コラム
地域課題を自分ごと化。
福岡県大刀洗町のMEGURU STATIONを通じた資源循環地域の課題をトータルで解決する「MEGURU STATION®」
福岡県大刀洗町のMEGURU STATIONⓇは、住民自身が地域課題の解決を「自分ごと」として考えた結果、導入されました。その取り組みと導入の経緯、利用者の声をご紹介します。
目次 |
大刀洗町のMEGURU STATION
福岡県の大刀洗町に設置されている「MEGURU STATIONⓇ(めぐるステーション、以下MEGURU STATION)」では、14種類の資源を回収しています。2024年11月現在本郷、大堰(おおぜき)、大刀洗、菊池の4つの校区にそれぞれ設置されています。本郷校区では生ごみを液肥に変える「MEGURU BIOⓇ(めぐるビオ、以下MEGURU BIO)」も導入しており、家庭で発生した生ごみを専用の機械で回収しています。
さらにMEGURU STATIONを中心として、資源を回収する場所としての機能だけでなく、地域住民が集まり交流を深める様々な活動が広がりつつあります。
▼資源をMEGURU BOXに入れる様子
撮影:アミタ
▼MEGURU BOXに地域住民が集まる様子
撮影:アミタ
▼MEGURU STATIONに出すことができる資源の種類
出典:大刀洗町
MEGURU STATION導入の経緯 「ごみを減らすためにわたしたちにできること」
大刀洗町のMEGURU STATIONは、どのように導入されたのでしょうか。
「ごみ」は、私たちが暮らす上で必ず生まれるもので、私たちの生活に直接関わりのある身近なものですが、普段の生活の中では、ごみについて考えたり、語ったりする機会は少ないです。 (中略) しかし、この大量のごみを生み出しているのは私たちであり、大刀洗町のごみ問題は、町民一人ひとりにとって『他人ごと』ではなく『自分ごと』なのです。 |
この文章は、福岡県大刀洗町で2023年10月に実施された『自分ごと化会議』のテーマ「ごみを減らすためにわたしたちにできること」の結果を住民委員らがまとめた、町長への答申・提案資料に記載されています。ごみ問題とその対策に関して、このように住民自身が話し合い、その結果をもとに行政に提案した例は全国的にも珍しいものです。
大刀洗は福岡県の中南域を占める筑後平野の北東部、筑後川の中流域北岸に位置しています。自動車道の筑後小郡 IC に近いため、住宅や工場が多く、広大な農地を活用した農業が営まれています。町の全体の人口は町外からの移住者が多く、微増傾向にあり、老年人口は増加の傾向となっています。大刀洗町では「わたしたちが創る 誇れるよかまち たちあらい」を2028年の将来像に掲げ、第5次大刀洗町総合計画を策定しています。このなかには「循環型社会・環境保全型社会の推進」に向けた施策として、3Rの啓発や、新たなごみの減量化などが挙げられています。
また、大刀洗町では「自分ごと化会議」という身近な問題を行政まかせにせず、住民自らが自分事として町の状況について知り、意見を出し合うことを目的にした活動を通して、町の課題について住民を中心に課題解決を目指した取り組みが進められていました。2021年10月のテーマとして「ごみを減らすためにわたしたちにできること」が設定されました。生活する上で欠かせない「ごみ」についてはいろいろな意見が議論されました。大刀洗では燃えるごみは家の前に出すことができるが、燃やせないごみや資源ごみは月に一度集積場に持ち込んでもらうような仕組みになっています。議論を通して、リサイクルに協力したいと思うが、月に一度のタイミングに都合が合わないと、邪魔になるので燃えるゴミで出してしまう現状があることが見えてきました。そこから、月に1回ではなく近くにいつでもごみ出しができる場所がほしいという意見があり、アミタと大刀洗町は「地域共生社会の推進及びごみの減量並びに3R+C(コミュニティ)活動の推進に関する連携協定」を締結し、MEGURU STATION導入の実証実験がはじまりました。
実証実験を行ったところMEGURU STATIONを通して「資源を分別する習慣がついた」「訪れる人との交流が生まれた」など本格導入を希望する声が多数挙がりました。
これを受けて、大刀洗町では本郷、大刀洗、大堰、菊池とすべての校区にMEGURU STATIONが設置され、全町民が利用可能な場所として展開しています。
