Q&A
生物多様性COP15の2030年目標、日本企業への影響とは?
生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第2部が2022年12月に開催され、2030年目標となる「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。ではこの枠組が決まったことで具体的に日本企業へどのような影響があるのでしょうか。本記事ではCOP15の概要、企業へ与える影響についてお伝えします。
目次 |
COP15では何が期待されていた?
COP15は2022年12月7日から19日、カナダ・モントリオールで開催され、153の締約国・地域が参加しました。当初は2020年10月に中国・昆明市で開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって延期されたため、1部が2021年に、2部が2022年に別けて実施されました。
今回の会議では、2010年のCOP10で採択された愛知目標を見直し、新たな世界目標である「ポスト2020年生物多様性枠組み」の決定が予定されていました。
その背景として、愛知目標では2020年を目標達成年としていましたが、20の個別目標のうち、完全に達成されたものはゼロであったことが挙げられます。生物多様性条約事務局は、達成できなかった理由として、各国が設定する国別の目標と、愛知目標の達成に必要とされる内容のレベルに乖離があったことを挙げています。また、2050年ビジョン「自然との共生」の達成には、各目標に対して個別に対応するのではなく全体最適化のために総体で連携していくことが重要であることが共通認識になったといえます。
※2050年ビジョン「自然との共生」とは...
COP10で採択された愛知目標では、長期ビジョンとして「自然と共生する」世界の実現が掲げられていました。具体的には「2050年までに、生物多様性が評価され、保全され、回復され、そして賢明に利用され、そのことによって生態系サービスが保持され、健全な地球が維持され、全ての人々に不可欠な恩恵が与えられる」世界を指します。
図1:愛知目標と達成状況
出典:環境省「第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組」
COP15では何が決まった?
COP15では、愛知目標の後継目標として2030年までの世界目標を定める「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。本枠組みでは2050年ビジョン及び2050年に向けた4つの長期ゴール、そして2030年ミッションと2030年までに行うべき23個のターゲットがあります。
図2: 昆明・モントリオール生物多様性枠組の全体像
昆明・モントリオール生物多様性枠組(暫定訳)1をもとにアミタ作成
ここで注目すべきは、2030年ミッションに「生物多様性の損失を食い止め、回復させる」というネイチャーポジティブの概念が反映されていることでしょう。
この背景には、すでにCOP15が開催される前に、国際的な会議の場でネイチャーポジティブに対応すべきであるという意識形成があったことがあります。2019年に生物多様性事務局が公表した「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)」やIPBES「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」では生物多様性の減少加速に警鐘を鳴らしています。この公表があった後、COP15に先立って開催された2020年の国連生物多様性サミットではポスト2020生物多様性枠組みが合意され、2021年のG7では2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させるというネイチャーポジティブをゴールとした4つの行動が約束されました。
COP15が日本企業に与える影響とは?
2030年までに取り組むべきターゲットをもとに企業に影響しうるターゲットをみていきましょう。
図3:2030年ターゲット
昆明・モントリオール生物多様性枠組(暫定訳)1をもとにアミタ作成
ターゲット3の「陸域、陸水域並びに海域の生態系の30%を保全する」はいわゆる「30by30」目標と呼ばれており、日本政府が2022年4月に「30by30ロードマップ」を発表するなど今後その推進が加速されるであろう取り組みです。日本の保護地域の現状は、陸域20.5%、海域13.3%という数値にとどまっていますが、この30by30目標を達成するカギとして着目されているのが、企業有林や里地里山などの保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)です。政府はOECMを自然共生サイトとして、その認定制度の施行を2022年度から開始し、2023年から正式に認定する事を予定しています。さらに2023年中には100カ所以上の認定を目指しており、民間企業にとっては自社が保有している有林の認証を取得することによって生態系保護への貢献をアピールすることができるといえるでしょう。
参考記事:
30by30とは?企業の生物多様性の取り組み方についても解説
OECMとは? 事業のサステナビリティを向上させる具体的事例を紹介!
