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生物多様性が重要な理由とは?保全に対する各企業の取り組み状況と事例を解説
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生物多様性の概要から取り組むべき理由、各企業の生物多様性保全への取組状況について解説します。
※本記事は、2017年に執筆されたものを加筆・修正しています。
生物多様性とは
生物多様性とは「地球上の数十億年の歴史がつくりだした様々な生物が、その地域ごとの特性を持ちつつ、お互いに関係しあいながら暮らしている状態(ヒトもその一員)を表す概念」です。生物多様性は以下の3つのレベルに分けて定義されています。これらが相互に補完し合い、影響し合い構成されているのが地球環境です。
1. 生態系の多様性
気候や土壌、植生、そこで暮らす生物などによって作られる生態系が、地域ごとに異なっていること
2. 種の多様性
生命の進化の歴史を反映させた、さまざまな生物種が地球上に存在すること
3. 遺伝子の多様性
ある生物種の中でも、個体ごとに異なった遺伝子を持っていること
では生物多様性がなぜ重要なのでしょうか。先に述べたように生物多様性は相互に影響し合っています。そしてそれらがかかわり合い、循環をしている様を「生態系(Eco-System)」といいます。生態系は自然のバランスを保って循環を続けており、ある生態系や、種、遺伝子の損失はこれらのバランスに影響を及ぼします。生態系のバランスが崩れると捕食関係が崩れることや、生息場所の環境悪化・破壊、交雑による遺伝的な攪乱などが発生します。
私たちは生物多様性から恩恵を受けて生活をしており、この恵みは「生態系サービス」と呼ばれています。生態系サービスは供給サービス、調整サービス、生息・生育地サービス、文化的サービスに分類できます。それぞれが私たちの生活に密接に関係しており、自然と社会は切り離して考えることができないことが分かります。
▼生態系サービスの分類
出典:環境省
生物多様性の現状と取り組むべき理由
生物多様性は現在損失し続けている状況にあり、危機的な段階だといわれています。WWFは、自然と生物多様性の健全性を測る指標「生きている地球指数LPI」の結果を通して、生物多様性の減少に警鐘を鳴らしています。WWFの調査結果によると、地球全体の生きている地球指数LPIが1970年から2018年の50年間で69%も低下していることが明らかになっており、 中でも食料の生産、生活用水、産業利用など人間の社会生活に深く関係している淡水域の生物は83%減少しているという結果になり、深刻な状況が明らかになっています。
▼地球の脊椎動物の健全性
出典:WWF
▼地球の淡水種の健全性
出典:WWF
上述したように、人間は生態系サービスによって生活が支えられており、生物多様性の損失を止められなければ、人間の社会生活に大きな影響を及ぼすことが容易に想像できます。WWFによると、生物多様性が失われる主な原因として、森林伐採などの生息地の消失、過剰な捕獲、気候変動、汚染、外来種による攪乱などが指摘されています。これらに加えて、古くからヒトの営みが自然と密接な関係にあった日本では、政府の「生物多様性国家戦略 2023-2030」においても、生物多様性が直面する危機の一つに、自然への人為的な働きかけの減退があげられており、人間の生活や経済活動が生物多様性に多大な影響を与えていることが理解できます。近年このような生物多様性の損失が続く状況を改善し、自然を再興させるという考え方が注目されており、この考え方を「ネイチャーポジティブ」といいます。
ネイチャーポジティブについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
ネイチャーポジティブとは?今後企業に求められることについても解説
ネイチャーポジティブを達成し、地球の生物多様性を保全していくためには、各国の積極的な取組はもちろん、企業の取組も必要になってきます。生物多様性に企業が取り組むことは、事業とは直接の関係がないと思われ慈善活動のように捉えられる傾向がありますが、企業にとってのメリットもあります。
① 企業価値の向上に繋がる
企業が生物多様性に取り組むことで企業価値の向上が期待できます。サステナビリティに関する取組の注目度が日々高くなっていく中で、ESG投資を受ける機会の獲得やブランドイメージの向上につなげることができます。また、企業のゆかりのある地域の生物多様性を保全・向上させる活動を行うことで、地域への貢献が企業と地域住民間の信頼関係をつくることにもつながります。
② ビジネスチャンスや中期的な経済効果が期待できる
