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サプライチェーン・マネジメントを加速させるプログラムやイニシアチブとは?参加メリットと4つのプログラムについて解説(CDP、RBA、PSCI、Sedex)

Image by David Mark from Pixabay.jpg

サプライチェーン・マネジメントを加速させる手法の一つに、国際的なプログラムやイニシアチブ(以下、"プログラム"と記載)への参加があります。これらはESG経営の促進にもつながります。今回は、数あるプログラムの中から、業界、テーマを代表する4つ(CDP、RBA、PSCI、Sedex)を取り上げ、参加メリットや各テーマについて解説します。

サプライチェーン・マネジメントに関する社会要請の変化

サプライチェーンの取り組みでは、これまでQCDにかかるISO9000、ISO14001などの国際基準に沿って取り組む企業が多い傾向にありました。しかし、現在は、人権・労働環境の面でも国際水準を満たすことが重視されています。また、今後は、より持続可能なサプライチェーンを構築し、ESG経営において長期的な成長の基盤をもって、企業の持続可能性を向上させていくことが求められています。(下記図参照)

実際に、ESG投資を牽引する欧米ではサプライチェーン上、特に人権にかかる法規制が厳しくなり、近年では2012年米国のカリフォルニア州サプライチェーン透明法の施行をはじめ、2015年英国現代奴隷法、2018年オーストラリア現代奴隷法、またフランスでは2017年より人権デューデリジェンス法が制定、発効され、人権侵害リスクの特定・回避を目的としたデューデリジェンスの実施と開示が義務付けられています。
国内外ともにサプライチェーンの取り組みはESG経営においても、非常に重要なテーマとなっています。

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【図1 持続可能なサプライチェーンに向けた取り組みステップ】
下記の参考情報を基にアミタ(株)作成

参考情報:

国際プログラムへの参加メリットは?

そこで、取り組みを進めるために注目されているのが、下記に紹介する国際的なプログラムです。それぞれのプログラムに違いはありますが、一般的に、共通の参加メリットとして、以下が挙げられます。

▼プログラム参加のメリット

社会・環境リスクの回避 NGOや評価機関、その他各種調査に対し、迅速かつ適切な説明によるリスク回避が可能となる。また、サプライチェーンにおけるガバナンスの強化として、手続き・ルール等の整備を通じ、リスク顕在化を抑えると同時に、万が一顕在化した際の対応力の向上を図ることができる。
サプライヤー管理の効率化 納品先となる下流企業において、プログラムが提供するガイドラインやツールを使うことで、自社の取り組みを定量化し、他社との比較が可能になる。
取引機会の獲得や継続 サプライヤー企業において、プログラムを通じて、取引先からの急な要望に対し適切な回答(改善計画含め)が可能となることで、信頼向上、取引の確保・獲得の可能性が高まる。
投資の呼び込みと
ダイベストメントの回避
投資家やMSCI,FTSEなどのESG外部評価機関の求めるサプライチェーン上(主に環境、人権)のESG情報を開示することで、ESG評価、ブランド力の向上とともに投資の呼び込みが可能となる。
最新動向の把握 プログラム、イニシアチブのテーマに対する国際社会や他社の最新動向を把握でき、他社の一歩先を行く対応、ブランディングにおいての差別化が可能になる。

出典:アミタ(株)が作成

CDPサプライチェーンプログラム
概要 サプライチェーン全体で、気候変動、水、森コモディテイへの取り組みの「情報開示」を促進
CDPは2000年にイギリスで設立された国際環境NGOで、世界の主要企業の気候変動などの取り組みに関する情報を「質問書」を通じて収集しています。その上で、毎年評価レポートを作成しCDPの活動に賛同する機関投資家に情報を提供しています。
特徴 サプライヤーへの質問要請による環境取り組みのカスケード効果の実現
CDPはいまや環境に関するESG情報開示方法として最大と言っても過言ではない規模と影響力を持ちます。また、CDPサプライチェーン質問書を通じて、サプライヤーとのコミュニケーションが増えることで、リスクの把握、対応でだけでなく取引関係も強化、CO2排出削減などでは協働の機会も得ることができます。
具体的な同プログラムのフローは下記となります。
  • プログラムの会員となった企業は、CDPにサプライヤーリストを提出し、CDPとのやり取りを経て、リストを完成させます。
  • 会員企業はリストのサプライヤーに対しCDPを通じて、気候変動や水などの質問書の回答を要請します。
  • 最終的には会員企業と会員企業に指名されたサプライヤー双方が、CDPに対して気候変動やウォーター、フォレストの質問票に回答し、情報を開示することが求められます。
最新動向 脱炭素系イニシアチブへの取り組みを統合的に評価
CDPの質問書は、特に気候変動ではTCFD提言の枠組みを基に SBT、RE100 など代表的な脱炭素イニシアチブ全ての取り組みが評価内容として盛り込まれています。またTCFD提言にかかるリスクと機会、シナリオ分析などの要素は、水分野の質問書においても採用され、企業の対応がより深い水準で求められるようになっています。

