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カーボンフットプリントとは? 計算方法やガイドライン・企業事例を解説
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※本記事は、2023年10月25日に掲載したものを再編集しています。
カーボンニュートラルの実現に向けて、温室効果ガス(Greenhouse Gas、以下GHG)の削減目標を立て、取組を進める企業が増えています。ものが作られて捨てられるまでのライフサイクルで排出されたGHGを把握するために重要なカーボンフットプリントについてご紹介します。
カーボンフットプリントとは
- カーボンフットプリントとは
カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)とは、商品・サービスの原材料調達から生産・流通・廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクルで排出されるGHGをCO2に換算して、その商品やサービスに表示する仕組みです。上述したように企業が自社の商品のGHG排出量を知ることができるだけでなく、消費者やユーザーが商品を購入する際に、よりGHG排出量の少ない商品を選択可能にすることが期待されています。また、近年の気候変動問題への関心の高まりから、様々なステークホルダーが企業に対してカーボンフットプリント算定を要求し始めており、取組を進める企業も増えています。 - カーボンフットプリントの目的
カーボンフットプリントに取り組む目的は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて消費者が環境に配慮した商品を選択するような社会をつくることにあります。カーボンフットプリントが普及することで、商品の購買者がその購買活動と気候変動の影響度合いを結びつけることができ、消費者への気候変動問題に関する啓発や、消費者が温室効果ガスの排出量が少ない商品を優先的に選択することが可能になると考えられています。
▼カーボンフットプリントとは
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カーボンフットプリントを算定するメリット
カーボンフットプリントを算定するメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
・消費者に向けた企業のブランディング・商品のマーケティング施策として活用できる
カーボンフットプリントの情報を提供することで、環境に配慮した商品として企業や製品をアピールでき、企業価値向上や他社との差別化にもなりえるでしょう。今後、より環境負荷の低い商品が選ばれる市場や社会が到来することを想定した際に、選ばれる商品に必要な措置であるとも言えます。
・温室効果ガス削減に向けて現状を把握できる
消費者に向けた企業のブランディングは、従来から認識されている環境影響評価や環境ラベルを表示させるメリットとして想定しやすいですが、GHG削減に向けた現状把握の手段としても有効です。近年ではGHG削減に向けてサプライチェーン排出量の算定取組が進んでおり、他企業から情報提供を求められる場合も増えてきます。製品のライフサイクルにおいて環境負荷の高い工程を明らかにすることで、サプライチェーン全体でのGHG削減に向けた取組を進めることにつながるでしょう。
LCAとの違い
カーボンフットプリントと似ているものにライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment、以下LCA)というものがあります。LCAとは商品やサービスのライフサイクル全体で、あらゆる活動による環境影響を定量的に計算・評価するものです。ここまでの説明だとカーボンフットプリントとの違いが分かりにくいですが、LCAとカーボンフットプリントの違いはGHG算定時の評価対象にあります。カーボンフットプリントはLCA手法をベースにしていますが、GHGが気候変動に与える影響のみを評価対象としています。
▼LCAとカーボンフットプリントの違い
出典:アミタ作成
カーボンフットプリントに取り組む4つのステップ
では、カーボンフットプリントに取り組むにはどのように進めたらよいのでしょうか。2023年3月に企業が取組を進める上で、経産省・環境省によって把握するべき情報がまとめられた「カーボンフットプリントガイドライン」に基づいて説明します。このガイドラインは製品のカーボンフットプリントを算定し、報告するための要件がまとめられているISO 14067やGHG Protocol product standardなどの国際的な基準における規定の解説を示すとともに、これらで明確にされていない部分について取組の方針が示されています。これから算定を進めていきたいと考えている企業は、このガイドラインにより算定の全体像をつかむことができます。
