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コラム

ESG時代に、いま改めてISOに注目世界最古の国家規格協会、英国規格協会(BSI)の考えるサステナビリティ認証・ラベルの「使い方」

bsi_first.png世界中で脱炭素化への取り組みが進む中、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)施策の評価手法の開発が進んでいます。本コラムでは、ESG時代のサステナビリティ認証をテーマに、様々な認証制度と活用方法について紹介します。第1回目は、国際標準規格であるISO規格とISOマネジメント認証について解説します。

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目次

1月25日(木)に開催した「国際認証機関BSIから学ぶ!移行戦略のためのサステナビリティ認証活用方法セミナー」で、BSIグループジャパン株式会社より、サステナビリティ認証の最新動向や活用事例、組織のESG評価から製品のESG評価へという流れについてご講演いただきました。その動画と資料を公開中です。

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いま改めてISOに注目

世界中で脱炭素化への取り組みが拡大する中、カーボンニュートラリティや生物多様性向上のための様々な施策に対する評価手法が開発されています。企業が採用するESGへの取り組みは、企業価値の向上や投資家の注目を左右する重要な要因となりました。ESG施策の評価には自己評価、二者監査、第三者認証など、いくつかの手法が存在しますが、主流は特定のガイドラインや規格に基づく評価です。しかし、様々なガイドラインや規格、認証制度が乱立している中で、中には信頼性に欠けるものもあり、グリーンウォッシュとして批判を浴びるケースもみられます。

本コラムでは、ESG時代のサステナビリティ認証に焦点をあて、様々な認証制度の概要とその問題点、そして効果的な活用方法についてご紹介します。第1回目の今回は、第三者評価の仕組みに焦点を当て、国際標準規格であるISO規格とISOマネジメント認証を取り上げます。

ISO規格は規格策定の段階から世界中のステークホルダーが参画し、国際的な基準として発行されるため、信頼性と普遍性が確保された規格です。この機会にISO規格についての理解を深め、ESG評価の信頼性向上に寄与できることを期待しています。

ISO規格とISOマネジメント認証

スイスのジュネーブに拠点を構える国際標準化機構(ISO)は、1947年に非政府機関として設立されました。ISOは主に国際規格(ISO規格)の策定活動を行っており、世界中から169か国がそのメンバーとして積極的に参加しています。現在までに20,000件以上の国際規格が策定され、その範囲は多岐にわたります。一方、英国規格協会(BSI)は、1901年にイギリスで設立され、世界最古の国家規格協会として知られています。BSIは多数の国家規格(BS規格)を制定し、これらの規格からISO規格の基盤となったものが数多くあり、ISOの活動においても長らく中心的な役割を果たしてきました。
ISOが発行する規格は、2つのカテゴリーに分類されます。1つは製品やサービスを対象としたもので、それらの品質、性能、安全性などに関する規格が含まれます。対象の製品やサービスが、国際標準レベルを満たしているかどうかの判断基準になるもので、国際的な取引をスムーズにさせる役割を持っています。もう1つは、組織が内部で構築したマネジメントシステムを評価するためのマネジメント規格です。たとえば、ISO 9001(品質マネジメント)やISO 14001(環境マネジメント)がこれに該当します。これらの規格が定める要求事項を満たしているかを評価する手段がISOマネジメント認証であり、特定の認定機関によって認定をされ、厳格な基準をクリアした認証機関が審査認証を行う仕組みです。第三者評価を通じて、組織はPDCAサイクルを継続的に回し、サービスや品質の向上につなげるのです。

企業におけるISOの取り組み方

日本でのISO導入の拡大は、2000年代初頭に建設業界を中心に始まったとされています。当時、建設省がISO 9001の取得を入札条件として推奨したことがきっかけであり、これによりISO 9001の認証を取得することが入札の有利条件となり、結果として認証取得企業が急増しました。

ただし、ISO認証の取得が即座に売上の増加や経費の削減等に繋がるわけではありません。ISO認証を活用する利点の一つは、それを組織の課題の特定や継続的な改善のための枠組みとして活用し、健全なマネジメントシステムを構築すること、そして第三者によって認定された認証を取得することにより自社の価値を向上させると同時に、取引先や消費者からの信頼性向上に寄与できる点にあります。一方で、認証取得には審査の準備や社内体制の見直しなど労力も要するため、事業へのインパクトを二の次とした認証の取得だけを目的とした場合には、実用性を伴わない形骸化を招く可能性もあります。ISO認証への取り組みにおいて重要なのは、認証の取得を目標とするのではなく、そのプロセスを通じて構築されたマネジメントシステムを有効に活用し、組織のレジリエンスを向上させることで、その効果を最大化させるということです。

ISOへの取り組みがもたらす効果

ISO認証の取得は組織に複数の利点をもたらします。ISO認証は、品質、環境、労働安全、情報セキュリティなどQCDE全般にわたって活用することができるため、マネジメントにおける継続的な改善に対応できます。プロセスの見直しと最適化により、コスト削減と効率的な業務遂行が実現され、組織の競争力とレジリエンスの向上を導きます。例として、環境マネジメントシステム(ISO 14001)の活用は、組織に下記のような利点を与えます。

