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サステナブル投資を引き寄せる方法は?【後編】

経済・環境・社会の持続性に配慮した投資手法であるサステナブル投資。近年では、個人向け投資信託のみでなく、機関投資家にも広く採用されてきています。しかしながら「サステナブル投資家からの投資をうけるには、どうしていくべきか」頭を悩ます企業の方々も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、NPOや企業の社会的インパクトの評価手法を開発し、数多くの企業へ診断やアドバイスを実施されている、株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ 代表 熊沢氏に「サステナブル投資の増加に向けて」をテーマに解説いただきます。前編では「何がサステナブル投資を妨げるのか?」という要因と課題について、後編では、課題を乗り越えるための解決方法について、お届けします。

前編はこちら

前編のまとめ

前編では、現状の企業の課題とサステナブル投資家からの懸念を整理しました。まとめると、サステナブル投資家の投資を阻む要因としては4つの課題が挙げられます。

課題1:多すぎるマテリアリティ,フォーカス不足
課題2:「SDGsマッピング、紐付け」で企業戦略の落とし込みがなされていない
課題3:KPIが示されていない。または、KPIがアウトプットのみで、アウトカム、インパクトまで包括されていない
課題4:エピソード、事例、イメージのみで、取り組みの持続性が示されていない(モデル等で図示されていない)

解決策としてのインパクト評価

筆者のこれまでの経験からは、このような課題を解決する上で「インパクト評価」が有効ではないかと考えています。

「インパクト評価」とは、事業や活動の結果生じた成果を、定量的、定性的に把握する手法です。元々は、インパクト評価は、NPOやソーシャルビジネスにおいて、自団体がめざす社会課題の解決に、実際の活動がどのように繋がるかを考える手法として発展してきました。しかしながら、昨今、企業も、事業性と社会性の両立を目指したり、社会課題の解決を目指すようになっているので、企業がこの手法を使う有効性が高まってきたわけです。

主な特徴は、

  1. インパクト(社会的変化)を評価する時間軸と評価範囲を限定する。
  2. アウトプット(結果)の評価にとどまらず、その先のアウトカム(成果)、インパクト(社会的変化)を評価する
  3. ロジックモデルを活用して、リソースから、アウトプット、アウトカム、インパクトまでの流れに至る論理的根拠(ロジック)を明らかにする。また、同時に、ロジックから有効なKPIを特定する。

以上の3点を特徴としています。


20190702_impact_100%25.png 図表:インパクト評価による可視化
株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ作成

サステナブル志向の投資家の投資を阻む要因の解決

前述の課題を、インパクト評価を利用して考えると、下記のようになります。

課題1:多すぎるマテリアリティ,フォーカス不足
→インパクト評価は時間と範囲を限定するので、フォーカスが絞られる

課題2:「SDGsマッピング、紐付け」で企業戦略の落とし込みがなされていない
→企業のアクションと、成果との関係を可視化するので、具合的なアクションの落とし込みが可能となる。

課題3:KPIはアウトプットのみで、アウトカム、インパクトまで包括されていない
→アウトプットを超えた、社会や環境のアウトカム、インパクトまでの流れを可視化する。

課題4:エピソード、事例、イメージのみで、取り組みの持続性が示されていない(モデル等で図示されていない)
→インパクト評価のフレームワーク(ロジックモデル)を使うことで、エピソードやイメージを超えて、構造(ロジック)を作り出すことができる。

先進事例としての丸井グループ

最後に、実際の企業事例をご紹介します。サステナブル志向の投資家に評価が高い企業としては、丸井グループがあげられます。丸井グループの「VISION BOOK 2050(共創サステナビリティレポート2018(※3))」 では、丸井グループのビジョン、インクルージョンの様々な取り組みが、財務リターンと両立可能であるものとなっていることが読み手にも伝わる様々な工夫が凝らされており、各企業のCSR担当者、IR担当者にも参考事例として有用です。

(※3)参考:http://www.0101maruigroup.co.jp/sustainability/pdf/s_report/2018/s_report2018_a3.pdf

これまでの企業の課題に対して、丸井グループのレポートでどのように示しているかを整理してみます。

課題1:多すぎるマテリアリティ,フォーカス不足
→丸井グループ:ビジョンを元に、3つの戦略的な柱(世代間をつなぐビジネス、共創ビジネス、ファイナンシャル・インクルージョン)にマテリアリティが整理されています。

課題2:「SDGsマッピング、紐付け」で企業戦略の落とし込みがなされていない
→丸井グループ:3つの事業の柱を元に、企業のアクションを定め、中期、長期、超長期の時間軸で、独自のKPIを設定して目標を定めて、企業戦略に落とし込んでいます。

課題3:KPIはアウトプットのみで、アウトカム、インパクトまで包括されていない
→丸井グループ:KPIはアウトプットのものもありますが、アウトプットを超えた、独自のアウトカムレベルのKPI(例:サーキュラー・レベニュー(※4) 、次世代リーダー養成数など)の設定もなされています。

(※4) 小売総売上高に占めるサーキュラー(循環型経済に資する取り組み:廃棄物減少、再利用、リサイクル等)の割合。

課題4:エピソード、事例、イメージのみで、取り組みの持続性が示されていない(モデル等で図示されていない)
→これまでの丸井グループの歴史、フェーズを①事業構造の転換期、②共創経営期、③共創サステナビリティ経営期と分けて、③において、株価とEPS(一株当たり当期純利益)の差分をプレミアムとして捉えています。このプレミアムが拡大したことを示して、持続可能なモデルであることを実証しています。


20190702_marui.png

参考:ステークホルダーの利益(しあわせ)の拡大
株式会社丸井グループ「VISION BOOK 2050」より

以上のように、サステナブル投資家から評価が高い企業は、前述の4つの課題に対して、自分たちで解を導き出しています。

まとめ

サステナブル投資家を引き寄せるには、1つのエピソード、イメージを超えて、その企業の社会性と事業性の両立を可能とする「イノベーションの源泉」や「モデル」を明確にし、取り組みの持続性と再現性を示すことが必要になります。

まだ実際の企業の開示例では、インパクト評価を駆使して、事業による社会課題の解決におけるロジックモデルやKPIを示している例は多くはありませんが、サステナブル投資を阻む4つの課題を解決する上で非常に有効ですので、今後に向けたご検討をお勧めします。

執筆者プロフィール

image004.png熊沢 拓(くまざわ たく)氏
株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ
代表

ベンチャーキャピタルにてベンチャー投資を行っていたが、リーマンショックでサステナブル投資の必要性を実感し、2010年に創業。日本で先駆けとなる独自のインパクト評価指標を開発する。大手企業やNPOにインパクト評価コンサルを提供。また、自社ファンドにて事業性と社会性を両立するインパクト投資を行う。

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