▼自分ごと化会議 改善提案内容
出典:大刀洗町自分ごと化会議
▼大刀洗町のMEGURU STATION(2024年4月時点)
出典:アミタ
MEGURU STATIONの導入時の様子
しかし、MEGURU STATIONが設置されたばかりの頃は使い方や取り組みの目的などが分からず、戸惑いの声も多かったといいます。大刀洗町で最初にMEGURU STATIONを導入した本郷校区では、校区センター長が中心となり、実証実験に参加してもらうモニターを探すため、近所の家を一軒一軒まわって住民に呼びかけも行われたようで、本郷校区のセンター長はその時の様子を以下のように語っています。
「新型コロナウイルスの影響から、人と人とのつながりが薄くなってしまったと感じていた。いろんな世代の方が交わる機会を設けるためにもMEGURU STATIONの取り組みは面白そうだと感じた。」
また、本郷校区のMEGURU STATIONには、家庭から出た生ごみを投入することで、液肥をつくることができるMEGURU BIOが設置されています。実証実験を始める前の住民への説明会では「生ごみを家から持ってくるのは大変ではないか」という意見が多数あり、ハードルが高いように思われました。そのため、実証実験の当初は生ごみを持ってきやすいサイズのバケツをモニターに配布し、試してもらうことでその不安を払拭していきました。
▼生ごみをMEGURU BIOに投入する様子
撮影:アミタ
実際にMEGURU STATIONの利用者と非利用者に行ったアンケート結果からは、利用者は非利用者に比較して環境意識が向上していることが明らかになっています。
▼「ここ1年間で環境意識は変化しましたか」という質問に対する回答
出典:アミタ(2023年7月実施アンケート結果)
アンケート結果からは導入時に戸惑いなどがあったものの、MEGURU STATION導入によって環境意識の向上や、利便性の向上などポジティブな効果を実感している利用者が多いことが伺えます。アンケートの結果を見ると以下のような声が挙げられていました。
▼利用者の声
「初めて利用した時に利用方法やルールが分からずに戸惑いましたが、曜日を気にせず回収してもらえるのがとてもありがたいです。」 「MEGURU STATIONでは、いつでも自分の都合に合わせて出しに行けるので助かります。これまで詰め替えパウチや卵パックなどは燃えるゴミで出していましたが、MEGURUが出来てから、リサイクルするようになりました。同時に容器包装プラスチックとして出すものも増え、リサイクルの意識が高まったと思います。」 「正直、指定ごみ袋の種類が多い為分別するのがかなり面倒だと思っていましたが、近くにMEGURUが設置されて子供とよく公園に出かけているため、指定袋が無くても出かけるついでに資源を出すことができるのでとても助かっています。」 |
MEGURU STATIONから広がる地域ならではの活動
さらに、大刀洗のMEGURU STATIONでは、資源を回収する場所としての機能だけでなく、人が集まり交流が生まれる場としても活躍の場を広げています。校区の特色が出たユニークで魅力的な活動を一部ご紹介します。
〇生ごみからできた液肥を活用する ふれあい農園
本郷校区では、MEGURU BIOでできた液肥を活用して住民が自由に手入れ・収穫できるコミュニティ農園をつくっています。苗はアルミ缶の収益で購入しており、収穫した野菜をつかってピザをつくるイベントなども企画されています。
▼人が集まるふれあい農園
撮影:アミタ
▼ふれあい農園で収穫した野菜を使ったピザを手作りのピザ窯で焼く様子
撮影:アミタ
〇アルミ缶の収益で運営する 駄菓子屋
MEGURU STATIONが設置されている校区センター(大刀洗校区、菊池校区、大堰校区)では、定期的に駄菓子屋が開催されています。この駄菓子屋は、住民の協力によって集まったアルミ缶を有価物として引き取ってもらった収益で運営されています。
▼子供が店員になるこども駄菓子屋
撮影:アミタ
▼駄菓子屋のガチャガチャとカプセル入れ
撮影:アミタ
〇地域循環を促進する取り組み 地産地消の野菜販売とおゆずり会
