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日本のサーキュラーエコノミー関連の最新方針(再生材の利用関連義務の拡充等を含む)を解説!
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再生材の利用関連義務の拡充等を含む、サーキュラーエコノミー実現に向けた今後の日本の施策方針について、2024年6月、経済産業省(以下、経産省)は「成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)」の中で公表しました。経産省の今回の公表内容の概要とポイント、関連する欧州の規制や日本企業の取り組み事例について解説します。
目次
・ポイント①: サーキュラーエコノミー促進のための開示を推進 |
【最新ニュース】2024年6月、経産省が「成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)」を公表
経産省は、サーキュラーエコノミーを本格導入するために、2024年6月27日付で「成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)」(以下、中間とりまとめ案)を公表しました。この中間とりまとめ案では、今後の施策案として、循環指標ガイドラインの策定、再生材利用計画報告の義務化、エコデザイン(環境配慮設計)制度の導入、トレーサビリティ促進のための表示制度の導入などが挙げられており、今後サーキュラーエコノミー実現に向けた施策を本格化していく姿勢であることが読み取れます。
出典:経済産業省
「成長志向型の資源自律経済戦略」とは
今回の中間とりまとめ案の土台となっている「成長志向型の資源自律経済戦略」(以下、資源自律経済戦略)は、経産省によって2023年3月に策定されました。資源自律経済戦略では、資源調達や環境等のリスク低減や、サーキュラーエコノミーを通じた新しい成長を見据えて、今後の取り組みの大まかな方向性をまとめた内容となっています。
今回の中間とりまとめ案は、資源自律経済戦略に基づいて、より具体的な施策案を提示するものです。とくに、線形経済について「線形経済は『天然資源強国』に富が集中し、資源調達に係る地政学的リスクに直結」するという説明が付されています。また「環境価値が適切に評価されなければ、環境・労働規制が緩い第三国に需要が流出する」リスクにも言及しています。このように、今回の中間とりまとめ案は、線形経済からサーキュラーエコノミーへと本格的に舵を切るための方向性を指し示したものといえます。
「成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)」の4つのポイント
本章では、中間とりまとめ案の中で着目すべき事項を4点にわけてまとめました。
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ポイント①:サーキュラーエコノミー促進のための開示を推進
中間とりまとめ案では、サーキュラーエコノミー実現のために重要な指標(再生材の利用拡大、製品寿命・耐久性の向上など)を整理し、企業での実態のモニタリングや自主的な情報開示を推進するための「循環指標ガイドライン」を策定するとしています。
背景にある欧州規制
欧州では2023年1月に「企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive: CSRD)」が発効され、非上場企業も含むEUの大企業やEUで活動する域外企業を対象に、2024年会計年度から順次、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)にもとづく情報開示を義務付けています。CSRDは情報開示項目の一つとしてサーキュラーエコノミー(ESRS-E5:『資源利用および循環経済』)を含めた規制であり、今後その影響はEU域外の企業にも確実に及んできます。
また、2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)によって、サステナビリティ開示の国際基準であるIFRS S1 S2が公表されるなど、サステナビリティ関連の情報開示は近年ますますさかんになっており、日本の新施策もこのような動きの中に位置づけられるといえます。
CSRD、IFRS S1 S2についての詳細は、以下の記事をご覧ください。
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IFRS S1 S2 とは?概要と一部義務化も見据えた今後の動きを解説!
- ポイント②:再生材の利用に関する義務の拡充
中間とりまとめ案では、プラスチック等の再生材の利用に関する義務を拡充する方針が示されています。具体的には「再生材の利用等に関して取り組むべき事項の明確化、それに関する計画の策定、実績の定期報告」や「特に有用物を多量に含むが国内循環ができていない工程端材を再生利用する義務を措置する」ことが検討されており、具体的な内容については今後の検討対象となっています。現行の資源有効利用促進法では、再生材の利用が要求レベルに留まっているのと比較すると、新方針ではより強い義務が課されることになりそうです。
背景にある欧州の規制
新方針は、欧州の既存の規則に倣うものとなっています。欧州委員会は、2020 年 3 月に採択した「新循環経済行動計画(CEAP)」に基づき、再生材の利用に係る最低要求基準の設定がいくつかの品目について定められています。例えば、2023 年8 月に施行されたバッテリー規則は、EU域内で販売されるすべてのバッテリーを対象として、カーボンフットプリントの申告義務や、リサイクル済み原材料の使用割合の最低値などを定めています。また、2023 年7月に発表された「自動車設計・使用済自動車(End-of-Life Vehicles:ELV)管理での持続可能性要件に関する規則案」(ELV規則案)は、新車生産に必要なプラスチックにおいて再生プラスチックを最低25%(うち廃車由来25%)利用することなどを求めています。その他、電気電子機器、容器包装プラスチックなどの品目ごとに再生材利用要求が定められています。
▼再生材利用に関する欧州規制一覧
品目 | 内容 |
