Q&A
コーポレートガバナンス・コード発行されます。企業担当者はどのように対応したらよいでしょうか?
CSR担当者は下記のような対応が必要です。
(1)基本原則2から考えると、
①社会性を踏まえた経営理念策定(見直しを含む)の支援、
②社会性を踏まえた行動準則策定(見直しを含む)の支援、
③行動準則・CSR活動レビューの支援、
④CSR活動の支援、
⑤CSR戦略の支援、
⑥ダイバーシティ戦略・活動の支援
(2)基本原則4から考えると
①経営戦略とCSR戦略の統合支援、
②後継者の承継教育におけるCSR教育の企画、取締役・監査役とNPO、
③市民団体などの非営利セクターの専門家とのコミュニケーション支援、
④新任取締役・監査役向けのCSR教育の企画、
⑤取締役・監査役向けの継続的CSR教育の企画、
⑥サスティナビリティーを踏まえたトレーニング方針策定の支援など
コーポレートガバナンス・コードに関する議論は弁護士や公認会計士、大手シンクタンクによるものが多く、CSRの観点から、あるいはCSR部門としてはどのように関わるべきか?という議論はあまり見かけませんね。まずはCSR部門としての対応を考える前に、コーポレートガバナンス・コードの要点を整理しましょう。なお、要点の整理が既にできているという方は、このQ&Aの後半【CSR部門としては何をすべきか?】から読んで下さい。
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コーポレートガバナンス・コードの基本的性格
金融庁と東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コードは上場企業に対し、社会に対して責任ある態度と規律ある具体的な経営行動(つまりCSRの充実)を求め、それによってステークホルダーとの適正な関係の構築と持続可能な企業の発展、ひいては経済全般の発展を目指すためのルールです。これはルール制定者と上場企業間の「合意」に基づくルールであり、上場する以上はこのルールを遵守するのが原則です。このように当事者間の合意によって運用されるルールをソフト・ロー(soft law)と呼び、一方で会社法のように、強制的に適用されるルールをハード・ロー(hard law)と呼びます。両者は補完的関係にあり、今後上場企業はこの2つのルールを受け入れながら事業を展開することになります。
「コンプライ オア エクスプレイン」とプロアクティブ思考
コーポレートガバナンス・コードには5つの「基本原則」の下に「原則」「補充原則」という各コードを設け、企業に対して規律ある経営のための具体的な行動を求めています。ただし、コーポレートガバナンス・コードは上場企業の各社の経営環境が画一でないことに鑑み、各社が置かれた環境の中で最適なコーポレートガバナンスの体制が構築できるように「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)という考え方を採用しています。
これはコーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方を当事者間で共有しつつ、実施に当たっては各社の環境に適した方法に委ねる、というものであり、画一的な強制力を持つ会社法のようなハード・ローとは対照的な考え方です。ただし、コーポレートガバナンス・コードの趣旨が形骸化しないために、あわせて「コンプライ オア エクスプレイン(comply or explain)」という考え方が採用されています。これはコーポレートガバナンス・コードの各コードを「遵守する」か「遵守しない/できない」のであれば「その理由を説明せよ」というものであり、法律などのハード・ローにおける遵守できなければ「処罰」という考え方とは異なります。
例えばコーポレートガバナンス・コードの【原則4-8】では「独立社外取締役を2名以上選任」することを求めていますが、選任しない、できない場合、その上場企業は説明責任を負うことになります。また、2015年5月に施行された改正会社法 でもこのコンプライ オア エクスプレインの考え方が一部採用されており、監査役会設置会社でかつ国へ有価証券報告書の提出義務がある企業(つまり上場企業)は社外取締役を設置しない場合、設置することが相当でない理由を説明する義務が追加されました。
ここで注意を要するのは、コーポレートガバナンス・コードの各コードを「説明できればやらなくてよい」と「曲解」してしまうことです。そもそもコーポレートガバナンス・コードは社会的影響力が大きい上場企業の健全な発展のためのソフト・ローであり、そこで示されている内容は相当高い社会性、社会の期待を担っているといえます。顧客のみならず、社会の要請に応えながら企業価値を創造するのがCSRであり、そう考えれば上場企業には現在できなくても、将来実現可能になるための経営努力が求められます。
過去に雇用における男女差別や障害者雇用などの社会問題も、多くの企業が自主的に取り組まなかったがために、結局法律によって義務化されました。各コードの内容も多くの上場企業が遵守せずに「説明(エクスプレイン)という名の言い訳」に終始すればESG問題の"G"問題の解決が前進せず、法律によって義務化される可能性は否定できません。コーポレートガバナンス・コードにおけるコンプライ オア エクスプレインへの取り組み姿勢には、将来の成長を見越した「プロアクティブ(proactive)」思考が必要であり、法律などで義務化されてから仕方なく取り組む「リアクティブ(reactive)」思考では、社会性に乏しい後ろ向きな企業としてステークホルダーからの支持は得られなくなってしまうでしょう。
CSR部門としては何をすべきか?