ガイドラインによると、取組は以下の4つのステップに整理できます。
1.算定方針の検討
まず、カーボンフットプリントの取組の目的や用途を明確にします。最初に目的を明確にする理由は、目的に応じた客観性や正確性の程度を判断する必要があるためです。特に、商品が他社製品と比較されることが想定される場合、参照する算定ルールを統一する必要があります。参照するルールとしてはISO 14067やカーボンフットプリントガイドラインなどがありますが、自社の状況に合ったものを選択することが望ましいとされています。
▼カーボンフットプリントで満たすべき要件
出典:経済産業省・環境省
▼STEP1 算定方法の検討
出典:経済産業省・環境省
2.算定範囲の設定
次にカーボンフットプリントの算定範囲を設定します。基本的に算定単位は「機能単位」で定義しなければならないとされています。機能単位とは、どの程度の性能や効用を得るために、どの程度のGHGが排出されるのかということを示すものです。算定範囲を設定後、対象とするライフサイクルのプロセスや、データの収集期間、除外するプロセスなどを設定していきます。対象とするライフサイクルは最終製品であれば原材料調達から廃棄・リサイクルまで、中間製品であれば原材料調達から製造までが基本となっています。
▼STEP2 算定範囲の設定
出典:経済産業省・環境省
3.カーボンフットプリントの算定
カーボンフットプリントは算定範囲となるライフサイクルにわたって、対象となる活動量を分析し、その活動から生じたGHG排出量を計算します。計算の際のデータは原則として、全て自社で取得した1次データを収集する必要があり、1次データの収集が難しい場合も可能な限り客観性と正確性の高いデータを使用することが求められます。
▼STEP3 カーボンフットプリントの算定
出典:経済産業省・環境省
4.検証・報告
カーボンフットプリントの算定後はデータの信頼性を担保するため、内部検証や第三者検証を実施することが望ましいとされていますが、これらはかかるコストと効果が異なるので目的に応じて適切な方法で検証を行うことが求められます。検証後、結果をカーボンフットプリント算定報告書に取りまとめますが、その際には参照したルールで定められる規定を満たしていることが証明できるよう、透明性を担保し、十分詳細に説明することが重要です。
▼STEP4 検証・報告
出典:経済産業省・環境省
カーボンフットプリントの日本の取組
カーボンフットプリントについて日本では2008年に「カーボンフットプリント制度の実用化普及推進研究会」が設置されたことにより取組が進んでいきました。この研究会にてカーボンフットプリント制度の実用化・普及に関して検討が行われ、2009年から「カーボンフットプリント制度施行事業」が開始されました。もともと経産省、交通省、農水省、環境省の4省庁が主導していた取組ですが、2012年から産業環境管理協会、2019年には一般社団法人サステナブル経営推進委員会(SuMPO 環境ラベルプログラム)に運営の主体が移行されました。
さらに農林省では2020年から「フードサプライチェーンにおける脱炭素化の実践・見える化」が進められ、一部農産品のGHG排出量の簡易計算ツールの開発、削減効果をラベル化する実証実験など、活用に向けた取組が推進されています。その後、上述した「カーボンフットプリントガイドライン」が公開され、現状義務化についての動きはまだありませんが、民間企業もカーボンフットプリントに取り組むための体制が整えられてきています。
▼温室効果を削減して生産された農産物の「みえるらべる」
出典:農林水産省
カーボンフットプリントの世界の取組
世界でもカーボンフットプリントに関連した取組は進んでおり、先進的な取組を行う国ではカーボンフットプリントを含む「環境フットプリント」の一部義務化に向けた動きもあり、日本企業や今後の日本の施策にも影響があることが考えられます。環境フットプリント(Environmental Footprint)とは、GHG排出による気候変動への影響だけでなく、人体の健康、生活の質、生態系などの複数の環境影響領域に関して数値化するものです。特に取組が進んでいる地域についてご紹介します。
