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「ダイナミックケイパビリティ」とは?VUCAの時代に求められる組織能力

「ダイナミックケイパビリティ」は、不確実性が高く変化の激しいVUCAの時代に必要な組織能力として大きな注目を集める。企業がイノベーションのジレンマから抜け出し、持続的な競争優位を獲得するには?
今回は「ダイナミックケイパビリティ」研究の第一人者である菊澤研宗氏(慶應義塾大学商学部・商学研究科教授)に解説いただきました。

※本記事は、アミタグループ代表による連載「道心の中に衣食あり」の対談内容を基に執筆しています(対談日:2021年1月6日、対談全文はこちら)。

目次
"ダイナミックケイパビリティ"とは?

ダイナミックケイパビリティの提唱者であるデイビッド・J・ティースによると、企業のケイパビリティには以下2つの能力があるとされています。

オーディナリーケイパビリティ
  • 企業内の資産や資源をより効率的に扱う企業の通常能力のこと。
  • ビジネス環境が安定していて、企業が利益最大化を目指して、より効率的に活動しようとするときに発揮される。
ダイナミックケイパビリティ
  • 企業が環境の変化を感知し、そこに新ビジネスの機会を見出し、そして既存の知識、人材、資産(一般的資産)およびオーディナリーケイパビリティを再構築・再編成する能力のこと。
  • 現代のように不確実性が高く、変化の激しいビジネス環境下で求められる。

「オーディナリーケイパビリティ」とは、既存の事業パラダイムを前提とし、パラダイム⾃体を精緻化させていく能⼒です。
オペレーションの効率化や管理能⼒の向上など、パラダイムは変えずに社内のルーティンを精緻化・厳密化する内向きの能⼒を指します。

一方「ダイナミックケイパビリティ」とは、外部環境と既存のパラダイム(ビジネスモデル)との間のずれをチェックし、もし⼤きくずれていたら(感知)、そこに新しい機会を見出し(捕捉)、パラダイム⾃体を変化(変革)させていく外向きの能⼒です。顧客や外部との対話を通して、既存のオーディナリーケイパビリティを含め、もともと企業が有する固有の経営リソースを再構成・再配置・再利用し、新たな価値を創出する能力。すなわち、絶えず環境に適応するために必要な能⼒を指します。これらオーディナリーケイパビリティとダイナミックケイパビリティという2つの能力の相互作用を通して、企業は持続的競争優位を獲得することができることになります。

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日本企業がイノベーションに挑戦できない理由 -「パラダイムの不条理」と発生コスト

多くの企業が「このままではいけない」と感じながらも、大胆なイノベーションに挑戦できない原因の一つに「パラダイムの不条理」があります。従来、企業は「事業パラダイム」というビジネスモデルを創り、それを進化させることでより多くの利潤を追求します。特に日本企業は、成功体験を得ることで現状のビジネスモデルのもとにコストを削減し、利益の最大化を目指してより効率的に行動しようと努力する内向きの傾向が強いようです。

それゆえ、周りの環境に大きな変化があったとしても、パラダイムを変革することなく、既存のパラダイム内でまじめに変化に対応しようとします。しかし、これでは大きな変化に対してタイムリーに適応することは難しく、自社を取り巻く環境の変化に適応できずに失敗してしまいます。

一方、パラダイムの変革には、以下のコスト発生が付き物です。

  • 既存のパラダイム放棄により、これまでの投資が無駄になる(「埋没コスト」の発⽣)
  • 既存のパラダイムに従っていれば得られるはずの利益を失う(「機会コスト」の発⽣)
  • 既存のパラダイムに固執する⼈々(利害関係者)の説得が必要になる(「取引コスト」の発生)

そのため、変革によって発生する上記3つのコストがあまりに大きい場合、例え長期的(あるいは社会的)に見て既存のパラダイムが非効率であったとしても「現状を変えないほうが合理的である」という判断に至ってしまいます。企業による合理的な判断が、結果的には保守的な経営や組織の硬直化を招いてしまうのです。これがパラダイムの不条理です。
実際に変革を実行するには、これらのコスト以上にプラスを生み出すような変革、つまり既存の資産の再構成・再配置・再利用が必要です。この再構成・再配置するために提唱されているのが「共特化の原理」であり「オーケスレーションの原理」とも呼ばれている原理です。

