場での同様の規制適用の可能性も視野に入れ、サステナビリティ関連情報の算定・管理や製品の再設計への取り組みが求められるでしょう。
さらに、電池は価格や技術的な課題も複数あることに加え、各国の政策が貿易とサプライチェーンに影響を及ぼすことが懸念されています。今後の動向に注目しましょう。
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執筆者情報(執筆時点)
梅木 菜々子(うめき ななこ)
アミタ株式会社
サーキュラーデザイングループ
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