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里海(SATOUMI)とは?今注目される理由とポイント

satoumi_samtop.jpg持続可能な社会を目指す上で重要な、ネイチャーポジティブ気候変動サーキュラーエコノミー。これら全てに係わる重要テーマでもあり、30by30において改めて重要性が認識された海の保全と管理。その中で、里海(SATOUMI)という日本発の考え方が、改めて注目されています。

本コラムは、里海の定義から、ブルーカーボン、気候変動適応、海洋プラスチックごみ等々の注目テーマについて解説していく連載コラムです。

Photo from 環境省

関連記事:30by30目標とは?企業の生物多様性の取り組み方についても解説

目次

里海(SATOUMI)とは

里海について、環境省の里海ネットでは「人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」と紹介されています。ただし、里海という概念については、現在進行形で様々な研究者が意見を述べており、概ねの方向性はあれども、唯一の定義を定めるのが難しいとされています。

里海は国際的にも「Satoumi」「Sato Umi」 「Sato-Umi」などと記されているように、瀬戸内海生まれの日本発の概念と言われており、里地・里山と対になる言葉でもあります。広大な海を思い浮かべると人間が手を入れても、局所的にとどまり、その好影響を得にくいようにも思いますが、日本には瀬戸内海を始め閉鎖性海域(※1)と呼ばれる地域が数多くあり、そのような海域は、人間の経済・社会活動が良くも悪くも影響を及ぼしやすく、積極的に海に人の手を加えていこうという発想が生まれたと考えられます。

※1閉鎖性海域・・・湾内の最大断面積に比べて湾口部の断面積が小さいため、海水交換が悪く水質汚濁や富栄養化が起こりやすい海域のこと。

新たな課題に直面する閉鎖性海域

日本は第二次世界大戦後の復興から高度経済成長期経て急激な成長を遂げました。その際に、経済政策を第一優先に、太平洋ベルト(※2)を中心とした産業集積、それに伴う港湾の開発を行いました。その結果、大量の産業・生活排水が海に流れ込み、富栄養化(※3)による赤潮(※4)が日本各地で頻発しました。沿岸に工業地帯が広がり、かつ閉鎖性海域である瀬戸内海ではその影響が顕著で、一時期、瀬戸内海は「瀕死の海」と呼ばれるほどに水質汚濁が進行しました。

この状況を改善するためこれまでに、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)に基づく対策に加え、瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)の制定や同法に基づく様々な対策を実施した結果、一定の成果が得られました。しかし一方で、生物多様性の損失、漁獲量の減少、ノリの色落ちといった問題が起こり、新しい課題にも直面しています。

  • 藻場・干潟の保全・再生・創出の必要性
    コンブ、ワカメなどの海藻、アマモなどの海草が繁茂する藻場や、潮の干満により、出現と水没を繰り返す干潟は、水質・底質の浄化や、魚介類などの産卵・生息場、幼稚仔魚の隠れ場などの重要な役割を果たし、そこに棲む生物を餌とする魚類や水鳥などが数多く集まるため生態系や物質循環においても重要な場です。

▼藻場の面積の推移

0122_02.jpg

出典:環境省「せとうちネット」

この貴重な藻場・干潟が減少し、その生態系機能に伴う生態系サービスの恩恵も減少しています。
これには、地域ごとの特性に加えて、いくつかの複合的な要因が考えられます。

  1. 下水放流等、栄養塩類の影響
    一部地域では、今まで富栄養化を避けるために削減してきた窒素や燐(りん)といった植物の栄養となる成分(栄養塩類)の不足等が影響で、海藻、海草の生育に影響を与えています。
  2. 気候変動による環境への影響
    気候変動による水温上昇や海洋酸性化等の自然環境の変化は、そこに生息する生物種にも影響を及ぼし、生態系の変化など含めて、養殖業含む漁業に影響を与えると考えられます。気候変動は早急で抜本的な解決が難しいため、一定の応急的な適応策が必要です。海草の光合成による二酸化炭素吸収や海草・海藻の両者が海底に漂流することによる炭素固定(ブルーカーボンなど)が、気候変動の緩和策として注目されています。
  3. 河川および港湾に関する護岸の影響
    護岸工事、湾岸工事等によって自然沿岸が少なくなったことや、その護岸の多くが垂直護岸であることで水辺の生物が減ってしまったことなどが、沿岸環境変化の要因として考えられています。

もう1つ解決すべき大きな課題は現在国際的な話題でもある海洋プラスチックごみの問題です。

  • 漂流ごみ等海洋プラスチックごみの抑制・除去
    プラスチックを含む海洋ごみは、生態系を含めた海洋環境の悪化や海岸機能の低下、景観への悪影響、船舶航行の障害、漁業や観光への影響等、国内外で様々な問題を引き起こしています。瀬戸内海のような閉鎖性海域の漂流ごみのほとんどは、その海へ流れ込む流域河川および沿岸から流れ出ることが調査により明らかになっています。そのため、プラスチックごみの発生抑制なども重要な課題です。

※2 太平洋ベルト・・・太平洋ベルト(たいへいようベルト)とは、日本の茨城県から大分県までを結ぶ、一連の工業地帯・工業地域をいう。
※3 富栄養化・・・湖沼・内湾などに、地表水等の流入により燐 (りん) ・窒素などの栄養物質が蓄積すること。限度を超えるとプランクトンが異常繁殖して汚染や腐水化が起こる。
※4 赤潮・・・海水中のプランクトンが異常増殖して、海水が変色する現象。魚介類に大きな害を与える。苦潮 (にがしお) 。厄水 (やくみず) 。

「きれいな海」から「きれいで豊かな海」への転換|注目される里海づくり

これらの状況を受けて、2021年に瀬戸内海環境保全特別措置法が改正されました。主な法改正の趣旨は「気候変動」の観点を基本理念に加え、以下3点のポイントを基に新しい時代の「里海」づくりを総合的に推進することです。

  1. 「栄養塩管理制度」の創設=「排出規制」一辺倒から適切な「管理」へ
  2. 温室効果ガスの吸収減ともなる藻場の再生・創出(ブルーカーボンへの貢献)
  3. 瀬戸内海を取り囲む地域全体で海洋プラごみの発生抑制

これらには、CN(カーボンニュートラル)、NP(ネイチャーポジティブ)、CE(サーキュラーエコノミー)という3つの重要テーマが全て含まれています。

この改定により、環境省では閉鎖性海域、特に瀬戸内海を中心として「きれいな海」から「きれいで豊かな海」を目指す里海づくりを推進するための具体的な施策の方向性が確定し、環境省はそのモデルとなる取組を支援するために「令和の里海づくり」モデル事業を始めました。2022年には10団体の取組が、2023年には12団体の取組がモデル事業に認定されています

次記事「ブルーカーボンとは?J-ブルークレジット制度とは?

主な参考情報

執筆者プロフィール

0118_2.jpg蝦名 裕一郎(えびな ゆういちろう)
環境省 近畿地方環境事務所 環境対策課 里海づくり推進専門官

アミタグループ入社後、人事部門、省庁の地域活性化支援事業支援、企業の環境教育活動支援、CSRコンサルティング、広報・マーケティングを経て、2018年より地域デザイン事業開発に従事。2020年7月~2022年3月はいこま市民パワー(株)に兼務出向し、生駒市でのプロジェクト主担当。その後、神戸市のプロジェクト主担当を経て、2023年4月から環境省近畿地方環境事務所へ出向。里海づくり、地域循環共生圏のプラットフォーム事業の担当の他に、関西SDGsプラットフォームのローカルSDGs・脱炭素分科会の企画運営に携わる。

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