コーポレートガバナンス・コードには企業倫理やサスティナビリティー、役員のトレーニングなど、CSRと親和性が高い項目も要求されています。左表はコーポレートガバナンス・コード中のCSR部門が関係する部分とその対応例です。法務や総務、経営企画、監査、内部統制などの部門がある上場企業でも、CSR部門がメインとなって対応すべき内容は多くあります。【基本原則2】の経営理念の策定(見直し)や行動準則の策定にはサスティナビリティーへの配慮が必要であり、サスティナビリティーを巡る課題への対応などはCSR部門が主管して経営陣をサポートする領域です。コーポレートガバナンス・コードの内容は経営陣の課題を広くカバーしており、これに的確に対応するためには全社的な取り組みが必要となります。取り扱う課題が大きいため、当然社内で手分けしながら取り組む必要がありますが、各コードを見てゆくと、課題は必ずしもコンプライアンスや内部統制など法的アプローチから企業価値を防衛する、いわゆる「守るCSR」に限られません。
【基本原則4】にはCSRの観点から特に注目すべき内容が含まれている。
また、【基本原則4】にはCSRの観点から特に注目すべき内容が含まれています。取締役・監査役のトレーニングは的確な経営判断や経営理念、行動準則の実践、企業によるサスティナビリティーへの取り組みの質と実効性などを担保する重要な人的投資といえます。多くの企業の取締役・監査役はそれぞれのキャリア(営業畑や経理畑など)を軸に役員としての職務に取り組んでいますが、出身畑の価値観やキャリアが自身の行動に強く影響することが多く、それが取締役・監査役としての得手不得手につながっていました。つまり彼らの全てが「経営管理のプロ」とは限らなかったのです。
これからの経営にはサスティナビリティーを巡る課題(ESG問題)への積極的な取り組みが不可欠
これからの経営にはサスティナビリティーを巡る課題、つまりESG問題への積極的な取り組みが不可欠ですが、ESG問題は人文・社会現象や自然科学への深い理解が欠かせません。コーポレートガバナンス・コードが取締役・監査役のバランスの取れた能力の伸長と、サスティナビリティーへの積極的な取り組みを進めるために、彼らのトレーニングを行うことを求めているのは、ある意味で画期的なことです。彼らのトレーニングの中でもサスティナビリティーに関する事項などは、まさにCSR部門がサポートするものです。
コーポレートガバナンス・コードには株主の権利擁護(基本原則1)や株式公開買い付け(TOB)時における適切な対応(補充原則1-5①)、外部会計監査人による監査体制の充実(原則3-2)など、ハード・ローである会社法と親和性が高い領域もありますが、サスティナビリティーへの対応のように、法律による強制がなじまない、社会的要請に基づいたソフト・ローと親和性が高い領域も含まれます。コーポレートガバナンス・コードにおけるCSR部門としての対応は、この領域が主なものとなるでしょう。
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執筆者プロフィール
泉 貴嗣(いずみ よしつぐ)氏
CSRコンサルティング事務所「允治社」代表
CSRコンサルタント。都内の私大で産学連携教育やリカレント教育で「CSR・SRI論」などを担当した後、独立。自治体が直接企業のCSR経営を認証する初めての取り組み「さいたま市CSRチャレンジ企業認証制度」の調査研究委員として制度設計に従事。現在も同市のCSR施策の支援に関わるほか、JASDAQ企業の監査役も兼務。
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