コラム
サーキュラーエコノミーに取り組むメリット・デメリットとは?競争優位性を獲得する「社会的価値」・企業事例を紹介!
本記事は、サーキュラーエコノミーがもつ「経済的・環境的な価値」以外の「社会的な価値」について解説しています。「社会的な価値」に注目することでサーキュラーエコノミーへの取り組みが進み、企業は競争優位性を獲得できること、また具体的事例を紹介します。
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サーキュラーエコノミーとは?
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、資源の効率的・循環的な利用を図ることで天然資源の投入量・廃棄物量を最小限に抑えつつ、提供される価値の最大化を目指す社会経済システムです。サーキュラーエコノミーには「廃棄物・汚染などを出さない設計」「製品や資源を使い続ける」「自然のシステムを再生する」という3つの原則があり、従来の3R(リデュース・リユース・リサイクル)と違い、製品設計から廃棄後の資源回収まで、経済活動全体を包括的に捉え直す点が特徴です。
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気候変動や資源枯渇といった喫緊の環境課題に対応するため、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニアエコノミー(線型経済)から脱却し、循環型のシステムへ移行することが企業を含めた社会全体で求められており、今この動きが加速しています。
2024年6月には、経済産業省からサーキュラーエコノミーを本格的に推進するための『成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)』が公表され、8月には環境省の「循環経済を国家戦略に」と銘打たれた『第五次循環型社会形成推進基本計画』が閣議決定されました。
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またEUでは、7月にESPR(持続可能な製品のためのエコデザイン規則)が施行されるなど各国による動きの背景には、脱炭素への対応や経済安全保障上の観点など、国益のためにサーキュラーエコノミーを推進したいとの思惑があるものの、結果的に企業にサーキュラーエコノミーへの更なる取り組みを迫るものとなっています。
サーキュラーエコノミーの取り組みを実践するには?
製品やサービスの見直しを伴うビジネスモデルの変革には時間や労力、初期投資が必要です。また、製品回収やリサイクルのコスト、バイオ素材や再生材の価格の高さも障壁です。これらは「デメリット」として捉えられ、コストやリスクを上回る経済合理性を見出すことも難しく、サーキュラーエコノミーの実践には多くの企業が課題を感じているでしょう。
ここで重要なのは、企業がサーキュラーエコノミーに取り組むメリットを多角的に捉えることです。廃棄予定の資源を再利用することを例に挙げます。メリットの中には、廃棄物処理費用などのコスト削減、(地政学リスクを回避した)安定的な調達、修理や製品回収による顧客との関係強化、企業イメージ向上などの「経済的価値」や、環境負荷の低減、脱炭素への貢献などの「環境的価値」がありますが、もう一つ「社会的価値」が存在します。経済合理性を超えてサーキュラーエコノミーを推進する有効な手段の一つは、サーキュラーエコノミーが持つ「社会的価値」に着目することです。
サーキュラーエコノミーがもつ「社会的価値」とは
「経済的価値」とは、サーキュラーエコノミーに取り組むことで得られる利益やブランド価値の向上など、直接的な経済メリットのことです。
「環境的価値」は、環境負荷軽減につながる取り組みであり、ESGの「E」に該当します。
では「社会的価値」とはなんでしょう。「社会的価値」とは企業活動が社会に与える影響、つまりESGの「S」を指します。例えば、修理や製品回収を通じて消費者に資源循環を実感させたり、啓蒙活動や教育の場を提供したり、地産地消で地方経済の自立を支援したり、社会貢献を通じて従業員の働きがいを高めることなどが挙げられるでしょう。
循環型ビジネスは自社単独では実現が難しく、様々な関係者と協力しないと達成できない側面がありますが、裏を返せば、社会の多様なステークホルダーを巻き込み、その過程で社会貢献や社会課題の解決に資する仕組みの構築に繋がりやすいとも言えます。つまり、自社が活動する地域や社会、従業員のウェルビーイングの実現や、自社のファンづくりといった、通常であればマーケティングや広報、福利厚生やCSR活動を通じて取り組むことを、循環スキームを上手く設計することで、サーキュラーエコノミーへの取り組みを通じて達成することが可能になるというわけです。
▼サーキュラーエコノミーがもつ社会的価値
出典:アミタ作成
サーキュラーエコノミーの「社会的価値」の具体例
それでは企業がサーキュラーエコノミーの取り組みを通じて、どのような社会的価値を提供できるか、具体的に見てみましょう。消費者に回収拠点までごみ(資源)を持ってきてもらう、資源回収モデルの場合、以下のような社会的価値を生むと考えられます。
1. 個人のウェルビーイングの実現=「社会貢献欲求」への貢献
