Q&A
水平リサイクルとは?メリットや事例、実証実験も解説
昨今、様々な業界において製品の水平リサイクルが進んでいます。今回は、改めて水平リサイクルとは何かに触れ、推進する上での課題、また課題に対する取り組み事例をご紹介します。
水平リサイクルとは何か
「水平リサイクル」とは、使用済み製品や製造/物流/販売工程上のロス等を原料とし、同様の製品を製造するリサイクルの手法です。昨今では、水平リサイクルの事例として、使用済みペットボトルを原料として再びペットボトルを製造する「ボトルtoボトル」の取り組みが活発になっています。これまで、使用済みのペットボトルをもう一度飲料用にリサイクルするには技術や知見が不足していましたが、2010年以降の技術発展や、プラスチック資源循環法の施行により、一気に水平リサイクルへの関心が高まり浸透しました。
水平リサイクルのメリットとは?
近年、大手飲料メーカーや日用品メーカーを始めとし、様々な業界が自社製品の水平リサイクルに向けた取り組みを行っていますが、なぜ注目されているのでしょうか?
ここでは、水平リサイクルのメリットを紹介します。
1.天然資源の採取量とGHG排出量を削減できる
まず1つ目のメリットは、水平リサイクルをすることによって、天然資源の採取量とGHGの排出量を削減できることです。製品の原料となるプラスチックや金属を製造する際、天然資源(バージン原料)よりも、再生材を用いることによって、GHG排出量を削減できます。環境省によると、天然資源からアルミ缶を製造するよりも、リサイクル原料から製造することによって66%のCO2が削減できるとされています。特に企業にとっては、再生材を利用することでScope3カテゴリー1「購入した製品・サービス」、製造工程のロスを再度原料化することでScope3カテゴリー5「事業から出る廃棄物」、ユーザーによる使用後の廃棄品を利用することでScope3カテゴリー12「販売した製品の廃棄」において、それぞれ関連するGHG排出量の削減に寄与できる可能性があります。
出典:経済産業省 産業技術環境局「資源循環経済政策の現状と課題について」
2.持続可能な資源調達ができる
2つ目のメリットは、自律的な資源調達を行うことができることです。日本は資源自給率が低く、これまで輸入に頼っていましたが、中国やインドなどの新興国の購買力が高くなったことにより、原料輸出国の日本のシェアは年々低くなっています。特に、日本は電気自動車などに欠かせない燃料電池の原料となるレアメタルをほぼ100%輸入に頼っています。水平リサイクルを進めることで資源の輸入依存度を下げることは国策としても重要ですし、企業の原料調達という面でも、海外の政情不安等に左右されない安定的な供給源の一つとなる可能性があります。
現在の水平リサイクル率(ペットボトル)
実際に、日本ではどれくらい水平リサイクルが進んでいるのでしょうか?ペットボトルを例に見てみましょう。2022年日本のペットボトルのリサイクル率は、86.9%(2022年度)と、欧州の42%、アメリカの18%に比べて高い割合になっていますが、2021年のペットボトルの水平リサイクル率はわずか20%でした。2022年のプラ新法施行を期に年々増加しているものの、清涼飲料業界が掲げる2030年までにボトルtoボトル比率を50%にするという目標に向けて、より取り組みを加速していく必要があります。
出典:PETボトルリサイクル推進協議会 「PETボトルリサイクル 年次報告書2023」
水平リサイクルの課題
上述のとおり水平リサイクルの普及率を高めることができない背景には、どのような課題があるのでしょうか。
1.水平リサイクルが難しい素材がある
水平リサイクルと一口に言っても、製品が単一素材でできているのか、複合素材からできているのか、またリサイクル後に使用する用途によってその難易度は異なります。たとえば、ペットボトルや金属類など素材が単一であるものは水平リサイクルをしやすい素材とされています。一方で、日用品のつめかえパウチや冷凍食品の包装など、製品の品質を守るために複合素材で作られているものや、また着色が施されているものなどは水平リサイクルが難しいとされてきました。また、水平リサイクルの対象となる製品が人の肌に触れたり口にしたりするものである場合、衛生状態や匂いなど、高品質を担保する技術が必要です。
2.PCR材の場合、高度な選別・回収が必要であること
製造工程上で発生した端材などをもとにしたPIR材と、一度市場に出回り使用済みとなったものを材料としたPCR材では、後者の方が水平リサイクルが難しいとされています。自社の環境で管理されたPIR材の方が回収時の品質も高くなりますが、PCR材はどのように市場から回収するか、その回収スキームの構築も問われます。一定の量を回収するためには、自治体・自治会や地域の小売店などと連携した回収拠点の拡充や、同業他社と一体となって製品を集めるなど、自社以外の組織との協調が必要です。また、回収量だけでなく、回収した素材の品質も水平リサイクルができるかどうかに影響します。本来集めたい素材以外の異物が混ざっていたり、汚れが付着したりすると、水平リサイクルが難しくなります。
3.コストがかかる
1で挙げた水平リサイクルが難しい素材の場合、技術の高度化や新たな開発に必要な設備投資等に多額の費用が発生します。また、2で挙げたPCR材を市場から回収・分別・リサイクルを行うと、運搬費用や、より高品質な素材を得るための分別・洗浄費用が発生したりするなど、バージン素材を使用するよりもコスト高になる可能性があります。このように、水平リサイクルに取り組みたいと思っていても、コスト面がハードルとなりなかなか進まないケースもあります。
また、水平リサイクルにこだわりすぎると、再生材などのサステナブルな原材料の利用率が向上しにくいという課題もあります。製品によっては、そもそも使用済み製品から得られる素材だけでは製造することが難しいものもあります。水平リサイクルに固執してより環境に配慮したサステナブルな原材料を利用できないことは本末転倒であり、全体最適となるような資源循環を考える必要があるでしょう。