ターゲット7の「農薬及び有害性の高い化学物質によるリスクを少なくとも半減、プラスチック汚染を廃絶にする」は農業部門に影響しうる行動目標でしょう。日本はすでに「みどりの食料システム戦略」において、2050年までに化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減を取り組みの指針として掲げていますが、COP15で定められた目標は日本の数値より20年早い設定となっています。欧州委員会が2020年に発表した持続可能な農業戦略でも、COP15と同様の数値目標を設定するなど、今後日本の取り組みも世界基準に遅れをとらぬよう進めていく可能性もあるでしょう。
ターゲット10「農業、養殖、漁業、および林業を持続可能な方法で管理する」を達成するためには、企業や自治体がASC(水産養殖管理協議会)やMSC(海洋管理協議会)、FSC(森林管理協議会)といった環境認証を取得することが手法や方法として挙げられます。特に今回、MSCの国際規格が生物多様性の危機的状況に対する取り組みを科学的に測定する方法として認められました。これらの環境認証を取得することによって、持続可能な方法で管理された現場で生産された商品であることを消費者にアピールするだけでなく、サプライチェーン全体で環境への取り組みを行うことができます。
※実際にアミタの環境認証サービスでMSCを取得した企業のインタビューを掲載しています。是非ご覧ください。
参考記事:
水産資源は適切な管理ができれば、永遠に持続可能なもの
ターゲット15の「企業や金融機関が生物多様性へのリスク、依存、影響をモニタリングし、評価し、開示すること」で、生物多様性においても企業の情報開示が求められるようになったことがわかります。もう少し詳しく見てみると、すべての大企業並びに多国籍企業、金融機関については、業務、サプライチェーン、バリューチェーン、ポートフォリオにわたって情報開示を実施することを要件とすると記載されています。サプライチェーンを含めて発表することはなかなか容易ではありません。義務化とまで明記されていませんが、まさにTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が2023年に最終版公表予定であったり、2025年にはCDPがSBTの自然版を公表予定であったりなど、今年情報開示のルールを確定していく動きが予想されます。
ターゲット16の「食品廃棄の半減、過剰消費の大幅削減、廃棄物の発生の大幅削減」は、フードロスの推進、さらに廃棄物をそもそも発生させないような抑制を提言しています。ターゲット7でもあげた「みどりの食料システム戦略」でもフードロスについて、2030年度までに事業系食品ロスを2000年度比で半減させることを目指すと目標設定しています。すでに食品業界などの企業が取り組んでいるテーマですが、最近では自社だけでなく自治体や学校と手を組み実証実験を行うなど、今後新たな取組が注目されています。
生物多様性とTNFD
ターゲットをいくつか紹介しましたが、そのなかでもターゲット15は今後多くの業界において直接的に関係しうるものではないでしょうか。改めてとなりますが、TNFDについて振り返りましょう。TNFDとは気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の自然資本版と言われています。民間企業や金融機関が自然関連リスクを開示するためのフレームワークであり、金融の流れを自然にとってプラスの結果へシフトするよう促すものです。2021年に発足され、2022年11月に公表されたベータ版では、LEAPアプローチという手法を用いて、発見、診断、評価、準備の4ステップによって自然関連リスクと機会を評価することがわかりましたが、2023年9月には、確定されたフレームワークが公表される予定です。
※TNFDへの取り組み方のステップは下記記事で詳しく説明しています。是非ご覧ください。
参考記事:
TNFDはFDI(対内直接投資)獲得の絶好のチャンス。日本企業はネイチャーポジティブを「お家芸」に育てるべし!
さいごに
本記事ではCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」において、企業に影響しうるターゲットを解説しました。現在、企業の情報開示においては脱炭素が主流となっていますが、今後生物多様性についても同様な流れになる可能性があります。まずは、23のターゲットのうち、自社のバリューチェーンにおいて関係しうる項目を特定し、優先順位が高い課題を定めてはいかがでしょうか。TNFDを有効活用し自社の自然関連リスクと機会の評価を行っていきましょう。
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執筆者情報(執筆時点)
田中 千智(たなか ちさと)
アミタ株式会社
社会デザイングループ カスタマーリレーションチーム
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