例: ・ 一般消費者に、資源循環への当事者意識や社会に貢献しているという実感を提供する ・リサイクルやサステナビリティに関する教育的効果や機会の提供 ・リユースやリペア、シェアリングなど、多様な選択肢を提供し、幅広い価値観に応える |
単純にごみを捨てるのではなく、折角なら社会に役立つ形で手放したいという「社会貢献欲求」は、多くの人が持つ共通の願望です。しかし、そのためにどれだけの手間や不便を許容できるかは個人によって異なります。資源回収の現場では、この「ハードルをいかに下げるか」がしばしば議論されますが、デポジットやポイント還元など、経済的動機付けの手法が採用されがちです。もちろん経済的な視点は重要ですが、それだけでは「社会貢献欲求」と「不便さの許容度」のバランスが取れず、回収率が上がらなかったり、動機付けがコスト要因となり取り組みの継続が難しくなったりすることも少なくありません。
そこで、解決策として「社会貢献欲求」を増大させるアプローチが有効になります。例えば、鎌倉市の「しげんポスト」や神戸市「エコノバふたば(資源回収ステーション)」における取り組みのように回収した資源が有効に使われていることを具体的に示し、消費者に貢献している実感を与えることは、資源回収に協力するモチベーションに繋がります。ここに、環境教育や「足るを知る」といった価値観の共有も合わせて行うことで、さらなる効果が期待できる、というわけです。
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2. 社会課題の解決=コミュニティや地域経済への貢献
例: ・資源回収やリサイクル活動に一般消費者を巻き込むことで地域の活性化やコミュニティ形成を促進 ・資源の有効活用や地産地消を通じ、地方や小規模集落の自立した生活・経済を支援 ・社会貢献度の高い事業を通じ、従業員の満足度や働きがいの向上を促進 |
現代では少子高齢化や都市化、ITの普及による影響等で、地域住民同士の関わりが希薄になりがちです。通学路の見守りや清掃活動、廃品回収、お祭りなど、これまで地域のつながりを保ってきた共同作業は、減少の一途をたどっています。しかし、ごみ出し(資源回収)は人が生活をしている限り続く行動であり、これを利用し、住民同士の関わりやつながりの場とすることで地域の活性化やコミュニティの強化が図れます。
また、高齢者の交流機会や外出頻度が増えることは、フレイル(虚弱)の予防にもつながり、結果的に医療費の削減も期待できます(2022年6月に発表した千葉大学予防医学センターとアミタホールディングスの共同研究によって、健康への意識や幸福感が増加するとともに、要介護リスクが低下することが明らかになっています)。さらに、地域内で役割や居場所を持つことは、個々人のウェルビーイングにも貢献します。
関連情報:アミタHDと千葉大学予防医学センター、「MEGURU STATION®」で健康増進効果を確認
「経済的価値」「環境的価値」に「社会的価値」が加わることで、企業がサーキュラーエコノミーを通じて得られるメリットは増幅します。これまでサーキュラーエコノミーの取り組みにかかるコストやリスクに二の足を踏んでいた企業も、取り組む理由に新しい意義が見出だせると、社内を説得しやすくなるのではないでしょうか。
また、サーキュラーエコノミーは「モノ」を扱う業態だけの取り組みではありません。ここまで解説してきましたが、サーキュラーエコノミーが地域や社会の課題解決やウェルビーイングの実現を可能にするという価値からみると教育、福祉、各種サービスや社会インフラを運営する企業などにも広がる可能性があります。これらの業態は、社会との接点が多く公共性が高いため、サーキュラーエコノミーの社会的価値を活用しやすいはずです。サーキュラーエコノミーへの取り組みでは、必ずしも「モノ」を扱う必要はなく、回収拠点やコミュニティ形成、消費者への教育、サーキュラーエコノミーに取り組む企業のサービス提供のハブとなるなど、様々な形で参画が可能であり、様々な企業の価値向上・価値共創が期待できます。
資源回収を通じて「社会的価値」を創出している企業事例
「環境的価値」に加えて「社会的価値」を見出している企業の事例をいくつかご紹介します。
- ピジョン株式会社 哺乳器回収
ベビー用品メーカーのピジョンは、自社製哺乳器を店頭回収する取り組みを2022年に開始しました。2024年9月からは他社および自治体とも協力し、自社製以外の哺乳器も対象とし、川崎市内の区役所で回収する実証実験を行っています。哺乳器は、特殊な耐熱性ガラスやプラスチックを使用していることが多く、自治体による通常のビンやプラスチックの回収・リサイクルの対象外になりやすいという課題を抱えており、その解決へのアプローチとしてこのプロジェクトが始動しました。
本取り組みの特徴的な点は、回収ボックスに設置されたQRコードから「記念フォトフレーム」をダウンロードすることができ、子供の「哺乳びん卒業」の思い出になるという点です。資源を回収するという行為(環境的価値)と、自社の事業を通じて顧客に提供する価値(社会的価値)がリンクし消費者に資源循環の当事者としての意識を持たせ、社会に貢献しているという実感を提供している好例と言えるでしょう。
