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SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?サステナブル経営における重要指標
新型コロナウイルス感染拡大の影響や第四次産業革命、気候変動やグローバルサプライチェーンの寸断などにより、先行きが不透明で将来の予測が困難な時代になっています。この不確実性の時代において、企業が持続可能性を重視した経営へ転換する「サステナビリティ・トランスフォーメーション(以下、SX)」への注目が高まっています。
目次 |
SX(サステナビリティ・トランスフォーメ―ション)とは
SXとは、不確実性が高まる環境下で、企業が「持続可能性」を重視し、企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針です。経産省の検討会の中でも取り上げられています。
<サステナビリティ・トランスフォーメ―ションとは> 参考:経済産業省 「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」中間取りまとめから筆者加工 2020.8
企業は、環境変化による不確実性の高まりと、社会のサステナビリティの要請の高まりという2つの大きな外部環境の変化の中で、企業のサステナビリティを高めていくことが求められています。
企業は、現在の経営資源を出発点に、競争優位を築いて顧客に価値を生み出し、将来にわたってその競争優位を維持・強化していくとともに、不確実性に備え、長期的な社会の要請と一致した企業経営と対話を行うことが鍵となります。
そのためには、前提としている時間軸を5年、10年という長期の時間軸に設定した上で「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させた経営戦略の立案とその実行力が重要となっています。
企業が長期的なサステナビリティを高めるためには、短中期には自社の競争優位性や強みを生かして十分に利益を稼げていることが前提条件となります。そこで稼いだ利益を、イノベーション創出に向けた取り組みや、企業のサステナビリティの向上に向けた投資に振り向けることが、企業のSX推進に向けた第一歩といえるでしょう。
DXとSXの違い-重視する価値の違い
SXと同じく、現在、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の重要性が認識され、多くの企業がDXの取り組みを推進・強化しています。
DXとは「AIやIoT、クラウドなどのデジタル技術を活用して、新たなサービスやビジネスモデルを創造して顧客の価値体験を変革し、自社の事業と組織の変革、意識や制度改革を経営の視点で遂行し、他社より早く競争優位性を確立すること」を指します。
DXは、他社より早く競争優位性を確立することが、大きな目的の一つとなっており、いわば、短期的な成果に結びつける取り組みです。一方、SXは長期の時間軸による持続可能性を重視した取り組みとなります。
未来投資会議(2020年7月)で議論された東京商工リサーチ「第6回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」(2020年7月14日公表)によると、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナを見据え「企業戦略を見直した」または「見直す予定がある」と回答した企業は71%となっています。
見直し内容としては「持続可能性を重視した経営への転換」が69%と最も多く「DXの推進」は3分の1以下の21%に留まっています。新型コロナウイルスの影響で、持続可能性を重視した企業戦略の見直しが急務となっており、SXへの対応を重視していることがうかがえます。
<新型コロナの影響による企業戦略> 参考:未来投資会議 2020.7から筆者加工
企業においては、DX推進による競争優位性を高めて利益を確保し、企業のサステナビリティの向上に投資することで、長期軸での持続可能性を高めた経営、長期的な価値創造ストーリー磨き上げる、SXの推進につなげていく必要があるでしょう。
SXを推進するための考え方と方針-長期の時間軸の「対話」によるレジリエンスの強化に向けて
経済産業省の検討会でも議論されているように、SXの実現には「"企業のサステナビリティ(稼ぐ力)"と"社会のサステナビリティ(社会課題、将来マーケット)"の同期化」が必要です。これらは、以下のように定義されています。
- (1)稼ぐ力の持続化・強化
"企業としての稼ぐ力(強み・競争優位性・ビジネスモデル)を中長期で持続化・強化する、事業ポートフォリオマネジメントやイノベーションなどに対する種植えなどの取り組みを通じて、企業のサステナビリティを高めていく" |
(引用:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ概要」より)
- (2)社会のサステナビリティを経営に取り込む
"不確実性に備え、社会のサステナビリティ(将来的な社会の姿)をバックキャストして、企業としての稼ぐ力の持続性・成長性に対する中長期的な「リスク」と「オポチュニティ」双方を把握し、それを具体的な経営に反映させていく" |
(引用:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ概要」より)
これらの2つのサステナビリティを同期化することで「長期の時間軸の「対話」によるレジリエンスの強化」を図っていくことが重要となります。これらの同期化を深化させていくためには、持続的な社会にどのような価値を提供する存在か、といったサステナブル経営のための存在意義(パーパス)を社内外のステークホルダーに対し発信をすることが前提となります。その上で「達成のための重要課題の特定」「長期ビジョンや長期経営計画の立案」「戦略等の実行・検証・フィードバック体制まで含めた対応」が重要となります。
<SX推進に向けたステップ> 参考:第2回 サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会) 2021.6.25
SXの実現に必要な能力-ダイナミックケイパビリティとデジタル化
SXの実現に向けて注目されているのが、組織内外の経営資源を再結合・再構成する経営者や組織の能力としての「ダイナミックケイパビリティ」です。この能力を高めることが、競争力の源泉につながると期待されています。
競争力の構成要素は、これまで考えられてきた組織能力「オーディナリーケイパビリティ」の「オペレーション」「管理」「ガバナンス」が中心となっていました。「オーディナリーケイパビリティ」とは、同じ顧客に同じ製品・サービスを提供するために同じ技術を使い、同じ規模で企業が活動する能力のことを指します。以前はこれらの取り組みをしっかりとしていれば、企業経営として一定の効果を上げることができました。