大堰校区は農業が盛んな地域ということもあり、出品者を募って、お野菜販売会を開催しています。「みなさんに喜んでもらえるなら」と、出品者も増え、毎月のお野菜販売会には、地元の新鮮な季節の野菜がロビーに並びます。校区内の方に限らず、校区外からもその野菜を求めてお見えなります。
▼地元でとれた野菜販売の様子
撮影:アミタ
子ども服やベビー用品、おもちゃ、生活雑貨品など「もう使わないけれど、まだ使える物を必要とする方へ」と校区のみなさんに呼びかけて、おゆずり会を開催しています。
▼不要になったお皿や服、家具などのおゆずり会
撮影:アミタ
〇環境教育の場として活用 小学校との連携によるリサイクル学習
小学4年生の社会科「ごみはどこへ」の単元学習の一環として、焼却処理施設の見学に加え、MEGURU STATIONを活用した授業が行われています。身近なリサイクルの取り組みから、その重要性の理解を深められる場として活用されています。
▼資源のリサイクルの方法を学ぶ子供たちの様子
撮影:アミタ
▼実際に自宅から持ってきた資源をMEGURU STATION BOXに出している様子
撮影:アミタ
地域を支える人々と場所の「コモンズ」化に向けた課題
大刀洗町では地域の住民の方々の「よりよい地域をつくっていきたい」「地域を盛り上げたい」という想いから、住民自身の手によって上記のような取り組みが広がっていきました。
大刀洗町の4つの校区センター全てに共通して、センターの活用度に課題がありました。生涯学習や習い事などで利用されることはありましたが、交流などが生まれることを目的にしたイベントなども数は多くなく、特に子供たちが集まる場所ではありませんでした。
しかし、現在では上記で紹介したように様々な活動が広がり、地域住民の交流が生まれる場所となっています。この状況について、一連の取り組みに関わってきた各校区のセンター長は以下のように語っています。
「アルミ缶を引き取ってもらった収益で駄菓子を買って、子供たちに還元するという循環の仕組みから、現在の様々な取り組みにつながっていると思います。もっといろいろな方にこの場所を活用してもらいたい。」
「いろんな世代の方が交わる機会をどう設けることができるかということを考えています。いろんな意見が出て、混ざっていけるような場所にしたいと思っています。」
将来的にはMEGURU STATIONを地域の住民のみで運用していく「コモンズ化」が目指されています。コモンズとは一般的に共有資源を共同管理する仕組みのことを指しますが、MEGURU STATIONや、コミュニティの場所としての価値を保つために必要なことを、地域住民が主体となって行うことで、MEGURU STATIONという場所を運営することに対しての責任感、そして他の住民のことを考える互助共助の意識を育み、運営が継続されていくことが期待されています。ここにも大刀洗町の掲げる「わたしたちが創る 誇れるよかまち たちあらい」の精神が現れていると言えるでしょう。
しかし、現状ではコモンズ化に向けた課題もあります。大刀洗町では資源回収ボックスの回収袋の交換を地域住民へ呼びかけており、1週間で17名の方が袋の交換を自主的に行っていたという結果もありますが、不十分なごみの分別や、リサイクルできないごみが持ち込まれているような状況もあり、改善点も挙げられています。リサイクルを促進させる場としての機能はもちろんのこと、有用な資源として「手放す」意識、コミュニティとしてお互いに支え合う意識を醸成させることもMEGURU STATIONという場所が目指していることの一つです。
▼ごみ袋を交換すると見えるようになっているイラスト
撮影:アミタ
さいごに
本記事では大刀洗町のMEGURU STATIONについてご紹介いたしました。住民たちによる地域の課題の自分ごと化を通じて資源循環とコミュニティの醸成を図る大刀洗では、2024年12月にMEGURU STATIONの5か所目(北鵜木公民館)が試験運用として開設されました。当日は約40名の方が参加し看板づくりや回収ボックス内の袋の取り付けなどが行われました。今後も地域住民を中心とした継続的な運営と場の活用が期待されます。
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執筆者情報(執筆時点)
梅木 菜々子(うめき ななこ)
アミタ株式会社
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