アメリカ:アメリカでは、国外から輸入する電子機器製品に関して環境フットプリントの表示が必須となっています。現在、EPEAT(Electronic Product Environmental Assessment Tool)という認証の制度を使用し、電子機器製品についてカーボンフットプリントやライフサイクルアセスメント、省エネなどの観点から環境影響を評価した上で、一定基準を満たした製品のみの輸入が許可されています。認証自体の義務化はされていませんが、大統領令で調達する製品の95%以上はEPEAT適合品でなければならないと定められていることから、アメリカに製品を輸出する日本の電子機器メーカーにとっても必須の認証となっています。
フランス:フランスではカーボンフットプリントを含む環境フットプリントについて環境・エネルギー管理庁 (ADEME)が主導し、衣料品や食品に関して環境影響の表示の義務化に向けた取組が進んでいます。フランス政府と小売大手企業による商品のパッケージや購入時のレシートにカーボンフットプリントを表示した実証実験も進められています。
EU:EUは環境影響データ共有の仕組みとしてデジタルプロダクトパスポート(DPP)を導入しています。特にバッテリーについては制度化が進んでおり「バッテリーパスポート」の実装を義務化する「バッテリー規則」が2023年の8月に施行されています。「バッテリーパスポート」とは、域内市場に流通する製品の環境要件を定める「エコデザイン規則」(2024年7月発効)に含まれる取組の1つで、原材料調達からリサイクルまでのバッテリーのライフサイクルを追跡・管理するものです。また、エコデザイン規則では、原則食品や医薬品を除くあらゆる製品が対象となっており、耐久性、信頼性、修理可能性、リサイクル素材の使用率などの要件が規定されていますが、カーボンフットプリントも1つの要件として含まれています。
さらに、EUでは炭素国境調整措置(CBAM)も2026年1月から本格適用される予定です。CBAMとは、EU域外国から輸入される対象製品に対して、EU-ETS(EU排出量取引制度)に基づいた炭素価格の支払いを義務付ける措置で、製品のカーボンフットプリントからGHG排出量を出した上で、課金が行われます。
カーボンフットプリントに関する企業の取り組み事例
ここまでカーボンフットプリントの取り組み方についてご説明しましたが、環境省が実施する「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」に参加した企業の取組事例を2つご紹介します。
1つ目は株式会社ユナイテッドアローズの取組です。同社は自社ブランドのカーボンフットプリントを算定し、ライフサイクル全体におけるCO2排出量の削減策を検討しています。そしてこの削減策を導入すると、CO2排出量は10.6kgから7.8kgにまで削減できることが試算されています。また、店頭やECサイトにてカーボンフットプリントの算定結果などを掲載し、顧客に向けて取組を意欲的に周知することで企業ブランディングも推進しています。
2つ目は東京吉岡株式会社の取組です。同社は輸送の際に商品を包むポリエチレン袋を、再度袋に戻すリサイクルの取組を進めています。この取組の中で使い捨ての場合と、リサイクルをした場合のカーボンフットプリントの算定結果を比較した結果、GHG排出量を約73%削減できることを報告しています。調達と廃棄・リサイクルのプロセスでGHG排出量を抑えることができ、Scope3の大幅な削減が期待されています。
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カーボンフットプリントはBtoB企業でも意味がありますか?
最後に
本記事ではカーボンフットプリントの概要や目的、ガイドライン、義務化を含む動向、企業事例等について解説しました。脱炭素に関するイニシアチブ対応や情報開示が進む一方、今後は消費者やユーザーが脱炭素に貢献する製品やサービスを選択できる社会を実現するため、製品のカーボンニュートラル化が注目されています。自社の製品やサービスのライフサイクルでどれだけの環境負荷があるのかを把握し、適切に対策を進めることで顧客に選ばれる製品・サービス提供につながることに加え、環境負荷が低い製品の展開は新たな層の顧客との関係性を築くきっかけともなります。カーボンフットプリントの算定は容易ではなく、業務負担の大きさが課題とされていますが、気候変動の影響について「見える化」させることは、カーボンニュートラル化に向けた取組を大きく前進させるでしょう。
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執筆者情報(執筆時点)
梅木 菜々子(うめき ななこ)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 共創デザインチーム
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