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IFRS S1 S2 とは?概要と一部義務化も見据えた今後の動きを解説!

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IFRS S1 S2はサステナビリティ開示のグローバル基準として2023年に開発され、また、将来的に一部企業への義務化も見据えた日本版 IFRS S1 S2の開発も進められています。本記事では、IFRS S1 S2の概要や今後の動きについて解説します。

目次

 ・IFRS S1 S2基準作成の背景

 ・IFRS S1の概要

 ・IFRS S2の概要

 ・IFRS S1 S2とTCFDとの違い

IFRSとは

IFRSとは「International Financial Reporting Standards」の略で、国際財務報告基準と訳されます。国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board : IASB)により世界共通の会計基準を目指して2001年に設立されました。IFRSは、世界の金融市場に透明性、説明責任及び効率性をもたらす基準を開発することを目的としており、現在145の国または地域でIFRS会計基準の使用が企業に義務として課され、13の国や地域で任意適用が認められています。日本において適用は義務ではないものの、競争力強化や国際的な整合性確保の観点から導入が急速に進められ、2024年5月末時点で272社が適用済です。

IFRS S1 S2とは
  • IFRS S1 S2基準作成の背景

近年、サステナビリティ関連リスクや関心の高まりに伴い、サステナビリティが投資家にとって主要な考慮要素となっています。このような社会の変化に伴い、サステナビリティ関連の任意基準が乱立し、基準の統一の必要性が高まっていました。2021年にIFRSは、国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board : ISSB)を設立し、次の4つの目的を掲げました。

  1. サステナビリティ情報開示のグローバルベースラインとなる基準を開発する
  2. 投資家の情報ニーズを満たす
  3. 企業が包括的なサステナビリティ関連情報をグローバル資本市場に提供することを可能にする
  4. 国や地域ごとの、より広範なステークホルダーを見据えた基準との相互運用性を促
    進する

そして2023年6月、ISSBは最初のサステナビリティ開示基準としてIFRS S1 及びS2 を公表しました。

  • IFRS S1の概要

IFRS S1は「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般要求事項」のことです。IFRS 財団は、IFRS S1の目的を「一般目的財務報告書の主要な利用者が企業への資源の提供に関する意思決定を行うにあたり有用な、当該企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示することを当該企業に要求することにある。」と説明しています。
開示項目は、ガバナンス、戦略、リスク管理、そして指標及び目標(targets)です。

▼IFRS S1の開示項目と主な開示内容

開示項目 主な開示内容
ガバナンス サステナビリティ関連のリスク及び機会の監督責任主体。また、同リスク及び機会をモニタリング・管理・監督するために用いるガバナンスのプロセス・統制及び手続における経営者の役割。
戦略 サステナビリティ関連のリスク及び機会 企業の見通しに短・中・長期的にどのように影響を与えるのか。「短期」「中期」「長期」の定義やその理由も含む。
ビジネスモデル及び
バリューチェーンに与える影響
サステナビリティ関連のリスク及び機会がどのように影響を与えるのか。また、バリューチェーンのどの部分に同リスクや機会が集中しているか。
戦略及び意思決定に与える影響 サステナビリティ関連のリスク及び機会に対して、企業戦略や意思決定がどのように対応してきたか・対応する計画であるか。過去の報告機関に開示した計画に対する進捗やトレードオフの開示も含む。
財政状態、財務業績及びキャッシュフローへの影響 サステナビリティ関連のリスク及び機会が、財政状態、財務業績及びキャッシュフローに与えた影響、及び、短・中・長期的に与えると予想される影響。
レジリエンス サステナビリティ関連のリスクに関連する戦略及びビジネスモデルのレジリエンスに関する定性的・定量的評価と、評価の実施方法・時間軸に関する情報。
リスク管理 サステナビリティ関連のリスクを識別・評価し、モニタリングするために用いるプロセス及び方針。これらが、企業の全体的なリスク管理プロセスとどのように統合されているかも含む。
指標及び目標(targets) 適用される「IFRSサステナビリティ開示基準」で要求されている指標。及び、企業がサステナビリティ関連のリスク又は機会や、それに関連する企業パフォーマンスを測定・モニタリングするために用いている指標。戦略的目標(goals)のために設定した目標(targets)がある場合は、目標(targets)を設定・モニタリングするための指標なども含む。

参考:ISSB「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項

  • IFRS S2の概要

IFRS S1 が「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般要求事項」であるのに対し、IFRS S2は「気候関連開示」のことです。IFRS 財団は、IFRS S2の目的を「一般目的財務報告書の主要な利用者が企業への資源の提供に関する意思決定を行うにあたり有用な、当該企業の気候関連リスク及び機会に関する情報を開示することを当該企業に要求することにある。」と説明しています。ここで「気候関連リスク」とは「物理的リスク」及び「移行リスク」を指します。
開示項目はIFRS S1と同様で、ガバナンス、戦略、リスク管理、そして指標及び目標(targets)です。具体的な開示内容はIFRS S1と異なる部分があるので、注意が必要です。