しかし、新型コロナウイルス感染症など不確実性が高まる社会では、オーディナリーケイパビリティだけでは対応が難しくなっています。
そのため、企業は不確実性が高まる世の中の変化を読み解きながら、ダイナミックケイパビリティによる「感知」「捕捉」「変容」に着眼点を転換していくことが重要となっています。
ダイナミックケイパビリティの強化には、変化に柔軟に対応可能な「デジタル化への対応」が必要不可欠となります。たとえば、データの収集・蓄積・可視化、AIを活用した予測や予知、自動化による柔軟な工程変更などは、デジタル化に対応することで、臨機応変に対応が可能となります。
NTTコミュニケーションズは、企業のSX推進やダイナミックケイパビリティへの対応を支援するデジタルプラットフォームとして、Smart Data Platform(SDPF)を提供しています。
SX実践事例の紹介
SXの推進に必要な取り組みの一つが、サーキュラー・エコノミー(循環経済)の推進です。サーキュラー・エコノミーは、資源投入量、消費量を抑えつつ資源を有効活用し、無駄をなくす取り組みで、経済モデルの再形成を行うために必要なパラダイム・シフトです。
アミタホールディングスなどが発起人となり、2020年に「九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ」(K-CEP/ケーセップ)を発足しました。K-CEPは、九州エリアでのサーキュラー・エコノミー実現を目的とし、資源・エネルギー・人の行動情報をICTにより蓄積・分析し、サプライチェーン全体の最適化に取り組む産官学民連携の新事業共創プラットフォームです。
<産官学民連携の共創プラットフォームの構想図> 参考:アミタホールディングス
加盟企業は以下のとおりでNTTコミュ二ケーションズも参画しています(2021年8月現在)。
アミタホールディングス/イージーエス/エステー/NECソリューションイノベータ/NTTコミュニケーションズ/ENEOS ホールディングス/花王/クラシエホールディングス/光和精鉱/シャボン玉石けん/積水化学工業/NISSHA/ネスレ日本/富士通/芙蓉総合リース/三井化学/三菱ケミカル/ユニ・チャーム/ユニリーバ・ジャパン/ライオン
K-CEP では、2021年7月9日から約6カ月間、10社以上の企業・団体と連携し、使用済みプラスチック回収実証実験「MEGURU BOX(めぐるボックス)プロジェクト」を立ち上げています。福岡県北九州市の流通小売店舗や公共施設などに「MEGURU BOX」を設置し、住民に分別回収を呼び掛け、ICTの活用によって資源の回収率を向上させる仕組みを検証するとともに、回収したプラスチックの水平リサイクルなどを推進しています。大手日用品メーカー等、10社以上が連携するという点では日本初の取り組みです。
- MEGURU BOXプロジェクト:https://www.j-cep.com/mb-kitakyushu-c
- K-CEP(九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ):https://www.j-cep.com/
SXを推進する理由-なぜ、サステナブル経営が必要か
日本社会や経済は、超少子高齢化社会を迎え、右肩上がりの経済成長から持続可能性を重視した社会モデルへシフトしていくことが求められています。
経済産業省は2021年6月2日「グリーン成長に関する若手ワーキンググループ」の報告書のとりまとめを公表しました。本報告書では、GDPに匹敵する指標として、経済の持続可能性を表す新たな経済指標を提案し「未来に何を残すのか」という視点から、人・環境・資源・社会などの持続可能性を測る重要性を指摘し、国の経済指標として「持続可能性」を掲げる必要性をあげています。
これまでは経済成長によって豊かになり、選択の自由が増えてきましたが、現在は気候変動・人口減少・格差拡大・莫大な国債残高などに直面し、企業は株式市場などにおいてESGという持続可能な価値が求められるようになっています。しかし、国全体を表す指標や、2050年以降を見据えた長期的な視座に基づく指標が存在していないという課題を指摘しています。
<サステナブル指標の設定 ~豊かさを再定義する>
参考:経済産業省 グリーン成長に関する若手ワーキンググループ 2021.6.2
本報告では「これまでのようにGDP(経済規模)を拡大するだけでなく、経済をまわす基盤である社会や環境とのバランスを同時に模索し、GDPと異なる切り口として、未来視点とダイバーシティを重視して新たなビジョンと指標が必要」とされています。
SXの推進は、まさに、これからの新たな経済指標ととらえ、ESG・SDGsなどの社会的価値と企業の稼ぐ力と、競争優位性に基づく経済的価値の両立に向けた取り組みであり、企業経営のレジリエンスを高めて企業価値を向上させる、必要不可欠なものとなるでしょう。
参考情報
URL:https://www.meti.go.jp/press/2020/08/20200828011/20200828011.html
経済産業省 「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」中間取りまとめ 令和2年8月28日
URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_sx/003.html
経済産業省 サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)令和3年7月26日
URL:https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210602004/20210602004.html
経済産業省「グリーン成長に関する若手ワーキンググループ」の報告書 令和3年6月2日
URL: https://www.j-cep.com/
九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(K-CEP/ケーセップ)
執筆者プロフィール
林 雅之(はやし まさゆき)氏
NTTコミュニケーションズ株式会社
エバンジェリスト。Smart Data Platformの広報・マーケティングを担当。国際大学GLOCOM客員研究員。複数の企業のアドバイザーなどにも従事。主な著書に『イラスト図解式この一冊で全部わかるクラウドの基本』(SBクリエイティブ)、『スマートマシン 機械が考える時代』(洋泉社)など
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