コラム
ビジネス戦略としてのサーキュラーデザイン 具体事例を交えて解説ハーチ×アミタ 循環の力でビジネスと社会を変える「サーキュラーデザイン」
サーキュラーデザインにおけるいくつかの段階の中で、本稿では「サーキュラーなビジネスデザイン」によりフォーカスを絞り、重要な3つのポイント、具体的先進事例、導入において陥りがちなジレンマとその回避方法などについて解説します。
※コラムについて
「サーキュラー」に関する事業を展開するアミタとハーチが、複数回にわたり「サーキュラーデザイン」を深掘りするコラムです。本コラム記事は両社のメディアに掲載されますが、本編は執筆側のメディアのみに掲載されます。今回はアミタが運営する「未来をおしえて!アミタさん」に本編を掲載します。
目次 |
コラム第1回:サーキュラーデザインで社会を「もっと」よくする ハーチ×アミタ トップ対談
コラム第2回:循環のデザインから、循環を望ましいものにするデザインへ。これからのサーキュラーデザインとは?
コラム第3回:モノ・動機性(気持ち)・情報の循環 ー資源価値以上のものを巡らせるデザインー
サーキュラーエコノミー、サーキュラーデザインをめぐる海外・国内動向
コラム第2回で解説されたように、サーキュラーデザインは、体系的整理やフレームワーク化が行われ欧米を中心に着実に広がりつつあるものの、ビジネスにおける展開状況を概観すると、導入事例の多くは製品/サービスデザインの領域にとどまっているように見受けられます。
▼サーキュラーデザインの多層式フレーム
「Design for Sustainability; A Multi- level Framework from Products to Socio- technical Systems(F Ceschin 著· 2019)」 「持続可能な未来への移行をどうデザインする?アアルト大学・イディル教授に聞く【前編】より」
を参考にハーチ作成
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サーキュラーなビジネスデザインの3つのポイント
サーキュラーデザインが従来の3Rのレベルを超えて企業活動と融合していくためには、製品/サービスデザインの領域だけでなく、ビジネスデザインの側面、ビジネス戦略デザインとしての側面がより深耕される必要があり、本稿の狙いはそこにあります。
ビジネスにサーキュラーエコノミーを取り込んでいくためには、バタフライダイアグラムの概念図やコラム第二回で解説されたような種々のガイドやフレームワークを使い分け、また組み合わせながら、
- サーキュラーエコノミーの3つの基本原則を念頭に置きつつ、
- 商品やサービスによる提供価値をサーキュラーの視点で変換し、
- 「資源価値の最大化」と「価値提供チャネルの多様化/最適化」を設計する
ことが重要です。事例をご紹介します。
サーキュラーなビジネスデザインの具体事例1 コマツ
建設機械・重機メーカーのコマツは、2001 年より、GPSや各種センサー、通信システム等が装備された機械稼働管理システム「Komtrax(コムトラックス)」を車両に標準搭載し始めました。Komtraxを通じて、建設機械や鉱山機械の位置情報や稼働状況、仕事量、燃料使用量などがユーザーやコマツに送信され、遠隔でのモニタリングが可能となっています。それまで、巨大な工事現場や鉱山開発地などにおいては、車両管理が現場の隅々まで行き届かず、ほとんど稼働せず放置されている建設機械や、逆に車両待ちで作業が停滞する場面などが存在していましたが、Komtraxは、そうした建設機械や現場の「無駄」の発見・是正に大きく貢献するソリューションです。また、ICTを通じて車両の状態を把握することで、例えば部品の摩耗やオイル交換の時期を検知し、最適なタイミングでのメンテナンスやコンポーネントの入れ替えが可能になり、故障の予防によって車両のダウンタイムを短縮・回避、車両の性能を維持し、製品寿命を延長することにも繋がります。
▼コマツ Komtraxサービス概念図
Komtraxからの情報によって最適なタイミングで交換・回収されたコンポーネントは、コマツによって分解・洗浄・修理・再塗装等され、新品同様になって再び市場に供給されます。市場への再供給にあたって、コンポーネントの交換需要の的確な予測・把握を可能にするのもKomtraxです。さらに、定期メンテナンス、リマニュファクチュアリングにより性能が維持された車両は、仮に顧客が車両を手放すことになった際にも、廃車ではなく中古下取りという選択肢を提供します。Komtraxが搭載された建設機械は、その使用状況が明確にわかるため、中古品の中でもプレミアムが付きやすくなるというメリットもあるのです。
コマツのKomtraxは、製品寿命の延長というハード面でのサーキュラー化だけではなく、ICT をフル活用することでハードウェア売り切りモデルから脱却し、ビジネスを循環型に移行させることに成功した事例と言えます。移行に際して、提供価値を「高性能な建設機械」から「建設機械が高性能のまま稼働する時間」に切り替えた点が、成功のポイントの一つと言えるでしょう。また、製品のライフサイクル自体ができるだけ長くなるようデザインし(「資源価値の最大化」)、ライフサイクルの複数の場面で利益を得るチャネルを設ける(「価値提供チャネルの多様化/最適化」)ことで、従来モデル以上の高収益性と、顧客満足度向上をもたらしています。
ビジネス戦略としてのサーキュラーデザインに必要なこと
ここまで、事例も踏まえながらビジネスにサーキュラーエコノミーを取り込んでいくためのポイントを解説してきましたが、サーキュラーであることだけを目指して各企業が真面目に合理的に取り組むと、資源効率性の高い理想的なスキームが描けたとしても、同じ業界であればどの企業も似たような取り組みに落ち着いてしまい、他社との差別化にならない、という状況に陥りやすくなります。業界として共通の循環スキームを構築し、協調領域を形成することも一つの方向性ですが、ビジネス戦略としてのサーキュラーデザインには、それを競争優位性や模倣困難性に繋げる思考が必要です。
