コラム
サーキュラーデザインに必要な3つの循環 ー資源価値以上のものを巡らせるデザインーハーチ×アミタ 循環の力でビジネスと社会を変える「サーキュラーデザイン」
サーキュラーデザインにおいては、回収や循環のスキームをいかにデザインするかはもちろん重要ですが、それだけでは不足があります。モノと同時に、人々の動機性(気持ち)と、情報を動かして初めて、持続的な循環が生まれます。本稿ではサーキュラーエコノミーにおける3つの循環デザインについて解説します。
※コラムについて
「サーキュラー」に関する事業を展開するアミタとハーチが、複数回にわたり「サーキュラーデザイン」を深掘りするコラムです。本コラム記事は両社のメディアに掲載されますが、本編は執筆側のメディアのみに掲載されます。今回はアミタが運営する「未来をおしえて!アミタさん」に本編を掲載します。
目次 |
コラム第1回:サーキュラーデザインで社会を「もっと」よくする ハーチ×アミタ トップ対談
コラム第2回:循環のデザインから、循環を望ましいものにするデザインへ。これからのサーキュラーデザインとは?(Circular Economy Hub)
サーキュラーデザインによる体系的アプローチの必要性
2024年5月に発行されたISO 59004では、サーキュラーエコノミーを次のように定義しています。
"Economic system that uses a systemic approach to maintain circular flow of resources, by recovering, retaining, or adding to their value, while contributing to sustainable development." アミタ訳、bsi.knowledgeより |
一般的に、サーキュラーエコノミーというと、資源効率性といった観点からすれば当然ですが、モノのフローやストックに焦点があたります。しかし多くの場合、回収とリサイクルのスキームがそこにあるというだけでは、資源のリサイクル量は思うように伸びません。
例えば、近年多くのスーパー店頭では当り前のように食品トレーの回収が行われています。食品トレーメーカーのエフピコは、1990年にエフピコ方式(スーパー店頭にエフピコが使用済み容器の回収ボックスを設置し、製品納入時の帰り便などを活用してトレーを回収する)のリサイクルをスタートしており、非常に先進的な取り組みと言えますが、現在でも食品トレーの回収率は約30%に留まります。日本の多くの地域では、社会インフラの一部として自治体による定常的なごみ回収の仕組みが動いており、トレーもその他のごみと同様に、スーパーに持ち込むよりも遥かに小さな労力で、消費者・生活者の目の前からなくなってくれます。
また例えば、小型家電リサイクル法は2013年に施行されていますし、携帯電話会社の多くは、使用済みのスマートフォンの回収を全国の販売店にて無償で行っています。しかし、携帯電話やスマートフォンの回収率は17%程度にとどまり、80%程度は捨てられもせずユーザーの自宅に退蔵されていると言われています。その理由としては、コレクションや内部データ保存のためといったことではなく、処分の仕方が分からない、個人情報が気になる、廃棄するきっかけがないといった回答が60%を超えています。
サーキュラーエコノミーの推進においては、しばしば、こうした従来的な社会インフラやルール、常識、思い込み、既成概念などの「当り前」が大きな障壁として立ちはだかります。これらの障壁を乗り越えるためには、単純なモノの循環だけをデザインするにとどまらず、人々の動機性/気持ちの循環、またそれらに付随する情報の循環をデザインする必要があり、そこにはまさに体系的なアプローチが求められます。
▼3つの循環デザインの概念図
アミタ作成
3つの循環について、ひとつずつより詳しく見ていきましょう。
モノの循環
モノの循環とは言っても、「製品寿命の延長」がサーキュラーエコノミーにおける主要なビジネスモデルの一つに位置付けられていることからもわかるように、とにかくモノの受け渡しが増えることだけがサーキュラーなのではありません。
- 関連記事:サーキュラーエコノミーとは? 3Rとの違いや取り組み事例まで解説!
- 関連記事:サーキュラーエコノミー最新ビジネス事例|2020年9月、世界循環経済フォーラムオンラインで発表された39事例を解説
重要なのは、その資源が有する価値がフル活用されず、無駄になっていないかという視点です。資源価値がフル活用されずに捨てられ再資源化されないことも無駄であり、そのアイテムを「いつかまた使うかもしれない」という可能性のために、実際には使用されない時間を無為に過ごすことも無駄に他なりません。ある調査によれば、自家用車は所有されている時間の5%しか走行していない(平均1.3時間/日)というデータもあります。
モノの循環性の観点からビジネスの機会を探る考え方として、アクセンチュアが提唱する「4つの無駄」のフレームワークは、生産効率向上を得意としてきた日本のモノづくりの現場には相性が良いアプローチです。
▼「4つの無駄」のアプローチ
アクセンチュア提唱「4つの無駄」の考え方をもとにアミタ作成
ただ、生産側視点では意識しにくい部分もあります。例えばキャパシティの無駄の中には、生産や物流における余力やロスだけでなく、先述の自動車の走行時間のように製品が顧客の手元で稼働していない時間なども含まれます。また、ライフサイクルの無駄は、次から次に新製品や新規格がリリースされ、旧製品が実質的に使えなくなる「計画的陳腐化」なども含まれる考え方です。
動機性/気持ちの循環
