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Scope3(スコープ3)を解説!排出量の算定方法とは?
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Scope3とは、2011年にGHGプロトコルが策定した、温室効果ガスのサプライチェーン排出量の算定・報告のための世界的な基準・ガイドラインにおける排出量の算定方法・範囲のことです。 近年では、CDPやGRIにおいて、Scope3に関する質問回答や情報開示が求められる他、SBTiに賛同している企業においては、ほとんどの場合Scope3の目標設定が必要とされるなど、その重要性が高まっています。今回は、Scope3の算定方法を解説します。
※本記事は、アミタ(株)主催セミナーにおける(株)ウェイストボックス小川氏のご講演内容を基に執筆しています。
目次 |
まずはおさらい! Scope3とは?
GHGプロトコルが策定する、サプライチェーン排出量の算定・報告の世界的な基準・ガイドラインは、Scope1からScope3までの3つで構成されており、Scope1は「企業による直接排出量」、Scope2は「エネルギー利用に伴う間接排出量」、Scope3は「その他間接排出量」を指します。具体的には、自社が購入した物品の製造時の温室効果ガス排出量や、消費者による自社製品使用時の温室効果ガス排出量などがあります。Scope3は、15のカテゴリに分類されています。
【関連記事】サプライチェーン排出量とは何ですか?
※Scope3の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
どこまでを算定対象範囲にすべきか? Scope3算定の5つのSTEP
よくある質問として、「どこまで正確に計測すべきかわからない」「どこまでを算定対象範囲にすればよいのかわからない」などのお声をいただくことがありますが、これらは、算定した数値をどのように利用するかによって異なります。
・算定した数値を、社内での削減取り組みの検討時に利用したい。
・自社の報告書にて、外部に公表したい。
・SBTi認定の取得に向けて、数値を提出したい。など
社内での取り組みの検討に際し、概算を知りたいということであれば、それほど厳密な算定を行う必要はないでしょう。しかし、これらの数値を外部に公表するという場合は、一定の精度が担保されていることが望ましいと言えます。また、SBTi認定の取得に向けてこれらの数値を利用する場合は、第三者検証を受けることも考えられます。第三者検証を受ける場合は、データ取得のプロセスや前提条件に関する報告が必要になるなど、算定プロセスの開示も求められます。自社の目的に沿って、検討しましょう。
Scope3の算定の流れとしては、次のような手順が考えられます。
▼Scope3算定の5つのSTEP
STEP1 |
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STEP2 |
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STEP3 |
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STEP4 |
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STEP5 |
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出典:環境省資料、株式会社ウェイストボックス資料より
Scope3を算定する!CO2排出量算定の基本式
Scope3を算定する上で、押さえておきたいのが、CO2排出量算定の基本式です。
出典:環境省「サプライチェーン排出量 詳細資料(2019年11月26日更新版)」より
- 活動量とは
活動量とは、事業者の活動の規模に関する量のことを言います。例えば、電気の使用量や貨物の輸送量、廃棄物の処理量などがこれにあたります。これらは、社内の各種データや、文献データ、業界平均データ、製品の設計値等を用いて情報を収集する必要があります。 - 排出原単位とは
排出原単位とは、活動量あたりのCO2排出量のことを言います。例えば、活動量を電気の使用量とした場合、電気を1kWh使用したあたりのCO2排出量などが該当します。排出量は、基本的には環境省が公表しているデータベース上の原単位を用いることで計算することができます。
「活動量×排出原単位」という基本式はシンプルですが、活動量と排出原単位に両方について、いくつかのパターンがあり、パターンによって算定の精度や難易度が異なってきます。それでは、実際の算定例を用いながら、確認してみましょう。
実践!カテゴリ1とカテゴリ11を算定する
今回は、多くの製造企業にとって関連の深い、カテゴリ1と、カテゴリ11に関するCO2排出量の算定をご紹介します。上記の算定の流れで示したうち、STEP4「カテゴリ内での活動の特定」までが終了しているとして、STEP5「活動量の収集・算定」から実施します。
- カテゴリ1(購入した製品・サービス)に関する、CO2排出量の算定
カテゴリ1では、対象年に購入・取得したすべての製品およびサービスについて、資源採取段階から製造までのCO2排出量を求めます。これには、直接調達だけでなく、間接調達(製品の製造に直接関係しない物品・サービス)も含まれます。
なお、カテゴリ1では、製品やサービス提供先に「CO2排出量を尋ねること」、つまり「取引先のScope1・2の算定結果の提供を受ける」方法と、先ほどご紹介した自社で活動量を把握して「活動量×排出原単位」で算定する2通りの方法があります。取引先からCO2排出量の情報を受けられる場合は提供データを活用しますが、取引先がScope1、2の算定を行っていないなど数値データが得られない場合は、下記の例に従って、排出量を推測するということになります。
