Q&A
地域共生社会に関する新たな事業「重層的支援体制整備事業」とは何ですか?
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前編「地域共生社会とは?」記事はこちら
これまでの日本の社会保障制度では、人生において典型的なリスクや課題を想定して、生活保護、高齢者介護、障害福祉、児童福祉など、属性別・対象者のリスク別の制度を発展させ、専門的な支援を充実させてきました。
しかし、一つの世帯に複数の課題が存在している状態(80代の親が50代の子どもの生活を支える8050問題や、介護と育児のダブルケアなど)や、世帯全体が孤立している状態など、住民が抱える課題が複雑化・複合化する中で、従来の支援体制ではケアしきれないケースが発生してきました。そんな中生まれた地域共生社会という概念※に基づいて、市町村が創意工夫をもって包括的な支援体制を円滑に構築・実践できる仕組みをつくるため、社会福祉法に基づき2021年4月より実施されることになった新たな事業が「重層的支援体制整備事業」です。
※地域共生社会の概念
子ども・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会の実現を目指す。このため、支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる仕組みを構築する。
重層的支援体制整備事業のポイント①
高齢、障害、子ども、生活困窮の分野を越えた事業実施
重層的支援体制整備事業とは、市町村における既存の相談支援等の取り組みを活かしつつ、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を構築するため、Ⅰ相談支援、Ⅱ参加支援、Ⅲ地域づくりに向けた支援を一体的に実施する事業を創設するものです。市町村の手あげによる任意事業ですが、実施の際には、Ⅰ~Ⅲの支援を創設することが必須条件となっています。
Ⅰ相談支援 | 相談者の属性、世代、相談内容に関わらず、包括的相談支援事業において相談を受け止める。複雑化・複合化した事例については、各分野の相談支援関係者へつなぐ多機関協働事業により、課題の解きほぐしや関係機関間の役割分担を円滑に連携することを目指す。長期にわたりひきこもりの状態にある人など、自ら支援につながることが難しい人の場合には、アウトリーチ等(※1)を通じた継続的支援事業により本人との関係性の構築に向けて支援をする。 (※1)支援が必要であるにも関わらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けること |
Ⅱ参加支援 | 介護・障害・子ども・困窮等の既存制度では対応できない狭間のニーズに対応するため、本人のニーズと地域の資源との間を取り持つことで多様な資源の開拓を行い、本人・世帯の状態に寄り添って、社会とのつながりを回復する参加支援(※2)事業を実施する。長く社会とのつながりが途切れている者に対しては性急な課題解決を志向せず、段階的で時間をかけた支援を行う。 (※2)就労支援、見守り等居住支援など |
Ⅲ地域づくりに向けた支援 | 地域づくり事業を通じて住民同士のケア・支え合う関係性を育むほか、他事業と相まって地域における社会的孤立の発生・深刻化の防止をめざす。住民同士が出会い参加することのできる場や居場所づくりや、ケア・支え合う関係性を広げ、交流や活躍の場を生み出すコーディネートを行う。 |
図:厚生労働省「社会福祉法の改正趣旨・改正概要」より重層的支援体制整備事業の全体図
重層的支援体制整備事業のもと相談支援、参加支援、地域づくりに向けた支援という3つの支援に一体的に取り組むことで、以下の例に挙げるような相互作用を生み出すことを目指しています。
- 「相談支援」において浮かび上がったニーズを、「参加支援」で開拓した就労や一時的な住まいの提供などの地域資源に繋げる。
- 「地域づくりに向けた支援」により地域の人と人とのつながりが強化され、個人や世帯が抱える課題に対する地域住民の気づきを生まれやすくすることで、周囲の人が課題を抱える本人に声かけをすることなどを通じて「相談支援」へ早期に繋がる。
さらに、各分野の関係者が一体的な事業に取り組むにあたり議論する場が生まれることで、地域の課題感を共有し、解決に向けて早期にともに歩みやすい環境が整うといった効果も期待されます。
重層的支援体制整備事業のポイント②
分野間の配分を問わない一体的な財政支援
重層的支援体制整備事業における最も注目すべき点は、従来分野ごとに別々に交付されていた国等からの補助金が、社会福祉法に基づく1つの交付金として交付されることです。これまで必要であった「各分野の補助金を案分し、組み合わせて運用する」といった適法に事業を実行するための多大な事務コストが削減できるのです。その分、最も重要な業務である対人支援(ケア)に時間をかけることができるようになり、複雑化・複合化した多様な支援ニーズに対応しやすくなるのです。