参考情報:CDPジャパン 公式ウェブサイト(2019年9月30日閲覧)

RBA(Responsible Business Alliance)責任ある企業同盟
概要

労働環境・人権に重点を置いた世界最大規模のCSRに関するアライアンス

RBA (Responsible Business Alliance)は、2004年に大手エレクトロニクス企業のグループによって設立された企業同盟です。

特徴 サプライヤー監査プログラムによるグルーバル基準の監査が可能
RBAプログラムの最も基本的なものは、VAP(the Validated Assessment Program)監査です。
これはRBA自体が実施監査を行うのではなく、基準を設定し承認された監査会社が行うもので、2009年以来、RBAメンバーはRBAの承認を経て独立した第三者監査会社によって4,000以上の監査を実施しています。
またRBAより派生するイニシアブとして、テーマごとのイニシアチブが存在します。
  • 責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)※ソニー、パナソニックなど日本企業は20社ほど加盟
  • 責任ある労働イニシアチブ(RLI)
  • 責任ある工場イニシアチブ(RFI)※2018年に新しく設立

    それぞれ、企業、サプライヤー向けに情報提供、SAQやリスク評価のためのツールや監査の実施、トレーニングを行うためのサービス、プログラムが用意されており、外部監査だけに頼るだけでなく、自社でのサプライヤー監査の取り組みを強化することも可能です。
最新動向 規制の強化、対象リスク、対象鉱物の拡大
紛争鉱物(タンタル、錫、タングステン、⾦(3TG))のサプライヤー監査の動向として、EUにおいては鉱物(鉱⽯・未加⼯⾦属)を輸⼊する企業を対象に、2021年よりデューデリジェンスが義務化されます。
対象のリスクも紛争鉱物にかかる武装勢力への資金供与だけでなく、児童労働まで範囲が拡大されています。
また対象鉱物についても、2017年に「責任ある雲母イニシアチブ(Responsible Mica Initiative)―資生堂、など3社が加盟」が設立され、雲母=マイカにおけるインドでの採掘に児童労働が関与している問題の解決を目指す動きが始まっており、紛争鉱物イニシアチブのRMIとの連携協定とともにイニシアチブ間におけるスキームの共有が検討されています。

参考情報:RBA 公式ウェブサイト(2019年9月30日閲覧)

PSCI(The Pharmaceutical Supply Chain Initiative)
概要 製薬業界におけるサプライチェーンの適格性を審査
PSCIは、製薬会社の大手21社により2006年に非営利のビジネス会員組織としてアメリカで設立されました。組織のビジョンとして、サプライチェーンの社会、健康、安全、環境の持続可能な成果を継続的に改善する責任ある慣行を確立し、促進することが掲げられています。
特徴 環境保護やマネジメントシステムを含む総合的なサステナビリティの向上に寄与
PSCIでは「責任あるサプライチェーン管理のための製薬業界の原則」を作成し、倫理、労働だけでなく、環境保護、健康安全、マネジメントシステムの5項目を対象に、現地の法的な要求事項、その国やグローバルに認知された規格への適合を審査の原則として、サプライヤー監査コラボレーションプログラムやサプライヤー能力構築プログラムを展開しています。
また、監査コラボレーションにおける、監査共有プログラムを実施することで、サプライヤーはWebベースのプラットフォームを介して複数のメンバー企業と監査を共有できます。これにより、各サプライヤーの監査が少なくなり、メンバー企業におけるサプライヤー監査の効率を向上させることが可能となります。さらに、サプライヤー会議、ウェビナーを開催し、リソースライブラリを通じてトレーニング資料を提供しています。
最新動向 SDGsの達成度の可視化とともに企業活動の指針を提示
2019年8月に国連の持続可能な開発目標(SDGs)に対するPSCIの原則と活動をマッピングし可視化しています。組織活動をSDGsへの貢献で見える化しており、これらは組織活動に間接的に関わる会員企業の今後の事業活動の指針となり得ると言えます。また、同組織では進行中および将来の活動においてもSDGフレームワークを適用すると明言しています。