▼IFRS S2の開示項目と主な開示内容

開示項目 主な開示内容
ガバナンス 気候関連のリスク及び機会の監督責任主体。また、同リスク及び機会をモニタリング・管理・監督するために用いるガバナンスのプロセス・統制及び手続における経営者の役割。
戦略 気候関連のリスク及び機会 企業の見通しに短・中・長期的にどのように影響を与えるのか。「短期」「中期」「長期」の定義やその理由も含む。また、それぞれのリスクが「物理的」「移行的」のいずれであるかを説明する必要がある。
ビジネスモデル及びバリューチェーンに与える影響 気候関連のリスク及び機会がどのように影響を与えるのか。バリューチェーンのどの部分に同リスクや機会が集中しているか。
戦略及び意思決定に与える影響 気候関連のリスク及び機会に対して、企業戦略や意思決定がどのように対応してきたか及び対応する計画であるか。具体的には、同リスク・機会に対処するためにビジネスモデルの現在の変更や変更予想、気候関連の移行計画を有している場合の変更計画、気候関連の目標がある場合にその達成に向けた計画。過去の報告期間に開示した計画に対する進捗を含む。
財政状態、財務業績及びキャッシュフローに与える影響 気候関連のリスク及び機会が、財政状態、財務業績及びキャッシュフローに与えた影響、及び、短・中・長期的に与えると予想される影響。
気候レジリエンス 報告日時点における企業の気候レジリエンスの評価や、気候関連のシナリオ分析の過程、実施した過程に関する情報。
リスク管理 気候関連のリスクを識別・評価し、モニタリングするために用いるプロセス及び方針。これらが、企業の全体的なリスク管理プロセスとどのように統合されているかも含む。
指標及び目標(targets) 気候関連の指標 温室効果ガス(Scope3の開示を含む)や、気候関連のリスク及び機会に関連する事業活動の割合、内部炭素価格や気候関連考慮事項の報酬への反映。
気候関連の目標 戦略的目標(goals)の達成に向けた進捗をモニタリングするために企業自身が設定した気候関連の目標や、目標設定に用いる指標などの情報。目標をレビューするアプローチやモニタリングのために用いる指標などの情報。

参考:ISSB「気候関連開示

IFRS S1 S2とTCFDとの違い

実は、上記の4項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標(targets))は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の4つの構成要素と整合しています。しかし、TCFDに比べ、IFRS S1 S2ではより詳細な情報の開示が求められています。具体的には、IFRS S1は、対象を気候変動からすべてのサステナビリティ関連のリスクと機会に拡大しており、IFRS S2は、温室効果ガス(GHG)排出量のScope3の開示要求及び、産業別指標の開示を要求しています。ここで注目されるべきは、IFRS S2においては、気候関連の移行計画の開示が必須となっていることです。この際「移行計画の作成に用いた主な(key)仮定及び移行計画が依拠する依存関係に関する情報を含む」必要があります。このような詳細な情報開示への準備は時間を要するので、早めの対策が肝要です。

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日本版S1 S2の特徴と今後の方針

現在、日本においては、2022年に設立されたサステナビリティ基準委員会(SSBJ)によって、IFRS S1 S2と整合する日本独自のサステナビリティ基準(以下、日本版S1 S2)の開発が進められています。日本版S1 S2の作成に至った背景には、各国でIFRS S1 S2の適用や相互運用可能な基準の開発が進む中で、日本のグローバル企業が国際的に比較可能なサステナビリティ情報を開示することは、投資家からの評価向上において重要であるだけでなく、それらの企業の実務負担も軽減できると考えられたことがあります。日本版S1 S2の草案は2024年3月に公表済みであり、SSBJは、確定基準を遅くとも2025年3月末までに公表するとしています。

適用対象企業については、公開草案では定められていませんが、プライム上場企業が適用することを想定して開発されています。なお、金融庁は、2024年3月の時点で、2030年以降に全プライム企業へ日本版S1 S2の適用を義務化することを目標としつつ、経過措置として「時価総額3兆円以上は2027年3月期から、1兆円以上は2028年3月期から(保証を含む)」、または 「時価総額3兆円以上は2028年3月期から(保証を含む)、1兆円以上は2029年3月期から(保証を含む)」適用を義務化することを検討しています。将来的に義務適用の対象となる可能性のある企業は、早めの準備が重要です。

SSBJは、公開済みの草案において、IFRS S1, S2のすべての要求事項を取り入れたうえで、必要に応じて企業が任意に適用できる日本独自の選択肢を追加することを提案しています。また、一部の項目については定めを追加することを提案していますが、その際にもIFRS S1 S2に準拠した開示に必要な情報を超えて情報の入手を必要としないことを目指しています。つまり、現行のIFRS S1 S2を用いた対策は、将来的に一部企業が義務化になる可能性のある日本版 S1 S2に向けた良い準備であるといえます。

さいごに

投資家の意思決定においてサステナビリティ関連事項を考慮することが一般的になっている現在、国際的にベースとなっているIFRS S1 S2に準拠した開示を行うことは、競争力の強化というよりはむしろ、そのための重要なスタートラインやマイルストンといえるかもしれません。
社会が企業に求めていることは、IFRS S1 S2のような情報開示を通じて企業が現状把握と目標設定を行ったうえで、いかにサステナブルなビジネスモデルに本質的に移行していけるか、であるといえます。情報開示はゴールではなく、また義務化に対応するものでもありません。経営の持続性を高め、企業ビジョンの実現や長期目標達成のために情報開示を積極的に活用する意識で取り組みましょう。

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執筆者情報(執筆時点)

井茂 絢花(いしげ あやか)
アミタホールディングス株式会社
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