Q&A
COP12が開催されましたが、 企業活動には何か影響があるのでしょうか?
日本の生物多様性政策を知る上では、生物多様性条約について押さえておくことが大切です。生物多様性条約のポイントおよび企業に求められていることを紹介します。
生物多様性条約とは
2014年10月、韓国の平昌で生物多様性条約(CBD)第12回締約国会議(COP12)が開催されました。 この条約の目的は、生物多様性の保全と持続可能な利用、遺伝資源から得られる利益の公正な配分であり、現在194カ国(※1)が加盟しています。COP12の決定事項は企業の事業活動に影響するので、以下2点の注目事項を押さえておきましょう。
※1:アンドラ、アメリカを除く全国際連合加盟国及びクック諸島、ニウエ、欧州連合(EU)の計194の国と団体が締約しています。
- 名古屋議定書が発効されたが、日本は未批准である。
- COP12決議項目の注目点と、企業に求められること。
名古屋議定書が発効。しかし日本は未批准である
名古屋議定書とは、植物や微生物といった生物を利用する際に、生物の提供国と利用国で利益を公平に分け合うこと、提供国に利益の一部を生物資源の保全に回すことを求める取り決めです。
2010年名古屋市で開催されたCBD-COP10で採択され、COP12にて53カ国と欧州連合(EU)が批准して発効、名古屋議定書第一回締約国会議が開催されました(※2)。その背景には、先進国企業による途上国生物資源の特許取得、及び独占が多発していることへの懸念があります。 日本では環境省や外務省が批准に向けて動いていますが、産業界や学術界との調整が進まず未批准です。未批准の状態が続けば、バイオパイラシー(生物資源の盗賊行為)を受けたり、利益配分の公平性が保証されない可能性もあります。
バイオ産業や食品関連会社、製薬会社などが影響を受けやすく、世界でも有数である日本の多種多様な植物、海洋の生物資源が狙われる場合もあり得ます。批准国は国内法を整備するので、以前よりもバイオパイラシーを見張る動きや訴訟、抗議行動が強化されるとも考えられます。企業イメージを落とさないためにも、生物資源の扱い方には十分に注意する必要があるでしょう。
※2:批准国は53ヶ国。うち主に利用国である先進国は7ヶ国・地域(EU、デンマーク、ハンガリー、メキシコ、ノルウェー、スペイン、スイス)。
COP12決議項目の注目すべき点と、それを受けて企業に求められること
COP12では34の決議が採択されましたが、特徴的な決議として、以下の2つが挙げられます。
- 合成生物学
- 生物多様性に回る資源(資金、人材、技術)動員
合成生物学について
COP12では連日、合成生物が生態系に及ぼす影響のリスクが議論されました。合成生物学とはコンピューター工学を用いて生命のゲノム(全遺伝子情報)を人工的にデザインする学問のことで、遺伝子組み換え技術とは別のものです。遺伝子組み換えは異なる生物種の遺伝子を、遺伝子配列を変えずに細胞に導入するものですが、合成生物学は遺伝子の配列を変え、合成した遺伝子を導入します。すでに、香料、医薬品、バイオ燃料などの製造のために、人工合成のゲノムを利用して作られた細菌や藻類が使用されていますが、これらは自然界には存在しないものです。
COP12では、最終的に、合成生物学を条約の新規事項として取り扱うには十分に知見がないと結論づけられました。一般社会でも未だ定義や対象範囲が定まらないまま、技術開発が先行している状況であり、COP12でも何を合成生物と呼ぶのかさえ合意されませんでした。全く存在しなかった新しい生物による生態系への影響について、EUは独自で科学的なリスク調査、研究に乗り出す予定であり、COP13でも継続的な議題になる可能性が高く、注目すべき項目です。
資源動員に関する決議(※3)
資源動員とは資金、人材、技術といった資源を動かすことを言います。 資源動員については、COP10で作成された愛知目標(※4)の目標3、目標20で以前より挙げられていましたが、今回目標達成に向けた具体的なマイルストーンが採択されました。資源動員の仕組みが変わることで経済の流れが大きく変わるため、他の愛知目標の達成度も進むことが期待されています。
