Q&A
ISO「TC323」サーキュラーエコノミーの国際標準化トレンドを押さえる
本記事では、サーキュラーエコノミー分野での国際標準化の流れとして、ISO(国際標準化機構)で検討が行われているTC323の検討状況と今後の動きを詳しく解説します。
TC323とは
TC323は国際標準化機構(以下、ISO)に設置された「持続可能な開発への貢献を最大化するため、関連するあらゆる組織の活動の実施に対する枠組み、指針、支援ツール及び要求事項を開発するための循環型経済 (以下、サーキュラーエコノミー)の分野の標準化」を行うための専門委員会です。本委員会は現議長・幹事国のフランスの提案によって2018年に設置されました。また、本委員会には日本を含む世界約100ヵ国の国々が参加をしています。
改めてとなりますが、ISOはスイスに本部を置く国際標準化機構の略称です。ISOは製品やサービス、また組織運営に関して国際的な規準を設けることにより、あらゆる国での取引を円滑にする役割を担っています。
ISOが発行する規格の制定にあたっては一般的にTCと呼ばれる専門委員会が設置されます。そして、詳細の規格検討にあたっては専門委員会の下へ設置されるワーキンググループ(WG)に分かれてそれぞれ検討が行われます。日本もTC323のWGへ参加し、1つのWGの取りまとめ役を務めています。
TC323設立の背景
前述のとおり、TC323設立の目的はサーキュラーエコノミーの標準化にあります。プラスチック問題に代表されるように、今世界では従来までの経済モデルでは持続不可能なことが明白になってきています。今までの大量生産・大量消費のリニア型と言われる経済モデルから、原料からリサイクルまでバリューチェーン上で循環する経済システムの構築が必要です。このような経済モデルはサーキュラーエコノミーと呼ばれています。日本でもサーキュラーエコノミーに関する取り組みが行われていますが、欧州では法規制の動きが加速しています。2022年に欧州委員会が発表したサーキュラーエコノミーに関する政策パッケージでは、製品の環境配慮設計や商品の耐久性や修理可能性に関する情報提供の義務化など、今後法案化に向けた内容が策定されました。
このような中、より業界全体での取り組みを加速できるようなルールメイキングや、企業の施策が本質的であるかを測る第三者機関による評価システムが求められています。TC323はこれらの役割を果たすため、関連用語の整理やビジネスモデル移行へのアプローチ、また製品情報の提供システム等を標準化し、国際的な指針づくりを行っています。
TC323のワーキンググループについて
ここからは、TC323の規格開発を担うWGとその規格種類について解説します。TC323は5つのWGと複数のTCで共同規格開発を行う作業部会(JWG)から構成されます。またISOから発行される規格類は複数あります。IS(International Standard)と呼ばれる国際規格の他に、TS(Technical Specification)と呼ばれる技術仕様書やTR(Technical Report)と呼ばれる技術報告書等があります。TSは技術的に開発途上にあるものや将来的に国際規格となる可能性があるものを規格します。ISやTSが規範を定めた文書であるのに対してTRは規範を含まない調査データや事例等を含んだ情報提供型の文書とされます。TC323のWG内でもTRの発行を目指すグループがあります。
下表に示すとおり各WGで標準化に向けた検討が行われています。
▼TC323のワーキンググループと規格
WG/規格番号 | 規格名称 |
WG1/ISO59004 | 用語定義、原則、実践の手引き |
WG2/ISO59010 | ビジネスモデルとバリューネットワークの移行に関する指針 |
WG3/ISO59020 | サーキュラリティの測定と評価 |
WG4/ISO/TR59031 | パフォーマンスがベースとなるアプローチの事例 |
WG4/ISO/TR59032 | サーキュラーエコノミーの導入・実践に関する既存のビジネスモデルの事例 |
WG5/ISO59040 | 製品のサーキュラーエコノミーの側面に関する情報を報告し情報交換するための方法論とフォーマット |
JWG14/ISO59014 | 二次材料回収(回復)のサスティナビリティとトレーサビリティに関する要求事項 |
一般社団法人循環経済協会「循環経済国際標準化アニュアルレポート(2022)」よりア作成よりアミタ作成
WG1では、サーキュラーエコノミーに関する用語の定義から考え方や実施のための枠組みまで他WGの基礎となる検討が行われています。議論の中では、エネルギーリカバリー(≒サーマルリサイクル)をサーキュラーエコノミーに沿った取り組みとみなすべきではないといった意見も出る等、日本企業も注視が必要なWGです。
WG2はビジネスモデルやバリューチェーンをサーキュラーエコノミーへ移行させようとする組織のためのガイドラインとなります。そしてWG3は組織のサーキュラーエコノミーに関する取り組みを測定・評価するための枠組みの規定となります。企業にとっては事業活動のサーキュラーエコノミー性に対する有効性を評価するための指標・枠組みとなるため非常に重要と考えられます。
