Q&A
サステナビリティ経営にかかわる人物に必要な能力・資質は何ですか?
環境部の仕事は、かつて安全衛生や品質管理に近い性質の仕事でしたが、非財務の価値は企業価値の本質的な部分であり、ESGは財務的な余裕に応じて行う「社会貢献」ではなく経営課題そのものであるという認識の変化に伴い、現在では経営企画的な性格を強く帯びています。
では、その間に「環境部(現在は、サステナビリティ推進、ESG推進という部署名であることも多いようです)」の役割はどのように変わったのでしょうか。そして、企業の「サステナビリティ推進」において、どのような能力、資質があると望ましいのでしょうか。
それは以下の通りとアミタでは考えます。
求められる役割 | 望ましい能力・資質 | |
① | 自社のビジネスが持続可能になるべく、ESGのみならず世の中のあらゆる変化を察知し、必要な変化を起こしていく | ・「持続可能」「変化」という現象を正しく理解する力 ・全体最適を志向できる力 |
② | 社内の複数の部署に横串を通す(データの取りまとめ、施策の実施、経営層の説得等) | ・コミュニケーション力 ・経営全体を俯瞰できる視野の広さ |
③ | 更新の早いESGの最新動向にアンテナを張り続ける。また、表面的な情報だけを追うのではなく、本質を見つけて自社に適用する | ・情報収集能力 ・コンサルをうまく使う力 ・自社の企業理念への共感力 |
企業の「サステナビリティ推進」において担当者に求められる
役割とそのために望ましい能力、資質
アミタ作成
本記事では、サステナビリティ推進の担当部署に求められる役割とそれに応じた望ましい能力、資質について、それぞれ詳しく解説していきます。また、組織体制を考えるにあたり、本質的なサステナビリティ推進に取り組めるようになる具体的な方法も最後にご紹介します。
目次 |
①真の意味で自社を「持続可能」にする~変化しつづける組織を目指す
まず、経営がサステナビリティであるとはどういうことでしょうか。経済活動に伴うGHGや廃棄物の排出量をいくら減らしたところで、肝心の顧客がいなければ、そもそも活動ができません。市場や顧客の価値観が速いスピードで変化し続ける現在においては、新規顧客の創出のためにはもちろん、既存顧客を維持するためにも、自らが新しい市場と競争優位を獲得し続けること、絶え間ない変化が必要です。その際、顧客からの要望が顕在化してから対応するようでは、変化することが差別化のための「投資」ではなく、現状維持のための「コスト」になってしまいます。
2020年の「ものづくり白書」において、日本の製造業の未来においては企業が変化を起こすための能力・自らで自らを変えていく能力「ダイナミック・ケイパビリティ」が重要であると記載され 、耳慣れないこの言葉に注目が集まりました。
この「ダイナミック・ケイパビリティ」を発揮するための重要な要素は「感知」、つまり脅威や危機に気が付く能力と定義されています。経営がサステナビリティであるためにまず必要なのは、変化を起こす必要性に気付くことだと言えます。
しかし日本企業においては、年度の経営目標として、過去の実績をベースに無理なく達成可能な数値目標の設定(フォアキャスティング・アプローチ)が常態化するなど、社内外の変化を前提とした経営が根付いておらず、全体の傾向として、起こりつつある変化に気付きにくい体質であると言えます。
また、企業が持続可能であるためには、現状維持のための「守り」だけではなく「攻め」にも同時に取り組むことが不可欠です。いわゆる「攻めのサステナビリティ」に取り組むためには、変化は訪れるものではなく、起こすものだという認識を持ったうえで、世の中のあらゆる変化を察知する力が重要です。しかし社会の変化を感知し、自らを変容させるということは、知識として頭で理解し、誰かからやれと言われても、なかなかできるものではありません。「持続可能であるために変化が必要である」という複雑な因果関係を理解し、物事を広く・かつ深く見られるようになることが重要です。
さらに、サステナビリティの守りと攻めの側面に同時に取り組むためには、ESGというものを各工場のGHG削減やリサイクル率向上といった「部分最適」のためではなくて、ビジネスモデルの変革や有機的な組織づくりといった「全体最適」のためのツールとして用いる視点も必要です。
②社内に横串を通す~サステナビリティ推進の社内浸透の方法
「守りのサステナビリティ」=例えば各工場のGHG削減やリサイクル率向上に取り組むことは必須です。そこではデータの取りまとめや改善施策の検討・実施などを行うことになりますが、それぞれのセクションがバラバラに動くのではなく、方針や手法を共有して効率的に動くことが望ましいと言えます。
そのためには、トップダウンによるビジョンの提示、具体的な指示が有効ですが、これをただ座して待つのではなく、経営層を説得し、トップダウンの動きを促すこともサステナビリティ推進部の重要な役割です。