そのためには、サーキュラーなビジネスモデルや循環スキームをデザインするのと同時に、自社らしさや企業理念に立ち返って深く掘り下げる、既存事業における強みを活かす/弱みを矯(た)める、社会イノベーションや価値共創、関係性といった新しい価値観を捉える、といったことを組み上げていく必要があります。また一つ事例を紹介します。
サーキュラーなビジネスデザインの具体事例2 ニッコー
石川県に本拠を置く洋食器メーカー、ニッコーは、レストランやホテルなどの業務用食器の業界で有名な企業です。原料に牛の骨灰(ボーンアッシュ)を加えた陶器「ボーンチャイナ」が主力製品の一つであり、厳選した原料と徹底した製造管理から生み出される「NIKKO FINE BONE CHINA」は、約50%という高いボーンアッシュ含有率を実現し、世界一白いとも言われ人気を集めています。
▼NIKKO FINE BONE CHINA
出典:ニッコー Webサイト
陶磁器事業をより循環型のモデルへと移行させるために、製品の耐久性向上や、長く使える「飽きのこないデザイン」の追求などを進める一方で、ニッコーは、2021年から取り皿のサブスクリプションサービス「sarasub(サラサブ)」を開始しました。取り皿の所有権をニッコーが保持したまま毎月定額でユーザーに貸し出すことで、質の高い「NIKKO FINE BONE CHINA」を、初期費用を抑えて利用可能にするサービスであり、契約期間を終えて返却された食器は、できる限りリユース(再利用)・リペア(修理)・リファービッシュ(再製造)されます。
資源効率性を高めるためにメーカーが真っ先に考えることの一つが製品寿命の延長ですが、この施策には多くの場合「製品の耐久性を高めると販売機会が減ってしまう」というジレンマがつきまといます。ニッコーの取り皿のサブスクは、このジレンマを逆手に取ってモノ売りからコト売りへシフトし、同時に、高品質ゆえに高価格で手に取られにくいという製品の従来課題にもアプローチする、優れたビジネスデザインと言えます。
またニッコーは、修理困難な食器や生産過程から生じる規格外品を原料に、牛の骨灰由来のリン酸カルシウムに着目したリサイクル肥料「BONEARTH(ボナース)」を製造するという、他の食器では真似できないユニークなリサイクルを展開しています。レストランやホテルといった食器のユーザーから回収された修理困難な食器が、姿を変えて食材生産者へ提供され、それを栄養に育った食材が料理され食器の上に還ってくる、という新しい循環が生まれています。また「BONEARTH」は、リン資源の多くを海外からの輸入に頼っている日本の社会課題にもリーチしており、持続可能な肥料生産、持続可能な食の未来にも貢献する製品と言えるでしょう。
▼ニッコーの食器と「BONEARTH」が描く循環図
出典:ニッコー運営『tables source』Webサイト
まとめ:ビジネス化の壁を乗り越えるために
サーキュラーエコノミーに取り組んでも、スケールしない、継続が難しい、利益に繋がらない、といった声は非常によく聞かれますが、そうしたケースの多くが「どうサーキュラー化するか」で思考が止まってしまい「どうビジネス化するか」まで考え切れていないように見受けられます。
ビジネス化に向けたポイントの一つが、やはり「価値提供チャネルの多様化/最適化」です。製品ライフサイクルの複数の場面で価値提供するということは、多くの場合、もともと製品が提供してきたものとは異なる価値を提供したり、もともと製品が価値提供してきた相手とは異なるユーザーに価値を提供することになります。コマツの建設機械を新品で購入するユーザーと、中古購入やモジュール交換するユーザーとでは、求めている価値が僅かに異なります。製品ライフサイクル全体や関与する様々なプレイヤーを改めて見渡して、どこに顕在/潜在の無駄や課題、ニーズがあるのか、その解決手段をサーキュラーなビジネスモデルの中に組み込むことができないか、と考えを進めていきます。
顕在/潜在の無駄や課題、ニーズを捕捉するにあたっては、自社の既存バリューチェーンだけを見ていると思考の幅が広がらないことも多いため、バタフライダイアグラム上に、自社/他社の別なく、そのアイテムにまつわる素材・プレイヤー・社会課題などをマッピングしていくと、Input/Output、循環の円の内側外側、生物的サイクルと技術的サイクルの現状が一目で分かるようになり、ビジネス化のポイントにあたりを付けやすくなります。
▼バタフライダイアグラムへのバリューチェーンマッピングのイメージ
アミタ作成
ハーチとアミタは、サーキュラーデザインにおける有用なフレームワークや、上記のような具体的で実践的なデザインプロセスを組み込むことにより、サーキュラーデザインのポイントを押さえ、サーキュラーなビジネス創出に資するワークショップを共同開発し、提供開始しています。ご興味を持たれた方は、お気軽にお問い合わせください。
2024年7月にハーチ×アミタにて『サーキュラーデザイン戦略セミナー ~「サーキュラー」でビジネスと社会を変革する~』を開催しました。動画・資料DLはこちらから。
執筆者プロフィール(執筆時点)
木下 郁夫(きのした いくお)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
企業向けのソリューション営業の経験をベースに、廃棄物管理に係わるシステムの設計・開発、業務フローの構築、サステナビリティ経営に向けた新規事業の提案などに携わる。現在は『未来をおしえて!アミタさん』の編集を含め、持続可能な企業経営/地域運営に資する情報発信を担当している。
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