またWG5では製品循環データシートについて検討がされています。本データシートは製品製造者がサプライチェーン上の上流から下流にかけて自社製品の情報を伝達させるための仕組みです。
製品製造・流通に関わることからオペレーションベースで最も関心が高い分野でもあると言えます。 JWG14はライフサイクルアセスメント(ISO/TC207/SC5)とISO/TC323の間に設置された合同作業グループです。JW14は、二次原料の取り扱いに関してガイダンスを作成しています。
TC323のスケジュール
ISO規格のプロジェクト段階に示すとおりISOは提案から規格制定(発行)までに大きく6つのステップを踏みます。
▼ISO規格のプロジェクト段階
プロジェクトの段階 | 名称 | 略号 |
予備段階 | 予備業務項目 | PWI |
提案段階 | 新業務項目提案 | NP |
作成段階 | 作業原案 | WD |
委員会段階 | 委員会原案 | CD |
照会段階 | 国際規格案 | DIS |
承認段階 | 最終国際規格案 | FDIS |
発行段階 | 国際規格 | IS |
TC323に関する全体ステップとしは発行目前という段階です。技術報告書(TR)を規定するWG4は今年12月を発行目標と定めています。また、その他WG1~3は2024年3月を、WG5は2024年9月を発行目標としています。
▼ワーキンググループと発行目標 ※2023年11月時
WG/規格番号 | 段階 | 発行目標 |
WG1/ISO59004 | DIS | 2024年3月 |
WG2/ISO59010 | DIS | 2024年3月 |
WG3/ISO59020 | DIS | 2024年3月 |
WG4/ISO/TR59031 | DTR※ | 2023年12月 |
WG4/ISO/TR59032 | DTR | 2023年12月 |
WG5/ISO59040 | DIS | 2024年9月 |
JWG14/ISO59014 | DIS | 2024年8月 |
ISO/TC 323日本国内委員会事務局「ISO/TC 323 サーキュラーエコノミー」よりアミタ作成
※DTR=技術報告書原案
先に述べたとおりTC323の各WGで検討されている規格類はいずれも2024年に発行目標を置いています。ただし、ISOが定める国際規格は発行後の見直し期間を設けています。現在のところ、既にISO59004、ISO59010及びISO59020は2025年に修正版を発行することが計画されています。各国・各企業の置かれている状況と循環経済の実現という規格目的を勘案しながら修正が加えられることが想定されます。
TC323と企業のサーキュラーエコノミーへの取り組み
これまでTC323の概要について紹介しましたが、改めて企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際のポイントとTC323で制定される規格との関連性を整理しましょう。サーキュラーエコノミーに取り組む際には、自社だけの試みでは難しく、調達先から処理会社までサプライチェーン全体で横断的に進めることがポイントです。より環境負荷の少ない資源調達や使用済みの回収・再製品化等を実施するためには、業界の垣根を超えた共通の指針が必要となります。
例えば、取引先と連携する際には、WG1のサーキュラーエコノミーに関する用語の定義や、WG2のバリューチェーン上でのビジネスモデルへの転換方法・レビュー方法の規格を参考にするとよいでしょう。また、今後企業には廃棄物の再資源化だけでなく、自社製品がいかに環境に配慮されたものであるか、消費者に情報を発信できるよう求められる可能性があります。先述の欧州委員会での法案化での動きに加えて、欧州では製品等の持続可能性情報を伝達するための仕組みとして、デジタル製品パスポートの制度化が目指されています。本パスポートの制度構築にあたり、WG5で議論されている規格との関連性も非常に高いと言われています。企業が脱炭素化に向けて製品のカーボンフットプリント認証を取得するように、サーキュラーエコノミーにおいても今後同様な流れが起こりうるでしょう。
関連情報
- ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(略称:J-CEP)は、持続可能な社会の実現を目指す企業等が、住民・行政・大学等と連携して、サーキュラーエコノミーの推進に取り組む新規事業共創パートナーシップです。
- サーキュラーエコノミーの概要については「サーキュラーエコノミーとは? 3Rとの違い、3原則や5つのビジネスモデル、取り組み事例まで解説!」をご覧ください。
執筆者情報(執筆時点)
藤田 和平
アミタ株式会社
社会デザイングループ 共創デザインチーム
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