多くの担当者は、トップの理解がなくて困ると言いますが、ESGにまったく興味がない経営層はいません。ただ経営層にとっては、社内外の変化に対する最適解を、財務という観点から見つけることの方が優先順位が高く、非財務の観点から扱う余裕が足りないだけなのです。しかし財務と非財務は別のものではなく、同じコインの裏表、もしくは同じ山の登山ルートのAかBかという違いだけです。サステナビリティ推進部は、その変換・翻訳を担う部署だと言えます。
いわば触媒のように、その存在によって非財務の取り組みが会社全体で活性化していくようなイメージです。そこで求められるのは、異なる立場の人とのコミュニケーション能力や経営全体を俯瞰できる能力だと言えるでしょう。
③ESGの本質を知り、社内に伝える~唯一の答えはない。自社に適したそれぞれのやり方を見つける
ESGテーマの特徴として、情報更新のスピードが速いという点が挙げられます。担当者レベルでこの動きを追い続けることは困難です。また、テーマが幅広いため情報の量も膨大であり、自社だけで対応しようとすると限界があり、また相応の情報収集力が必要になります。この点は外部コンサルに頼ることができればある程度は容易に解決します。
しかし、専門家に頼り切って主体性を放棄することは危険です。サステナビリティ推進には共通の明確な答えがあるわけではないので、外部コンサルだけでは自社にとって最適な戦略や方向性を打ち出すことはできません。例えば、ここは完全に任せてしまう領域、ここは伴走してもらう領域、ここは自前でやって確認してもらう領域等、課題ごとに役割を整理するなどして、適材適所に利用することが望ましいといえるでしょう。
守りと攻めに同時に取り組む、本質的なサステナビリティ推進においては、主体性の発揮は常に重要です。ESG取り組みを企業の価値創出=企業における競争力に繋げようという戦略的な思考なしに、SDGsやTCFDなど、欧米主導で決められる「グローバルスタンダード」の流れに合わせて対応していくのは、キリのないモグラたたきのようなもので。企業の持続可能性は対して向上せず、コストがかさむばかりで、最悪の場合はESGウォッシュと批判されてしまいます。
そうならないためには、表面的な情報だけを追うのではなく、本質を見つけて自社に適用すること、自社がただ持続可能であるというだけでなく、自社にはどのような存在意義があり、どのような価値を創出すべきか、事業活動を通じてどのような社会をつくっていくのかというビジョンを主体的に描くことが必要です。その際、自社の企業理念へのコミットメント、共感力といったものが重要になってきます。
最後に~本質的なサステナビリティ推進に取り組めるようになる具体的な方法
以上のような能力・資質についてはあくまで理想であり、これらを備えた人材を見つけ出すことはなかなか難しいでしょう。実際は、サステナビリティ推進に取り組みつつ、担当者を理想の人材に育てていくということになるでしょう。
サステナブルであるということは、カーボンゼロであるとか資源が循環しているということではなく、本質的には、変化に強いということです。言い換えると外部の変化に合わせて自らが変化できるということです。そのような「持続可能」「変化」という現象を正しく理解する力は、身につけようと思ってもなかなかできるものではありません。成功モデルや効率化モデルをパターン化して維持・展開することが「硬直化に繋がる」と言われても、我々は慣れ親しんだその思考から容易に頭を切り替えることができません。頭で理解するのではなく、身体で理解する領域と言うべきかと思います。
つまり知識やスキルよりも「体験による気付き」によって育っていく力なのです。新たに担当者をアサインする際は、そのことを念頭に置くと良いでしょう。また、チームのレベルアップのためには、フィールドを使って行う体験型の学習や、お互いの気付きを共有して学び合うようなプログラムが適しています。
サステナビリティ推進という業務は、昔から会社の中にある業務とは性質が異なり、どの会社にとっても、誰にとっても新しい仕事であり、チャレンジです。それは、変化する社会に適応し生き残っていくために避けられない試練であるとも言えます。組織を進化させて、本質的なサステナビリティ推進を実現しましょう!
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サステナビリティ経営の基礎知識や必要性、企業にとってのESGについて解説!
執筆者プロフィール
中村 圭一(なかむら けいいち)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
グループマネージャー付 グループ戦略統括担当
静岡大学教育学部を卒業後、アミタに合流しセミナーや情報サービスの企画運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析や製造、営業とアミタのサービスの上流から下流までを幅広く手掛ける。現在は分析力と企画力を生かし、企業の長期ビジョン作成や移行戦略立案などに取り組んでいる。
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