Q&A
企業の水リスク、取り組みのポイントとは?
Image by Katja Just from Pixabay
企業活動の最重要資源でもあり、時には大きな災害の要因にもなる「水」について、企業はどのようにマネジメントを行えばいいのか。今回は「企業の水リスク」をテーマに、八千代エンジニヤリング株式会社の吉田氏と金子氏に、解説いただきます。
※本記事は、アミタ(株)主催セミナーにおける吉田氏と金子氏のご講演内容を基に執筆しています。
まずはおさらい!水リスクとは?懸念される被害や影響
地球温暖化の影響が進むにつれ、世界各地で、干ばつ・渇水による水の調達リスクや、洪水による災害が深刻化しています。工場排水による水質汚染等の公害リスクもあわせ、水を要因とする「企業活動に影響を与え得る不確実性」を「水リスク」と言います。
▼水リスクの事例
企業の水調達リスク | インドにて、企業活動の影響により、井戸水が枯渇したとして、住民による工場に対する抗議デモが発生。海外資本の清涼飲料水生産工場が閉鎖。 |
日本にて、集中豪雨により工業用水の取水施設が被災。供給を受ける工場の操業が停止。 | |
干ばつのリスク | オーストラリアにて、大規模な森林火災や渇水が発生。これらによる家畜や穀物の生産へのダメージ。 |
例えば、世界銀行の調査によれば、効果的な対策が取られない場合、日本を含むアジア等の地域におけるGDPは2050年にマイナス6%になると言われています。また、世界資源研究所の発表によれば、洪水の被害額は、2080年に全世界で現在の7倍以上(2,841億ドル)にもなるという試算がなされています。
日本の企業の対応状況としては、CDP水セキュリティへの回答率が年々高まり、2019年は320社中194社(約6割)が回答し、うち最高評価の「Aリスト」に入る企業が世界で最も多い23社となっています。(CDP水セキュリティレポート2019:日本版の回答についてはこちら)
企業が水リスクに取り組む際のポイントは?
企業の水リスクの取り組みフローは下記のように考えられます。全ての基礎となるフローが「実態把握」ですが、この点が見落としがちなポイントとなります。
例えば、同じ取水量であっても、水不足の流域からの取水とそうでない流域からの取水では、与えるインパクトは異なります。効果的なアクションを取るためには、取水量だけでなく、水質や地形、地域の水利用状況など、複数の視点から、しっかりと実態把握を行う必要があります。
▼チェックポイント
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例えば、ある企業では、工場の水源である地下水の起源を把握し、持続可能な地下水取水のために、上流地域の森林を守り、水を育む活動を展開しています。また、水資源の保全だけでなく、森林に散策回遊道を設置するなど、人々が自然との触れ合いを体験できる空間づくりを進めています。
CDP水セキュリティのスコアを分析し、自社取り組みを見直すきっかけに
また、世界的な情報開示プログラムである「CDP水セキュリティ※」に回答することで、自社の取り組み情報を見直すことができます。CDP水セキュリティの回答項目は9つの大項目(W1~W9)があります。評価内容を通じて、自社の取り組みの不足する部分を知ることができます。詳細はこちらから確認できます。(参考:CDPWebサイト)
※CDP水セキュリティは、投資家が企業の持続可能性を把握するために、水リスクに関する取り組みを、様々な質問事項への回答を通じて、多面的に評価するものです。なお、企業は、自社の取組みレベルによってA~Dの4区分(リスト)で評価されます。
▼CDP水セキュリティの質問項目(大分類)
No. | 分類 | 詳細 |
W1 | 現在の状態 | 水の使用量や水質、モニタリングの実施状況など |
W2 | 事業へのインパクト | 法的違反の有無など |
W3 | 手順 | 水質汚染に関する取り組み状況、リスク評価など |
W4 | リスクと機会 | 把握している水関連のリスクの有無など |
W5 | 施設レベルの水報告 | 施設ごとの地理座標や水会計データ等の報告 |
W6 | ガバナンス | 企業方針の有無など |
W7 | 事業戦略 | 事業計画における水関連問題の取り扱い状況など |
W8 | 目標設定と進捗管理 | 目標の設定やモニタリングの実施状況など |
W9 | 検証 | 検証の実施有無など |
W10 | 最終承認 | 最終承認者に関する情報の記載 |
出典:CDP「CDP水セキュリティ2020年質問書」より
世界でも注目される「水リスク」。自社の状況について、改めて見直してみましょう。
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★アミタ編集部より
今後、日本企業としては国内の取り組みだけでなく、海外の製造拠点における水リスクをいかに低減するかが、重要になると考えられます。特に環境規制の法整備が急速に進んでいる国(中国など)では、従前の感覚と体制のままで思わぬ法令違反を犯さないように十分な注意と対策が必要です。また、国外に製造拠点がない場合でも、グローバル調達を行う中で、原材料の調達国における水資源の枯渇などに留意しましょう。
講師プロフィール(掲載時点)
吉田 広人(よしだ ひろひと)氏
八千代エンジニヤリング株式会社
事業開発本部 第一開発室 水リスクマネジメント室 マネージャー
2008 年八千代エンジニヤリング(株)入社、公共インフラコンサルティング部門に所属
し、国や自治体の水資源保全事業や水循環政策等を担当。2018 年に民間企業向けサステ
ナビリティコンサルティングチームの立ち上げメンバーとして参画し、現在はマネージャ
ーとして従事。2020 年より CDP ウォーターセキュリティースコアリングパートナーとし
て活動。
金子 祐(かねこ ゆう)氏
八千代エンジニヤリング株式会社
水リスクマネジメント室 シニアコンサルタント
2015 年八千代エンジニヤリング(株)入社、海外 ODA 事業部門に所属し、水資源開
発、洪水対策等に担当。2018 年より民間企業向けサステナビリティコンサルティングチ
ームに参画し、現在は企業の水リスクマネジメントの方針策定から目標設定、CDP 回答支
援までサポート。2020 年より CDP ウォーターセキュリティースコアリングパートナーと
して活動。
書き手プロフィール(執筆時点)
本多 清(ほんだ きよし)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 社会デザイン群青チーム
環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)、『魔法じゃないよ、アサザだよ』(合同出版)、『四万十川・歩いて下る』(築地書館)など。
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