Q&A
TNFD最終提言(v1.0)のLEAPアプローチを学ぶ
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、2021年に発足した国際的なイニシアティブであり、組織が自然関連リスクと機会を報告し行動を起こせるよう、リスク管理と情報開示に関するフレームワークを開発しています。今回は、2023年9月に公表されたフレームワークの最終提言(v1.0)をもとに、情報開示に向けてリスクと機会の評価を行う際に使用されるLEAPアプローチについて、日用品メーカーを想定した回答事例とともに紹介します。
TNFDを進める上でのポイントや、LEAPアプローチの実施方法を事例とともに解説したセミナーの動画を公開しました。
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LEAPアプローチの進め方
LEAPアプローチとは、TNFDが情報開示に向けて提唱した、自然関連リスクと機会の管理のための統合的な評価プロセスです。TNFDはLEAPアプローチへの準備として、まずは評価範囲の選定(評価のスコーピング)を行い、その後LEAPアプローチの4つのステップ「Locate(発見)」「Evaluate(診断)」「Assess(評価)」「Prepare(準備)」を進めることを推奨しています。
▼LEAPアプローチの全体像
出典:TNFDよりアミタ作成
0. 評価のスコーピング
TNFDは、LEAPアプローチを開始する前に経営層または責任者と、作業を行うチームメンバー間の目標の共有・社内リソース配分の調整を推奨しています。なぜならば、TNFDが求める開示内容は、担当チームメンバーだけで遂行できるレベルではなく、企業のポリシーや取り組む意義・期待する成果など経営方針や全体予算に影響を及ぼすものだからです。評価のスコーピングでは、LEAPアプローチを進めるにあたり、目標や分析の期間・範囲を明確にするための質問が設けられています。
(1)作業の仮説立て | 自然と依存・影響・リスク・機会の関係がある組織の活動は何か? |
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(2)目標とリソースの調整 | 組織の現在の目標、データレベル、スキルを考慮した場合、評価をするために必要なリソース(資金、人材、データ)と時間は? |
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出典:TNFDよりアミタ翻訳
そして、LEAPアプローチ終了時に、当初の作業仮説が妥当かどうか、次回LEAPアプローチに取り入れるべきことは何か等を振り返り、スコーピングの修正を行うことが推奨されています。
▼回答事例
アミタ作成
1. Locate(発見) 自然との関わりを見つける
LEAPアプローチの最初のステップは、企業が自社またはバリューチェーンにおける地域や自然との接点を見つけることです。企業が事業活動によって自然に及ぼす影響の規模や範囲は、どのような特性がある地域で事業を行っているかによって大きく変化します。下記のL1~4の質問項目を通して、地域の生態系等を調査し、優先的に評価すべき地域を特定することが重要です。
L1 ビジネスモデルとバリューチェーンの範囲 |
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L2依存と影響の選別 |
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L3 自然との接点 |
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L4 影響を受けやすい場所との接点 |
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出典:TNFDよりアミタ翻訳
これらの質問項目に回答するにあたり、自社の事業や資産、バリューチェーンの位置をそれぞれの生態系にマッピングすることで、企業は自然に関する依存関係や影響を評価する基盤を作ることができます。これにより容易に自然に関するリスクや機会の評価を行うことができるでしょう。
▼回答事例
アミタ作成
2. Evaluate(診断) 自然への依存と影響の関係を読み解く
Evaluate(診断)のステップでは、下記の質問項目E1~E4を通して、企業が自然環境に関してどのように依存し、どのような影響を与えているのかを把握します。
企業の自然への依存関係や影響について理解を深めることは、リスク及び機会の理解を深めるための不可欠な前提条件となります。
E1環境資産と生態系サービスと影響要因の特定 |
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E2 依存関係と影響の特定 |
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E3 依存と影響の測定 |
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E4 重要な影響の決定 |
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出典:TNFDよりアミタ翻訳
- ポイント:依存と影響の測定
TNFDはE3にて依存と影響の測定をする際に、以下の評価指標を用いることを推奨しています。
▼TNFDが推奨する業界横断的な評価指標カテゴリーと例示的指標
出典:TNFDよりアミタ作成
▼回答事例
アミタ作成
3. Assess(評価) リスクと機会を見極める
自然への依存と影響の評価に基づき、企業は自然に関連するリスクと機会を特定し、優先的に開示すべきリスクと機会を明確にする必要があります。
A1リスクと機会の特定と評価 |
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A2 既存リスクの軽減策の見直しとリスクと機会の管理 |
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A3 リスクと機会の特定と優先順位付け |
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A4 リスクと機会の マテリアリティ評価 |
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出典:TNFDよりアミタ翻訳
- ポイント:依存と影響の測定
TNFDは、自然関連のリスクとして、下記を示しています。
▼自然関連のリスク指標
出典:アミタ作成
また機会としては以下が考えられます。
▼自然関連の機会の指標
出典:アミタ作成
- ポイント:リスクと機会の優先付けを行う評価方法
TNFDはA3におけるリスクと機会の優先順位付けの指標として、下記を提示しています。
▼自然関連のリスクと機会を優先順位付けのための基準
出典:TNFDよりアミタ作成
TNFDはISSB等が提供するガイダンスと整合性のある基準を使用することを推奨しており、
以下の2つに関連する追加基準を挙げています。
1. 自然に対する影響の重大性(プラスの影響の場合はその規模と範囲)
2. 自然から社会が受ける影響の重大性(プラスの影響の場合はその規模と範囲)
また、TNFDはリスクと機会に関する優先順位付け基準の具体例をまとめておりますので詳細は「LEAPガイダンス」のP119をご覧ください。
▼回答事例
アミタ作成
4. Prepare(準備) リスクと機会への対応策を整えて報告する
LEAPアプローチの最後のステップは、情報開示の準備として、対応策の戦略やリソース配分、目標への測定方法などを明確にすることです。
P1 戦略とリソース分配 |
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P2 目標設定とパフォーマンス測定 |
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P3 報告 |
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P4 公表 |
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出典:TNFDよりアミタ翻訳
▼回答事例
アミタ作成
さいごに
TNFDが推奨するLEAPアプローチは、自然との接点の特定、評価、管理、開示内容・方法を整理するフレームワークであり、あらゆる規模、あらゆるセクター、あらゆる地域の組織が利用できるように設計されています。LEAPアプローチを参考に、自社と自然の接点、どのようなリスクと機会があるか、イメージされてみてはいかがでしょうか。
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TNFDの概要については「第九回 TNFDとは? TNFDへの対応はESG経営への移行戦略を加速させる」をご覧ください。
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執筆者情報(執筆時点)
田中 千智(たなか ちさと)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 共創デザインチーム
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