1.活動量の調査方法
活動量のパターンとしては、金額ベースと重量ベースが挙げられます。重量の方がより精度が高いと言えます。
▼活動量の把握パターンおよび算定精度
出典:株式会社ウェイストボックス資料より、アミタ(株)作成
実際のデータの例は下記となります。
▼自社が購入した原料の一覧(例)
出典:株式会社ウェイストボックス資料より
なお、購入した物品について、すべてを対象に調べることは、時間がかかってしまうこともあるため「重量全体のうち、上位80%を占めるものを対象とする」などの工夫も可能です。調査の目的によって、どこまでをリストアップするのか、その対象の範囲は異なります。
2.排出原単位の調査方法
カテゴリ1の「排出原単位」については「産業連関表ベース」と「積み上げベース」の2つの算定方法があります。
▼排出原単位の把握パターンおよび算定精度
出典:環境省資料より、アミタ(株)作成
具体的には下記の資料より、排出原単位を特定します。
▼産業連関表ベースの資料
出典:環境省「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.2.6)」より
▼積み上げベースの資料
一般社団法人サステナブル経営推進機構「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム 基本データベースver. 1.01(国内データ)」等※要利用登録
(もしくは、実際のサプライヤーから提供を受けたCO2排出原単位を利用)
産業連関表の排出原単位は、複数の財やサービスをまとめた平均値となるため、精度は低くなります。そのため、産業連関表を用いるよりも、積み上げベースの排出原単位の方が、より正確な数値に近いと言えます。なお、積み上げベースでは、サプライヤーに製品製造にかかるCO2排出量の数値を尋ね、それらを用いて算定を行うことも可能なため、最も正確にCO2排出量を算定できる方法といえるでしょう。ただし、自社のかかわる製品・サービスに対して、すべてのサプライヤーから情報提供を受けることは、非常に複雑で人件費等のコストもかかります。目的にもよりますが、積み上げベースでの算定が難しい場合は、産業連関表を用いて算定を行ってもよいでしょう。
下記はそれぞれの排出原単位に応じた算定の例となります。最後に、上記で算定した「活動量」と「排出原単位」を掛け合わせることで、CO2排出量が算定できます。利用した排出原単位によって、排出量の結果が変わることがわかります。
▼カテゴリ1(購入した製品・サービス)に関する、CO2排出量の算定
※ポリプロピレンの価格を16.2万円/tとして計算
なお、一般的に、産業連関表ベースと積み上げベースを比較した場合、産業連関表ベースでの算定の方が、排出量が多くなります。ただし、上記のポリプロピレンの例のように、積み上げ排出量が多いわりに価格が安い製品の場合、積み上げベースの排出量の方が多くなることもあります。
カテゴリ11(販売した製品の使用による排出)に関する、CO2排出量の算定
カテゴリ11においては、製品の使用段階において「どのように使用されるか」といったシナリオの作成が必要です。例えば、パソコンを例にした想定シナリオは下記となります。1日当たりのパソコン1台分の消費電力や年間稼働時間などを想定し、電力の排出原単位を掛け合わせて、CO2排出量を算定します。
▼パソコンを例にした想定シナリオ
出典:環境省資料、株式会社ウェイストボックス資料よりアミタ(株)作成
★アミタ編集部より
いかがでしたでしょうか。算定方法によって結果が異なることについて、違和感を覚える方もいらっしゃると思います。Scope3の算定においては「算定の方法の精度について自信がない」「どの方法を選んだらいいのかがわからない」といったお声をお聞きします。しかし、Scope3は、その性質上、Scope1・2のように正確な数値が得られるものではありません。こうした考えについては、各認定機関・評価機関もそのような認識のもとで取り扱っています。
そのため、Scope3の算定において重要なポイントは、どのデータを使用したのかをきちんと記録し「根拠がある」ということが最大の留意点となります。根拠や算定方法がしっかりと記録され、これらを説明できれば、ステークホルダーとのコミュニケーションもスムーズになります。
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講師プロフィール(執筆時点)
小川 晶子(おがわ あきこ)氏
株式会社ウェイストボックス
環境ソリューション事業部 マネージャー LCA エキスパート
2010 年より (株)ウェイストボックスに入社後、国内のクレジット制度における削減事業計画書の作成及び申請サポート業務を数多く担当。現在は LCA 手法を用いた排出量調査、サプライチェーン排出量等の CO2 算定業務を主に担当している。大手企業(食品製造、建設会社、派遣会社、製造業等)を中心に Scope3 算定や CDP 回答支援等を複数実施。また、官公庁の委託事業においては中小企業向けの支援(クレジット創出・活用、SBT 設定支援等)の実務を数多く担当。
書き手プロフィール(執筆時点)
野田 英恵(のだ はなえ)
アミタ株式会社 インテグレート事業本部
サステナビリティ・デザイングループ デザインチーム
京都出身。立命館大学国際関係学部を卒業後、アミタに入社。大学時代は、貧困問題に関心を持ち、ミャンマーやフィリピンにてソーシャルビジネスに関わった。現在は、貧困問題に限らず社会的な構造が生み出す課題全体を見つめ、持続可能な社会の実現しようと奮闘している。企業向けのコンサルティングを行う部署にて、CO2排出量削減、SDGs、ESG投資、脱炭素イニシアチブなどのテーマに取り組む。
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