ここで言う「再構成・再配置」とは単に、直接的な資産間や知識間の結合ではありません。まず全体としてのミッションやビジョンがあり、それを正しいと経営者が価値判断し、社員もそれに共感し、既存の人的・物的資産のみならず知識・技術資産を再構成・再配置していく。これによって、オーケストラのように部分の総和以上の全体を生み出す。そうした「ミッションベース・ダイナミック・ケイパビリティ」とも言える能力の向上が、アフターコロナに求められる企業変革の在り方なのです。

ダイナミックケイパビリティによるイノベーション事例

ダイナミックケイパビリティを発揮し、イノベーションを起こした代表的な企業の一つが、富士フイルムホールディングス(株)です。同社は元々写真フィルムメーカーでしたが、デジタルカメラの普及に伴う急速な市場縮小に対応するために、多角化戦略に乗り出し、コラーゲンをめぐる写真技術を活かして化粧品業界への参入に成功しました。まさにダイナミックケイパビリティを存分に発揮して多角化し、生き残ったのです。
これに対して、同じ課題に直面していた米国の大手フィルムメーカーは同じ技術を有していたにも関わらず、それらを利用せず、既存の事業パラダイムのもとにオーディナリーケイパビリティを駆使してコスト削減を続け、倒産しました。

また、ソニー(株)の子会社である(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント(現(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント)は、ゲーム業界において後進企業でありながらも、多くのソフト会社や販売店等を巻き込む形で企業内外の資産を再構成・再配置し、戦況を有利にするビジネス・エコシステム(企業をめぐる生態系)を形成することで、一躍業界トップに躍り出て、大きな成功を手にしました。 

日本企業はダイナミックケイパビリティのポテンシャルが高い

上記のように「ダイナミックケイパビリティ」は日本企業の成功を特徴づける能力の1つです。これには、日本企業の組織構造や経営スタイル(主に以下)が大きく関わっています。

  1. 企業内部の労働流動性の高さ
    日本企業は会社内部の労働流動性が非常に高く、外部環境の変化に応じて社内の人的資源を再構成・再配置・再利用しやすい。
  2. ステークホルダー経営の浸透 
    "株主が儲かりさえすれば良い"という株主主権の経営の発想ではなく、社内外のステークホルダーを重視する経営、共創による価値づくりが根付いている。

これまで、日本の企業経営のお手本は常にアメリカでした。しかし、アメリカ型経営では、企業外部の労働市場の流動性が重視され、会社内部の労働流動性は低い傾向にあります。同一職務・同一賃金制度の採用によって、一人の社員の職務は明確となります。それゆえ、環境の変化に対応するたびに、多くの労働者を解雇し、必要な新しい労働者を雇⽤する必要があります。自ずとその調整コストは非常に高くなります。
さらに、アメリカ型経営は株主第一主義です。経営の目的は株主価値の減少を抑えることであり、このような発想はしばしば企業の硬直化、保守的な経営を招き、従業員の人間性を無視するため、結果的に弱い組織を作り出してしまいます。

これに対して日本企業は、外部変化に柔軟に対応する上記の要素を備えています。
このポテンシャルを活かさない手はありません。日本企業のイノベーション力を高める鍵として「ダイナミックケイパビリティ」に基づく経営論は、今まさに注目を集めています。

講師プロフィール(掲載時点)

mrkikuzawa.png菊澤 研宗(きくざわ けんしゅう)氏
慶応義塾大学商学部・商学研究科教授

1957年生まれ、慶應義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授・中央大学教授などを経て、2006年慶應義塾大学商学部・大学院商学研究科教授。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。元経営哲学学会会長、現在、日本経営学会理事、経営行動研究学会理事、経営哲学学会理事。
『戦略の不条理―なぜ合理的な行動は失敗するのか』(光文社新書、2009年)、『組織の不条理―日本軍の失敗に学ぶ』(中公文庫、2017年)、『改革の不条理―日本の組織ではなぜ改悪がはびこるのか』(朝日文庫、2018年)、『成功する日本企業には共通の本質がある―ダイナミック・ケイパビリティの経営学』(朝日新聞出版、2019年)など著書多数。

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書き手プロフィール(執筆時点)

駒井 映里(こまい えり)
未来デザイングループ 共感クリエーションチーム

龍谷大学国際学部グローバルスタディーズ学科を卒業後、2020年度にアミタに合流。
大学時代は、途上国の開発問題や地球環境問題などサステナビリティについて幅広く学習。
人と自然が同時に豊かになる社会を実現したいとの想いで、日々取り組んでいる。 

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