コラム
激変する電力事業環境における地域新電力の生き残り戦略地域新電⼒の未来 〜⽣き残りをかけて脱炭素社会・地⽅創⽣の担い⼿へ〜
2016年の電力完全自由化以降、全国で新電力は増え続け2020年11月現在684社まで増加しましたが、スイッチングが一巡し価格競争は激化しています。一方、菅首相が所信表明演説で2050年までの実質的なカーボンニュートラル宣言をするなど脱炭素化・再エネシフトも加速しています。電力事業を取り巻く環境が大きく変化する中、全国に設立された地域新電力も無関係ではいられません。地域新電力が激変する事業環境の中でいかに生き残っていき、地域創生の担い手となっていくためにはどんな戦略を持つべきか、複数回に渡って考察します。
画像:pixabay
新電力にとってのハネムーン期間は終わり、今後厳しくなる事業環境
これまで小売電気事業は、一定規模以上の需要さえ獲得できれば、営業コストを抑制することで利益を確保して事業運営することは難しくありませんでしたが、値下げのし易いターゲット需要が減り価格競争は激化し、また、電源を自ら保有しない小売電気事業者に重い負担を課す「容量市場」の導入などの制度的な逆風も生まれています。これからは電源調達や需給管理、販売戦略などが求められる時代になります。
また、電力インフラも大きく変わりつつあります。気候変動への危機感がグローバルで共有される中、再生可能エネルギーの電力を購入する動きが大手企業を中心に広がり、国においても、菅首相が2050年までの実質的なカーボンニュートラルを目指すと所信表明演説で述べるなど「再生可能エネルギーの主力電源化」はもはや誰も疑わない電力インフラの前提となっています。平行して、再生可能エネルギーを主力電源化するために必要な各種制度の見直し(FITからFIP制度へ、系統接続ルール、調整力市場、インバランス制度など)も急ピッチで進められており、電力小売事業者はそれらの事業環境の変化にも目配せしながら事業を進める必要があります。
このような事業環境の変化の中で、値下げのみで特に差別化要素を持っていない新電力は自然淘汰され、大手電力に負けない調達力や販売力を持つことの出来た新電力と、再生可能エネルギーなど特徴のある電力事業を行う新電力、そして地域に密着し、地域ニーズに対応した地域新電力の3者のみが生き残っていける時代が来るでしょう。
地域新電力の提供価値
電気はどの電力会社から買っても品質は変わらないため、これまで差別化要素は価格しかないと思われてきました。しかし、気候変動対策としての再エネ利用の拡大や、電力購入を通じた地域貢献などを重視する企業や団体が増える中で「どんな発電所でどこで誰が発電した電気か」という「電気の属性」が価値化しつつあります(時間帯によっても価値が大きく変わるため「希少性」という観点もありますが、ここでは本題から外れるため詳細は取り上げません。)
▼電気の価値化
種類 | 価値 | 内容 |
属性 | 環境価値 | 主にCO2削減効果。再エネ電力を購入することでCO2削減効果が得られるものを評価。 |
産地価値 | 地産地消など、発電所の立地や、発電事業者が市民出資型のものなど地域貢献に繋がるものを価値として評価。 | |
希少性(参考) | 時間価値 | 需給が逼迫する時間帯に供給できる価値を評価。 |
参考:みんな電力作成
また、FITからFIP制度に移行することで再エネ発電事業者は基本的に自ら買い手を探すことが求められるため、今後はより電気の属性価値の評価が発電、小売、需要家いずれのプレーヤーにとっても重要になります。(環境価値を有する卒FITも同様です)
地域新電力にとっても、地域の再エネ電源を活用して、いかに電気の属性価値をいかに提供できるかが重要な差別化要素となります。
ハイブリッド運用が鍵を握る
地域新電力が、電気の属性価値を一つの武器にするためには以下を実施する必要があります。
- 地域の再エネ電力(特定卸によるFIT電力調達含む)の調達
- 電源構成を再エネ中心にした需給管理
- 電気の属性価値の証明(トレーサビリティ)
- 属性価値を評価する需要家の獲得
また、頻繁に行われる制度変更もフォローし、必要に応じて販売ツールなどの修正なども必要になります。
これら全てをリソースの限られた地域新電力でカバーするのは難しく、結果、未対応のまま特徴の無い電力販売を続けるか、需給管理等を丸ごと大手に委ねる形になってしまうことが想定されます。
そこで、再エネ電力の調達や需給管理、属性価値の証明(トレーサビリティ付与)などのプラットフォームや一定の規模が必要なものについては、他の地域新電力との連携や再エネ電力運用に強い電力小売事業者の支援を得つつ、自らは地域ニーズへのきめ細かい対応や地場企業や家庭への営業・販売、更には地域電源の発掘・開発支援など、地域新電力ならではの強みが発揮できる業務に注力するという「ハイブリッド運用」が必要になってくると考えられます。
地域新電力がこれから訪れる電力事業の大きな変化の波をうまく乗り越え、地域創生を担う存在になることが日本の電力事業、さらには持続可能な日本社会の実現には不可欠だと考えます。
▼みんな電力の再エネトレーサビリティの仕組み
参考:みんな電力作成
新電力支援サービス「まいける」
毎日受ける、助ける、見届ける、という気軽に毎日AIスピーカーに呼び掛けるように相談頂きたいという想いを込めて新電力支援サービスに「まいける」という名前をつけています。みんな電力が培ってきた再生可能エネルギーのノウハウを地域の電源を活用した地域新電力を中心に需給管理委託業務を含めて提供しています。今後は電力小売事業に加えて地域循環・貢献に取り組んで参ります。
(支援実績:五島市民電力㈱、株式会社向こう三軒両隣、TERA Energy㈱、たんたんエナジー㈱など多数)
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執筆者プロフィール
真野秀太(まの しゅうた)氏
みんな電力株式会社 事業本部副本部長兼ソリューション営業部長
株式会社三菱総合研究所、自然エネルギー財団を経て、SBエナジー株式会社にて再生可能エネルギー発電事業に携わる。再エネ拡大には需要側でのニーズ拡大とイノベーションが鍵となると考え、2017年よりみんな電力株式会社に参画。全国の価値ある再エネ発電所の電気を「顔の見える電力」として供給。RE100企業を始めとしたサステナビリティ経営を目指す企業に対して再エネ導入を支援している。
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