参考情報:PSCI 公式ウェブサイト(2019年10月10日閲覧)

Sedex(Supplier Ethical Data Exchange)
概要 世界最大規模のサプライチェーンにかかる情報共有プラットフォーム
Sedexは、英国ロンドンに本部をもつ非営利団体であり、グローバル規模のサプライチェーンにおけるエシカルで責任あるビジネス慣行の実現を目的に、エシカルなサプライチェーンデータを管理・共有する世界最大のプラットフォームを提供しています。
特徴 情報共有プラットフォームを活用した情報の一括管理、共有が可能
Sedexの仕組みでは、サプライヤーへのアンケートにおいて環境や社会・人権面に関する世界共通のサプライヤーアンケートを実施し、その回答や監査の結果を、オンラインシステムを通じて会員間での共有が可能になります。サプライヤーおよび顧客となる企業双方の質問書の作成、送付や回答の業務負担を軽減しながら、サプライチェーンにおけるエシカルで責任ある事業慣行をグローバルで構築し、ESG経営の基盤を構築することができます。
また、現在すでに調達基準などを自社で定めている企業における加盟のメリットとして、共同のプラットフォームを通じて、バイヤー、サプライヤー、監査人がそれぞれ必要な情報を迅速かつ簡単に保存、共有、報告できることが挙げられます。各種報告書への記載や外部評価機関向けの情報開示内容、CDP等の質問書への回答の際の情報の質、回答速度などの点で業務効率が上がります。
さらにSedexには、SMETA (Sedex Members Ethical Trade Audit)と呼ばれる監査の方法論が展開されています。これは良い実践例の倫理的監査手法をまとめたもので、監査人はSMETA監査により、Sedexの労働、健康、安全、環境、およびビジネス倫理の観点を踏まえ、責任あるビジネス慣行のあらゆる側面を包括したサプライヤー監査が可能となっています。
最新動向 規模の拡大とともに責任ある調達の水準の引き上げに前進
インドやオーストラリアにオフィスを開設し、活動規模の拡大を図っています。同時に、2019年3月26日~27日に開催されたSedex Conference呼ばれる同団体の最大のイベントでは、700人以上のビジネスリーダー、CEO、実務家、政府代表が集まり「アウトプットから結果まで-責任ある調達の水準を引き上げる」をテーマに議論が交わされ、活動を加速させています。

参考情報:

今後の動向―イニシアチブ活動の強化とSDGsへの貢献―

ESG経営の観点においては、今後も投資家やNGO等からのリスクに関する情報開示要請が強まると考えられます。調達にかかる欧米各国の法規制も進んでいるため、今後、イニシアチブによる調達基準の強化や透明性が高い自社あるいは第三者監査の実施(ソフトロー)も、促進されるでしょう。

同時にサプライチェーン上の機会としては、上記図1の上段に掲げているSDGsに貢献し得る取り組みが必要になります。SDGsへの貢献の事例では、直近では食品大手10社による、2030年までに食品ロスと廃棄半減を目指すイニシアチブ「10x20x30」の発足が好事例として挙げられます。これは、SDGsの目標12.3「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる。」に対応して設計され、今後、各社が各々の優先サプライヤー20社と連携し、削減を目指すものとなっています。

ESG経営におけるサプライチェーンの取り組みとして、今後はSDGsへの貢献の視座から自社の基準を見直し、サプライヤーと協働を通じて実践につなげることが自社のサステナビリティにおいて重要になります。

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執筆者プロフィール

amita-shojima.png正島 康博(しょうじま やすひろ)
アミタ株式会社 
環境戦略デザイングループ サステナブルステージユニット

大学卒業後、教育関連会社、学習・就労支援NPO法人を経て現職。以前から関心をもっていた自然資本と人間関係資本の増加ついて、その視座で持続可能な社会の構築を目指すというミッションに共感しアミタに入社。現在は企業向けのコンサルティング業務として、廃棄物処理のスキーム構築、水使用量・CO2排出量削減目標、製品エコ表示など環境戦略の策定支援、社外向けサステナビリティ研究会の企画・実施、SDGs、ESG投資、脱炭素イニシアチブなどをテーマとした経営層向け研修などを担当。

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