また哺乳器は、短期間しか使用されないにもかかわらず高品質な素材で作られており、ただ捨てることに対する心理的抵抗が比較的大きなプロダクトです。ピジョンは、子どもを育てるお父さん・お母さんが、次世代のために何ができるのかに思いを馳せ、実際にユーザーに資源を循環させるという機会を提供しています。
出典:アカチャンホンポ
▼哺乳器回収プロジェクトがアプローチする課題
<ご家族の悩み> | <社会の課題> |
・使用期間が短く、捨てるのがもったいないと感じる ・捨て方が分からない ・思い入れがあってなかなか捨てられない |
・誤った分別をされている ・適切なリサイクルの流れがない ・回収後の活用検討が不足している |
出典:ピジョン株式会社
関連情報:アミタ(株)、ピジョン(株)など哺乳器のブランドオーナー6社と川崎市が取り組む「哺乳器回収リサイクルプロジェクトの実証実験」にサーキュラーデザイン企業として参画
- イオンモール株式会社 資源・経済が循環する社会の起点となる「サーキュラーモール」
イオンモールは、モールという人とモノが集まる場所を活用し、資源回収の拠点としての機能を果たす「サーキュラーモール」構想を展開しています。様々な店舗が集積していることを活用して以下のような取り組みを展開し、さらに全国のイオンモールで横展開を図っています。
・回収BOXの常設による衣類・雑貨の不要品回収
・衣料品のリデュース・リユースにつながる「幸服リレー」
・テイクアウト容器のシェアリングサービス「Re&Go」の実証実験
・プラスチック容器洗浄機を開発・導入し、リサイクル可能なプラスチック容器を増やす
・フードコートに持ち帰り用のドギーバッグや「食べ残し残渣の回収器」を併設し、回収後バイオ式コンポスターで堆肥に変える
・環境配慮行動に対してポイントを発行
この取り組みの特徴的な点は、自社単独で資源循環に取り組むのではなく、モールに出店する専門店、モールに訪れる生活者、生活者とモールを取り巻く地域社会が一体となり、資源循環に参加できる仕組みを構築しており、モノが循環する仕組みそれ自体も循環している=一度構築した取り組みが運用の中でアップデートされたり、ある拠点の成功/失敗体験が共有され全体の取り組みが改善・拡張されたりと、システムの自己強化プロセスが働いているという点です。つまり前述の取り組みの種類や規模が継続的に更新・拡張していく余地があるということです。また、この取り組みは自社事業の特徴・強みを活かしたものであり、他社が真似しづらい独自性を備えています。この取り組みでイオンモールは、事業活動を行うことと連動して、消費者にリユースやリサイクル等の選択肢を提供し、個人の社会貢献欲求に応える場を提供しています。さらに、資源の地産地消や地方経済の活性化、従業員の働きがい向上など、地域貢献や社会課題の解決につなげている点がポイントです。
▼イオンモールが目指す資源が循環する社会
出典:イオン株式会社
このように、サーキュラーエコノミーの持つ「社会的価値」を上手く引き出し、自社のパーパスやミッションとつなげ、その取り組みを対外的にPRすることで、企業イメージやブランド価値の向上につなげている企業は年々増えていくでしょう。
▼サーキュラーエコノミーに取り組んでいる企業様をインタビュー
キヤノンに聞く サーキュラーエコノミー実践の一歩は「LCAの見える化」から
イオンモール 真のサーキュラーエコノミーは"地域経済"と共にある
まとめ
サーキュラーエコノミーに取り組むことは、企業にとって単なる環境対策やコスト削減の手段にとどまらず、社会的価値を創出する大きなチャンスでもあります。企業が自社のビジネスモデルに"循環"を取り入れることで、地域社会との連携が深まり、従業員の働きがいが向上し、消費者との信頼関係が強化されるなど、多岐にわたるメリットが期待できます。今後、資源制約や社会からの要請により、サーキュラーエコノミーへの取り組みはますます加速すると予想されます。これからの企業経営においては、経済的価値と環境的価値に加え、社会的価値をいかに創出し、持続可能な社会の実現に貢献できるかが重要な鍵となるでしょう。
関連記事
- 第十回 どのようにサーキュラーエコノミーを自社に取り込むのか?
- 循環型ビジネスへ移行するには?経営戦略と価値観の統合が重要
- 企業のサーキュラーエコノミー推進に向けた取り組みとは?
- ビジネス戦略としてのサーキュラーデザイン 具体事例を交えて解説
関連情報
執筆、編集
辰巳 愉子(たつみ ゆうこ)
アミタ株式会社 サーキュラーデザイングループ
持続可能経済研究所
慶応義塾大学文学部卒。社会人経験後、米国カリフォルニア州のDe Anza CollegeにてEnvironmental Scienceを学ぶ。アミタ合流後は、サステナビリティ認証審査部門にて、FSC森林認証およびMSC/ASC水産認証の取得支援の経験し、現在はTNFDのガイダンスの分析や海外事例の調査を中心に担当し企業の持続可能な経営に向けたコンサルティングを行っている。
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- なぜESG経営への移行が求められているの?
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- 脱炭素移行における戦略策定時のポイントは?
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