企業が生物多様性保全に取り組むことで、企業のビジネスチャンスにつながり、社会全体の経済成長に影響をもたらすことが期待されており、日本がネイチャーポジティブ経済へ移行することによって得ることができるビジネス機会は2030年で最大104兆円(波及効果含めて約125兆円)にもなると推測されています。
生物多様性保全に向けた動き
生物多様性保全を取り巻く国際的な動きとしては、2022年12月に開催されたCOP15にて、2030年に向けた目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。この目標の中で「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」ということが2030年までに達成するミッションとして掲げられました。また、企業や金融機関が自然資本や生物多様性に与えるリスクおよび機会について、ステークホルダーに向けて情報開示するためのフレームワークである「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」についても、2023年9月に最終提言が発表され、フレームワークを使用した企業の情報開示が進められています。
日本では、昆明・モントリオール生物多様性枠組の採択を受けて、2023年3月に閣議決定した生物多様性国家戦略を基に取組が進められています。生物多様性国家戦略では、2030年までにネイチャーポジティブの実現をすることが目標として掲げられ、そのために環境省は「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」という2030年までに陸と海の30%以上の生態系を保全しようとする目標についても取組を推進しています。この30by30では、法律で定められた「保護区」のみならず、民間により保全される地域(OECM)の保全についても拡充を目指しています。
こうした民間セクターの活動活性化のため、環境省は2023年4月、生物多様性の保全と持続可能な利用について事業者向けに基礎的な情報や考え方をまとめた「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」を公表しました。同ガイドラインでは企業の取組推進も促されています。また、2024年4月には「生物多様性増進活動促進法」が可決され、現行の自然共生サイト制度を土台とし、より幅広い取組を柔軟に促進できるように再構築、法制化されることとなりました。
本業と結び付けた生物多様性の取り組み事例
一概に生物多様性に関する取組といっても、活動内容は多岐にわたりますが、事業に関係する生物多様性の保全活動を進めている企業もあります。企業が本業と結びつけた生物多様性の取組事例として、いくつかの事例をご紹介します。
▼企業の生物多様性の取り組み事例
企業名 | 内容 |
住友商事株式会社 | 渡り鳥に配慮した「バードフレンドリー®コーヒー」の輸入を推進 |
サントリーホールディングス株式会社 | |
関西電力株式会社 | 放鳥されたコウノトリが電線に衝突しないように電線等にカラーリング |
株式会社島津製作所 | 「バイオミメティクス」を支援する計測機器を提供 |
鹿島建設株式会社 | 自然の恵みを活かしたまちづくり「いきものにぎわうまち」を実施 |
マルハニチロ株式会社 | カンパチ、ブリにおける持続可能な養殖認証(ASC認証)取得の取組み |
さいごに
本記事では生物多様性の概要と、企業が取り組むべき理由、生物多様性の取組事例をご紹介しました。生物多様性は、重要な課題として認識される一方で、企業にとってはなかなか本業と結びつけることが困難なテーマの一つです。しかし、今回取り上げた企業以外にも、企業が成長するほど、商品が売れるほど、生物多様性が向上するような取組を進めようとしている企業は数多くあります。そうした事例も参考にしながら、自社の強みを活かした取組を、すべての企業が模索していくことが求められています。
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企業活動が生物多様性におよぼす影響の把握やリスク分析には高度な専門性と多くの時間が必要であり、具体的な進め方に悩む企業が多いのが現状です。
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執筆者プロフィール(執筆時点)
木下 郁夫(きのした いくお)
アミタ株式会社
カスタマーホスピタリティグループ グループリーダー
企業向けのソリューション営業の経験をベースに、廃棄物管理に係わるシステムの設計・開発、業務フローの構築などに従事。現在はインサイドセールスをベースとする営業部門に所属し、更なる顧客満足度の向上を目指し、提案・サービス活動を行っている。
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