目標3達成に向けたマイルストーンとして、2016年(COP13)までに、生物多様性に悪影響のある誘導措置の段階的廃止、政策措置、法的行動を展開することが求められています。それに向けて2015年は、悪影響もしくは好影響である誘導措置の特定が進められます。環境省が補助金の見直しを行っていますが、企業としては生物多様性に好影響を与えている事業のアピールすることもできるでしょう。
目標20に向けては、2015年までに途上国への生物多様性保全につながる資金の流れを2倍にすること、資金提供を受けた国の75%が生物多様性への適切な支出を行い、30%の国が国家財政計画を提出、査定、評価することなどが合意されました。さらに今回、国際開発目標のSDGs(※5)に生物多様性の保存を目標として組み込むことが決定されました。 これを受けて日本政府は企業に対し、
- 企業活動が生物多様性や生態系サービスに及ぼす影響を分析すること
- 企業による報告の枠組みに生物多様性の項目を組み込むこと
- 企業活動において、生物多様性条約や愛知目標のゴールに貢献する行動をとること
などを求めることにしています。現段階では、具体的に期限は設けられていません。
※3: 資源動員戦略について(リンク先:にじゅうまるプロジェクト)
※4:愛知目標:COP10で日本政府が提案し、国連総会で決議された「国連生物多様性の10年(2011-2020)」達成のために作成された各締約国に求める20の行動目標。(リンク先:にじゅうまるプロジェクト)
※5:持続可能な開発目標(SDGs):2015年に達成期限を迎えるミレニアム開発目標(MDGs)に続く、2016年以降の国際開発目標のうち、環境の持続可能性確保に重点を置いて検討されている国際目標。
生物多様性を企業の環境方針に取り入れるために
持続的な事業活動に向けた資源確保のため、生物多様性を環境方針に積極的に取り入れる企業が増えています。ここでは企業の環境担当者に役立つ、生物多様性に関する情報収集源を紹介します。
従来のCSR活動は、生物多様性に関する有識者を呼んだ講演会の開催、環境NGOや市民と地域の環境保全に取り組むといった社員の意識向上や地域へのアピールが多くありましたが、実質的に事業活動に生物多様性保全を取り入れることが重要です。 生物多様性に考慮した事業活動について、具体的に次のようなことが考えられます。
- 工場や関連施設の新設時、建設場所の生態系調査を実施する。
- 自社が利用する天然資源をバリューチェーンごとに洗い出し、生物多様性に与える影響を調査し、利用方法が持続的であるか見直す。
- 原料調達や商品の流通等のサプライチェーンにかかる環境負荷を考慮する。
また、2011年には二次的自然環境(田園や里山など人が営みの中で管理してきた環境)の保全管理を促進するための法律として、生物多様性地域連携促進法が整備されています。これは、様々なセクターが連携し、田園や里山地域における生物多様性保全に取り組む活動を促進する目的として制定されたものです(農水省、国交省、環境省が所管)。
市町村などの自治体を窓口に、企業も活動計画を提案できると共に、活動主体として協議会に参加できるというもので、企業には地域資源を活用したビジネスモデルの展開も期待されています。工場や事業所周辺などの身近な環境を保全する取組主体として、企業の役割が大いに期待されているのです。
関連情報
執筆者プロフィール
岩藤 杏奈 (いわどう あんな)
アミタホールディングス株式会社
経営戦略グループ 共感資本チーム
岡山県出身。神戸大学卒業後、2014年アミタ入社。主に非対面営業で全国の顧客へアミタの各種サービスを提供、セミナーの企画運営、環境担当者向けの記事執筆、無料情報提供に携わる。UNDB市民ネットワークメンバーとして生物多様性条約第12回締約国会議に参加。
おすすめ情報
お役立ち資料・セミナーアーカイブ一覧
- なぜESG経営への移行が求められているの?
- サーキュラーエコノミーの成功事例が知りたい
- 脱炭素移行における戦略策定時のポイントは?
- アミタのサービスを詳しく知りたい
アミタでは、上記のようなお悩みを解決するダウンロード
資料やセミナー動画をご用意しております。
是非、ご覧ください。