コラム
サーキュラーエコノミーの社会的意義とは?
社会課題の解決・ウェルビーイング向上と循環型ビジネスを両立させる方法
サーキュラーエコノミーが経済・環境だけでなく、社会課題の解決にどのように貢献できるのかを理解することは、サーキュラーエコノミーの本質を理解することであり、また、持続可能なビジネスモデルの実現に向けた大きなヒントにもなります。本記事ではサーキュラーエコノミーが生み出す新たな価値について解説します。
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サーキュラーエコノミーが持つ可能性
特に日本では、リサイクルの向上や経済性の側面が議論されることが多いサーキュラーエコノミーですが、国際的には社会的公正や福祉向上といった広範な社会問題への解決策としても位置付けられています。
サーキュラーエコノミーの取り組みは、カーボンニュートラルを促進する有力な手段であり、またバイオマスなど、モノづくりに生物サイクルを組み込むことで、ネイチャーポジティブにも寄与します。またさらにサーキュラーエコノミーは、社会全体の福祉、ウェルビーイング、人々の健康や社会的包摂(ダイバーシティ&インクルージョン)にも大きく貢献するポテンシャルを秘めています。そこに着目することで企業は、自社のパーパス・ミッションとの関係性を明らかにでき、取り組みの推進や社外へのPRにつなげることができるでしょう。
出典:環境省「ネイチャーポジティブ経済の実現に向けて」
サーキュラーエコノミーがもたらす具体的な効果
一般的に、企業が環境に優しい製品やサービスを提供し、それを消費者が選択することは、結果として人々の健康や福祉の向上につながります。さらに、消費者が回収拠点の運営やリサイクル活動に参加することは、地域社会のつながりや共感が強化され、コミュニティの形成、住民のウェルビーイング向上にも寄与します。また、シェアリングエコノミーやリペアサービスの利用は、経済的な負担を軽減すると同時に、人々の満足感や社会的なつながりを深める効果も期待できます。
このような効果もあり、すでに欧州委員会は、サーキュラーエコノミーの推進を目的とした行動計画を発表し、製品設計や廃棄物管理、消費者権利に関する法律や政策を整備しています。これにより、産業の競争力やイノベーションが促進され、新たな雇用機会の創出も期待されています。またサーキュラーエコノミーに関連する雇用は日本においても2030年までに80兆円規模に達すると予測されており、低所得層の収入向上にもつながると考えられています。
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欧州では資源やエネルギーの輸入依存度が高いことが課題ですが、サーキュラーエコノミーの進展は、資源の安定供給や価格の安定化につながり、外的影響に対してより強靭な経済へ移行することができると期待されています。
このように、サーキュラーエコノミーは、経済的な利益だけでなく、社会的な利益にも直結します。そして、この利益は一部の人々に限られたものではなく、あらゆる層の人々に恩恵をもたらし、社会全体の包摂性を高めることが期待されています。
サーキュラーエコノミーが生み出す新たな価値
前述のとおり、日本のサーキュラーエコノミーは、資源の有効利用や廃棄物削減といった経済的メリットに焦点が当てられがちですが、サーキュラーエコノミーが持つ社会的側面についての理解はまだ十分に進んでいないのが現状です。資源の循環が進めば、単に経済活動が持続するだけでなく、新たな「モノとモノ」「モノと人」「人と人」の関係が生まれます。そして、これらの関係性を通じて、情報や感情といった非物質的な要素も循環するようになります。
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サーキュラーエコノミーは、地域内で資源を循環させることを重視します。例えば、地域で収集された廃棄物を近隣のリサイクル施設で再資源化し、それを地元の企業で利用することができれば、物流におけるCO2削減効果が期待できる一方で、地元での雇用創出にもつながります。それには、回収という行為を単に面倒な「コスト」ではなく、社会的な価値を生み出す「機会」として考えることが有効なアプローチです。アミタグループが開発・普及を進めている「MEGURU STATION®(めぐるステーション)」は、消費者が自身でごみ(資源)を持ち寄る資源回収ステーションです。そこで利用者にごみの回収・分別についてや、参加住民の意識変化についてアンケートを実施したところ、半数以上がステーションを訪れることで人と会う機会が増えたと感じており、ゴミや環境への関心も7割以上の人が高まったと回答しています。
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さらに利便性の向上やポイント、景品などのインセンティブに加えて「どうせ捨てるなら社会に良い方法を選びたい」「コミュニティと繋がりたい」といった社会的ニーズに注目することで、MEGURU STATION®は、ごみ(資源)の回収率の向上と、住民のウェルビーイング向上につながっています。
こうした新たな循環が生み出すプロセスは、企業価値の向上や地域社会との結びつきを強化し、新しいビジネスチャンスを創出します。サーキュラーエコノミーによってモノ、情報、そして人の気持ちが循環するようになると、例えば地域社会との関係性や人材、企業間ネットワーク、ビッグデータの活用など、企業にとって貴重な経営資源が増進されるようになります。