▼費用按分のフロー(案)
図:厚生労働省「社会福祉法の改正趣旨・改正概要」
新たな事業の実施で何が変わるのか?ポイント①②のまとめ
「これまでとは何が違うのか?」という視点で、重層的支援体制整備事業のポイントをまとめます。
① 市町村全体で「断らない包括的な支援体制」を構築するものであり、新しい「窓口」をつくるものではない。
➢ すべての住民を対象に
➢ 既存の支援機関を活かしてつくる
➢ 連携体制の構築に必要な「協働の中核」「継続的な伴走支援」「参加支援」
の機能・財政支援を強化
②体制づくりに必要な費用について、財政支援を一体的に行う仕組みにする=各制度で定められた支援機関の機能を超えた支援が可能となり、制度の狭間の複合的な課題にアプローチできる。
(例)これまでは、8050問題を抱えた家庭へ、80歳の方を対象として介護支援専門員(「介護保険法」に規定された専門職。ケアマネージャー。)が自宅を訪問した際に、同居する50歳の方の生活が困窮しており支援が必要とわかっていても、介護保険の対象外であるためその場で対応することができなかった。今回の改正によって、他の分野の支援機関や専門機関への連携がとりやすくなるため、この例では、50代の生活困窮されている方について、ケアマネージャーや地域包括支援センターから生活困窮者の相談支援機関へのつなぎが行いやすくなる。
図:厚生労働省「社会福祉法の改正趣旨・改正概要」をもとにアミタ作成
自治体担当者の疑問にお答え! ▼相談支援体制の整備例(クリックで拡大) |
包括的な支援体制の構築 そして福祉を越えた連携へ
前編では地域共生社会の概念やこれまでの取り組みを、後編にあたる今回は、顕在化してきた課題に対応すべく創設される新たな事業「重層的支援体制整備事業」についてご紹介しました。地域共生社会を実現していくためには、分野を越えた複合的な課題解決に向けた支援体制の構築が急務です。手あげ方式の事業であり、市町村の積極性が求められるため、取り組みが進む自治体とそうでない自治体との差が開いていくことと思われます。少子化・高齢化・人口減少が進む地域において、早期に議論を始めることが、持続可能なまちづくりへとつながるでしょう。
そもそも地域共生社会とは、地域住民や地域の多様な主体が分野や属性の壁を越えた協働を実践し、誰もが支え合う地域を創っていくことを目指して掲げられた概念です。福祉分野からのアプローチだけではなく、まちづくりという「楽しくてワクワクする」分野からのアプローチも重要です。次のステップとして、福祉という枠にとらわれない連携が求められています。
図:厚生労働省「社会福祉法の改正趣旨・改正概要」より
アミタでは「ごみの分別・持ち込み」という日常行為をきっかけとして多様な市民が集い、コミュニティ活動へ参画しやすい拠点を設置し、地域の課題を統合的に解決する資源回収ステーション事業の開発を行っています。地域共生社会で目指す、支え・支えられる社会の構築に寄与することを目指し、2020年12月より、奈良県生駒市の「こみすて」事業に参画しています。
合わせて読みたい
参考情報
- 厚生労働省,地域共生社会のポータルサイト https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/
- 厚生労働省,令和2年度 地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000114092_00001.html - 同上、資料「社会福祉法の改正趣旨・改正概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000652457.pdf - 同上、資料「重層的支援体制整備事業における体制構築」
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000649818.pdf
執筆者プロフィール(執筆時点)
宍倉 惠
アミタ株式会社
社会デザイングループ 緋チーム
大学時代に休学して農村地域に1年間住み込み、暮らし・産業に係るボランティア活動に取り組む。地域コミュニティや自然との共生、循環型の暮らしの大切さを実感し、ビジネスを通して持続可能な地域づくりに貢献したいという思いでアミタに合流。入社後は宮城県南三陸町、奈良県生駒市で小規模自立分散型の地域モデルづくりや運営に携わり、2021年より企業の持続性向上に資する循環型事業モデルの構築をトータルでサポートする社会デザイングループに所属。
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