サーキュラーエコノミーにはソーシャルイノベーションとしての側面があり、いかにして人々の意識改革や行動変容をもたらすかが検討される必要があります。分かりやすいのは経済性や利便性・合理性といった機能的価値による動機付けです。返却保証金を上乗せして販売し、容器等の返却時に返金するデポジット制度や、回収やリサイクルに協力すると貰えるポイントや地域通貨など、資源循環に資する行動に金銭的なメリットを付帯させる経済的動機付けは、資源との交換の意味合いもあり、比較的古くから採用されているデザインの一つと言えます。
▼機能的/情緒的/社会的価値による動機付け
アミタ作成
機能的価値は汎用性があり多くのユーザーに受け入れられやすい反面、例えば分別や持ち込みの手間と得られる対価の比較により「行動変容を合理的に選択しない」といったケースも出てきやすいアプローチです。それとは対照的に、ユーザーの個人的感覚に訴えるアプローチが情緒的価値による動機付けです。
日本の「金継ぎ」は、情緒的耐久性を高める優れた修理文化としてエレンマッカーサー財団のWebサイトでも紹介されています。輸送などで合理的な半完成品の状態で販売し、ユーザー自身がDIYで完成させるタイプの商品は、愛着をもって長く使いたくなるサーキュラーデザインの要素を持っていると言えます。Circular Yokohamaが設置する、ペットボトルキャップを入れて遊べるガチャガチャ「循環ガチャ」は、ワクワクする循環型のUX(ユーザー体験)デザインとなっています。
▼循環ガチャ
機能的価値や情緒的価値による動機付けは、サーキュラーな行動の選択を機能や情緒によって促そうとするものです。しかしある程度成熟した市場にあっては、商品にまつわる社会的な価値を重視し、自分の買い物や消費を含む生活行動を「社会をもっとよくする」ことに繋げたいと考える消費者・生活者が、一定の力を持ち始めます。そうしたユーザーの参画欲求や承認欲求を満たすようなデザインが、社会的価値による動機付けです。
神奈川県鎌倉市に設置されている「しげんポスト」を通じて回収されたプラスチック素材は「リサイクリエーション慶應鎌倉ラボ」にある大型の3Dプリンターにより、まちの遊具やベンチなどへとアップサイクルされ、公共財としてまちの中に戻っていきます。「しげんポスト」に資源を投じる生活者は(慶應義塾大学の田中浩也氏はこうした市民の在り方を「生産者」でも「消費者」でもない「循環者」と呼んでいる)、自身の何かしらのメリットのためでなく、コミュニティのウェルビーイング向上に資する行動を選択しています。
▼鎌倉市の「しげんポスト」
情報の循環
EUでは、2024年7月18日「ESPR(Ecodesign for Sustainable Products Regulation:持続可能な製品のためのエコデザイン規則)」が発効しました。ESPRでは、耐久性や修理可能性、リサイクル材の含有量、エネルギー効率などのサーキュラリティに関する要件を規定し、メーカーに対して、自社製品のこれら要件に関する情報を、デジタル製品パスポート(DPP)を通じて消費者に提供することを求めています。
またESPRを補完する形で、2024年7月30日から「製品の修理を促進する共通指令」も発効されており、技術的に修理可能な製品の修理をメーカーに義務付け、消費者が修理に関する明確な情報(期限や価格など)が記載された修理フォームを利用可能にするなど、消費者が買い替えではなく修理を魅力的な行動として選択できるようにするための社会システムがデザインされようとしています。
消費者や生活者に従来とは異なる行動を選択させるためには、その選択が可能であること、その選択のメリット/デメリット、その選択の意義(情緒的/社会的価値)、具体的なアプローチ方法、資源/アイテムの来歴や「物語(ナラティブ)」などが情報として十分提供される必要があります。
特に「関係性」や「物語(ナラティブ)」は、循環性資源だからこそ付帯する情報です。その資源がどこからきたのか、どのようなユーザーの手を渡ってきたのか、という来し方の情報伝達はイメージしやすいと思いますが、行方の情報も循環を促すデザインとなります。兵庫県神戸市の「ふたば資源回収ステーション」にて、住民が使わなくなった物品を持ち込み/持ち帰ることができるリユースコーナーの傍らには「感謝ノート」が設置されており、物品を持ち帰る住民が、誰とも知れない物品の持ち込み者に向けて、簡単な感謝や「これからどう使おう」といった期待やワクワクなどを書き残していきます。
デザインが、資源価値以上のものを巡らせるのです。
▼感謝ノートと住民同士のやり取り
アミタ撮影
3つの循環デザインを実装する
前段に記載した通り、3つの循環は、体系的にデザインされる必要があります。回収とリサイクルのスキームがそこにあるというだけでは、資源のリサイクル量は思うように伸びない、と書きましたが、逆に予想以上に資源物が集まってしまい、その活用先が確保できないといった事態に陥るケースもあります。3つの循環をバランスよく、相乗効果を発揮するようにデザインするためには、PoC(Proof of Concept:概念実証)だけでなく、PoB(Proof of Business:プルーフオブビジネス)やPoV(Proof of Value:価値実証)といったアプローチを経てデザインを現実解にフィットさせる、アジャイル的実装プロセスが求められるでしょう。
2024年7月にハーチ×アミタにて『サーキュラーデザイン戦略セミナー ~「サーキュラー」でビジネスと社会を変革する~』を開催しました。動画・資料DLはこちらから。
関連情報
執筆者プロフィール(執筆時点)
木下 郁夫(きのした いくお)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
企業向けのソリューション営業の経験をベースに、廃棄物管理に係わるシステムの設計・開発、業務フローの構築、サステナビリティ経営に向けた新規事業の提案などに携わる。現在は『未来をおしえて!アミタさん』の編集を含め、持続可能な企業経営/地域運営に資する情報発信を担当している。
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