Q&A
EBPM(証拠に基づく政策立案)とは何ですか?
自治体の政策への導入事例はどんなものがありますか?
EBPMとはEvidence-based Policy Makingのことで、経験や勘に基づくものではなく、実験や今あるデータをもとに検証し、効果が見込める政策立案を行っていくことです。今回は、EBPMの概要や具体例についてご紹介します。
EBPMにおいて重要なこととは?
EBPMは欧米を中心に90年代から発展し、日本では2010年代半ばから導入されるようになりました。これまでの日本の政策決定では、科学的な根拠よりも経験や前例が重視される傾向がありました。しかし、現在の日本は、少子高齢化や労働人口の減少により税収が減少し、財源も限られていきます。限られた財源をもとに、より効果の高い政策を打っていかなくてはなりません。そうした中で日本では2010年代半ばからEBPMの導入の検討が始まり、2018年には各省庁でEBPM 推進の組織が設立され、試行的な運用が始まりました。現在では様々な自治体でEBPMが推進され、エビデンスに基づいた政策が実施され始めています。
EBPMにおいて重要なことは、施策と成果の因果関係の確認と検証をしていくことです。この因果関係を把握するために、最も質の高い手法としてランダム化比較実験(randomized controlled trial.=以下RCT)という手法があります。RCTとは、施策を実施する層だけではなく、比較可能な施策を実施していない層も準備し、両者の前後比較をすることで施策効果の検証をする手法のことをいいます。RCTは平成30年度の『内閣府本府EBPM取組方針』においても「質の高い」エビデンスとして位置づけられています。一方で同資料の中で「専門家等の意見の参照」はそれほど「質の高い」エビデンスとされておりません。RCTのような手法を用い、効果の高いと見なされた方法を施策にすることで、課題に対してより高い効果を上げることにつながります。
EBPMの具体的事例
EBPMが導入されて、まだ年数が浅い日本ですが、すでに自治体ではEBPMを用いて成功した事例があります。例えば、神奈川県葉山町の資源ステーションでの取り組みです。葉山町では資源ステーションでの誤った投棄が問題となっていました。「不法投棄は犯罪です」と書いた看板の設置や町内会でのチラシを配布していましたが、成果は現れませんでした。
そこで葉山町では、町内の158か所の資源ステーションで町内会の110人を対象に1,200回のモニタリングを実施しました。その結果、悪意のあるポイ捨てや不法投棄のごみは全体の16%、収集後の「後出し」と思われるごみは15%で、残りは単純な分別誤りと排出場所の誤りでした。このことから、従来通りの看板の設置とチラシの配布はそれほど効果的な対策ではない、ということも判明しました。
モニタリングの結果を踏まえ、①「間違えやすいごみに特化したチラシのポスティング」と②「後出し防止の収集終了看板の設置」という2つの対策が有効ではないかと仮説を立てました。そこで資源ステーション160か所で、①の対策を行うグループ(54か所)と、②の対策を行うグループ(53か所)、特に対策を行わないグループ(53か所)の3グループをランダムにグループ分けし、比較実験を行いました。この実験は約1か月間、115人を対象に1,600回のモニタリングが行われました。
比較実験により、①では分別の間違いが7~8割減るが長続きはしない、②では不法投棄全体で15%の削減効果があり、しかも効果が持続する、という結果が得られました。よって、両対策とも有効であることが分かりました。そこでチラシは町内会がタイムリーに利用できるようデータを提供し、看板は平成29年度当初予算に計上し、全資源ステーションに設置することになりました。
※(図の出典)『葉山町きれいな資源ステーション協働プロジェクト~住民協働によるランダム化比較実験とエビデンスに基づく政策決定~』をもとにアミタ(株)が作成 (図はクリックして拡大)
このように葉山町では客観的な根拠に基づき政策決定をすることができました。
EBPMの推進に向けて
今後、少子高齢化や労働人口の減少により財源が限られる中で、より効果の高い政策を実施していくことが求められており、EBPMが推進されていくのは必然といえます。EBPMを推進していくには、ICT等を用い分析可能なデータがあること、そしてデータを分析できることが鍵となってきます。しかし組織内において、そうした技術や人材が確保できるとは限りません。そこで、近隣の大学や調査機関など、日頃から分析手法や調査結果の解釈について相談できる連携相手を見つけておくことは一つの手です。実際にイギリスやアメリカでは、調査機関が行政にさまざまな知見を提供する仕組みが充実しています。また調査機関以外でも、データの収集分析のために企業と提携していくのも手です。より効果的な政策を実施するためには、自治体・調査機関・企業の連携がますます必要となってくるでしょう。
参考情報
- 事例紹介:「ICTを活用した生ごみ分別の参加状況可視化実験」
- 関連事例:地域課題の統合的解決に向けた実証実験
- 関連事例:南三陸養殖牡蠣の品質比較調査
- クロスセクターでの連携について書いたコラム「スローイノベーションの時代」
- 地域経済分析システム(RESAS:リーサス)
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執筆者プロフィール
松井 惇(まつい あつし)
アミタホールディングス株式会社
カンパニーデザイングループ カンパニーデザインチーム
東京都出身。大阪大学外国語学部外国語学科インドネシア語専攻卒業。大学3年生の時にインドネシアに留学。現地で海洋プラスチックの問題を知り、そこから廃棄物に興味を持つ。環境も社会も不安なく過ごせるようになったらと思いながらアミタで働いている。毎週欠かさずに通う銭湯が元気の源。
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