バッテリー | 【バッテリー規則】(2023年8月施行) - 一定割合以上の再生原料使用を義務化 2031年8月~:Co 16%, Li 6%, Ni 6% 2036年~:Co 26%, Li 12%, Ni 15% - カーボンフットプリントの上限値の遵守 - バッテリーパスポート導入 |
自動車 | 【ELV規則案】(2023年7月発表) - 規則発効から6年以降の型式認証車について、新車生産に必要なプラスチックの25%以上(うち廃車由来で25%以上)で再生プラスチックの使用義務化 |
電気電子機器 | 【循環型電子機器イニシアチブ】(2020年3月発表) - 耐久性の向上、アップグレード期間の長期化・修理・メンテナンス・再利用・リサイクル可能にすることで製品寿命を延ばす 【電気電子機器廃棄物(WEEE)指令】(2003年発効、2012年改正) - WEEEの発生抑制と再利用・リサイクル推進 |
容器包装プラスチック | 【包装・包装廃棄物に関する規則案】(2024年3月発表) - プラスチック製包装中の再生プラスチックの使用率を包装種別ごとに義務化 2040年までに飲料ボトル65%, 食品接触型(PET由来)50%, 食品接触型(非PET由来) 25%, 非食品容器65% |
(経産省「成長志向型の資源自律経済戦略の 実現に向けた制度見直しに関する 中間とりまとめ(案)」をもとにアミタ作成)
- ポイント③:エコデザイン(循環配慮設計)の促進
中間とりまとめ案では、リサイクル可能性(リサイクラビリティ)の高さなどについて評価を行い、資源・部品レベルでの再利用の促進につながるエコデザイン(循環配慮設計)を認定する制度の導入を検討する、としています。この中で、再生材の利用割合を表示するラベリング制度の導入も検討されています。
背景にある欧州の規制
欧州では既に2009年より「エコデザイン指令(EuP)」が施行されており、エネルギー関連製品(エネルギーの消費に直接・間接的に影響を及ぼす幅広い製品を指し、家電製品、情報通信機器の他、冷暖房効率に影響を及ぼす窓枠や断熱材などの資材等も含む)を対象に、製品の設計段階で生産者に規制を定めています。なお、2024年7月18日に、本指令を改正する形で、エコデザイン規則(ESPR)が施行されました。この新規則では、EU 市場に投入されるほぼ全製品を対象として、製品分野ごとのエコデザイン要求の順守を義務付けるとしています。
- ポイント④:トレーサビリティ促進のための表示制度の導入
中間とりまとめ案では、耐久財の資源循環に関する情報や販売・修理の履歴等をステークホルダー間で共有可能とし、消費者の賢い選択にもつなげるために、トレーサビリティのための表示を特定の耐久財に課す方針を検討しています。さらに「サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォーム」に、特定の製品・素材を提供するすべての国内外メーカー、流通などの関係者が参加することを画策しています。
背景にある欧州の規制
欧州のエコデザイン規則(ESPR)では、今後、持続可能性に関する情報の透明性を高めるべく、デジタル製品パスポートの製品への添付(または製品パッケージやそれに付属する書類への添付)を義務化し、製品のライフサイクルや製品のエネルギー性能などに関する情報を見える化するほか、売れ残り製品に関する情報(事業者の年間廃棄量や廃棄理由、リサイクルなどへの取り組み状況など)の開示も義務化される予定です。
さらに、欧州議会は2024年4月に「修理する権利」指令を採択しました。この指令においては、家庭用電化製品などについて、法的な製品保証期間を過ぎても、製造業者の修理が要求されます。また、消費者にとって修理へのアクセスが容易になるよう、製造業者は部品を適正な価格で提供することが義務付けられ、消費者から製品修理を依頼された場合に経済的な理由等によって拒否することを禁じられています。さらに、欧州のオンラインプラットフォーム上で、消費者が修理業者を比較できるようにすることも予定しています。このように、製品の修理を普及させていく欧州での動きは、日本の今後の法規制にも影響すると考えられます。
(出典:Codrut Evelina's Images)
企業の取り組み事例
中間とりまとめ案からは、日本でも今後はサーキュラーエコノミー推進に向けた規制が本格化することが読み取れます。中間とりまとめ案で検討されている施策が欧州の既存の規制に倣うものであるため、欧州の規制を参照しながら今後に備えることも重要でしょう。この章では、サステナビリティを先駆的に事業に取り入れている企業の事例を2つご紹介します。
- キユーピー株式会社
キユーピー株式会社(以下、キユーピー)は、2023年8月上旬より、ドレッシングボトルに、国内調味料として初めて、100%再生PET樹脂ボトルを採用しています。キユーピー「テイストドレッシングシリーズ」と機能性表示食品のドレッシングの全品が対象となっており、キユーピーが掲げる2030年度目標「プラスチック排出量削減率30%以上(2018年度比)」の達成に向けた重要な取り組みです。キユーピーは今後、再生PET樹脂100%利用を他の商品でもすすめるとしています。
▼100%リサイクルボトルを使用した製品
(出典:キユーピー株式会社 企業サイト)
- 株式会社ユニクロ
ファーストリテイリンググループの株式会社ユニクロは「RE. UNIQLO」という取り組みを通じて、不要になった衣類の回収、リユース、修理・リメイク、リサイクルサービスを提供しています。実際に、回収したダウン商品から取り出したダウン・フェザーを利用して新しいダウン商品を作り出す取り組みを実施しています。このような取り組みを通じて、ファーストリテイリングは、2030年度までにリサイクル素材を全素材の50%で使用する目標の達成を目指しています。
▼衣類の回収ボックス
(出典:株式会社ユニクロ「RE. UNIQLO」)
さいごに
今回の日本の新方針は、プラスチック資源循環法などのこれまでの規制と比較して、より強制力の大きいものとなっています。欧州などにおいてサーキュラーエコノミー関連の規制が強化されていく中で、今後国内でも規制が強化されることが予想されます。このような中で企業には、資源調達や廃棄物の処理・再利用の変革がますます求められています。
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執筆者情報
井茂 絢花(いしげ あやか)
アミタホールディングス株式会社
カンパニーデザイングループ
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