  • 法令遵守の強化:環境法規制や規制要件に対する遵守を確実にし、法的リスクを軽減
  • 継続的な改善の構築:PDCAサイクルに基づいた継続的な改善により、環境への影響を最小限に抑えるための仕組みを構築
  • ステークホルダーとの信頼性構築:サプライチェーン全体での環境への取り組みに寄与することで信頼性を向上
  • グローバル市場での競争力向上:環境への配慮がますます求められる中で、国際的に求められる環境面での対応事項をクリアし、国を問わないビジネス展開が可能
  • レジリエンスの強化:上記のような要素が、組織のレジリエンス向上に寄与

ISOの導入により、PDCAサイクルを通じた持続的な改善が促されます。また、組織の問題に対して様々な役割を持つメンバーが参加する全員参加型アプローチにより問題の早期発見と解決につながります。加えて、ISOを起点とした社員教育や内部コミュニケーションを通してマネジメントシステムへの理解と活用が進み、企業文化の変革やイノベーションも期待ができます。特に中小企業にとっては、信頼性向上や国内外での新たなビジネス展開のサポートにつながるという点も加味すると、認証取得のメリットが高いといえるでしょう。

脱炭素社会におけるISOの役割と重要性

ISOによれば、2022年の主要ISO認証数は図1(※1)の通りであり、この5つのISOにだけ絞って比較しても前年比で約31万件も増加しています。また同年には、ISOから新たに1412もの規格が発行されており(※2)、これらは、ISOが積極的かつダイナミックに規格を進化させていることを示しています。

図1:世界のISO認証取得件数と増加率

BSIzu.pngISO 9001: 品質マネジメントシステム、 ISO 14001:環境マネジメントシステム、 ISO 45001:労働安全衛生マネジメントシステム、 ISO/IEC 27001:情報セキュリティマネジメントシステム、 ISO 50001:エネルギーマネジメントシステム

最近では、脱炭素に関連する新たなISO規格も登場しています。例えば、世界初のカーボンニュートラル認証規格であるPAS 2060(※3、※4)が今年11月にISO化され、ISO14068-1として発行されました。これには大きな注目が寄せられており、今後本規格に準拠する組織が増えてくると予想されます。ISO 14068については、今後のコラムで詳細を解説する予定です。
脱炭素分野におけるISOの取り組みは、規格策定以外の側面、例えば気候変動枠組条約締約国会議(COP)などにおいても活発化しています。2022年に開催されたCOP27では、気候変動対策として国際的な標準化を重要視したISO独自の視点から提言が行われました。

産業界における脱炭素化やエネルギー転換の試みにおいては、日常生活のあらゆる側面で改善をもたらすような(持続可能な)慣行を根付かせるという大きな課題があります。ISO規格はこの課題に多面的かつ総合的に取り組むための有力な手段と考えられており、その重要性は脱炭素、サステナビリティの領域においてもますます高まっています。

最後に

今回は、ISOの概要と活用メリットをご紹介しました。次回は、脱炭素関連の具体的な規格や国際的な動向に焦点を当てます。最後になりますが、グローバルスタンダードとの関わりについて少しお話しします。国際規格や標準化において、日本では要求事項をどこまで満たすか、またその満たし方に焦点が当てられがちですが、海外ではスタンダードの開発に積極的に参画することが大きな利点とされています。それによって、組織や業界の技術力と信頼性を向上させ、業界リーダーシップの確立につながるからです。また、国際的なネットワーク構築と情報交換により、イノベーションや知識共有が進み、グローバルな認知を築くことができます。国際的な視点で問題解決に向かい、持続可能なビジネス環境を構築することで、企業の競争力向上やグローバルな評価向上が見込まれます。これが、今の日本企業に求められる本来の姿勢といえるのかも知れません。

参照元

※1 ISO-CASCO_ 3.ISO Survey 2022 - comparison with 2021 - using data from providers taking part both yearsから抜粋
※2 ISO公式ホームページから抜粋(https://www.iso.org/ar2022.html)
※3 PASは、"Publicly Available Specification"(公開仕様書)の略で、一般に利用可能な規格や仕様を指します。PAS規格は、特定の技術や業界において急速な変化があり規格策定のスピードが追いつかない場合や、一時的なニーズに対応するために迅速に導入出来る点がメリットです。
4 PAS 2060には、組織から排出されるGHG排出量を測定し、それを削減や排除することでカーボンニュートラルな状態に達したと宣言するための要件が規定されています。具体的な要件として、 GHGの測定方法、削減の手法、オフセットの実施などが含まれます。2023年にISOが予定されています。

関連情報

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執筆者情報(執筆時点)


naitou_prf.jpg内藤 高志(ないとう たかし)氏
BSIグループジャパン株式会社

認証事業本部EMS主任審査員、
BSI Japan Sustainability Champion

大手メーカーに入社後、デロイトトーマツコンサルティング、KPMGのコンサルティングファームでの業務の経験を経て、BSIに入社。入社後、ISO 14001、ISO 45001、ISO 50001、ISO 20121、SDGsのプロダクトマネージャー/コマーシャルプロモーションとして、技術面の統括に従事後、事業開発部を経て新規Sustainability商品の開発支援業務等に従事。

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