このような視点を持つことができれば、企業はサーキュラーエコノミーを「コスト」としての環境対策ではなく「成長戦略」の一環として捉え直すことが可能となります。
循環性と包摂性の二つの視点からビジネスを再評価する
サーキュラーエコノミーをビジネスに取り入れる際に有効なアプローチの一つが「循環性」と「包摂性」という二つの概念に基づいてビジネスを再評価することです。包摂性とは、全ての人々が社会・経済活動に参加し、その恩恵を平等に享受できるようにすることを目指す概念です。異なる背景や能力、価値観やライフスタイルを持つ人々が誰でも平等に社会に参加し、その結果として社会全体がより豊かになることを意味します。
「循環性」と「包摂性」を兼ね備えた取り組みとして、例えば資源の地域内循環を設計する際には、一部の人だけが関わる仕組みではなく、近隣住民が老若男女問わず利用できるような仕組みを設計することが、環境負荷削減という効果だけでなく社会的な価値につながるといえるでしょう。
次に、バタフライダイアグラムの内側の円、シェアリングのビジネスモデルについて考えてみましょう。例えば、ある製品に価値を感じる人がいて、同じタイミングで同じ価値を感じる人がいると、製品が2つ必要になります。一方ある製品に対して感じる価値が微妙に違う、欲しいと思うタイミングが微妙に異なる、となれば、一つの製品で、2重の価値提供が可能になります。
こうしたビジネスが成立する社会は、価値の受け取り方の多様性を、企業や社会が容認している社会であると言えます。所有したくない、資源を消費したくない、モノではなくサービスに対して必要な分だけ対価を払いたい...... サーキュラーエコノミーをビジネスに取り入れるということは、多様な価値観・ライフスタイルに対する「包摂性」を発揮しているということができます。
また、働き方や所有の多様化も、サーキュラーエコノミーと深く結びついています。UberやAirbnbなど、昨今、サーキュラーエコノミーとデジタルプラットフォームが融合したビジネスが広がりを見せています。デジタルプラットフォームは、人々に対して自分のスキルや資産を活用して多様な形で経済や社会に貢献することを可能にし、ギグワーカーという柔軟な働き方の選択肢を提供します。資源循環の実現には、このような多様な働き方・関わり方を容認する「包摂性」も重要になります。
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しかしながら発展途上国においては、ゴミ捨て場からリサイクル可能な物品を拾い集めるウェイスト・ピッカーという生業が存在します。先進国でも、廃棄物処理の現場では、社会的に弱い立場にある人々が従事しているケースが少なくありません。サーキュラーエコノミーという経済活動は、彼らの仕事に新たな光を当て、フォーマルセクターへ引き上げる可能性を持ちますが、同時にやり方を間違えれば彼らの活躍の場を奪う可能性もあるため十分に注意が必要です。「包摂性」を損なう結果にならないよう、"全て"の関係者が恩恵を受けられ「包摂性」を損なわない仕組み作りが求められると言えるでしょう。
回収の新しい価値:包摂性を重視したサーキュラーエコノミーへのアプローチ
循環型経済は、従来の経済モデルとは大きく異なり、その実現には社会全体の変革が求められます。自然と人間が調和した循環型社会では、生態系のようにすべての要素が無駄なく循環し、豊かな関係性を持つネットワークが形成されます。このネットワークは、循環性と包摂性の両方を担保しています。具体的には、サーキュラーエコノミーの取り組みがカーボンニュートラルやネイチャーポジティブの取り組みと重なり合い、相乗効果を生むことで、モノ・エネルギー・人・情報の循環の仕組みが構築されます。この仕組みが機能することで、価値観やライフスタイルの多様性がさらに豊かになっていきます。真のサーキュラーエコノミーは、単に資源の有効活用にとどまらず、このように社会全体の持続可能な発展を目指すものです。
ここで、資源の循環を阻む大きな要因として、経済合理性が挙げられます。経済的に合理性がない取り組みを、費用対効果だけで解決しようとすると、実効性や実現性の低い施策が多く生まれ、結果的に立ち消えになることが多々あります。経済合理性の課題を解決するには、経済的アプローチに加えて、社会的な動機づけを組み合わせることが重要です。
社会的な動機を活用することで、多くの人々が積極的に参加し、共感を得られる取り組みが可能になります。このようなアプローチを取り入れることで、実効性が高く、効果的な仕組みの設計が可能となるでしょう。次回はサーキュラーエコノミーの社会的価値(ウェルビーイング)に対する考え方と、それらの考え方を上手く取り入れた企業事例を紹介します。
関連情報
執筆、編集
中村 圭一(なかむら けいいち)
アミタ株式会社 サーキュラーデザイングループ
持続可能経済研究所 マネージャー
静岡大学教育学部を卒業後、アミタに合流しセミナーや情報サービスの企画運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析や製造、営業とアミタのサービスの上流から下流までを幅広く手掛ける。現在は分析力と企画力を生かし、企業の長期ビジョン作成や移行戦略立案などに取り組んでいる。
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