水平リサイクルに関連した事例
それでは、実際に企業はこのような課題を踏まえてどのような取り組みをしているのでしょうか?今回は、水平リサイクルの難易度が高い製品を技術的な側面から解決した事例と、PCR材の回収・高品質素材の回収に向けて自治体や企業が連携して解決した事例を紹介します。
1.ユニ・チャーム:紙おむつ
ユニ・チャームは、使用済み紙おむつの水平リサイクルに向けて、独自の殺菌技術を開発し、鹿児島県志布志市と大崎町での実証実験を経て、2022年にはリサイクルパルプを原材料にした商品を南九州エリアの介護施設や病院へ製造・販売しました。
紙おむつは、課題で述べたように、製品を構成する素材が複数あり、またリサイクル製品の衛生面を担保する技術の確立など、水平リサイクルが難しいとされていました。実際に、紙おむつは、水分を吸収する不織布や吸収した水分を閉じ込める高分子吸収材(SAP)など、何層にもわたって複雑に構成されています。また、リサイクルした場合に排泄物の菌がリサイクル製品に含まれないような技術開発が必要でした。
そこで、ユニ・チャームは、使用済み紙おむつからパルプを水平リサイクルできるよう、オゾン処理技術を開発し、洗浄を経ても除去することが難しい細菌のほぼ完全除去ならびに脱臭を実現させ、バージンパルプと同等の品質を持つ上質なパルプの製造を行いました。
2.神戸市:日用品のつめかえパック
「神戸プラスチックネクスト~みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル~」は、神戸市と小売・日用品メーカー・リサイクラーが協働し、日用品のつめかえパックの水平リサイクルに取り組むプロジェクトです。2021年より、神戸市内の小売店舗に回収ボックスを設置し、シャンプーや洗剤など使用済みのつめかえパックの分別回収を開始しました。2021年から回収をスタートし、第2期(2022年10月から2023年9月末)では、つめかえパックを約1.63トン回収し、前年度に比べて約1.4倍に増加しました。
課題に挙げたように、PCR材を水平リサイクルする場合、自治体や企業と連携した回収スキームの構築と高品質な素材の回収が必要とされていました。本プロジェクトでは、神戸市内の小売店舗等79か所に回収ボックスを設置し、メーカー問わず、シャンプーや洗剤など幅広い日用品を対象としています。また、より高品質な素材回収に向けて、利用者に持ち込み前の洗浄・乾燥を啓発するポスターを掲示したり、回収ボックスを他の異物が入らないようなデザインにしたりなど、分別回収方法の理解を深めるような広報活動ならびに仕組みづくりにも注力しています。
ペットボトルのキャップ回収~JCEPの実証実験から見えたこと~
ここでは、実際にアミタが幹事企業を務めるジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(略称:J-CEP)にて行った実証実験について、その概要と結果について紹介します。J-CEPでは、水平リサイクルの実現に向け、2022年10月から2023年12月まで、市中からのペットボトルキャップ回収・再生プロジェクトを行いました。先述のとおり、PCR材を水平リサイクルする場合に課題となる、回収資源の品質・量の確保と、再生コストの低減を目指すプロジェクトです。
今回のプロジェクトでは、神戸市とメーカー、リサイクラーが協力のもと、神戸市が展開する資源回収ステーションを利用する市民が洗浄したペットボトルキャップを用いて、自動選別からペレット化、最終製品としての試作品製造(爪切りホルダーやプチプチ®など)までの一連のプロセスを行いました。
出典:アミタ作成
結果、市民が自主的に洗浄・回収した資源を利用することにより、従来リサイクルに必要な洗浄や乾燥といった工程を簡略することができ、また良質なプラスチック資源の確保へとつながりました。一方で、ペットボトルキャップ以外の異物はゼロではなく、異物となるものがどのようなものか等の情報発信や、分かりやすく回収できるような工夫が必要であることがわかりました。また、ペットボトルキャップの色が同じでも、印字色が少し異なるだけで、最終製品の色に多少の黒色が混ざる場合もあり、リサイクル工程・技術に改善の余地がある等、消費者の求めるニーズと再生品のギャップ解消なども今後の課題として浮かび上がってきました。
最後に
プラスチックに限らず、様々な業界で自社製品をいかに資源として循環させ続けるか、という点において、水平リサイクルの実証実験や製品開発が進んでいます。ただし、なかなか自社だけでは技術開発や関係構築が難しいのが現状です。このように新たな仕組みやイノベーションを創っていく際には、競合の垣根を越えて業界全体として、また産官学民連携して持続可能性を向上できるような関係性づくりもカギとなるでしょう。
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アミタが代表理事を務める一般社団法人エコシステム機構(Ecosystem Society Agency:略称ESA(イーサ))では「循環」と「共生」をテーマに、企業だけではなく、自治体や研究機関などとも連携し、新たなビジネスモデルの創出ができるようなプラットフォームの場づくりを行っています。主に、ネイチャーポジティブ、コミュニティ・ウェルビーイング、さらにサーキュラ―エコノミーの3つの領域における課題をビジネスで解決するためのプロトタイプ事業モデルを実証しています。今回ご紹介したJCEPも、ESAのタスクフォースとして、サーキュラ―エコノミーに関する実証実験を行っています。詳細については、公式ホームページをご覧ください。
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執筆者情報(執筆時点)
田中 千智(たなか ちさと)
アミタ株式会社
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