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ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)組成と実装のポイント

Photo by bongkarn thanyakij from Pexels

本記事では、ソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB)の組成プロセスや実装にあたってのポイントなどを国内事例とともにご紹介します。また、SIBの今後の展開についても考察します。

関連記事:ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)とは?成果連動型民間委託契約方式(PFS)との違いは?

SIB組成はどのように行われるのですか?

process2.png日本国内では、まだSIBの事例は少なく、組成プロセスが確立されているわけではありません。ここでは、地方自治体主体のSIB組成プロセスの一例をご紹介します。経済産業省によると、SIB組成プロセスは、大きく分けて6つあります。

1. 対象テーマの設定
はじめに、SIBを導入するテーマの設定を行います。地方自治体の既存サービスの中でも、上位計画等に設定している目標に到達しておらず改善策が不明なものや、今後対応すべき領域であるもののその方法がわからない新たな領域等をテーマに据えます。

出展:経済産業省資料よりアミタ(株)が作成

2. 可能性調査
次に、設定したテーマについて、SIBを導入することができるか調査する必要があります。具体的な調査項目は、テーマ設定の背景や目標設定、事業者公募の制約条件等を整理した上で、サービス提供者や資金提供者が参画する可能性があるか等が挙げられます。さらに、SIBを導入することで、行政コストの削減額の見込みを算出する必要があります。
また、成果指標の設定も行います。成果指標の設定のポイントとしては、①達成したい成果と指標の因果関係が明確なものとし、住民や事業関係者に説明できるものであること、②事業実施後3~5年以内に現れる指標とすること、③客観的なデータに基づいていることなどに留意する必要があります。設定する成果指標が適切でない場合、サービスの質が低くとも成果報酬が発生してしまう恐れもあります。設定した成果指標にどのようなリスクがあるかについても考慮しなければなりません。

3. 予算化
地方公共団体にとって、どの程度の財政効果があるかを定量的に示し、予算化します。ここでのポイントは、SIBは成果報酬型であり、サービス提供者への支払いは将来発生するため、予算化する際には債務負担行為(注)を取る必要があります。
※注:単年度では支出が終わらない事業について、あらかじめ後の年度の債務を約束することを予算で決めておくこと。
(群馬県ホームページ「債務負担行為」より)

4. 公募資料作成
サービス提供者に向けて、募集要項、要求水準書、契約書案、対価の支払条件などの資料を作成し、事業者を公募します。

5. サービス提供者選定
事業内容、想定される成果、資金調達計画、想定される事業実施コストなどを総合的に評価した上で、サービス提供者を選定します。選定されたサービス提供者と地方公共団体の間で契約を締結します。

6. 事業実施
契約締結後、事業を実施します。地方公共団体は、成果指標の測定体制を整え、モニタリングの実施など、事業そのものに加え、適切な効果測定の実施が求められます。

SIBに適したテーマはどのようなものですか?

SIBは、不確定要素の多いソフト領域の事業をテーマにおくことが向いています。すでに広く浸透しているサービスや、資金調達が容易である領域は対象となりにくいでしょう。組成の第一のプロセスにもあったように、達成すべき目標値に到達しない、その改善方法がわからない課題で活用すべきスキームと言えます。

日本国内におけるSIBの事例はありますか?

SIBの歴史は世界的にもまだ浅く、日本国内では2015年に初めてSIBを用いた特別養子縁組領域のパイロット事業が横須賀市で開始されました。2017年には、八王子市と神戸市において、SIBを活用した事業が展開されています。八王子市では「市民の健康寿命の延伸」などを目標に、大腸がんの検診受診率・精密検査受診率の向上を目指した事業が行われました。大腸がんの検診を多くの市民に受診してもらうことで、がんの早期発見・早期治療に繋げ、寿命の延伸と医療費の適正化・削減に繋げることができます。実際に、本事業では大腸がんの検診受診率は、目標数値を大幅に上回り、効果を出したため、平成30年は、その年の支払上限額である2,441千円が行政からの成果報酬として事業者に支払われました。
また、神戸市では、八王子市と同様に、市民の健康寿命の延伸を目標として、糖尿病性腎症の重症化予防事業が行われました。具体的には、保健指導プログラムを用意し、食事指導や運動指導、ストレスマネジメント、血糖管理などの指導を行うサービスを提供しました。このプログラムを行うことで、糖尿病の進行を防ぎ、人工透析の移行予防に繋げることを目指すというものです。日本国内では、2019年時点で10件以上(調整中の案件含む)のSIBを用いた事業が行われています。

SIB普及のための課題と今後の展開

SIBは新しい官民連携の仕組みのひとつとして、今後の広がりに期待されています。一方で、SIBを導入するにあたって課題があるのも事実です。例えば、評価手法が確立されておらず、民間企業と地方自治体、資金提供者間での成果指標の合意形成を行うことが一つの関門となります。また、一般的に理解が浸透している概念ではないため、議会での説明も難易度が高く、反発が起きないとは言い切れません。加えて、財務的損失があった場合にリスクを負う資金提供者の確保も課題となりうるでしょう。
このようにSIB導入にあたっての課題はいくつかあるものの、社会実装を繰り返すことでその解決方法や新たな効果が今後見えてくる可能性もあります。SIBによる早期介入が、未来に起こるかもしれない課題を防ぐ重要な手法のひとつであることは確かではないでしょうか。
 

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執筆者プロフィール(執筆時点)

古城 日向子(こじょう ひなこ)
アミタホールディングス株式会社 
カンパニーデザイングループ カンパニーデザインチーム

関西学院大学総合政策学部を卒業後、アミタに合流。
大学時代フィリピンにて環境問題の解決に取り組むNGO団体に関わり、人間活動と環境問題の切っても切り離せない関係に打ちのめされる。持続可能な社会の実現に真摯に向き合うアミタに合流し、日々邁進中。

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