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マスバランス方式とは?メリットや事例を分かりやすく解説
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本記事では持続可能な調達方法として注目されているマスバランス方式について、メリット、導入をする際の課題及び日本企業の取り組み事例について解説します。
マスバランス方式とは
「マスバランス方式(マスバランスアプローチ、物質収支方式)」とは原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料がそうでない原料と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部にその特性の割り当てを行う手法です。
パーム油の例を用いて簡単に説明します。認証パーム油と非認証パーム油を3:7の割合で混合して製品を作った場合、認証パーム油の割合が30%の商品が出来上がります。
ここでマスバランス方式の考え方を採用して第三者機関による認証を受けると、出来上がった商品全体の3割が認証パーム油100%とみなすことができます。
▼マスバランス方式の考え方
(出典:アミタ作成)
マスバランス方式は、原料を一気に環境に配慮した原料に置き換えることが困難な中、付加価値を生みやすくすることで、環境に配慮した原料の使用促進に有効な手法と言われています。マスバランス方式を導入する際には、信頼性を担保するために製品への特性の割り当てに関して監査を受け認証を取ることが望ましいとされています。このマスバランス方式の考え方は既に様々な分野で活用されており、化学品では国際持続可能性カーボン認証であるISCC認証、紙・パルプ製品はFSC認証、食品や日用品では持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO認証)、カカオ豆のフェアトレード認証、再生可能エネルギーのブック&クレーム方式などを中心に取り入れられています。
マスバランス方式のメリット
企業がマスバランス方式を導入する主なメリットは以下のとおりです。
▼マスバランス方式のメリット
・実質の含有量とは関係なく、100%再生可能・認証原料由来の製品として提供できる ・原料をすべて変更する必要が無いため、大規模な設備投資が不要、かつ製品の性能も従来のものから大きく変えずに製造できる ・第三者認証を受けることによりサプライチェーンの信頼性につながる |
企業が環境配慮型の生産活動に切り替える場合、設備投資や流通管理によるコストの発生が予想されます。しかし、マスバランス方式を採用することで、大規模な設備投資をせずに100%再生可能原料、または認証された原料由来といえる製品を生産・顧客へ提供することができ付加価値の創出が可能になります。
さらに、基本的に製品の原料を変える必要がないため、機能性や高品質が求められる分野において従来品の性能を保ちながら対応することや、段階的に環境に配慮した原料の使用割合を増やしていくことで技術向上を図ることも可能です。
また、マスバランス方式を採用するにあたり、ISCC認証やRSPO認証等の第三者認証を受けることが望ましいとされているため、企業としてサプライチェーンの信頼性を向上させることにもつながります。
マスバランス方式の課題
マスバランス方式は、これまで述べてきたようなメリットがある一方で、製品の表記と実質の含有量が異なることから、消費者に誤解を与える可能性を考慮しなければなりません。
また、マスバランス方式は持続可能な調達を達成するために最も適切とされている手法ではなく、特定の仕入れ先から100%再生可能・認証原料由来を調達するアイデンティティ・プリザーブド(IP)という手法が理想的であるとされています。RSPO認証は、IPを含めた3つのサプライチェーンモデルと1つの証券化モデルを認証しています。サプライチェーンモデルはIPの他にセグリゲーション(SG)とマスバランス(MB)があり、証券化モデルとしてブックアンドクレーム(B&C)というモデルがあります。実質的には非認証油を使用するB&Cや非認証油を一部使用するマスバランスは、将来的には認証油のみの取引に移行していくことを前提とした仕組みと位置づけられているといえるでしょう。
▼RSPOのサプライチェーンモデルと証券化モデル
(出典:WWFジャパンよりアミタ作成)
日本企業の取り組み事例
日本企業において、マスバランス方式に関連した事例を業界ごとにいくつかご紹介します。
【食品業界】
- カルビー株式会社 食品の調理用油
カルビーグループは、主に生産のフライ工程などの調理油として年間約4万トンのパーム油を調達しています。以前はB&C方式により、国内工場使用量相当の認証クレジットを購入していましたが、2022年よりすべての国内工場でマスバランス方式の認証パーム油へ切り替えました。今後の目標として「2030年までに認証パーム油100%使用」を掲げ、達成に向けて取り組んでいます。
- 不二製油株式会社 チョコレートに使用するカカオ豆
不二製油株式会社では持続可能なカカオ豆生産に向けて、その重要性を理解した上で生産地の農家への支援金を上乗せした価格で顧客が商品を購入できる「サステナブル・オリジン」という取り組みを行っています。この取り組みの対象となるのはサステナブルな基準に適合したカカオ豆となりますが、基準品と非基準品が混在するマスバランス方式の考え方が採用されています。
▼「サステナブル・オリジン」の仕組み
(出典:不二製油株式会社)
【化学業界】
- 株式会社プライムポリマー バイオマスプラスチック
三井化学グループの株式会社プライムポリマーで提供しているバイオマスポリプロピレンの「Prasus(R)」は、バイオマスナフサと石油由来ナフサを原料とし混合を行い完成した製品の一部にバイオマスの特性を割り当てています。同社ではISCC PLUS認証も取得しておりマグカップや食器の素材として活用されています。
▼マスバランス方式を用いたバイオマスプラスチック製造工程
(出典:株式会社プライムポリマー)
【鉄鋼業界】
- 株式会社神戸製鋼所 低CO₂高炉鋼材「Kobenable Steel」
神戸製鋼所は鉄鋼の製造工程において、鉄鉱石の一部を既に還元済みの鉄鋼原料であるHBI(Hot Briquetted Iron)に置き換える事で使用するコークスを減らし、CO2排出量を削減しました。その削減効果についてマスバランス方式を用いて特定の製品に集約させ、低CO2高炉鋼材として販売しています。原料に用いた還元鉄は割高のため通常の鋼材に比べて2~3倍の価格になりますが、三菱地所株式会社などが手がける東京・豊洲の大型開発の使用も決まり、さらなる活用が見込まれます。
- JX金属株式会社 100%リサイクル電気銅
JX金属株式会社ではマスバランス方式を用いた100%リサイクル電気銅の提供を開始することを発表しています。同社はユーザーが回収した使用済み製品をはじめとしたリサイクル原料を素材とする「PCL100/mb」と、マスバランス方式を採用した「MR100/mb」の2種類のリサイクル電気銅の提供を予定しています。2024年の7月時点で第3者認証であるCoC認証についても完了しており、カーボンフットプリントの削減や、リサイクル比率の向上などに向け取り組みが進められています。
▼「PCL100/mb」、「MR100/mbのサプライチェーン」
(出典:JX金属株式会社)
まとめ
本記事ではマスバランス方式の考え方と日本企業の取り組み事例についてご紹介しました。
マスバランス方式とは、ある特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部にその特性の割り当てを行う手法です。企業に対して製品の製造に加えて調達工程の環境配慮が求められる中で、導入しやすく、サステナブルな原料の使用を促進させていく上で企業の取り組みが進められていますが、マスバランス方式には課題もあります。持続可能な経営に向けて、マスバランス方式を取り入れる企業は今後も増えていくと考えられますが、明確な目標を定め、マスバランス方式はあくまでも目標に向けた移行戦略として導入することが求められるでしょう。
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- RSPO認証の概要については「食品や洗剤などに使用されるパーム油の国際的な認証制度があると聞きました。どのようなものですか?」 をご覧ください
執筆者情報(執筆時点)
山本 昂成(やまもと こうせい)
アミタ株式会社
ミッションマネジメント カンパニーサポートチーム
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